介錯人はお市―。3年前からの伏線回収説と名遺跡「一乗谷朝倉氏遺跡」について語ろう【豊臣兄弟! 満喫リポート】介錯編

夫長政(演・中島歩)の介錯をするお市(演・宮崎あおい)。(C)NHK
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第17回です。朝倉氏五代百年の本拠地「一乗谷」が滅亡しました。
編集者A(以下A):個人的には、ここをもっとしっかり描いてほしかったです。一乗谷が3日間炎上し尽くして滅亡したのは天正元年(1573)。朝倉氏百年の栄華を誇った一乗谷は、新為政者の拠点が北ノ庄(福井市)に移転したため、その後400年近く放置されたといいます。具体的にいうと、江戸時代からほぼ農地になっていたそうです。
I:それが昭和42年の土地改良の際に遺跡が発見された、という流れになるそうです。そうした経緯もあり、「日本のポンペイ」とも称されたという話、好きです。現在は一乗谷朝倉氏遺跡として一般に公開されており、発掘調査で見つかった石垣や建物の礎石などをそのまま使用し、200メートルもの町並みが忠実に復原されています。
A:福井市の中心部から車で約30分なのですが、本当にいい遺跡です。何度でも行きたいです。近くにある一乗谷朝倉氏遺跡博物館は令和4年に新たに開館。遺跡から出土したものを展示しています。『信長全史』(小学館)には、イスラム製ガラスの破片、中国龍泉窯の青磁人物像燭台、タイ製の壺、中国景徳鎮窯製の染付大皿など、海外との交易が盛んだった一乗谷を偲ぶ品々が掲載されていますね。
I:今年は久しぶりに一乗谷を訪ねたいと思います。以前、『サライ』の取材で立ち寄った蕎麦店がまだ営業していたらよいのですが……。
A:朝倉義景(演・鶴見辰吾)の動きがやや軟弱だったために、軽く見られがちな朝倉氏ですが、「朝倉五代」の初代孝景は、「最初の戦国大名」とも称される名将。朝倉義景の立場からすれば、京都の政情に深入りし過ぎて弱体化した周防の大内氏のようにはなりたくなかったでしょうし、どうせ信長(演・小栗旬)もいずれ倒れると高をくくっていたのかもしれません。なにしろ信長の弾正忠家のことを常に格下扱いしていたようですから、よもや敗れるとは思っていなかったでしょう。
I:身内から裏切り者が出たのは痛かったですね。朝倉義景を裏切った朝倉景鏡(演・池内万作)の行く末も描かれるのでしょうか。
A:せっかくなので、個人的には武田勝頼を裏切った人物との対比を見たいのですが、無理ですかね。

朝倉義景(右/演・鶴見辰吾)の最期。(C)NHK
秀吉・小一郎の説得

長政とお市の説得に来た秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)。(C)NHK
I:さて、秀吉(演・池松壮亮)と小一郎(演・仲野太賀)が小谷城に乗り込んで、浅井長政(演・中島歩)・お市(演・宮崎あおい)を説得する任に当たりました。
A:秀吉や小一郎が小谷城に入るなど、「ありえないのでは?」と思ってしまう視聴者もいたかと思います。そういわれればそうなのですが、実は1996年の『秀吉』でも竹中直人さん演じる秀吉が単身小谷城に乗り込み、頼近美津子さん演じるお市の方を説得する場面が描かれました。
I:『豊臣兄弟!』は小一郎が主人公なので、秀吉と小一郎(途中までは柴田勝家も)がふたりで乗り込むという設定なのですね。
A:『秀吉』の際は、文のやり取りを通じて浅井長政(演・宅麻伸)の了解を得て城に乗り込んだ設定でした。頼近美津子さん演じるお市がもともと秀吉嫌いということだったので、浅井長政と秀吉が挨拶を交わしている途中で、「サルっ!」と秀吉を一喝します。長政が「市、いくさの生き死には時の運じゃ。恨むでない」とたしなめますが、お市の怒りはおさまりません。秀吉が浅井家の子どもたちを引き取りたいと要請しますが、「黙れ下郎。サルがなにを申すか。茶々、お初、お江、万福丸は長政殿と私の子じゃ。さがれ」と取り付く島もありませんでした。
I:『秀吉』のお市は秀吉嫌いのキャラ設定でしたから、なんとも微妙な空気が流れましたよね。それに比べて『豊臣兄弟!』では、「物語」の続きを披露したり、浅井長政と相撲をとるなど、やわらかな空気の中で3人のやり取りが交わされたのが印象的です。

秀吉、小一郎と相撲をとる長政。(C)NHK
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介錯人・お市という設定
I:そして、なんとも衝撃的なことに、切腹する浅井長政の介錯をお市の方自ら行ない、返り血を浴びるところまで描かれました。
A:ここは、賛否分かれた場面だと思われます。そもそも切腹する人物の首をなぜ介錯しなければならないのか。それは、切腹から死に至る時間的な苦痛を和らげるためです。そのため介錯人は腕に覚えのある手練れの剣士が任ぜられるのが常道。
I:なるほど。戦国の姫であるお市の方は適任ではない、むしろ苦痛を増大させてしまう恐れがあるかもしれないというのですね。ただ、『豊臣兄弟!』第10回で、信長から浅井長政へ嫁ぐことを打診された際に、お市は、真剣での居合術の稽古中でした。真剣を手に斬り落とし、納刀までやっていました。あれが嫁ぐ前のことですから、浅井家でも鍛錬を怠らなかったとすれば、かなり上達していたのではないでしょうか。
A:うーん。どうですかね。苦痛なく介錯するには、刃筋や角度、首のどの位置を狙うかなど、練度が求められます。しかも、首の皮一枚残して切り落とさないのが介錯の作法といわれます。そこまでの練度に達していたのかどうか……。
I:でも、思い出してください。2023年の『どうする家康』で北川景子さんが演じたお市の方を。同作のお市は、武道の達人という形で登場してきました。つまり、お市の方は剣でもそこそこの腕前という設定なのだと思います。
A:え? 3年前からの伏線回収ってことですか? そんな設定ありでしょうか。
I:私は、返り血を浴びたお市の方をみて、そんな設定もありかなと思ってしまいました。
A:なるほど。そういわれると、なんだかそんな気になってきました(笑)。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。

切腹した長政の前に立つお市。(C)NHK
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり