東京都は「わずか800m」になぜ巨費を投じたのか? 異例の費用対効果が示す「多摩都市モノレール延伸」への周到な布石

都市構造を動かす800m

 東京都町田市の都市計画道路「町田3・3・36号相原鶴間線」(通称・新町田街道)の一部区間が、2024年3月に開通した。開通したのは、木曽団地南交差点から町田市民病院東交差点までの約800m。1kmに満たない短い区間だが、その意義は単なる交通改善にとどまらない。

【画像】「えぇぇぇぇ!」これがモノレールの「開通区間」です! 画像で見る(6枚)

 新町田街道は、相模原市と東名高速・横浜方面を結ぶ町田街道のバイパスとして位置づけられている。桜美林大学から町田市民病院、町田駅北側を経由し、最終的には南町田で保土ヶ谷バイパスへ接続する構想だ。

 既存の町田街道は、道路幅の不足により慢性的な渋滞が課題となっていた。これに対して新ルートは信号が少なく、交通の流れが格段にスムーズになると期待されている。

 整備されたのは、約800mの短区間にすぎない。しかし、2025年1月に東京都が公表した調査結果では、すでに目に見える整備効果が現れている。

 加えて、この道路には将来的な多摩都市モノレールの延伸計画との接続を見据えた戦略的インフラという側面もある。交通利便性の向上にとどまらず、町田市全体の都市構造を再編していく上で、重要な第一歩となる整備だ。

道路開通の効果

都市構造を動かす800m, 災害拠点直結で高まる輸送信頼性, モノレール延伸を織り込む道路整備, 制度的整備がもたらす持続的効果

平面図(画像:東京都)

 2025年1月に東京都が発表したデータによれば、新町田街道の開通後、以下の効果が確認された。

 まず、町田市中心部へのアクセス性が向上した。町田3・3・36号相原鶴間線ルートでは、所要時間が約20分から約18分へ短縮。従来の町田街道ルートも、約20分から約16分に短縮された。

 注目すべきは、バイパスの整備によって町田街道の混雑が大きく緩和された点だ。発表では、開通区間と並行する町田街道の交通量が約2割減少したとされている。さらに、地域住民や周辺事業者を対象としたアンケート結果も明らかになっている。

・到着時間が短縮した:73%

・車両走行の快適性が向上した:88%

・歩行空間の安全性・快適性が向上した:74%

・防災性が高まった:83%

これらの数字は、インフラ整備による効果の高さを端的に示している。開通した800メートルの道が、交通だけでなく生活環境全体の質を押し上げていることがわかる。

災害拠点直結で高まる輸送信頼性

都市構造を動かす800m, 災害拠点直結で高まる輸送信頼性, モノレール延伸を織り込む道路整備, 制度的整備がもたらす持続的効果

断面図(画像:東京都)

 今回開通した区間の先には、町田市民病院がある。

 同病院は、町田市の災害拠点病院に指定されており、災害時には地域全体の救急医療や搬送、避難支援の中核を担う。新たに整備された道路によって、木曽団地や住宅街を経由していた従来ルートよりも、病院へのアクセスが大幅に改善した。緊急時の輸送ルートとしての信頼性も高まった。

 今回の整備は、単なる利便性の向上にとどまらない。東京都建設局が2022年に公表した事業評価資料では、この道路が防災面で複数の効果を発揮するとされている。具体的には、

・緊急車両の走行性向上

・災害時の避難路の確保

・消防活動困難地域の解消

といった評価が挙げられている。さらに、同資料では費用便益比(B/C比)を5.3と試算している。投資額に対して、5.3倍の便益が見込まれる水準だ。道路整備事業としては異例ともいえる高い数値である。

 裏を返せば、それだけ町田街道の渋滞が深刻だったことを示している。そして、新設ルートがその解消に寄与する効果も、数値が証明している。

モノレール延伸を織り込む道路整備

都市構造を動かす800m, 災害拠点直結で高まる輸送信頼性, モノレール延伸を織り込む道路整備, 制度的整備がもたらす持続的効果

多摩都市モノレール(画像:写真AC)

 新町田街道の整備は、単なる自動車の渋滞対策にとどまらない。実際には、多摩都市モノレールの町田方面への延伸に向けた重要な布石でもある。

 2021年12月、東京都都市整備局は「第4回多摩都市モノレール町田方面延伸ルート検討委員会」で、延伸ルートを選定した。多摩センター駅から町田駅まで、

・小野路

・野津田公園

・図師

・小山田桜台

・桜美林学園

・町田市民病院

・町田高校

を経由する計画だ。

 注目すべきは、新町田街道とモノレールの延伸予定ルートが大きく重なっている点である。今回開通した800m区間も含め、新町田街道は将来のモノレール軌道用地としての活用を前提に設計されている。表向きは道路だが、その本質は

「未来の鉄道用地」

といえる。都市モノレール法では、先に道路を整備することで、用地取得コストや建設期間を大幅に削減できる。東京都と町田市はこの制度を活用し、必要な用地の確保をすでに完了させている。モノレールの建設時には、既存の道路上に軌道を設置するだけで済むため、工期と事業費を抑えられる。

 このアプローチの巧妙さは、二重の投資効果にある。まず道路として即効性のある交通改善を実現しつつ、将来的にはモノレール延伸への土台ともなる。仮にモノレール計画が変更された場合でも、整備済みの道路はそのまま活用できる。投資が無駄にならず、長期視点での都市インフラ戦略として極めて合理的な設計といえる。

制度的整備がもたらす持続的効果

都市構造を動かす800m, 災害拠点直結で高まる輸送信頼性, モノレール延伸を織り込む道路整備, 制度的整備がもたらす持続的効果

多摩都市モノレール(画像:写真AC)

 町田方面への延伸は、あくまで計画段階にとどまる。しかし、すでに具体的な動きが始まっている。

 2023年8月、東京都都市整備局はモノレール延伸にともない、新たな都市計画道路の整備に向けた調査業務を民間に委託した。調査対象には、今回開通した新町田街道も含まれている。

 検討区間の延長は約7.7km。幅員は22m程度を確保し、将来のモノレール軌道設置を前提とした整備が計画されている。

 この動きから見えてくるのは、東京都がすでに延伸の実現を前提に交通インフラ全体の再構築に踏み出しているという点だ。

 新町田街道は、単なる道路整備ではない。町田市の都市構造そのものを変える構想の一部を担っている。多摩地域は、これまで人口規模に見合った鉄道網を持たず、道路整備も十分ではなかった。だが今後は、利便性の大幅な向上が期待される。

 ただし、少子高齢化と人口減少が進む多摩地域において、この投資が真に効果を発揮するかは不透明だ。鍵を握るのは、今後の街づくりである。道路や鉄道だけでなく、駅を核としたバス網の再編や地域交通の統合的な設計が求められている。