吉田鋼太郎に中村芝翫、内野聖陽も…リア王の上演ラッシュ 「日本の演劇史上、例がない」現象の裏に何が?

 シェークスピアの四大悲劇の一つ「リア王」の上演が相次いでいる(別表)。とりわけ今年は5月に俳優の吉田鋼太郎(67)、9月に歌舞伎俳優の中村芝翫(60)、俳優の内野聖陽(57)が主演する公演が続き、識者も驚く上演ラッシュ。老王が権力と財産、娘の愛を失う物語が高齢化する日本で切実となり、主役のリア王を演じられるキャリアの俳優が数多く存在するなどの背景があるようだ。(竹島勇)

◆社会的な背景と人材面の事情と

中村芝翫

内野聖陽

 大胆に翻案した2024年の俳優座公演は、明治時代の日本の炭鉱町が舞台で、女性を主役にしてベテラン俳優の岩崎加根子(93)が演じて話題になった。2025年に俳優の大竹しのぶ(68)が男性のリア王を演じるなど形態も多彩だ。

 シェークスピア戯曲全37作の日本語訳を坪内逍遥、小田島雄志さんに続き個人で達成した翻訳家で、演劇評論家の松岡和子(84)は、「リア王」の上演が続く状況を「日本の演劇史上、例がない」と話す。その理由を「日本が高齢化社会になったことが前提にある」と指摘し、「老いた親への対応や、子への財産分与が描かれる。リアのような高齢の親世代も、リアの娘たち世代も自分の問題として受けとめることができる」と解説する。

「リア王」の上演について話す松岡和子

 加えて「近年、リアを演じられる適齢期の俳優がそろったから」という見立ても。リアの老いに伴う悲しみや孤独を表現するには、60歳ぐらいの年齢が求められるという。さらに松岡は、年齢だけではない蓄積も必要だと強調する。「別のシェークスピア作品も演じ、シェークスピアの感受性やせりふが体に入っている俳優が、相応の年齢に到達して初めて演じられる最高峰の役がリア王」とみているからだ。

 若くからリア王を含むシェークスピア作品を演じ、演出家の蜷川幸雄さんらに鍛えられた吉田はもちろん、芝翫も内野もシェークスピアに打ち込んできた。近年のリア役者に、男女を問わず共通するポイントだ。松岡は、次世代の40歳代前後の俳優たちが適齢期を迎えるまでは、上演ラッシュは起きないと考えている。

◆吉田鋼太郎「昔は『俺のが一番面白い』と思っていたけど…」

 さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場で稽古が進むのは、吉田が芸術監督の「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」の第3弾「リア王」。演出を務めることが多い吉田だが、「リアは主演と兼務できる役じゃない。演技に専念する」と、演出に長塚圭史(50)を迎えた。ゴネリルを石原さとみ(39)、エドガーを藤原竜也(43)が演じる。

 リア王の上演が続き、観客は見比べる興味が湧くのではと問うと、吉田は「そうなりますよね」。作り手として「昔は『俺のが一番面白い』と思っていたが、最近はそれぞれにシェークスピアの捉え方があるんだなと楽しんでいる」と打ち明ける。40歳代までにリアを3度演じた。今、演じることに「60歳代の後半になり適齢期かなと思う」。

「リア王」主演の吉田鋼太郎(右)と演出の長塚圭史 =さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場で

 演出する長塚は、「(日本の)高齢化社会に通じる点もあるが、それだけでなく会話劇として現代的な魅力が随所にある」と「リア王」を語る。「ゴネリルは男性優位の家父長的な社会を否定し、父のリアが権威をかざすのを批判するが、自然なことで現代的だ。それがあってリアのように過去にすがりつく者たちの物語でもあるのが面白い」

 吉田はうなずき、「そこに本当に明かりをあてた演出は見たことがない」と、満足そうな笑顔をみせた。

 公演は5月5~24日。SAFチケットセンター=電0570・064・939。

「リア王」近年の上演例と今年の予定

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◆「リア王」あらすじ

 ブリテンの老王リアは3人の娘のうち、言葉巧みに喜ばせた長女ゴネリルと次女リーガンに領土を譲り、虚飾のない誠実な末娘コーディリアを勘当する。コーディリアを擁護した忠臣ケント伯も追放となるが、変装して再びリアに仕える。

 リアに嫌気がさしたゴネリルとリーガンは一転、リアを邪険に扱い、失意のリアは道化とともに荒野をさまよい正気を失う。

 リアの家臣グロスター伯は妻との間の子でないエドマンドの策略で長男エドガーを追放してしまう。

 狂気を装うエドガーは荒野でリアと遭遇。エドマンドにより謀反人とされたグロスター伯はリアを助けようとするが…。

「リア王」主演の吉田鋼太郎(右)と演出の長塚圭史 =さいたま市の彩の国さいたま芸術劇場で

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