芸人たちの「いじめ告発」になんともモヤるわけ…芸歴25年の40代ベテラン芸人たちが今、いじめを訴える"哀しい事情"

芸人たちの「いじめ告発」をめぐる騒動は収まるどころか、今もネット上では活発な議論が行われ、各方面への影響が表れはじめています。

【画像】世間が「モヤッた」当事者たちのX投稿

なかでも話題の中心は、中山功太さんとサバンナ・高橋茂雄さん。中山さんが5月5日配信の「ナオキマンの都市伝説ワイドショーSEASON3」(ABEMA)で「10年ぐらいずっといじめられた先輩がいる」などと語るとすぐに拡散され、高橋さんの名前が浮上しました。

これを受けて相方の八木真澄さんが仲裁に入り、2人の電話での対話が実現。

高橋さんが自身のXに「当時の大阪で共演してた番組の収録で、言い方やカラミが嫌な思いをさせていたこと謝りました」「本当に未熟で受け取る側のことをしっかり配慮できていませんでした」などの謝罪コメントを発表しました。

「あとは尾形だけ」と犯人捜しが続行, 「作り手が責任を追わない」アンフェアな状況, もはや「配信やYouTubeだからセーフ」はない, 芸人には独特なルールや矜持がある, 昭和や平成にさかのぼって断罪すべきか?, 「中山も高橋も笑えなくなった」の声, 不用意な書き込みに名誉毀損のリスク

相方である八木真澄さんが2人の間に入り、和解。この八木さんの行動にはネット上で称賛の声が上がっていた(画像:高橋さんの公式Xより)

「あとは尾形だけ」と犯人捜しが続行

一方の中山さんも自身のXで、「『いじめられていた』という表現は完全に不適切でした。申し訳ありません」「当時、嫌な思いをし、傷付いた事は事実ですが、あの言葉は絶対に間違いでした」「自分で蒔いた種ですが、日々、その言葉を使ったネットニュース等を目にし、後悔の念で押し潰されています」などと謝罪。

さらに「高橋さんに全く悪意がなかったとわかりました」「僕の被害者意識が過剰だったかも知れません」「すぐ和解させていただき、(中略)わだかまりは全くありません」などと続けました。

しかし、「これで一件落着」とはなりません。ネット上には高橋さんのいじめがなかったとみなすムードはなく、中山さんの発言撤回に「腑に落ちない」「火消しに必死」「圧力がかかったのか」などと疑念を示す声が目立っています。

問題はこの件だけではありません。パンサー・尾形貴弘さんも3日公開のYouTubeチャンネルで、ある先輩芸人について「最低な人間」「俺は大嫌い」「物としてしか思ってない」「愛とかがないと思う絶対」などと語ったほか、暴力をふるわれたことを明かしました。

こちらも多くの記事やコメントが飛び交い、「中山の相手がわかったから、あとは尾形だけ」という声もあるなど、ネット上では“犯人捜し”が続いています。

中山さんは現在45歳、尾形さんは49歳と、ともに芸歴25年前後のベテランでありながら、なぜ今になってこのような形での告発に至ったのか。長年バラエティの現場や芸人への取材を重ねてきた経験を踏まえて騒動の核心を掘り下げていきます。

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尾形さんが“告発”した相手も、サバンナの高橋さんなのでは?という臆測が広がったが、相方の八木さんがそれを否定している(画像:サバンナ・八木さんの公式Xより)

「作り手が責任を追わない」アンフェアな状況

事の発端は、中山さんと尾形さんが配信コンテンツに出演したこと。これが2人の告発を引き出し、あっという間の拡散につながったのは間違いないでしょう。

テレビや新聞など以上に数字が明確に表れる配信コンテンツは、「まず大量の動画から選んでもらう」「次に短期間で再生数や再生時間を伸ばす」ことを求める傾向があります。

そのため、多くの作り手は「過激な企画を選び、出演者から毒のあるコメントを引き出す」という戦略を選択。中山さんと尾形さんが出演したコンテンツからも、作り手のそんなニュアンスが感じられました。

また作り手は、配信した後に出演者のコメントをネットメディアが次々に記事化し、SNSのコメントが活発に書き込まれることで、さらなる再生数のアップにつなげることも視野に入れています。

中山さんと尾形さんも、そんな作り手の狙いをわかっているからこそ踏み込んだコメントをしたのでしょう。

ところが作り手たちは「コンテンツを見た人だけでなく、記事を読むだけの人も加わって騒動が広がり続けること」「その後の仕事に支障が出てしまうリスクがあること」などをあまり考慮していません。

実際、騒動が大きくなってもここまで作り手側に目立った対応はなく、“告発者”という立場になった2人と“容疑者”にされた芸人たちばかりが批判にさらされています。

さらにネット上のコメントを見ても、作り手に騒動の責任を求めるようなものは散発的で、「芸人たちだけが自己責任を突きつけられる」というアンフェアな状況になっているのがわかるのではないでしょうか。

もし私たちがフェアな社会の実現を目指すのなら、数字至上主義で責任を負おうとしない作り手やネットメディアを批判する声がもっと必要でしょう。

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騒動が大きくなり、高橋さんと和解した中山さんがすぐに発言を謝罪している(画像:本人の公式Xより)

もはや「配信やYouTubeだからセーフ」はない

そのうえで中山さんと尾形さんの言動を掘り下げると、「地上波ではなく配信番組やYouTubeだからこれくらいはいいのでは」という気持ちが少なからずあったのではないでしょうか。

しかし、前述したような配信コンテンツの作り手、ネットメディア、ネット上の人々による批判を生み出す負のスパイラルに、地上波と配信コンテンツの区別はありません。

すでに公開される場所を問わず「誰がどんな悪いことをしたのか」という基準で、批判するテーマや人物が選ばれ、批判を浴びせるという社会に変わっています。

たとえば中山さんと尾形さんのコメントが登録者数100人程度のYouTubeチャンネルで公開されたとしても、似たような反響があったでしょう。

2人は「積年の恨みを晴らしたい」という思いが強かったのか。それとも「プロとして求められたことに応えたい」という思いが強かったのか。あるいは両方の思いがあったからこそ、あのような強い言動になってしまったのか。

いずれにしても確かなのは、無関係な先輩、スタッフ、スポンサーなどに迷惑をかけ、ファンを悲しませたたうえに、自分も精神的に追い込まれてしまったこと。鬱屈した気持ちを晴らすどころか自己嫌悪が募り、今後の活動が危ぶまれる苦境を招いてしまいました。

芸人には独特なルールや矜持がある

中山さんも尾形さんも、いじめの被害者である可能性があり、追い込まれていているにもかかわらず思いのほか同情の声が少ないのは、告発の方法と内容に問題があったからでしょう。

中山さんは「今、普通にむちゃくちゃ売れてますし、みなさん良いイメージ持ってると思う」、尾形さんは「やっぱ頭はいいし、腕は確かだから。面白いんだけど人としては終わってる」などと、世間の人々に“犯人捜し”のヒントを与えていました。

このヒントは「出演コンテンツを盛り上げる」というより「コンテンツ終了後にネット上を盛り上げる」ものとして騒動を大きくするものにほかなりません。いじめの真偽や被害の程度はわからないものの、人々の怒りをあおり、芸人としての活動どころか家族の生活をも危うくさせかねないコメントのように見えました。

こういう言い方をしてしまうと、相手が特定されるまで収拾がつきません。ネット上には容疑者のように何人かの芸人が名指しされ、それぞれの関係者にも迷惑をかけてしまいました。

さらに「芸人界隈にはこんなにいじめがある」という全体のイメージを悪化させてしまったことも含め、罪深さを感じさせられます。

加えて騒動を複雑にしているのが、「自分はこうだった」「いじめとはこういうもの」などの一般論を持ち込んでネット上で議論する人々の存在。

そもそも芸人たちは「人に見せる」「それで報酬を得る」という前提のコンテンツで発言しているうえに、当事者が著名なだけに一般論が当てはまりづらいところがあります。

「いじめは許されない」という主張に疑いの余地はないものの、もともと芸人は「いじめといじり」「オイシイとシンドイ」の境界線が一般人には見えづらい職業。芸人たちの間には、独自のルールやセオリー、しきたりや矜持があるほか、「イス取りゲーム」と言われる競争の激しさなど、私たちにはわからないことが多々あります。

また、「芸人の間でもルールやセオリー、しきたりや矜持の解釈に個人差があり、それが行き違いとなり、不仲になってしまう」というケースも何度か聞いたことがありました。

特にチームプレーが求められる収録や舞台出演の際は、よかれと思って後輩に厳しく教えようとする先輩芸人が少なくありません。

ちなみに文化人枠の筆者ですらバラエティや情報番組に出演した際、何人かの芸人から収録中にそれらを求められることがありました。そんな芸人の事情がわからないうえに、どちらか一方の情報をもとに一般社会と比べて、「いじめだ」「いや、違うと思う」などと決めつけることの強引さを感じさせられます。

昭和や平成にさかのぼって断罪すべきか?

なかでも驚かされたのは、ネット上の議論が「過去のいじめやハラスメントは、いつまでさかのぼって断罪すべきか」にまで及んでいること。

もし違法行為であれば過去のことも断罪されて当然かもしれませんが、いじめやハラスメントはケースごとに当事者への丁寧なヒアリングが必要であり、ネット上の第三者によって議論がまとまるようなものではないでしょう。

筆者が知る限り、芸人の社会では昭和から平成にかけて、現在ならいじめやハラスメントに該当するであろう“しつけ”や“教育”が行われていました。事実、撮影現場や打ち上げの場で厳しい言葉を浴びせ、時に頭を叩き、足を蹴る先輩芸人の姿を何度か見たことがありますし、それが令和の今もあれば批判されてしかるべきでしょう。

しかし、それを昭和や平成にさかのぼって断罪するかと言えば話は別。程度は違えど、芸人だけでなくスタッフ側にも過剰な“しつけ”や“教育”は見られましたし、それは一般企業も同様であり、まるで現在進行形のように断罪するムードに息苦しさを感じてしまいます。

「中山も高橋も笑えなくなった」の声

あらためて今回の騒動を冷静に見ると、最も深刻さを感じるのは、なぜ中山さんや尾形さんといったベテラン芸人たちが「今なら言ってもOK」というゴーサインを出したのか。

ネット上で犯人捜しをエンターテインメントとして楽しむような風潮があり、それを担うコンテンツの作り手、報じるネットメディア、拡散する一般の人々がいる以上、現在は「今なら言ってもOK」というタイミングはないでしょう。

もし中山さんと尾形さんがそれを理解できていなかったとしたら、長年芸人の社会にいたことによるリテラシー不足なのかもしれません。

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“告発”が話題になった当初は、あおるような投稿もしていた中山さん(画像:本人の公式Xより)

ネット上には「今後、中山や高橋が出てきても笑いづらくなった」などの声が書き込まれているほか、高橋さんのスポンサー企業がCMを控えることも報じられました。

高橋さんを含めた当事者たちを思う仲間の芸人たちが今回の騒動を笑いに変えようとしていますが、今のところあまり効果はないように見えます。まだ3人は「今後のオファーが減り、レギュラー番組も改編期で見直される」というリスクを回避できていません。

特に告発者であり、被害者として発言したはずの中山さんは、わずか数日後に発言を撤回して謝罪し、仲間やスタッフに迷惑をかけ、仕事を失いかねない事態に追い込まれてしまいました。

彼らの悔しさは一定の理解ができる一方で、自分だけでなく仲間や関係者、ひいては業界を守ることもプロに求められる姿勢であり、芸歴25年前後のベテランなのになぜそれができなかったのか。

この点については「年齢や経歴を問わず、コンプライアンスだけでなく、メディア出演やネットリテラシーなどの講習も行うべき」という芸能事務所における教訓のようにも見えます。

不用意な書き込みに名誉毀損のリスク

当初ネット上は「いじめは許されない」というコメントが多くを占めていましたが、徐々に「『言わなきゃよかった』というだけの話」というニュアンスに変わりました。いじめやハラスメントの告発は世間に向けてではなく、専門の部署、公的機関の相談窓口、弁護士、犯罪行為の場合は警察に行うことの必要性を痛感させられます。

これは私たちも同様であり、ネット上で個人を特定できる書き方で告発すると思わぬ批判を浴び、名誉毀損罪などに問われるリスクが考えられます。また、今回のような芸能人の告発に反応して、ネット上で無関係の人をいじめ加害者と決めつけ、社会的評価を害するようなコメントを書き込むと名誉毀損に該当しかねません。

その意味で今回の騒動は、私たちもネットなどのリテラシーを学び続けていく必要性を感じさせられるものと言っていいでしょう。くれぐれも個人を断罪することをエンターテインメントとして楽しまないようにしたいところです。