太陽系に秒速58kmで突入!史上3例目の恒星間天体「ATLAS彗星(3I/ATLAS)」を発見

太陽系の中にある天体は、全てが太陽系出身であるとは限りません。中には太陽系の外から中へと突入し、再び太陽系の外へと逃げ出す天体もあり、「恒星間天体(Interstellar object)」と呼ばれます。恒星間天体は多数存在すると予想される一方、滅多に発見されることはなく、確実なものはこれまでに2例しか知られていませんでした。

【▲ 図1: 画面中央部を左から右へとゆっくり移動する白い点がATLAS彗星(3I)。(Credit: Deep Random Survey)】

現地時間2025年7月2日(現地時間)、新たな恒星間天体の候補である「A11pl3Z」の発見が報告されました。まだきちんとした名前すら付けられていない段階から、この発見は天文学者の注目を集め、わずか1日足らずで正式な名前「3I/ATLAS」という名前がつきました。もう少し馴染みのある呼び方をすれば「ATLAS彗星(アトラス彗星)」となります。

ATLAS彗星の発見が注目されたのは、6年ぶりの恒星間天体の発見であることに加え、「軌道離心率」というパラメーターが6という極端な値を示したためです(※1)。これは言い換えると、58.0km/sもの超高速で太陽系に入り込んだことになります(※2)。

※1…この記事での各天体の数値は、日本時間2025年7月3日12時時点で、ジェット推進研究所のデータベースで参照可能な数値、またはその数値を元に計算された値に基づいています。今後細かい値は変化する可能性があります。

※2…正確には無限遠での速度、あるいは双曲線余剰速度。

現時点の予測では、ATLAS彗星は2025年10月2日に火星へ約3000万kmまで最接近した後、同年10月29日には太陽から約2億kmの距離まで最接近します。太陽の重力に引っ張られるため、その時には太陽に対して68.3km/sの速度に達しているでしょう。その後は速度を少し落としつつも、再び高速で太陽系を離脱すると考えられます。

太陽系の外からやってくる「恒星間天体」

太陽系の外側にも宇宙は広がっており、無数の天体が散らばっています。そのような天体はごくまれに太陽系に入り込みますが、速度が速すぎるために太陽の重力で縛ることはできず、再び太陽系を離脱すると考えられます。このような天体は「恒星間天体」と呼ばれます(※3)。

※3…これは小惑星センターで恒星間天体として登録されるものを指します。より拡張的な定義もありますが、今回は割愛します。

太陽系を通過中の恒星間天体は意外と多いと考えられており、太陽から45億km以内(海王星の公転軌道より内側)にある100m程度の恒星間天体は約1万個あると予想されています。しかし、そのほとんどは太陽から遠く離れたまま通過し、地上の望遠鏡では暗すぎて見ることすらできません。稀に太陽に接近して明るくなる場合もありますが、それでもかなり暗い上に、夜空での見た目の位置も非常にゆっくりと移動しています。このため、観測データを収集して軌道を決定することが困難になります。

恒星間天体の存在は何十年も前から予言されていましたが、この観測の困難さにより中々発見することができませんでした、それでも観測技術はここ数十年で劇的な進歩を遂げており、暗い天体も見逃さなくなり、かつインターネットを通じて世界中の天文学者が新発見の天体の情報を共有できるようになりました。

こうした状況のため、恒星間天体が実際に発見されたのは今から8年前、2017年に初めて観測された「オウムアムア(1I/ʻOumuamua)」まで待たなければなりませんでした。続いて2019年に「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」が発見されましたが、その後は確実な発見例は知られていません(※4)。

※4…地球に衝突した2つの流星(CNEOS 2014-01-08とCNEOS 2017-03-09)が恒星間天体だったのではないかとする主張もありますが、現時点では否定的な見方が強く、正式には認められていません。

恒星間天体であると広く認められるには、太陽系の小惑星・彗星・衛星などの記録をまとめている国際機関「小惑星センター」から電子回報が発行され、正式な名前が付く必要があります。この場合、登録順を表す番号と、英名のInterstellar object(恒星間天体の意味)の頭文字から取った「I(アイ)」の記号を組み合わせた符号が、固有名の前に付けられます。例えばオウムアムアは「1I/ʻOumuamua」、ボリソフ彗星は「2I/Borisov」という名前が正式であり、1番目および2番目に登録された恒星間天体であることを示しています。

観測史上3例目の恒星間天体「ATLAS彗星(3I)」を発見!

そんな中で現地時間2025年7月2日、カリフォルニア州の天体物理学の学部生astrafoxen氏(BlueSkyでのハンドルネーム)は、「小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)」の観測データから、非常に変わった動きをする天体の発見をSNSの「BlueSky」に投稿しました。どれほどの驚きかと言えば(この時の推定値が異常に大きかったことも関係していますが)、発見者のastrafoxen氏が「WTF(なんだそりゃ)」というスラングをつけて投稿していた程です。

https://bsky.app/profile/astrafoxen.bsky.social/post/3lswxzujk6c25

(以下引用)

So uh, there's a new interstellar object discovered at Chile yesterday. Name is A11pl3Z, has a hyperbolic trajectory of eccentricity 14±4 (WTF). Currently appmag 18, 4 AU away from Earth, and coming to 2 AU perihelion this October.

Observing it with remote scope rn, calling astronomers..

えーっと、昨日チリで新しい恒星間天体が発見されました。名前はA11pl3Zで、軌道離心率14±4(なんだそりゃ)の双曲線軌道です。現在の視等級は18等級で、地球から4天文単位離れており、今年の10月には2天文単位の近日点に近づきます。

ただいま望遠鏡で観測中で、天文学者に連絡しています……。

(以上引用)

この段階では、正式な名前はついておらず、システム的に付けられる機械的な名前「A11pl3Z」で呼ばれていました。発見時の地球からA11pl3Zまでの距離は約6億7000kmであり、明るさは約18等級でした。そして発見直後より、A11pl3Zは恒星間天体である可能性が非常に高いことが分かりました。このため世界中の天文学者が追加観測の試みと過去の観測データの掘り起こしを行った結果、1日足らずで100回以上の観測記録が出揃いました。

【▲ 図2: ATLAS彗星と各惑星の軌道図。ATLAS彗星はかなり直線的な軌道を持っていることが分かります。(Credit: NASA & JPL / 加筆は筆者(彩恵りり))】

そして最初の発見情報の発表から約21時間後の日本時間2025年7月3日6時31分、小惑星センターはA11pl3Zに正式名「3I/ATLAS」が付けられたことを示す電子回報を発行しました。この時点でA11pl3Zに正式な名前が付くと同時に、観測史上3例目の恒星間天体であることが確定しました。もう少し馴染みのある言い方をすれば「ATLAS彗星」です。

複数の名前が出てきて混乱しているかもしれませんので、一旦ここで振り返ります。以下の名前は、全て同じ天体に対する名前です。

A11pl3Z: 最初の発見時のシステム上の名前。

3I/ATLAS: 恒星間天体としての正式な名前。

C/2025 N1: 彗星としての符号による名前。

ATLAS彗星: 馴染みのある名前の書き方。ただし同じ名前の彗星が非常に多いため、文脈次第で「ATLAS彗星(3I)」など、区別可能な符号をつけた方が良い。

ATLAS彗星は秒速58kmで太陽系に突入した!

まだ発見されたばかりであるため、ATLAS彗星の性質の多くは分かっていません。ただし、少なくとも彗星活動を示す薄い大気(コマ)が撮影されていることから、彗星であると見られています。大きさも不明ですが、彗星ではないと仮定した場合の直径が20kmであるため、これよりずっと小さくなるものと思われます。

【▲ 図3: ATLAS彗星(3I)の軌道離心率はとびぬけて大きいため、58km/sもの超高速で太陽系に突入したことが予測されます。(Credit: 彩恵りり)】

ATLAS彗星は恒星間天体であるため、軌道離心率と呼ばれる値が1より大きい値を示しています。しかもATLAS彗星の場合はこの値が飛びぬけて大きく、約6.1515という値が示されています。これは極めて直線的な軌道を持っていることを意味します。

しかし、これは分かる人にはスゴいと分かる値である一方、そもそも何のことだか分からない人も多いでしょう。もう少し馴染みのある言い替えをすれば、この値から計算すると、ATLAS彗星は58.0km/sというとんでもない速度で太陽系に突入したことを示しています。これほどの速度を持っている天体は、恒星間天体以外にあり得ません。このように、太陽系の外側で異常な速度を持つことは、観測した天体が恒星間天体であるかどうかを決定するための重要な要素です。

【▲ 図4: ATLAS彗星(3I)を他の天体と比較したもの。太陽系の天体は無論、他の恒星間天体と比較しても、太陽系突入時の速度が極めて大きなことが分かります。(Credit: 彩恵りり)】

また、同じ恒星間天体と比較しても、ボリソフ彗星は32.3km/s、オウムアムアは26.4km/sであると推定されています。これまでの倍近い速度を持っている点でも、ATLAS彗星がいかにとんでもない値を持っているかが推測できるでしょう。人工物と比較しても、例えばボイジャー1号は16.6km/sで太陽系を離脱すると考えられているため、ATLAS彗星はボイジャー1号の3.5倍も速いことになります。ATLAS彗星がこれほど素早く移動している理由は今のところ不明ですが、今回の発見により何か手掛かりがつかめるかもしれません。

今後、ATLAS彗星は、今から約4か月後の2025年10月29日に太陽から約2億kmまで最接近すると予想されています。これは火星の公転軌道より内側です。この時、太陽の重力に引っ張られて加速しているため、最大で68.3km/sまで加速しています。その後、太陽系から遠ざかる際には少しずつ減速していくものの、秒速数十kmという超高速を維持したまま飛び去ると考えられます。

【▲ 図5: ATLAS彗星(3I)は2025年10月2日に火星に約3000万kmまで最接近すると予測されています。(Credit: NASA & JPL / 加筆は筆者(彩恵りり))】

太陽に最接近する前後は、地球とATLAS彗星は太陽を挟んで真裏に位置するため、9月から12月初旬までは地上からの観測ができません。しかし、火星で観測できるチャンスがあるかもしれません。火星に対しては10月2日に約3000万kmの距離を通過すると見積もられており、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」がギリギリ観測できる明るさとなる可能性があります。

そしてもしかすると、このニュースを見た人の中には「またATLAS彗星か」という感想を抱いたかもしれません。これは彗星の命名規則で生じる問題です。しかし、今後はそのような事態がもっと増えるかもしれません。先日稼働を開始したばかりの「NSFヴェラ・C・ルービン天文台」は、今まで見逃されてきた恒星間天体を大量に発見することが期待されています。もしかすると、今後は恒星間天体の発見報告は珍しくないものになるかもしれません。そして、その大半は彗星であると予想されることから、数年後には「またルービン彗星か」というボヤきをしているかもしれません。

ひとことコメント

恒星間天体の候補の発見は実に6年ぶり!秒速58km以上で太陽系を横切る急ぎ足な恒星間天体みたいだよ。(筆者)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

・Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2025-N12 : 3I/ATLAS = C/2025 N1 (ATLAS)”.(Minor Planet Center)

・Small-Body Database. “C/2025 N1 (ATLAS)”.(NASA/JPL)

・astrafoxen氏のBlueSkyプロフィール

・Groups.io上での投稿

・“"Pseudo-MPEC" for A11pl3Z”.

・NASA Science Editorial Team. “NASA Discovers Interstellar Comet Moving Through Solar System”.(NASA)

・Kelly Kizer Whitt. “BREAKING: New interstellar object candidate heading toward the sun”.(EarthSky)

・Stephen Luntz. “We May Have Our Third Interstellar Visitor And It’s Nothing Like The Previous Two”.(IFL Science)