大河史上初めて“情報漏洩”を責められたお市の方。そしてさりげなく挿入された「信長暗殺未遂事件」【豊臣兄弟! 満喫リポート】15

小谷攻めの作戦会議をする信長(右/演・小栗旬)と秀吉(左/演・池松壮亮)。(C)NHK
ライターI(以下I):さて、『豊臣兄弟!』第15回では、冒頭からお市(演・宮崎あおい)が義父の浅井久政(演・榎木孝明)から「織田に我らの動きを報せたのはそなたであろう」と責められました。
編集者A(以下A):「金ケ崎の退き口」の後に、お市の方が浅井の人々からこのように責められるのは、大河ドラマ史上初めてのことです。「これは!」と思っていたら、秀吉(演・池松壮亮)の夢の中の出来事でした。とんだ肩透かしでした(笑)。
I:今週はいつも以上にテンポがよくて、場面が転じて、信長(演・小栗旬)が明智光秀(演・要潤)を家臣に迎えるということが宣言されました。前週に足利義昭(演・尾上右近)が光秀に対して、「信長の家臣になって情報を報せよ」という動きが進展していることが明らかになりました。ここで場面は再び小谷城に戻ります。織田方の間者が捉えられ、お市の前で殺害されます。血を噴き出しながら絶命する様子がショッキングでした。
A:冒頭の場面は「秀吉の夢」という設定でしたが、金ケ崎以降でお市の方がここまで詰められるのは、大河ドラマ史上初めてという記念碑的な場面に遭遇したことになります。
I:こうした状況の中で、小一郎(演・仲野太賀)が「うかつに(浅井を)攻めれば、お市さまの身が危のうなりまする!」と青臭いことをいって、信長の逆鱗に触れました。
A:信長が怒って小一郎を投げ飛ばしてしまいましたね。ここで注目なのが、小一郎がこのまま晩年まで青臭いことを言い続けるのか、それともある時から闇落ちすることがあるのか否か――。
I:なるほど。そういう命題を与えられると、その後の戦場場面での流れが、分岐点になるのかもしれない、なんて思えてきますね。
A:いろいろと注目していきたい場面が続出するわけですが、実は、信長と光秀とのやり取りの中で、重要な箇所がふたつありました。ひとつは、小一郎がお市の方の身を守ろうとして、信長に任せられていた鉄炮が用意できないことの言い訳で発していた「玉薬をつくる硝石(しょうせき)が手に入りませぬ」という台詞です。これは、戦国時代の重大問題です。鉄炮があっても弾がなければ、無用の長物なのですが、弾の原料になる硝石は国内では産出されないのです。
I:すべて輸入に頼らないといけないということですか?
A:そうです。現代の石油のようなものですが、石油の場合、微々たる量ではありますが、国内でも産出されます。しかし、硝石は100%輸入。つまり硝石の輸入権益を確保したものが「戦国」を制すという構図でした。
I:さりげなく硝石の存在に触れた「ポイント」だったというわけですね。もうひとつの重要なやり取りとはなんでしょう。
A:はい。信長は青臭いことをいう小一郎を投げ飛ばして、「十兵衛を見よ」と促し、左腕に三角巾を巻いていた光秀について「岐阜へ戻る途中、わしをかばって撃たれたのじゃ。浅井の裏切りに併せて立ち上がった姑息な六角の仕業よ」と言ったのです。ここでいう六角とは、六角承禎(じょうてい)のことです。
I:『信長公記』に記されている信長暗殺未遂事件ですね! 六角承禎が鉄炮の名手・杉谷善住坊を雇って信長を狙ったという事件です。これまで大河ドラマでは1978年の『黄金の日日』でしか描かれていません。
A:『黄金の日日』で描かれた「信長暗殺未遂事件」と「杉谷善住坊の処刑」は、大河ドラマ史に刻まれる名場面です。別記事で「なぜ大河ドラマは信長暗殺事件を取り上げないのか?」という考察記事をまとめていますので、興味のある方はどうぞ(https://serai.jp/hobby/1264494)。それにしても、「和睦などしたらわしの言葉は力をなくす」という信長の考えは重要ですよね。「われらを裏切った者の末路は地獄である」という台詞が胸に響いてきます。
I:ちょっと青臭い意見を提示しがちな小一郎と信長の対比が秀逸なのですよ。視聴者の方は、相変わらず強引な信長と、青臭い小一郎のどちらに感情移入しているのか、興味深いですね。私は、「信長派」です。

怪我を負った光秀(演・要潤)。(C)NHK
今週も「神格化以前」の家康がおもしろい!

土下座する家康(演・松下洸平)。(C)NHK
A:人物のイメージというか、一度張られたレッテルというか、そうしたもののイメチェンをするのはものすごく難しいことです。『豊臣兄弟!』の徳川家康(演・松下洸平)はまさにそれ。江戸時代に極端に神格化されて「神君家康公」「東照大権現」に祭り上げられた家康を、敢えて人間臭く描いてくれているのは楽しいですね。
I:今週も姉川の戦いにわざと遅参した家康が、信長に見透かされていた場面が描かれました。私は単純に『豊臣兄弟!』の家康は好きです。もっともっと振り切ってほしいです。そもそも姉川合戦での徳川勢の活躍についても、「後世の忖度」説もありますよね。
A:朝倉・浅井との戦いはさらに3年続きますからね。姉川の戦いは「痛み分け」ということではないでしょうか。とはいえ、信長、秀吉らはじわじわと浅井の喉元へと侵攻していきます。秀吉らが拠点とした虎御前山は、小谷城の目と鼻の先ですものね。
I:そういえば、小谷城と虎御前山の位置関係がわかる写真が『信長全史』にありましたね。
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地名が語る戦の惨状

凄まじい戦を経験する小一郎(演・仲野太賀)。(C)NHK
A:ところで、姉川の戦いの激戦ぶりは、VFX(ヴィジュアルエフェクツ)などの技術の進歩を確実に実感できる仕上がりになっていたと思います。兵士らが姉川の流れの中で死に絶えていく場面も胸打たれました。
I:今も現地では、血原、血川などの地名が残っていますしね。戦いの後に、姉川は真っ赤に染まったのではないでしょうか。そう思うと、ほんとうに壮絶な戦だったんでしょうね。
A:姉川の戦いは、「金ケ崎の退き口」を織田信長VS 朝倉・浅井陣営の第1ラウンドだとすれば、戦いの第2ラウンドになります。前週第14回で、信長が金ケ崎から京都に戻り、将軍足利義昭の御所に帰参の報告に行った場面がありました。その際、義昭は浅井長政と朝倉義景に御内書を書いていました。その日付が「四月卅日(4月30日)」。『信長公記』によれば、信長はいったん5月19日に京都を出発し、21日に岐阜に帰ります。
I:京都から岐阜に戻る途中で、杉谷善住坊に鉄炮で撃たれているのですよね。
A:はい。さらに『信長公記』によると、6月4日には六角承禎が野洲川(滋賀県野洲市)で柴田勝家、佐久間信盛軍と交戦しています。浅井長政は苅安城や長比城(たけくらべじょう)を築きますが、織田軍はすぐさま両城を調略してしまいます。近江と美濃の国境(くにざかい)で緊迫の攻防が繰り広げられていたのです。
藤堂高虎の登場
I:藤堂高虎が登場しました。浅井家家臣というクレジットがわざわざ挿入されました。演じているのは、『鎌倉殿の13人』(2022年)で武蔵坊弁慶を演じていた佳久創さんです。
A:藤堂高虎といえば、後に小一郎の家臣として頭角を現し、最終的に子孫は津藩32万石の大名として明治維新を迎えるわけです。この藤堂高虎が、後に秀吉子飼いの家臣として登場してくるであろう加藤清正や福島正則らより早い回で登場してきました。浅井家仕官時代の藤堂高虎が大河ドラマに登場してくるとは、感慨深いです。
I:姉川の戦いの頃は清正や正則はまだ子どもなのですが、これからどんどん若い人々が登場してきます。時代の空気が変化する時、若者たちが躍動し、新たな歴史が紡がれます。現代の私たちの社会が、若い人たちが「躍動できる雰囲気」を作り出すことができているのか――。自問自答しながら、『豊臣兄弟!』の行く末を楽しみたいと思います。

今週も家康がおもしろい。(C)NHK
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり