「大山捨松を主人公に!」朝ドラ待望論が浮かぶ“強烈キャラの魅力的な半生”〈風、薫る第15回〉

『風、薫る』第15回より 写真提供:NHK
今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて12年目の著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第15回(2026年4月17日放送)の「風、薫る」レビューです。(ライター 木俣 冬)
「私は炊き出しを受ける側でしたのよ」
捨松(多部未華子)の「バザー」の発音が印象的。ほかにも、いかにも英語の発音を丁寧に勉強したという感じの発音を多部未華子さんが見事に演じている。
捨松は鹿鳴館で着飾って踊っているだけではない。真面目に社会活動を行っている。
御婦人たちを集めて「まずは私たち夫人が困っている人のために働く、それこそこの国の真の開化のために欠かせないことなのです」と語り、次回の活動をバザーにするか、貧しい人たちへの炊き出しにするのか、意見を聞く。
その結果、炊き出しに決定。
捨松は、御婦人方を返したあと、直美(上坂樹里)を呼び、直美のうその辻褄合わせをするように助言する。直美が適当なことを言っているのをチェックしているのだ。でも、とがめることなく、むしろ協力的。
りん(見上愛)の素性がどうであろうとリターンさえあればいいと寛大な清水卯三郎(坂東彌十郎)と捨松は似ている。名前や肩書ではなく、その人の内面を見ているのだ。いい人たちに出会えて直美もりんも恵まれている。
ここで捨松の過去が語られる。
アメリカにいたとき夫人たちによる慈善会でバザーや炊き出しをしていた捨松。それを日本にも根付かせようとしている。おなかをすかせた子たちがパンをもらって笑顔になる。その姿と、会津戦争に巻き込まれた9歳の自分が重なった。
「私は炊き出しを受ける側でしたのよ」
夫・巌(高嶋政宏)の故郷である薩摩藩から何千発の大砲を撃ち込まれて亡くなっていく人たちを何人も見て、戦に負けたときには冷え切ったはずの握り飯が無性に美味しかった。この回想シーンは短いながら気合が入っていて、大河ドラマのようだった。
自分が飢えを経験しているからこそ、二度と同じ思いを子どもたちに味わせたくないのだろう。だからこそ、直美のような社会からはみ出した者にも寛容なのだろう。
捨松はりんたちのメンター的な存在
捨松の身の上話を聞いた直美は、彼女が鹿鳴館で陰口を叩かれながらも顔を出す理由を推察する。
よくも悪くも目立つから、何かのきっかけになると思ってのことなのだ。
「その先のマイライフ。私の人生を生きるため」
「年の離れた陸軍大臣の夫は、これ以上ないほど、私の人生のサポートになってるわ」
気持ちいいほどしたたかである。
あまりにキャラが良くて、捨松を主人公にした朝ドラを見たかったと思ってしまう視聴者もいるだろう。
朝ドラには時々そういうことがある。例えば『エール』では柴咲コウが演じたオペラ歌手・双浦環がそうだった。
英ロンドンでデビューし欧米各国で活躍した三浦環をモデルにした人物で、柴咲が演じているから華があり、魅力的なキャラになっていた。海外に進出して活躍するのもドラマになったら波瀾(はらん)万丈でわくわくしそうだ。主人公が偉業を成した人物でない一般人だと、偉業を成した人物が出てくると、どうしてもそっちが目立ってしまう。
女性主人公の朝ドラで男性が目立ってしまったケースは、『ばけばけ』の小泉八雲をモデルにしたヘブン(トミー・バストウ)や『まんぷく』の安藤百福をモデルにした萬平さん(長谷川博己)、『ブギウギ』の服部良一をモデルにした羽鳥善一(草彅剛)などがいる。
だがこの人たちを主人公にするなら朝ドラより大河で見たいという印象なのでまだいい。女性が主人公の朝ドラで、主人公に影響を与える人物として女性が強烈な印象を残してしまうのはなかなかもどかしいものがある。
脚本家の吉澤智子さんは捨松について、第1週の試写会見でこう語っている。
「捨松が医療に関わっていたことを知っている人は少ないと思います。津田梅子とアメリカにいき、あとは鹿鳴館で踊っていたという印象が強いのではないでしょうか。
私も調べて知ったことですが、実は日本に医療やチャリティーを根付かせていた人で、そこがとても魅力的に感じました。それもあって、『風、薫る』では捨松が1つの大きなキーになっていきます。
メンターというのか、この時代、アメリカでの医療を見たことがある人はとても稀(まれ)なので。彼女はいろんな意味でふたりに影響を与えます」
直美が小日向とおつきあいすることに
捨松もしたたかに生きている。
直美もしたたかでもいいのかもしれない。
狙うは、海軍中尉の妻の座。
幸い、小日向(藤原季節)も前向きで、第14回で早くもおつきあいを申し込んできた。
そして、自分の家の話や経済状況などを直美に開示する。彼は次男で家は長男が継ぐとか、海軍中尉の給料なんて大したものではありませんが……とか。
「どうして急にそのように」
「こういう話は大事なことでしょう。その…共に長く暮らしていくなら」
「そうですね。お金は大事です。お金がないと生きていけませんし、子どもを育て……」と話が急展開。こんなに早急な人、ちょっと性格に問題がありそうな気もしないではないが、単に真面目で不器用なだけかもしれない。
そんな会話をしていると、少年が走りこんでくる。
そのあと少年を追ってきた紳士に小日向は嘘をつく。すりを働いた少年を逃がしたのだ。
「間違いました。軍人としてあるまじき行為をしてしまいました」と反省を述べる小日向に、直美は私も同じように答えたと思うと同意する。でも「すみません、やはり間違いは間違いです」と言う誠実そうな小日向。
直美はそんな彼とつきあうことにする。下心あってのこととはいえ、この人、良さそうな人だと思ったのかな。
さて、今日は出番の少なめなりん。一緒に暮らすことになった美津(水野美紀)が1階をきれいに片付けて、住めるようにしてしまった。もちろん清水卯三郎の許可を得ている。
「私は変わりますよ。これからは、私も働くことにしました。りんだけを働かせるわけにはいきません」と張り切る美津。
来週は捨松主催の炊き出し!
フォトギャラリー
主なシーンより
第3週(4月13日〜17日)
「春一番のきざし」あらすじ
りん(見上愛)は卯三郎(坂東彌十郎)の店「瑞穂屋」で働けることになり、東京で新生活が始まった。ある日、外国人の客の対応に困っていたりんを、常連客の島田健次郎(佐野晶哉)が助けてくれる。りんも接客のため、英語の勉強を始めることに。そんな折、美津(水野美紀)と安(早坂美海)もりんを頼って上京し、家族4人での暮らしが始まる。一方、直美(上坂樹里)は身分を偽って捨松(多部未華子)に近づき、鹿鳴館で働き始めていた。
連続テレビ小説『風、薫る』
作品情報
連続テレビ小説「風、薫る」。主人公はそれぞれに生きづらさを抱えた2人の女性。当時まだ知られていなかった看護の世界に飛び込み、傷ついた人々を守るために奔走し、時に強き者と戦う——明治という激動の社会を舞台に、幸せを求め生きるちょっと型破りな2人のナースの冒険物語です。
【脚本】吉澤智子
【原案】田中ひかる「明治のナイチンゲール 大関和物語」
【音楽】野見祐ニ
【主題歌】Mrs. GREEN APPLE 「風と町」
【語り】研ナオコ
【出演】見上愛 上坂樹里 佐野晶哉 生田絵梨花 小林虎之介 早坂美海 藤原季節 三浦貴大 内田慈 菊池亜希子 丸山礼 根岸季衣 小林隆 高嶋政宏 片岡鶴太郎 多部未華子 原田泰造 水野美紀 坂東彌十郎 ほか
【放送】2026年3月30日(月)開始(全26週130回)