「5万9400円でも1カ月以上の入荷待ち」バルミューダ新作「針なし置き時計」を1週間使って気付いた「致命的矛盾」
トースターや扇風機といった既存の家電に「体験」という付加価値を与え、新たな市場を切り拓いてきたバルミューダ。同社の新製品である置き時計「The Clock」が、いま注目を集めている。
【時刻はどう判断する?】ガラスカバーが存在せず、針も一切ないバルミューダの新作置き時計
価格は5万9400円(税込)。一般的な置き時計の10倍以上という強気の設定にもかかわらず、予約受注はすでに1000台を超え、オンラインストアでは1カ月以上の入荷待ちが続いている。
手のひらに収まるほどの小ぶりな筐体には、単に「正確な時を知る」という目的だけでなく、バルミューダらしい機能が凝縮されているという。果たしてその価格に見合う価値はあるのか。メーカーから実機を借りて1週間使い込んだ感想を、良い点も惜しい点も含めてレポートする。
アルミニウムの筐体に、針もガラスもない驚き
「The Clock」の筐体は幅75mm、奥行き36.5mm、高さ105mm (リング含む)とコンパクト。だが、本体を手に取ると、見た目の軽やかさに反してずっしりとした重みに驚かされる(重さは約259g)。アルミニウムのブロックから削り出された一体成型の筐体は、上部のクラウン(操作ボタン)に至るまで、家電というより精密機器のような佇まいだ。

正面。針もカバーもない(写真:筆者撮影)

裏側は充電ポート(写真:筆者撮影)

クラウンの質感がよく、上品(写真:筆者撮影)
もっとも目を引くのは、前面に保護ガラスがなく、針も一切ないことだ。盤面に整然と並ぶLEDの「点」が、点灯と点滅で時刻を表現する。置き時計の常識である「文字盤+針」という構造を問い直したデザインだ。

ガラスカバーが存在せず、針も一切ない(写真:筆者撮影)
使用する前には準備が必要だ。内蔵バッテリーによる給電で駆動するため、箱を開けて最初に行わなければならないのは、背面の端子にUSB-Cケーブルを繋ぎ、本体への充電をすること。フル充電にかかる時間は、空の状態から約2時間半。「電池を入れれば動き出す」という置き時計の常識は通用しない。
さらに、正確な時刻を表示し、機能を100%引き出すために欠かせないのが、スマートフォン専用アプリ「BALMUDA Connect」との連携だ。

スマートフォン専用アプリ「BALMUDA Connect」セットアップは簡単にできる(写真:筆者撮影)
こうして充電を終え、アプリの設定を完了させることで機能をフルに活用できる。果たして使い心地はどうか。
「線」ではなく「点」で時刻を読む新体験
「The Clock」の最大の特徴である時刻表示には、2つのモードが用意されている。
一つは、初期設定の「Amount(アマウント)」。現在時刻までの「分」を、LEDのドットが積み重なるように表示するスタイルだ。1分経つごとに光の粒が増えていく様は華やか。一目で把握できる。
もう一つが、情報のノイズを極限まで削ぎ落とした「Simple(シンプル)」だ。こちらは現在時刻の「分」を示す一点のみが灯る。就寝時など、光を抑えて静かに過ごしたい夜には、この落ち着いた表示がしっくりくる。なお、秒針表示の有無も設定で選択可能だ。

左がAmount、右がSimple(写真:筆者撮影)
ここで興味深い体験をすることになった。
普段、私たちがアナログ時計を見る際、知らず知らずのうちに針の根元から先端までを「線」として捉え、その角度で時刻を瞬時に判断している。
しかし、本機には物理的な針が存在しない。視線は自然と、外周に配置された数字とドット状のLEDへと導かれる。針という「線」で時間を把握するのではなく、点灯する「点」の位置を一つひとつ確認するのだ。ドットの一つひとつは小さいものの明るく、視認性は十分に確保されている。
夜中にふと目が覚め、時刻を確認するときもLEDのメリットは大きい。バックライトを点灯させずとも、暗闇の中に時が浮かび上がっているため、大まかな時間はすぐに把握できる。ただ、分を表示するLEDの光が小さく、暗い場所では数字も見えないため、「分」を即座に読み取るのはむずかしい。
部屋を明るくしなければ正確な時刻は確認しにくいが、個人的には就寝中についてはだいたいの時刻がわかればいいので、特に困らなかった。

暗い場所ではLED表示が見やすい(写真:筆者撮影)
3分前から始まる、心地よい目覚めの仕掛け
目覚ましアラームも設定してみた。設定した起床時刻の3分前になると、まず心地よい「フェードインサウンド」が流れ始める。そして起床時刻ちょうどに、アラーム音とともに盤面のLEDが発光して知らせる仕組みだ。
ステレオスピーカーを搭載しているため、音はクリアで、段階を経て少しずつ美しい音で覚醒へと導いてくれる。フェードインサウンドは、スマートフォンのアプリから、静かな雨の音やホワイトノイズなど計7種類から選択できる。さらに、メインのアラーム音も3種類用意されている。
目覚まし音が鳴ったら、クラウンを1回押せばスヌーズ、長押しでアラーム解除となる。一般的な目覚まし時計に近い、直感的なインターフェースだ。
なお、フェードインサウンドが不要なら、アプリでオフにもできる。好みに合わせた「起き方」ができるので、気持ち良く目覚められる。ただ、寝起きが悪い方にとっては、最大にしても音量が少々物足りないかもしれない。
枕元からスマホを追放する、新しい提案
以前行われた同製品の発表会で、バルミューダは興味深い提案をしていた。「The Clock」を枕元に置くことで、ベッドサイドからスマートフォンを排除し、デジタルデトックスを自然に促すというものだ。同社が掲げる通り、デジタルデトックスの手助けとなる機能が備わっている。
「Relax Time」を設定すると、文字盤が「Light Hour(ライトアワー)」と呼ばれるモードに切り替わる。星の瞬きや街の灯りをイメージした光の演出とともに、全6種類の中から環境音を流すことができる。雨音や暖炉の火など、寝る前の読書やリビングでのくつろぎの時間を、音でおだやかな空間にしてくれる機能だ。

アプリで選ぶ。写真があり、イメージしやすい(写真:筆者撮影)
「Timer」は、本体上部のクラウンを回して、最大60分までの時間を直感的にセットできる。特筆すべきは、タイマー作動中に流れる「ホワイトノイズ」だ。仕事や勉強などをするときに便利で、単に時間を計るだけでなく、音によって集中のための環境を作り出せる。音量を小さくして「ながら聴き」をすると、心が落ち着き、読書などに集中できる。

Timerにある「ホワイトノイズ」は、意外と集中できる(写真:筆者撮影)
正直に言うと、このサウンドについては「スマートフォンで同様のBGMを探して流せば済む話ではないか」と、最初は意図が掴みきれなかった。
しかし、スマートフォンは誘惑が多い。一度画面を開けば何かBGMを探すつもりが、ついズルズルと動画やSNSに時間を奪われてしまうこともある。その点、音源を選んでおけば、The Clockの物理スイッチを入れるだけで完結するので、意味があることなのかもしれない。
もっとも、ここまで使ってみて、一つ引っかかる点も浮かび上がってきた。これについては後ほど触れたい。
「1日1回の充電必須」は不便
一方で、利便性には首を傾げざるを得ない。本機はバッテリー内蔵型で約24時間の連続駆動が可能だが、置き時計として「1日1回の充電」が必須なのは、やはり不便だ。
結局は電源ケーブルを常時接続して使うことになりそうだが、それでは本機が持つ本来の造形美が損なわれてしまう。理想を言えば、1度の充電で最低でも3日はもってほしかった。充放電サイクルは約500回だ。
1日1回充電する使い方なら、約1年4カ月で劣化が始まる計算だ。また、バッテリーは突然使えなくなるのではなく、24時間持っていた駆動時間が、20時間、18時間……と、使用できる時間が徐々に短くなっていく。
「時は金なり」と言うが、電池が消耗したことに気がつかず、大事なアポイントメントを控えた朝にアラームが鳴らなかった、という事態が一番怖い。常に「電池切れによる未作動」のリスクを抱えたままでは、万が一を恐れ、結局はスマートフォンをバックアップのアラームとして併用することになりそうだ。
デザインを優先した結果、実用面での柔軟性がトレードオフになっている点は、長期利用を考えるユーザーにとって見過ごせない課題と言えるだろう。せめて置くだけでチャージが完了する非接触充電に対応するか、ユーザーの手でバッテリー交換が可能な構造であってほしかった。予備のバッテリーを交互に運用できる仕組みがあれば、連続して使い続けることができたのではないか。
筆者が同製品を使い続けるなら、1年後にはケーブルを繋ぎっぱなしにするか、あるいはスマートフォンのアラームをバックアップとして併用する格好に落ち着きそうだ。
もう一つ、設計思想に関わる気になる点がある。The Clockは「枕元からスマホを排除する」ことを提案する製品だ。にもかかわらず、正確な時刻表示や各種設定、目覚ましアラームの調整、Light Hourの音源選択まで、ほとんどの操作に専用アプリが必要となる。
つまり、デジタルデトックスのためにスマホを遠ざけたくても、The Clockを使いこなすためには、結局はスマホを手元に置いておかなければならない。設計思想と運用実態の間に、看過しがたい矛盾がある。
もちろん、一度設定してしまえば日常的にスマホを触る必要は減る。しかし「スマホから離れたい」というユーザー心理に応える製品としては、もう一歩踏み込んだ設計が欲しかった。
眠った市場を、再び呼び覚ませるか
いくつか気になる点はあるものの、置き時計という注目度が低いカテゴリーに、これほど大胆な解釈を持ち込んだ点は、いかにもバルミューダらしい試みと言える。
バッテリー駆動時間やメンテナンス性といった実用面での課題は確かに存在するが、こうした野心的なプロダクトは注目度も高い。かつて高級トースターブームを巻き起こしたように、停滞しがちな市場を活性化させる可能性を秘めている。かつて高級トースターブームを巻き起こした同社は、既存の停滞市場を活性化させるのが得意だ。
筆者のまわりでは「The Clock」のコンセプトに共感し、購入した知人が数人いる。
かつてバルミューダは、トースター市場に「体験を売る」という風を吹き込み、眠っていた市場を呼び覚ました。The Clockが置き時計市場で同じ役割を果たせるか。
その答えは、これから市場が出すことになる。