ゴッホや村上隆も魅了した広重の「名所江戸百景」、全120図を〈太田記念美術館〉で一挙公開!
April 14, 2026 | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
モネやゴッホ、そして村上隆をも魅了した歌川広重「名所江戸百景」。その全120点が一挙公開されます。摺りも鮮やかな名品を間近に見るチャンスです。

歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(後期)。黒い線で表された雨も当時の西洋では斬新だった。
「名所江戸百景」は幕末の浮世絵師、歌川広重が還暦を迎えてから62歳で没するまでに描いた、最晩年の作品。118図に弟子が描いた1図と目録を加えた120図で構成され、江戸市中の名所が紹介される。その大半は描かれた場所やアングルが特定されており、風景画として、また江戸にタイムスリップするガイドブックとしても楽しめる。東京・原宿の〈太田記念美術館〉で4月15日から行われる『歌川広重『名所江戸百景』最後の挑戦』展では前後期にわけて120図すべてを展示する。浮世絵の充実したコレクションで知られる同館でも、8年ぶりとなる機会だ。

歌川広重「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」(前期)。猫が丸まって吉原の遊郭の出窓から外を見ている。
風景画には横長の構図が選ばれることも多いが、本シリーズではあえて縦長の構図を採用、当時の江戸の光景がいきいきと描かれる。この中には正月など冬の雪景色から梅の花が咲き誇る早春、人々が水辺で涼をとる夏、紅葉が鮮やかな秋まで四季折々の姿が登場する。数は少ないが夜景もあり、江戸の1年をたどることができる。

歌川広重「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」(前期)。「大はしあたけの夕立」とともにゴッホの模写でも知られる。
当時のヨーロッパでは浮世絵を始めとする日本美術に注目が集まっていた。その中でも「名所江戸百景」は大胆な構図で芸術家たちを魅了する。ゴッホはこの中から「亀戸梅屋舗」「大はしあたけの夕立」を模写、画面の周りに漢字のようなものを配した油彩画を描いた。モネはジヴェルニーの庭園に太鼓橋を作り、「亀戸天神境内」に似た構図で描いている。村上隆はこれら西洋の画家にも影響を与えた広重作品の斬新さに改めて感銘を受け、2025年にニューヨークで開いた個展『JAPONISME → Cognitive Revolution: Learning from Hiroshige』で、自身の視点で再解釈したシリーズを展示した。

歌川広重「名所江戸百景 浅草金龍山」(前期)。左端に雷門が、上からは大提灯がのぞく。雪の白と朱塗りの寺院との対比が鮮やかだ。

歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」(後期)。線遠近法や影など西洋絵画の表現を取り入れている。
彼らを驚かせたのは、一つは「近像型構図」と呼ばれる手法だ。近くのものを極端に大きく、遠くのものを小さく描く。遠景が近くのものに隠されてしまうこともよくある。建物や橋などを画面の外にはみ出させた大胆なトリミングも面白い。人物が見切れていることも多い。後ろ姿だったり傘をかぶっていて顔が見えない人物はどんな人なのか、何を思っているのか想像力をかき立てる。

歌川広重「名所江戸百景 水道橋駿河台」(後期)。大空を悠然と泳ぐ鯉のぼり。背景に富士山も描き込まれた、縁起のいい一枚。
「名所江戸百景」が描かれたのは今からおよそ170年前のこと。その中には凧揚げや花見、鯉のぼり、七夕といった今も行われている風習も登場する。一方で変化の速い都市、東京では失われてしまった景観も多い。木造の平屋や2階建てが多かった街並みや、一見郊外のように見える緑豊かな地にも現在では家が密集し、あるいは高層ビルが建ち並ぶ。木造の橋も大半が鉄橋などに架け替えられた。

歌川広重「名所江戸百景 日本橋江戸ばし」(前期)。日本橋は大胆にトリミングされている。

歌川広重「名所江戸百景 王子音無川堰棣 世俗大瀧ト唱」(後期)。滝の下や川で涼をとる人々が描かれる。
「名所江戸百景」には川や池、海など水辺の風景が多いのも印象的だ。当時、水運は重要な交通の手段だった。「名所江戸百景」には物資を運ぶ舟や、人を運ぶ渡し舟などが登場する。これらの多くは車や鉄道などの陸上交通に取って代わられてしまった。中には埋め立てられてしまった川や池もある。

歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」(前期)。新田や銭座(貨幣鋳造所)を設けたが不便なため廃止され、ゴミで埋め立てられたという土地。広重は鮮やかな手つきでこんな場所も「名所」に仕立てている。
「名所」といってもあまり人が来なかったような、寂れた場所も取り上げられているのも面白い。またこの絵が描かれる少し前にはアメリから黒船が来航し、幕藩体制は激しく揺れ動いていた。「名所江戸百景」の中には御台場建設のために削られた御殿山を描いたものもある。時代の様相も感じることができる、いろいろな角度から楽しめるシリーズだ。
『歌川広重『名所江戸百景』最後の挑戦』
〈太田記念美術館〉東京都渋谷区神宮前1-10-10。2026年4月15日~6月14日(前後期で全点展示替え。前期:4月15日~5月10日、後期:5月15日~6月14日)。10時30分~17時30分(入館は17時まで)。4月20日、27日、5月7日、11〜14日、18日、25日、6月1日、8日は休館。一般 1200円ほか。
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