Z世代の女性はなぜ生きづらいのか【前編】

Z世代の女性はなぜ生きづらいのか【前編】
ミア(19)はカリフォルニア州パロアルト在住の大学生 COURTESY OF MIA
<厳しい経済状況と政治的分断に加え、SNSネイティブ特有のストレスにさらされて、メンタルの不調に悩むケースも>
▼目次
常に他人と比較してしまう
間違った仕事には就けない
友人のほとんどはレクサプロやプロザックといった抗鬱剤を手当たり次第に試している。半数は無職で、残りの半数もほぼ確実に解雇されると思っている。恋愛事情は最悪で、相手を消耗品扱いするのが普通になっている......。
セリーナ(26)はルイジアナ州バトンルージュ在住。SNSを駆使して企業などのブランド価値向上に取り組むソーシャルメディアマネジャーの仕事をしている。
彼女は今、世界が崩壊するような感覚に襲われている。TikTok(ティックトック)やインスタグラムは悲惨なニュースだらけ。それを十分気にかけないことへの罪悪感にもさいなまれる。
両親が台湾からアーカンソー州へ移住してかなえた「アメリカンドリーム」は、もう実現不可能に感じる。将来の子供たちはさらに厳しいのではないかと心配になる。
「いつもこんなふうに感じているわけじゃないのに。それが悲しい」と、セリーナは本誌に語った。
2020年代のアメリカで成人期を迎えたZ世代(1997〜2012年生まれ)の女性は、多くが根深い不安感と不確実性に直面している。米23州と首都ワシントンの70人近い女性たちとの対話を通じて、そんな世代の実態が浮かび上がった。

ミアはカリフォルニア州の大学生 COURTESY OF MIA (6)
ミアのTikTok投稿より
彼女たちの政治的立場、個人の生き方、職業はさまざまだが、底流には共通の問題が強く感じられた。不安定な雇用市場、恋愛事情、個人に最適化されたSNSのアルゴリズム、極端に二極化した政治──不安の要因は至る所に存在する。
世論調査機関ギャラップの昨年の調査によれば、15〜44歳の女性の40%が国外へ移住したいと考えている。一方、同年代の男性の移住希望者は19%で、性別による格差は07年の調査開始以来で最大となった。
Z世代の女性は、予測不可能な現代社会の動向に特別大きな影響を受けている。昨年8月のNBCニュースとオンラインアンケート大手サーベイモンキーの調査によれば、アメリカの若い女性の3分の1が「ほとんど常に」将来への不安や心配を感じていると答えた。同年代の男性は19%にとどまった。「たいていの場合」に不安や心配を感じている若い男性は27%だが、若い女性では33%。「めったに」感じないと答えた男性は12%、女性はわずか4%だった。
本誌がZ世代の女性に「自分たちの世代が直面する最大の課題」を尋ねたところ、おおむね経済と政治に二分された。だが第2の懸念事項も含めると、世代に特有の問題として「メンタルヘルス」が浮上する。
セリーナがエール大学を卒業した23年以降、数人の友人が心の問題で入院している。この年代の特徴として、「周囲の誰かが悪い選択をするんじゃないかと、いつも少し心配している。でも自分が口を出すべきか、あるいは口を出していいのか分からない」と、彼女は言う。
「誰かと話していて、どこかおかしいと感じたら、数カ月後に入院したことが分かったりする。そんな経験をしたのは私だけじゃないと思う。でも、誰も対処法を教えてくれない。私はただの若い女性なのに(友人の精神状態を)評価しなければならない。専門の学校で学ぶような問題なのに。これが今の時代の友人関係なんだと思う」

アンマリー(28)、ニューヨーク在住コンテンツクリエーター COURTESY OF ANNMARIE (7)
常に他人と比較してしまう
Z世代は過去の世代が同じ年頃だった時に比べ、不安や鬱症状の割合が高いと以前から指摘されてきた。米疾病対策センター(CDC)によると、19年の時点で高校生の37%が持続的な悲しみや絶望感を抱えていた。新型コロナウイルスのパンデミックが広がった21年には、さらに42%に上昇した。この数字は2000年代初頭に同じ年頃だったミレニアル世代より50%近く高い。
「みんなZ世代に対して偏見がある。怠け者だとか何だとか。私たちはどうにかして生きようとしているだけなのに」と、ニューヨークに住むコンテンツクリエーターのアンマリー(28)は言う。「危機の連続で、世界的事件が次々に起こる。もう生きていければ十分って感じ」
年長の世代はこうした不満に対し、今の暮らしは本当に前の時代より不安なのかと疑問を口にする。冷戦の最盛期に育ったX世代は、エイズによる10万人以上の死者、犯罪率の急上昇、株価の大暴落、そしてスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発を目の当たりにしてきた。
だがZ世代の専門家であるライト州立大学(オハイオ州)のコーリー・シーミラー教授は、Z世代の不満は正当なものだと語る。「今は80年代よりリスクが大きい」
Z世代は不安定な経済状況しか知らない。子供の頃は親が転職を繰り返したり、家を失ったりしていたかもしれない。10代になるとコロナ禍が直撃。マスク着用とオンライン授業の高校・大学生活を送った。
一方、Z世代にとってインターネットがログオンする場だったことは一度もない。彼らはその中で生まれたのだ。オンラインとオフラインが同等に存在する世界では、自分とそれ以外との間に隔たりは存在しない。
カリフォルニア州パロアルトに住むミア(19)は、スタンフォード大学の1年生。中学2年でコンテンツ制作を始め、今ではTikTokで73万5000人以上のフォロワーを持つ。「私たちは公共空間で自分のアイデンティティーを築き上げた史上初の世代かもしれない」
ニューヨーク在住の広報担当者カイラ(26)が初めてインスタを始めたのは11歳の時だった。「両親は監視したり制限したりしなかった。親たちにとっても新しいものだったので、そうする方法が分からなかった。こんなに多くの情報にアクセスして自分と他人を比べていれば、メンタルヘルスに影響が出る。友人同士のコミュニケーションにも影響する」
SNS時代の「人と比較したがる」カルチャーは若い女性同士を競わせるだけでなく、「正しい女性」のイメージを強化すると、Z世代に特化した調査会社アップ・アンド・アップの創業者レイチェル・ジャンファザは言う。Z世代の女性には、たとえ一時的にでもアプリを削除することがストレスを軽減する唯一の方法だと語る人が多かった。
メンタルへの負担を増大させているのはSNSだけではない。本誌が取材した女性たちの多くは、住宅を所有できる可能性や家庭を持つことについて、あるいは職場での燃え尽きへの対処について疑念を抱いていた。そして、さらに多くの女性が、かつては約束されていた未来が手の届かないものになっていると嘆いた。
ピュー・リサーチセンターの調査によれば、アメリカでは25〜34歳の女性の47%が学士号を持ち、男性の37%を超えている。だが、高等教育は彼女たちの経済的な苦境を和らげるどころか、むしろ深めている。女性は全米の学生ローンの約3分の2を抱えながら、収入は依然として男性より17〜18%低い。彼女たちが取得した学位は格差を埋めてはいない。
間違った仕事には就けない
この状況の中で、安定を優先して進路を選ぶ感覚がますます強まっている。X世代のシーミラーは80年代にサマーキャンプで働いて大学の学費を賄っていたが、「今はそんなやり方は通用しない」と言う。「正しい選択をしなくてはという強いプレッシャーがある。『間違った専攻は選べない。間違った仕事にも就けない。一度でも踏み外せばホームレスになるか、職を失うかも』という感覚に縛られている」
インフレ率は22年の記録的水準からは低下したが、それでもコロナ禍の前より高いままだ。労働統計局の統計によれば、食料品価格はパンデミック前より約30%上昇しており、大きな負担となっている。
「経済的な問題が一番大きい」と、ノースカロライナ州ケーリーに住むハンナ(22)は言う。「今の住宅市場は最悪だし、食料品がこんなに高かったことはない。全てがこれまでで一番高いのに、誰もが仕事を探している感じ。学士号を持っていても修士号でも、もう生活していけるだけの収入は得られない気がする」
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