率直に言う 磐越道バス事故を「運転ミスだけの問題」として片付けてはいけない――見落とされた構造要因とは

事故の背景と構造的課題

 福島県郡山市の磐越自動車道で2026年5月6日、部活動の遠征中だった高校生らを乗せたマイクロバスが事故を起こし、生徒ひとりが死亡、20人が重軽傷を負った。

【画像】1分でわかる「記事まとめ」

 バスは新潟市の高校ソフトテニス部を乗せて移動しており、運転していた68歳のドライバーは、過失運転致死傷の疑いで逮捕されている。事故直前には、乗っていた生徒が走行中の様子を動画で撮影し、「死ぬかもしれない」といった内容のメッセージとともに保護者へ送っていたこともわかっている。現場では事故前から危険な運転を指摘する声もあり、警察が事故の経緯を調べている。

 ただ、この事故を

・ドライバー個人のミス

・一事業者の問題

として片づけるだけでは、なぜ同じような事故が繰り返されるのかは見えてこない。筆者(西山敏樹、都市工学者)は複数のテレビ局の取材で、「白バス行為にあたるのではないか」という社会的な関心を受け、この分野の専門家としてコメントを行った。

 しかし、そこで取り上げられた論点とは別に、見過ごせない問題があると考えている。それは、

・貸切バスの運行を支える契約のわかりにくさ

・発注側である学校現場の理解不足

・2024年問題によって生じた運賃や人件費の上昇

である。本稿では、この事故を入り口として、人の移動を支える制度や経済の課題を整理していく。

運行を支える契約構造の重要性

 今回の事故をめぐる報道を振り返ると、ドライバーの体調や運転ミスに話が集まりがちである。しかし、それだけでは同じような事故が繰り返される理由は説明できない。

 貸切バスの運行は、実務の面で「契約の進め方」に大きく左右される。

 利用する側の申込み、運行を引き受ける側の受諾、双方の合意、さらに運行指示書を含めた内容共有という流れがある。本来であれば、事故報道の後に、申込書や引受書、運行指示書の有無がほとんど取り上げられていないことに疑問を持つべきだ。筆者が確認した限りでは、この点にきちんと触れていた報道は、新潟の地元メディアに限られていた。

 国の告示やバス協会のひな型を見ると、運行引受書には一般に次のような内容を細かく記す必要がある。

 申込者情報として、名称、住所、担当者名、旅行会社名や団体名。運送事業者については、バス会社名、住所、事業許可番号など。運行日時は、出発日時と帰着日時、それぞれの日付と時刻。行程には、出発地、経由地、目的地、休憩場所などが入る。車両については、台数、車種、座席数、トイレの有無など。乗務員は、ドライバーの人数や交代要員の有無。運賃料金は、合計額と費用の内訳。安全面では、乗車定員やシートベルト、注意事項などが記される。さらに、キャンセル規定を含む双方の合意事項も盛り込まれる。

 実務では、「運送申込書」「運送引受書・乗車券」「運行指示書」を一体化した書式を使う例が増えている。国土交通省の参考書式をもとに、自社の書式を公開している事業者も多い。

 もちろん一般論ではあるが、こうした書類のやり取りと、発注側・受注側の確認が当然のものとして行われていれば、発注から受注の段階で、無理のある運行計画や安全面の問題に気づきやすくなる。

運行指示書の義務と内容の共有

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マイクロバスのイメージ(画像:写真AC)

 さらに、貸切バスの運行指示書は、一般貸切旅客自動車運送事業で、ドライバーに行程や安全面の指示を出すための書類である。旅客自動車運送事業運輸規則第28条の2で作成が義務づけられており、法令で定められた項目を漏れなく記すことが求められる。発注側にも内容を共有するのが通例だ。

 日本バス協会などの確認資料では、主に次のような記載項目が求められている。

 事業者情報として、事業者名や営業所名などを記し、許可内容と一致させる。契約相手については、運送契約の相手方の氏名や名称、旅行会社名などを記載する。乗車日などは、運行日や出庫・入庫日時を明確にし、西暦や和暦を用いて記す。

 車両情報では、車号やナンバーなど、実際に使う車両と一致させる必要がある。ドライバーについては、氏名や交代ドライバーの有無を記し、交代配置の基準とも関わる。行程では、発着地、経由地、出発・到着予定時刻を記載し、休憩場所も明示する。

 指示内容には、休憩や仮眠、速度、安全面の注意事項などが含まれ、長時間運行では特に重要となる。乗車人員については、予定人数や添乗員の有無を記し、定員超過を防ぐ。さらに、事故や遅延時に備え、緊急連絡先の電話番号なども必要となる。

 しかし現場では、こうした流れが十分に機能せず、書類のやり取りが形だけになっている可能性もある。取り上げられている白バス問題も、「違法かどうか」という話だけではなく、契約確認が十分に行われていない状況のなかで起きうる問題ともいえる。

 今回の事故から考えるべきなのは、こうした契約の流れが存在していることを、社会全体で共有することだ。

 運送引受書や、安全管理の中心となる運行指示書について、発注側と受注側の双方が理解し、発注者と事業者の責任範囲を曖昧にしないことが求められる。

契約主体としての学校側の限界

 では、学校現場は契約の当事者として、十分な知識や対応力を持てる仕組みになっているのか。筆者も大学教員として、日々の業務のなかで貸切バスを発注する立場にある。筆者は専門家であるため、発注書や引受書、運行指示書まで細かく確認しながら対応できる。

 しかし、多くの教員やサークル、部活動の顧問は、契約実務に詳しいわけではない。数少ない詳しい教員に頼る学校運営には、どうしても負担が集中する。そうなると、発注業務が正式な契約確認ではなく、

「慣例に頼った運用」

になりやすい。結果として、発注側と受注側の認識の食い違いも生まれやすくなる。

 制度への理解不足が危うさを抱え込み、その結果、「安全に移動したい」という発注側の善意が、事故の危険につながる場合もある。今回の件でも、白バスや白タクに対する理解の差が、教育現場で大きいことが報道から見えてくる。

 教育現場では、白ナンバーと緑ナンバーの違いすら十分に知られていない教職員も多く、現場と制度の間に開きがあることもわかってきた。一方で、都道府県のバス協会や行政は、緑ナンバー車両を使った貸切利用について周知を進めているが、その情報は学校現場まで届きにくい。学校側に接点が少ないためだ。教育委員会と学校現場の間でも、情報共有が十分とはいえない。

 教育の現場に身を置く者としては、こうした問題があることを改めて共有したい。今回の事案を、

「誰かの悪意」

という見方だけで片づけるのではなく、現場の運用や知識不足の問題として捉えることも必要だ。

 部活動やサークル活動での引率や移動に関する知識や対応力をどう補っていくのか。教育行政の役割についても考える必要がある。

安全コスト上昇と運賃の新制度

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マイクロバスのイメージ(画像:写真AC)

 既報の通り、バスドライバーの働き方見直しにともなう「2024年問題」が起きてから、すでに2年以上が過ぎた。貸切バス業界でも、ドライバー不足と労働時間規制によって、運行できる台数や時間に制約が強まっている。

 人件費や運行費の上昇は避けられない状況にあり、燃料価格の高騰も続いている。こうしたなか、国土交通省は地域ごとに貸切バス運賃の下限額を定め、その額を下回らないよう運賃を決める方針を進めている。日本バス協会も下限運賃を公表している。

 地域や車種によって差はあるが、国土交通省によると、新制度導入後、旧下限額から新下限額への引き上げ率は、

・関東:26%増

・近畿:25%増

・九州:32%増

となっている。また、東都観光バス(東京都新宿区)の案内によれば、関東から近畿まで大型バスで6時間かけて移動する場合、旧制度では9万3420円だった運賃が、新制度では10万9180円となり(17%増)、1万5760円の値上げになるという。

 福岡県の公表資料では、大型車の基準額運賃は次のように示されている。

 5時間の走行時間と、点検など2時間を合わせた7時間に、基準額6920円を掛けると4万8440円となる。さらに、250kmの走行距離に、1kmあたり150円の基準額を掛けると3万7500円となる。これらを合計した8万5940円が、税別での最低運賃となり、事業者はこの額を下回らない範囲で運賃を届け出る仕組みになっている。

予算不足と安全確保の矛盾

 一方で、学校側の予算は固定的で、運賃や人件費の上昇に追いついていない。すでに2023年3月7日の東京新聞でも報じられているように、公立中学校の部活動では、この数年で地域移行が進められている。教員ではなく、外部の指導者へ役割を移していく政策であり、国も推進している。

 背景には、子どもの減少による活動維持の難しさに加え、教員の働き方見直しがある。しかし、この取り組みを進めるには、自治体の補助がない場合、家計から月4500円~5000円程度の負担が必要になるとの試算もある。大学のサークル活動で外部指導者を雇う場合を見ても、この数字は現実的だ。部活動やサークルによっては、さらに費用がかかる例もある。

 しかし、長引く景気低迷のなかで、家庭側が負担できる額は今後さらに下がる可能性が高い。私立学校でも、少子化の影響によって、学費から部活動費を確保する余裕は小さくなっている。

 こうした流れが強まれば、緑ナンバーの貸切バスを使った移動は難しくなっていく。安全を守るための費用は削れないにもかかわらず、部活動の予算事情と貸切バス運賃の上昇との差が大きく広がっているためだ。

 教育と交通を結びつけ、若者を育てる取り組みのひとつとして、安全な移動環境を公的に支える視点も必要になる。今回の事故をきっかけに、その議論を進める必要がある。

低コスト追求が生む発注の歪み

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マイクロバスのイメージ(画像:写真AC)

 少子化の影響で、部活動の遠征費を十分に集められず、学校側の持ち出しが増える傾向も出ている。学校や自治体は、限られた予算のなかで判断を迫られている。

 その結果、費用を重視した発注が強まり、より安い手段を選ばざるを得ない状況が生まれやすくなっている。費用を抑えようとする動き自体は、今の環境では避けにくい面もある。そのため、運用が曖昧なまま進む状況が起きる条件も否定できない。学校側が求めているのは、

・できるだけ安く移動し

・活動を充実させ

・生徒に良い経験を積ませる

ことである。一方、バス会社側は、「安全な運行を続けるため、見合った対価を得たい」と考えている。

 繰り返しになるが、この両者の負担差が広がりすぎないよう、公的支援のあり方を今後議論する必要がある。

「事業用自動車の交通事故統計」(交通事故総合分析センター)によると、2022年には貸切バスの事故が118件発生している。他車との事故が103件、単独事故が9件、人との事故が6件だった。つまり、

「緑ナンバーの営業用貸切バスであっても事故は起きている」

のだ。安全な移動環境をどう支えていくのか。今後は政策面での議論が求められる。

三者連携の不完全性と課題

 本来、安全な移動は、学校、事業者、行政の三者が関わる形で成り立つべきものである。発注書、引受書、運行指示書を用いた契約確認が、行政の指針に沿って学校とバス事業者の間で適切に行われていれば、互いに確認し合う過程のなかで、不適切な内容を見つけやすくなる。

 そのうえで、責任範囲が曖昧になっていないかを確かめることも重要だ。自治体ごとに制度運用に差が出ていないかも、継続して見ていく必要がある。

 また、契約確認の負担を現場任せにする運用が当たり前になっていないか、行政側の監督が十分に行われているかについても、継続した確認が欠かせない。

 特に重要なのは、問題点を点検し続けることである。学校、事業者、行政の三者それぞれに不足が生じうる以上、それを埋めるための見直しと確認を続けていく必要がある。

構造的帰結としての事故防止

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マイクロバスのイメージ(画像:写真AC)

 今回の事故を振り返ると、これは一度きりの問題ではなく、

「今後も繰り返されるおそれ」

を抱えた社会の問題であることがわかる。部活動の移動ルールは全国で統一されておらず、自治体ごとに安全面の対応にも差がある。適切な移動手段を選ぶための知識や対応力、発注から引受、運行指示までの流れを正しく把握し、内容を具体的に確認することが必要となる。さらに、その契約内容が現場で適切に守られているかを確認し続けることも欠かせない。

・学校

・事業者

・行政

が連携し、教育活動にともなう移動の仕組みがばらばらにならないよう、見直しを進める必要性は高まっている。今回の事故を、亡くなられた方への教訓として終わらせるのではなく、

「教育と交通のあり方」

を考え、安全な移動環境を整えるきっかけにしていくべきだ。過度に悲観するのではなく、子どもや若者を育てる環境の一部として、この問題を捉えていきたい。