「去年は小説で1億4000万ちょっと稼ぎました」『作家で食っていく方法』の今村翔吾が語る成功する作家の考え方

「長編小説を年に3冊書けなければプロは難しい」, 「去年の売り上げは1億4000万円ちょっとでしたね」, 「自分の脳内に「1人の読者」を持て」, 「構成では山を2つから3つ用意する」

今村氏が考える長編小説は原稿用紙1500枚だという(写真:akiyoko74/イメージマート)

 作家になって一発当てたい。一度は皆そんなことを考える。あるいは、作家になってはみたけれど、まったく稼げず途方に暮れる。そんな話もしばしば耳にする。では、成功した作家は何が違うのか。どんなことを大事にして自分の創作と向き合っているのか。『作家で食っていく方法』(SBクリエイティブ)を上梓した小説家の今村翔吾氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

「長編小説を年に3冊書けなければプロは難しい」, 「去年の売り上げは1億4000万円ちょっとでしたね」, 「自分の脳内に「1人の読者」を持て」, 「構成では山を2つから3つ用意する」

──作家になるためにはプライドを捨てることが大切である、と書かれています。

今村翔吾氏(以下、今村):この本の中で最も重要なポイントです。僕は作家としてプライドを持つことがすべて悪いと言っているわけではありません。重要なことはどこにプライドを持つのかです。

 言いたいのは、「いらないプライドを捨てろ」ということ。自分の書いた作品に譲れないこだわりがあるのは分かりますが、そのこだわりが自分が作家として食べていくために本当にプラスになるのかということは考えたほうがいい。

 指摘をされたり、直しを入れられたりすることが許せないという人がいます。原稿に少し修正が入るだけでもイラつくという人もいる。そうしたスタンスは僕には考えもつきません。

 自分の書いているものがウケなかったとき、評価されなかったときに、その事実を受けいれて必要な改善や検討ができるか。これもいい意味で、プライドのない作家の姿勢です。自分は良いものを書いているのに、読者は分かってない。市場が分かってない。そんなプライドはいりません。

「出版社が売る努力をしていない」と嘆く作家もいますが、他責することは簡単です。もちろん、自分の努力以外にも売り上げを左右する要因はさまざまにあります。でも、外的要因は探せばいくらでも見つけられるし、作家がそれを言い出したらキリがない。そうしたことを一度すべて脇に置き、自分がどうするべきかを考えるほうが健全だし、チャンスが広がると思います。

──作家になりたかったら「自分の好きな本」と「売れている本」の両方を読むことが大事であると書かれています。

今村:売れている本が大衆の求めるものだからです。「世間に迎合するな」と批判する人もいますが、そう考える方はそう考えればいい。僕の競合ではなくなるので、こちらとしてはむしろありがたいことです。僕は大衆小説家であるということにプライドを持っています。多くの読者に支持されることがプライドです。

 自分の感性が読者の世界観とズレているなら、読者の求めるほうへ自分を寄せることができる。それが僕の求める姿です。反対に、書き方や売り方のロードマップを作り、大衆のほうを自分の感性に引き寄せることもできますが、売れている路線とわざわざ逆に向かうのはリスクがあるでしょうね。

──小説の新人賞を目指すときに「傾向と対策」を分析しようとするのは全く無意味であると書かれています。

「長編小説を年に3冊書けなければプロは難しい」

今村:私も新人賞の選考委員をやっていますが、そうした必要は全く感じません。昨年どんな作品が受賞したかなんて審査の過程で検討しません。これは僕だけの考えではなく、他の選考委員たちの意見を聞いていても、そうしたことが議題に上ることもまずありません。

 最終選考に上がってくる前の下選の段階ではあるのかと思って新人賞を管理している人に聞いたことがあるけれど、やはりそういうことを気にしているという話は聞きません。面白いか面白くないか、選ばれる理由はまずそこです。

──「選考委員の顔ぶれを見て寄せていく」という戦略を取る人もいると聞いたことがあります。

今村:あえて言うならば、選考委員が書いているジャンルほど、その選考委員は厳しく審査しがちです。例えば、歴史系の候補作が出てくれば、審査員の中でも僕がどう思うかという僕の評価が重要視されます。選考委員の方々を見ていると、自分の分野ほど厳しく読む傾向があります。

 そう考えると、あえて傾向があるといえば、審査員が誰も書かなそうなものを書ければ強いかもしれません。

──「長編小説を年に3冊書けなければプロは難しい」というお話がありました。寡作な天才も文学界には珍しくないという印象がありますが、なぜ長編を年に3冊なのでしょうか。

今村:それぐらい弾がないと、この世界で食っていけません。僕の先輩の北方謙三先生も「年に長編3作」とかつて仰っていました。

──長編作品は、400字詰めの原稿用紙だと何枚ぐらいですか?

今村:400枚以上ぐらいから長編かな。でも、僕の長編って1作1000枚なんてこともあるし、600枚、700枚はザラですね。1500枚ぐらいが僕の長編の目安かもしれません。

 実際に自分でやってみて実感しますが、年に3冊ぐらいの頻度が、書店が取次を通じて出版社に書籍を戻す「返品(返本)」の速度にうまく対応している。

 1つの作品を書くと、3カ月から4カ月その作品が店頭に並びます。そして、返品になって店頭から下がる直前に次作を出すと、特にシリーズ物の場合は前の作品が返品されずに一緒に棚に並び続ける。「返品ブロック」です。

──今村さんは、異なる仕事を同時にどれぐらい抱えているのでしょうか。

今村:同時に8作書いていたことがありますね。3作エッセイ、5作小説。

──よく頭を切り替えて同時にいろいろ進められますね。

今村:走っている分にはできるんですよ。でも、1回完結した作品をシーズン2で再開する場合は苦労します。

「去年の売り上げは1億4000万円ちょっとでしたね」

──「この作品は駄作かもしれない」と思っても、最後まで書ききることが大事であると書かれています。ダメかもと思いながら書き続けることは辛いと思いますが、なぜ大切なのでしょうか?

今村:人生と一緒よ(笑)。辛いことがあっても、最後までやらなあかんやろ。投げ出す癖をつけると、この後、勝てる戦も投げ出すようになる。そもそも勝っているか負けているかは、書いている本人に判断がつくものではないと思います。自分の書いているものが良い悪いと判断できると思うこと自体がおごりですね。

「これどうかなぁ」と内心思いながら書いたものが売れることもあれば、「サイコー」と思いながら書いたものが伸びないこともある。だから作家からすると、編集者の目や読者の反応は人知を超えた存在に感じられるのです。

 そして、やれるところまでやって、当たらなくても「ま、いっか」と思えることも作家として生きていくためには大切だと思います。

──作家がどれぐらい稼ぐのか、稼げるのかといったお話もありました。可能な範囲で実情を教えてください。

今村:上手くやればめっちゃ稼げますよ。去年の売り上げが最近出ました。1億4000万円ちょっとでしたね。過去最高額でした。ワンオペと考えたら結構がんばったでしょ。

 お金のためだけにやっているわけではありませんが、あんまり稼げない業界というイメージが定着するのも嫌です。小中学生が「スポーツはイマイチだけど、文章得意だからワンチャンあるかも」と思ってくれる業界であってほしい。そうじゃないと、未来はないよね。

──どれぐらい稼ぐかは、キャリアの早い段階からイメージを明確に持っていたのですか?

今村:「1年目で1000万円は稼ごう」とか、目標値は最初から持ち続けてきました。僕はこれまでいつも、年初に立てた目標値のニアピンで毎年終えてきました。ニアピンすぎて税理士さんにも驚かれるぐらい。

 僕の肌感覚ですが、年収1000万円ぐらいまでは小説家として努力でいける。3000万円ぐらいから努力ではどうにもならなくなってきて、戦略を練らないと壁をこえられなくなる。

 僕の場合は3000万円と5000万円の壁をこえるときが一番大変でした。そこから先は「意外といくな」という感覚ですね。作家はユーチューバーと同じでストックビジネスですから、過去の良い作品の下支えがあると、どんどんチャンスが増えていく。

 電子版の売り上げはかなり変わりました。デビュー当初は本当に「うまい棒何本買えるかな」みたいな金額でしたが、今は収益の10%ぐらいになっている。若い読者を明確にターゲットとして意識し始めてから電子の数字も伸び始めましたね。

「自分の脳内に「1人の読者」を持て」

──自分の脳内に「1人の読者」を持てと書かれています。1人の読者とは、読者の総合的な声を反映したものですか?

今村:明確に自分の中の読者像を設定するということです。これはターゲット設定とも言えるし、読者の総合思念とも言えます。あるいは、それを時代と呼ぶのかもしれません。「これからの時代はこういうものを皆が読みたいだろうな」と思うものを書くように努めていますね。

 だから、僕のターゲットとする読者層は年々若返っているし、テレビマン的な言い方をすると「F層(女性層)」も意識しています。女性と若者をかなりターゲットにしています。そうした層を対象に作品を書けば、むしろ歴史小説の場合は、年配の方を中心に既存読者も「新しい方向性の作品だ!」と面白がって読んでくれます。

──誰に向けて書くかというと、「自分が読んで楽しいものを書く」と考える人が少なくないのではないでしょうか?

今村:もちろん、自分が楽しめる作品でなければなりません。でも、そこで重要なのは、それが本当に皆にとっても楽しいかどうかです。そこが自己満足になるか、大衆小説になるかの差だと思います。キャリアと共にそのギャップを埋めていく。経験が大いに活きる部分です。

──さまざまな分野で成功されている方と話をすると、「相手が何を思っているのかをどれだけ考えるかが重要」と口を揃えて皆さん仰います。

今村:共感性の強さでしょうね。僕は強いですよ。テレビ見ても「この芸人、この後スベるな」と思ったらテレビ消すからね。古い言い方かもしれないけれど「優しさ」ですよ。

 たとえば、書くときにどの漢字にルビをふるか、そうしたことも優しさであり配慮です。あえて難しい漢字を使って、読めた喜びを感じてもらうのも、ある種の配慮です。

──文章を書くことは上手いが、構成を作ることは下手な作家では成功しないと書かれています。

今村:ぶっちゃけ文章は練習すれば上手くなるんですよ。作家の能力の中で一番伸ばしやすいのは文章力だと思う。でも、構成が下手な人は致命的で、ここは習得するのも教えるのも難しい。

 デビューする前から数多くの作品に触れて構成の組み立て方を学んでおくことが大事ですね。文章の上手さはデビューしてからでもどうにかなります。

「構成では山を2つから3つ用意する」

──構成においては山を2つから3つ用意して、最後の山を膨らませることが重要であると書かれています。最後の山をどの程度膨らませるかは書くたびに悩みますか?

今村:悩みますけれど、そこにもコツがあります。「2山構成」「3山構成」と僕は呼んでいますが、原稿用紙1000枚を超えると3山ほしいですが、原稿用紙700枚ぐらいまでは2山でいける。

 そして、ここが重要なのですが、2つめの山を盛り上げるために1つめの山の盛り上げ方を抑えたら、その作品は死にます。1つめの山から全力でアクセルを踏まなければなりません。

「長編小説を年に3冊書けなければプロは難しい」, 「去年の売り上げは1億4000万円ちょっとでしたね」, 「自分の脳内に「1人の読者」を持て」, 「構成では山を2つから3つ用意する」

 1つめの山と2つめの山の高さが同じでもいいのです。その場合は、上がり方というか、落差で変化をつけることが重要です。

 50ぐらいまで上げておいて、そこから100まで上げる1つめの山。そして、100から一回ゼロまで落として、そこから一気に100まで上げる2つめの山という具合に盛り上げ方に抑揚をつける、そんなイメージです。こうすると2つめの山が大きく見える。

 この「ゼロに落とす」というのは、物語をつまらなくするということではなくて、「物語に静寂をもたらす」ということです。

 これが最も上手くいった僕の作品は『塞王の楯』です。あの作品の中で、雪かきの場面があります。物語の構成上、あのタイミングで雪かきが出てくる必要はない。でも、この雪かきが日常と戦乱の差を表現しているのです。日常の雪かきの場面を入れてたわいもない会話を見せることで落差をつけ、その後にくる戦場への上昇を引き立たせるのです。

今村 翔吾(いまむら・しょうご)

小説家

1984年京都府生まれ。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、現在は専業作家として食っている。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビューし、翌年同作で歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞。18年『童神』で角川春樹小説賞(刊行時に『童の神』に改題)、20年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞及び野村胡堂文学賞、同年『じんかん』で山田風太郎賞、21年『羽州ぼろ鳶組』シリーズで吉川英治文庫賞、22年『塞王の楯』で直木三十五賞、25年『幸村を討て』で大阪ほんま本大賞。『イクサガミ』シリーズがNetflixで実写化、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』が漫画化・アニメ化されるなど、作品のメディア展開は多岐にわたる。

長野光(ながの・ひかる)

ビデオジャーナリスト

高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。

関連記事

「金持ち=幸せ」はなぜ幻想なのか?世間体と家族に縛られる富裕層と失うことで自由になる現実

36歳で亡くなった飯島愛、1990年代の若い女性が憧れた彼女の生き様

「半ば奴隷のように扱われていた」占い師に心と体を支配された元グラビアアイドルはなぜ関係を断ち切れたのか?