億単位の違約金ちらつかせて「内定辞退」を阻止された…大学生を襲う悪質「オワハラ」、東洋大・中央大・立教大は注意喚起も
就職活動の早期化・長期化が叫ばれる昨今、大学生の間で深刻な問題となっている言葉があります。就活終われハラスメント、いわゆる「オワハラ」です。
【画像】各大学がホームページやSNSで注意喚起を行っている
学生が企業から内定や内々定を得た際、他社への就職活動をやめるよう強要されるこの行為が現在、単なるマナー違反を超え、学生の職業選択の自由を脅かす大きな社会問題となっています。
「オワハラ」とは何か?巧妙化する囲い込みの実態
「オワハラ」とは、企業が学生に対して自社への入社を強く迫り、他社への選考辞退や就職活動の終了を強要する行為の総称です。かつては「その場で他社に断りの電話を入れさせる」といった強引な手法が目立ちましたが、近年はその手法が巧妙化しています。
例えば、「君のキャリアのために」と称して毎日のように面談や課題を課し、物理的・心理的に他社の選考を受ける余裕を奪う。加えて昨今では大学の推薦状を提出させ、「辞退すれば後輩や大学に迷惑がかかる」と罪悪感を植え付ける手口が多数報告されています。最終面接が近づいたタイミングで大学からの推薦状提出を求める「後付け推薦」も問題になっています。
そして近年、特に問題視されているのが、就職エージェント(民間の職業紹介会社)によるオワハラです。
就職エージェントでは、就活生の入社が決まった時点でクライアント企業からの報酬が発生するビジネスモデルが一般的で、キャリアアドバイザーにノルマが設定されているケースも少なくないようです。
一人でも多く入社につなげねばという事情から強い言葉で内定承諾を勧めたり、他企業への就活を終わらせるよう説得したりというケースもあるようです。
「就職エージェントから億単位の違約金をちらつかされて内定辞退を阻止された」など、耳を疑うような相談が相次いでいるという大学キャリアセンターからの報告もあります。
実際に中央大学や立教大学、東洋大学が、ホームページやSNSを使って学生に注意喚起を行っているのが話題となりました。

(画像:東洋大学ホームページ)

(画像:中央大学ホームページ)

(画像:立教大学のX)
社会経験の乏しい学生が「違約金」「損害賠償」といった言葉を突き付けられれば、冷静な判断を失ってしまうこともあるでしょう。
なぜオワハラが起こるのか?
オワハラが発生する背景には、企業側の切実な事情があります。
現在、企業間の若手人材獲得競争はかつてないほど激化しています。売り手市場では一人の学生が複数の企業から内定を得るケースも増えますので、何も対策を講じなければ優秀な学生は次々と他社へ流出し、内定辞退が続出する結果になりかねません。
採用の目標数を達成できるかどうかは企業にとって死活問題。確実に社員を獲得しようとする姿勢が、行きすぎたオワハラにもつながるわけです。
昨今では、さまざまな企業が就職エージェントの事業に参入しています。中には就活生本人が望んでもいない企業に押し込もうとする悪質な事業者もあるようです。
選考プロセスにあまり人手やコストをかけられない中小企業にとっては、こうした就職エージェントは頼みの綱でもあるのでしょう。オワハラが生まれる背景には、日本の労働市場を取り巻く構造的な問題もありそうです。
政府が主導する「就活ルール」は存在するものの、実態としては早期からの選考に動く企業もあります。
就職エージェントの中には、まだキャリアについての理解が不十分な大学1〜2年生のうちにサービスの登録を勧めるところも少なくないようで、こうした点も少々、心配です。
大学の注意喚起の状況と、学生たちの「生の声」
現在、多くの大学のキャリアセンターが公式SNSや学生へのオリエンテーションなどでオワハラに関する注意喚起を行っていますが、それでも思い悩む学生はいます。
以下は、私が大学のキャリアセンターに勤める知人から聞いた、学生から寄せられた声の一部です。いずれも就職エージェントサービスの利用者です。
「『君を信じているから、今この場で他社のマイページを退会してほしい』と言われました。担当の方には長くお世話になってきたし、期待に応えたい気持ちがあるのですが、本音としてはまだ就活を続けたい。悩んでいます」(私立大4年・男子)
「エージェントから『今の時期にここを蹴ったら、もう同条件の求人は出ない』と詰め寄られました。自分を否定されたような気分になり、怖くなって一度は承諾してしまいました」(国立大4年・女子)
この2人はいずれもキャリアセンターに相談したことで、意に沿わない承諾は避けられたそうですが、精神的に追い詰められてしまう学生も少なくないはずです。
学生ができる対策として、まず「内定承諾書や誓約書に法的拘束力はない」という事実を正しく認識することは不可欠です。
企業から即答を迫られても、「人生の重大な決断なので、家族と相談して明日回答させてください」といったん持ち帰り、物理的な距離を置く勇気を持ちましょう。
また、やり取りの記録(メール、録音、メモ)を残しておくことも重要です。
もし強引な引き止めにあった際は、1人で抱え込まずに大学のキャリアセンターや公的な相談窓口へ速やかに報告してください。企業側は「学生は情報に乏しく、孤立している」と見なすと強気に出る傾向がありますが、背後に大学という組織がついていることを示すだけで、事態が沈静化するケースも少なくありません。
一方、大学には以下のような役割が期待されます。
第1に重要なのは、学生への体系的な情報提供です。オワハラの具体例や対処方法、「内定承諾書に法的拘束力はない」「口頭での承諾は無効」といった法律的な基礎知識を事前に共有し、不当な要求には応じなくてよいという認識を明確にする必要があります。
1年次から就職エージェントに登録する学生もいることも考えると、かなり早い段階から伝えた方がよさそうです。
第2に、相談体制の強化です。オワハラを受けた学生は「自分が優柔不断だからだ」「企業に悪いことをしている」と自分を責める傾向にあります。キャリアセンターはどんな小さな違和感でも話していい場所であり、学生のために迅速に対応する体制がある場所なのだと、ぜひ学生に伝えてください。
個別の事案に対しては企業側と調整を行うなど、より踏み込んだ対応ができる体制もいずれ必要になるでしょう。
第3に、企業との関係構築です。学生から相談を受けた際には企業名・エージェント名・具体的な言動を記録し、学内で情報を蓄積・共有することが重要です。
同じ業者による被害が複数報告されれば、大学として注意喚起や対応措置を検討するための根拠になります。大学間での情報共有の仕組みを業界として整えることも、今後の課題です。
そして第4に、就活エージェント利用に関するガイダンスも必須と言えそうです。
就活エージェントを利用する学生は増えています。「エージェントの収益源はクライアント企業からの報酬」といった前提を理解しておくことは大事です。強引な勧誘や圧力に対して「No」と言える力を育てることは、就活のみならず、その後のキャリアにおいても活きるでしょう。
大学は学生の権利を守る最後の砦に
学生にとって就職活動は自らの価値観を問い直し、社会との接点を見いだす大切な「成長のプロセス」です。オワハラによって無理やり決められた進路は、早期離職やメンタルヘルスの悪化など、本人はもとより企業にとっても良くない結果につながりかねません。
学生本人の「納得感のある選択」を尊重できる方法でなければ、就職エージェントのビジネスもいずれ行き詰まるのではないでしょうか。
大学は、学生の権利を守る最後の砦でなければなりません。特に、キャリアセンターの職員にできることは少なくないはずです。ぜひ徹底して、学生の側に寄り添っていただければと思います。