「路線バスは使いたくない」わずか3.7%の衝撃――距離より優先される“徒歩で完結”という発想、子育て共働き世帯の本音

徒歩15分という防衛線

 オープンハウスグループ(東京都千代田区)が2026年4月17日、「家を買いたい共働き子育て世帯の憧れの駅・住んでみたい路線ランキング2026~関東版~」を発表した。調査対象は共働きで子育て中、かつ5年以内に住宅の購入を検討している20代~40代の男女700人だ(東京都 472人、神奈川県 98人、千葉県 65人、埼玉県 65人)。

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 この調査結果を読み解くと、共働きで子育てに励む世帯にとって、駅からの距離がどれほど重い制約となっているかが浮かび上がる。理想とする徒歩時間は「10分未満」が7割を超え、15分まで広げれば約9割に達する。妥協の限界を問う項目でも、73.7%が15分以内を死守したいと考えているようだ。つまり、徒歩15分というラインが、彼らの生活を支える最後の砦となっている。

 興味深いのは、移動を補うはずのバス利用を検討する層が、わずか

「3.7%」

に過ぎない点だ。2026年1月の首都圏新築戸建ての平均価格は4988万円と、前月からさらに2.7%上昇した。東京都内に限れば6092万円という高値だ。2025年3月の公示地価もバブル後最大の上昇を記録しており、今は物件価格、地価、そして住宅ローン金利がともに膨らむ「三重高」のただ中にある。

 これほどの資金を投じて利便性を買おうとする世帯にとって、住まいの取得は、生活の効率を維持するための切実な投資にほかならない。道路状況に左右され、到着時間が読めないバスという手段は、彼らの目には

「リスクをはらんだ不確実な選択肢」

と映っているのだろう。この3.7%という数字は、好みの差ではない。都市インフラとしての有効性に対する、市場の評価である。徒歩15分、距離にして約1.2kmという身体的な負担を飲み込んででもバスを避ける。そこには、移動の正確さを何より優先する世帯の生存戦略が透けて見える。現に、いま徒歩10分圏内で暮らす層の約9割が、これ以上の負担増を拒んでいる。一度手にした「確実な時間」を、彼らは何があっても手放したくないのだ。

分解不能な移動時間のリスク

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家を買いたい共働き子育て世帯の憧れの駅・住んでみたい路線ランキング2026~関東版~(画像:オープンハウスグループ)

 バスが敬遠される理由を「移動の遅さ」に求めるのは、現象の上っ面をなぞっただけの理解といわざるを得ない。実際には、速度の問題ではなく「時間の扱い方」にこそ本質がある。

 鉄道は発車時刻も所要時間も安定しており、利用者は移動を確実な単位として計算に組み込める。一方でバスは、道が混めば遅れ、乗り降りにも手間取る。同じ路線を走っていても所要時間が激しく揺れ動くのだ。

 いま徒歩10分もかからない場所に住む人の9割近くが、これ以上の徒歩増加を拒んでいる。この事実は、現代人がいかに正確な時間管理を求めているかを物語っているだろう。特に共働き世帯にとって、朝の時間は保育園への送りから出勤までが分刻みの鎖のようにつながっている。ここにバスという不確定な要素を割り込ませるのは、生活の連鎖を断ち切るリスクにほかならない。

 結局のところ、バスは時間を細かく切り分けて運用することを難しくしてしまう。人々が求めているのは、移動を自分の手の内に置くことができる確実性なのである。

合理の連鎖が生む選択肢の消失

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路線バス(画像:写真AC)

 利用者は自分の限られた時間を守るために確実性の低いバスを避け、事業者は厳しい環境のなかで必死に運行を続けようとする。

 事実、現場の状況は切迫している。この春、路線の廃止や減便は都市部を走る都営バスや関東バスでも相次いで発表され、波紋を広げている。その最大の要因は、各社に共通する深刻な運転手不足だ。日本バス協会の試算によれば、このまま減少が続けば2030年には3万6000人が不足するという。

 こうした供給側の機能不全に対し、需要側の視線もまた厳しい。それぞれの主体が自身の立場から合理的に動いた結果、皮肉にも全体としてはバスという選択肢が機能しなくなる結末を引き寄せているのだ。

 調査の結果に目を向けると、理想の所要時間として「10分から15分未満」の徒歩を挙げる層が18.4%存在する一方で、バスを理想とする層はわずか3.0%にとどまる。この数字の開きは、効率を重んじる世帯にとって、バスがもはや検討の土台にすら載っていない実態を物語っているだろう。

 ここにあるのは明確な失策ではない。時間の正確さを何より重んじる現代の暮らしと、外の環境に振り回されざるを得ない交通システムの性質。その二つが真っ向からぶつかり合ったことで、バスが選ばれる余地が自然と削ぎ落とされていったのである。

徒歩圏外に広がる未接続需要

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路線バス(画像:写真AC)

 バスが選ばれない現状を、公共交通の衰退という言葉で片付けるのは、少しばかり性急かもしれない。むしろ、駅から徒歩15分という範囲に、これまでの仕組みでは応えきれていない「つながらない需要」が浮き彫りになったと見るべきだろう。

 前述のとおり、2026年1月の首都圏新築戸建ての平均価格は4988万円。東京都内に限れば6092万円と、過去最高値を塗り替えた。地価も金利も膨らむ「三重高」のなかで、共働き世帯は移動の効率をかつてないほど厳しく追い求めている。妥協案としてのバス利用がわずか3.7%にとどまる事実は、現代の生活リズムに大型バスという装置がそぐわなくなっていることを示している。

 移動の需要そのものが消えたわけではない。今の仕組みに代わる、別の手立てが求められているのだ。徒歩15分という「空白地帯」は、

・マイクロモビリティ

・シェアリングサービス

といった新しい移動の担い手にとって、大きな実りをもたらす市場に化ける可能性を秘めている。

交通階層の崩壊と移動の再編

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2026年住宅市場の「時間戦略」。

 かつての都市交通は、鉄道という太い軸をバスが補う、階層的な仕組みで成り立っていた。この形は時間にゆとりのある生活様式には馴染んでいたが、今の状況は一変している。2026年の公示地価がバブル後最大の上昇率を記録し、物件価格も金利も上がり続けるなかで、住まい選びは生活の効率をいかに高めるかという、切実な投資へと姿を変えた。分刻みで動く共働き世帯にとって、これまでの交通インフラは、もはや暮らしの実態に追いついていない。

 理想の徒歩時間を「10分未満」とする層が7割を超え、妥協しても15分以内を求める層が7割強を占める。この現状は、移動の効率が生活の質を左右する決定的な要素になったことを物語っているだろう。一方で、バス利用を妥協案とする層はわずか3.7%。この数字は、既存の運行システムが今のライフスタイルと激しくぶつかり合っている証拠にほかならない。これは一部を直せば済む話ではなく、生き方の変化にともなって生じた構造的な隔たりなのである。

 15分歩いてでもバスを避けるという選択は、古い交通システムが提供する価値と、利用者が求める利便性が、完全に入れ違ってしまったことを意味する。これまでの秩序が崩れ、移動のあり方は根本から形を変えつつあるのだ。

 この摩擦が生み出す「空白地帯」は、個々の事情に応じたしなやかな移動手段が広まっていくための土壌となるだろう。バスが選ばれないという事実は、古い仕組みの限界を浮き彫りにした。それは、新しい移動の形へと移り変わるなかでの、避けて通れない結末なのかもしれない。