おかしい。じつは、この宇宙には「太陽のごとく光り輝く星が、無数にある」。それなのに、「夜空が暗い」わけ

夜空を見上げ、宇宙の果てを考えることと、物質の起源を探ることは、実は同じ問いにつながっているのかもしれません。

宇宙の始まりと物質の最小単位を円環として結ぶ 「ウロボロスの蛇」。その環は、宇宙誕生の謎(マクロ)と物質の根源である素粒子(ミクロ)が繫がっていることを示している……。

このウロボロスの蛇を手がかりに、 その接点に潜む究極の謎へ迫った1冊『宇宙のはじまりと素粒子 ウロボロスの蛇でたどる現代物理学』(講談社・ブルーバックス)は、最新の宇宙論と素粒子物理学が交わる地点をたどっていく一冊です。

本書は「夜空はなぜ暗いのか?」という素朴な問いから出発し、星や銀河の形成、さらに物質の根源である素粒子へ向かって、究極の謎へと迫っていきます。現代物理学がどのように世界をとらえようとしてきたのか。今回は、「なぜ夜空は暗いのだろう?」という根源的な問いから掘り下げていきます。

*本記事は、『宇宙のはじまりと素粒子 ウロボロスの蛇でたどる現代物理学』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

星が無数にあるときの夜空の明るさ

すっきりと晴れた日の夜空を見上げると、星が綺麗に見えます。そして、とてつもなく広い宇宙に光輝く星が無数にあることを認識すると

 「なぜ夜空は暗いのだろう?」

という疑問をもちませんか? 太陽からの光だけを考えれば、昼間は太陽と地表の間を遮るものがないから明るく、夜は地球の影になるため暗い、ということは納得できます。でも前節で確認したように、宇宙には太陽のように光り輝く星が無数にあります。星一つ一つは遠いから暗く見えるとしても、遠くに行けば行くほど無数の星が存在するので、夜空はまんべんなく明るくてもいいように思いませんか?

果たして夜空が暗いことは科学的にも自明なことなのか? 星の典型的な大きさ、明るさ、そして数密度をもとに考えてみましょう。簡単のために、星の大きさと明るさは太陽と同じとしておきましょう。

まずは1個の星から到来する光の量について考察してみましょう。図のように、ある方向に星があるとすると、その星より裏側は視線から遮られます(図「星の見かけの明るさと距離」)。

別の言い方をすれば、星が見えているということは観測者と星の外径を結ぶ円錐の中には他に星がないという意味になります。当たり前ですが、星の位置が遠ければ遠いほど、我々の視野の中に占める星の見た目の面積(これを立体角といいます)は小さくなります。

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星の見かけの明るさと距離 星は近くにあると大きく見え、遠くにあると小さく見える。星一つ一つの見かけの明るさはその大きさに比例して変わる イラスト:Akimoto Yuki / ひっぐすたん

そして、これも当たり前のことかもしれませんが、我々のところに到来する星の光量も、立体角に比例して小さくなります。ここまでは、皆さんの直感とも一致した話でしょう。もちろん、ちゃんと計算してもそうなります。

夜空はとてつもなく眩しい…!?

さてここで、どこまで遠くに行ったとしても星の数密度が一様だとしましょう。この場合、近くに星がない方向であったとしても、遠くを見ればやがて星が見えるということになります。

このような状況を絵に描いてみると、図「どこまでも遠くの星が見えるとすると?」のようになり、夜空を見上げると我々の視野の中は無数の星でぎっしりと敷き詰められていることになります。

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どこまでも遠くの星が見えるとすると? どこまでも遠くの星が見えるなら、夜空全体が星々に覆われているはず? そうだとすると夜空は暗くない。むしろ目が開けられないくらい眩しくなってしまう イラスト:Akimoto Yuki / ひっぐすたん

一つ一つの星の見た目の明るさは立体角(視野の中に占める面積)に応じて減りますが、視野の中にたくさん星があれば、他の星々が減った光をお互いに補うことに相当します。あたかも我々の視野を覆うほど近くに星があるという状況と同じになり、夜空はとてつもなく眩(まぶ)しいということになります。

星一つ一つから到来する光の量を実直に足し合わせる計算を行ってみても、実際の夜空の明るさの100兆倍の明るさ、つまり日中の太陽くらいの明るさという計算結果がでてきます(筆者が大学1年生向けに行っている講義では実際に計算を行っています)。

あれ? なんか変ですね? 当たり前ですが夜空は暗いのです。いったい何を考え間違えたのでしょう。

「星の数密度」に注目する

星の大きさと明るさが太陽と同じと考えたことがいけないのでしょうか? 実際の星々は、太陽より大きかったり小さかったり、太陽より明るかったり暗かったりします。しかしながら、100兆倍という14桁もの食い違いを説明することは到底できません。

この食い違いの理由を考えてみましょう。

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夜空が暗い理由 宇宙のはるか遠くには光り輝く星がなければ、夜空が暗いことの説明がつく イラスト:Akimoto Yuki / ひっぐすたん

図「夜空が暗い理由」のイラストのように、星の数密度が遠くになればなるほど減っていけばどうでしょうか? これなら説明がつきそうです。実際に夜空を見ても星と星のあいだは暗く光ってないので、この事実とも一致します。

では、なぜ遠くなればなるほど星の数密度が減るのでしょうか? 

遠くの光は昔の光

この「遠くなればなるほど星の数密度が減る」ということを検討するために、まずは「遠くの光は昔の光である」ことを理解しましょう。光の速さは有限で、真空中(つまり宇宙空間)における光の速さは秒速30万キロメートルです。

ですから、遠い距離から発せられた光が我々のもとに到来するまでには時間がかかります。太陽や近所の銀河、お隣の銀河団から発せられた光が、どのくらいの時間をかけて地球に到来するのかを図に例示してみました(図「遠くの光は昔の光」)。

例えば、太陽の光が地球に届くまでには8分程度の時間を要します。正午とは太陽が真南にくる時刻と言われてますが、実は8分前の太陽の位置が真南だったということになりますね。8分間もあれば太陽は見かけの大きさ4つ分くらい西に動きますから、なんだか不思議な気分になります。

同様に、我々が現在見ているご近所の銀河は約300万年前の姿ということになります。隣の銀河団に至っては、3億年程度も昔の様子を見ているということになります。

これらの例から、遠くの星の光ほど昔の光、というイメージをもてたでしょうか。

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遠くの光は昔の光 光の速さは有限なので、遠くの星の光が地球に到達するまでには時間がかかる。つまり、遠くから到来する星の光ほど、過去に発せられた光ということになる イラスト:Akimoto Yuki / ひっぐすたん

宇宙の年齢は有限

さて、「なぜ遠くなればなるほど星の数密度が減るのか?」について再び考えてみましょう。先ほど記述したように、はるか遠くを見ることは、はるか昔の宇宙を見ることに相当します。つまり、「はるか昔の宇宙には光り輝く星が存在しなかった」ということになります。

言い換えれば、「宇宙は永久の年月にわたって現在の姿(星や銀河がたくさんある姿)ではなかった」ということになります。そして、宇宙に星が生まれてからの有限の年数では、星の光がまだ地球に届かないくらい広いことの再発見にもなります。

上のように「夜空がなぜ暗いのか?」を考察してみることで、宇宙はとてつもなく広いが、永遠に普遍的なものでないことがわかります。つまり、

  • 宇宙は端を見通せないほど広い(端があるのかどうかもわからない)
  • 宇宙は有限の年齢である
  • より厳密には宇宙に星というものが生まれてから有限の年月しか経過していない

ということが推察できます。地球における生物の進化と比べるとはるかにゆっくりですが、宇宙は時間と共に進化しているのです。

「宇宙は時間と共に進化している」……宇宙の進化を、私たちはどう考えればよいのかを、ビッグバンから考えていきます。

宇宙のはじまりと素粒子 ウロボロスの蛇でたどる現代物理学

ウロボロスの蛇は、何を咥えているのかーー宇宙の起源をたどると、素粒子の起源にたどりつく。宇宙背景放射に秘められた宇宙創成の謎