神戸市民だけが知る「六甲ライナー」の沿線事情

神戸市東灘区の住吉駅と六甲アイランドのマリンパーク駅を結ぶ新交通システム「六甲ライナー」。住吉―南魚崎間は住吉川に沿って高架上を走る(編集部撮影)
1990年2月、神戸市内に新交通システム「六甲ライナー」が開業した。
【はじめに写真を見る】神戸市民以外は知らない?「六甲ライナー」の沿線。JR神戸線と接続する住吉駅と、六甲アイランドにある終点のマリンパーク駅の間は約4.5km、全区間乗っても所要10分程度のミニ路線だ。このうち、住吉・魚崎・南魚崎の3駅はいったいどんな場所にあるのか?
実用路線としては世界で初めて完全自動の無人運転による新交通システム「ポートライナー」が、神戸港に浮かぶ人工島ポートアイランドで開催した神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)に合わせて開業してから9年後のことだった。
六甲アイランドと結ぶ新交通
ポートライナーが大阪―神戸間を走るJR線や私鉄線とポートアイランドを結ぶ路線なら、六甲ライナーは六甲アイランドと結ぶ路線だ。
全長は約4.5km。ターミナルはJR線との乗り換え駅である「住吉」。南に下って阪神との乗り換え駅「魚崎」、埋立地の工業地帯や白鶴・菊正宗といった酒蔵の最寄り駅である「南魚崎」と本土側に3駅、六甲アイランド島内は「アイランド北口」「アイランドセンター」「マリンパーク」の3駅があり、合計6駅からなる短い路線だ。
住吉からマリンパークまでの6駅中2駅が乗り換え駅。2024年度は1日平均7万5600人の乗客を輸送した。このうちJRと阪神の乗り継ぎなどに利用するとみられる住吉―魚崎間の乗客も1日平均740人いるという。
運営するのは神戸市の外郭団体である神戸新交通(神戸市中央区)だ。新交通システムと呼ばれる、ゴムタイヤで専用軌条を運行する電車は他にも国内に大阪市の「ニュートラム」、横浜市の「金沢シーサイドライン」、東京都の「ゆりかもめ」などがある。
神戸では「じゃないほう」の存在
ただ直通していない2路線を1社で運営しているのは神戸新交通だけだ。2006年の神戸空港開業に合わせて延伸・複線化したポートライナーのように勢力を拡張することもなく、神戸では「じゃないほう」の新交通システムだが、地元の足としては着実に定着してきた。

始発駅の住吉駅ではJR東海道本線(神戸線)と乗り換えられる(編集部撮影)
六甲ライナーという名称は、実は公募によって付けられた愛称だ。正式な名称は「神戸新交通六甲アイランド線」という。神戸新交通は開業直後に愛称を募集するキャンペーンを展開。結果として「六甲ライナー」という名称の応募が殺到したらしい。
当時、中学生だった筆者と同じ学年の別のクラスでは、クラス全員で「六甲ライナー」と応募。抽選に選ばれたそうで、クラスの集合写真をプリントした記念のテレホンカードを神戸新交通から受け取ったという。
ある友人が当時、「六甲ライナーよりもいい名前になるよう一生懸命に考えたのに、結局そうなるなら公募の意味あるんか」と、こぼしていたのを思い出す。
建設に反対の声も、その理由は?
いまとなっては定着した六甲ライナーだが、完成するまでは建設に反対する声もあった。
川沿いとはいえ、神戸市東灘区の住宅地の中をすり抜ける経路が設定されたからだ。場所によってはマンションのベランダと、電車の窓が目と鼻の先に迫る。特に夜間などは電車の中から住宅の室内が丸見えになるとの懸念が浮上した。

六甲ライナーの魚崎駅は、住吉川の対岸にある阪神電車の駅(左奥)と改札外のペデストリアンデッキで直結。地上に下りることなく乗り換えられる(編集部撮影)
このため車両の窓には、マンションが近づく区間を走行する際に自動的にくもりガラスになる特殊な構造が採用された。当時のことを知る人は少ないが、窓の構造と同様に、愛称の公募は六甲ライナーが地元に受け入れられるようにする施策の一環だったようだ。
アイランド方面への通勤・通学需要
乗客の多くは通勤・通学で利用する。住宅地でもある六甲アイランドから神戸市の都市三宮方面や、大阪・阪神間に通勤・通学する人は多いが、島内の会社や学校に通学する乗客も多い。
高校や大学もあるが、古くから外国人の多い神戸にあって、伝統のあるインターナショナルスクールも複数あり、朝のラッシュ時には六甲ライナーに乗り換える子供たちでJR住吉駅はにぎやかだ。

六甲アイランドへの公共交通機関のイメージが強い六甲ライナーだが、沿線は日本有数の酒どころだ(編集部撮影)
2018年5月にサッカー・Jリーグのヴィッセル神戸に世界的なサッカー選手であるアンドレス・イニエスタ選手がスペインの名門バルセロナから電撃的に移籍。彼と家族が来日して最初に住んだのは六甲アイランドだったという。
2023年7月にイニエスタ選手が神戸を退団するまでの間に、妻アンナさんがインスタグラムに掲載した写真には、六甲ライナーの高架橋がたびたび写り込んでいる。
来日以降、イニエスタ夫妻の親日度は急速に高まったという。アンナ夫人は教育や子育て支援の充実を挙げるが、背景の1つには六甲ライナーをはじめ社会基盤の蓄積もあるだろう。
サッカーといえば日本代表に何人も輩出するWEリーグのINAC神戸レオネッサの練習拠点「神戸レディースフットボールセンター」も六甲アイランド島内にある。

南魚崎駅を出て六甲大橋を渡ると六甲アイランドの玄関口、アイランド北口に到着する(編集部撮影)
スポーツの拠点でもある
トップ選手らは練習場の近くに住んだり、自動車で通勤したりするようだが、チームのジャージに身を包んだアカデミーの子供たちは、よく六甲ライナーを利用している。
ただ練習場は原則非公開ということもあり、神戸新交通の担当者は「そこは残念ながらINAC神戸が好成績でも、六甲ライナーの乗客数が増えることはない」(総務部)と話していた。
神戸三宮―大阪梅田の間は「阪神間」といい、とりわけ公共交通機関が充実した地域として知られるが、六甲ライナーもまた約2万人が住む六甲アイランドと神戸の市街地を結ぶ基幹交通。地元経済・社会には欠かせない存在だ。