"最高の学習環境"が招く学力低下の落とし穴

(漫画:©︎三田紀房/コルク)
20~30年前の中高生と今の中高生はどちらのほうが賢い?
突然ですがクイズです。20~30年前の中高生と、今の中高生は、どちらのほうが賢いと思いますか?
【ドラゴン桜を読む】「日本の学力は低下している」の原因は‟与えすぎ”?飢餓感が子どもの学力を伸ばすといえるわけ
現在、教育に関してのサービスはかなり充実してきています。昔とは比べ物にならないほど、参考書の種類が増えていて、どの参考書もカラーで読みやすく、ヒントや解説も充実していて、中にはQRコードを読み取れば授業動画が観れるというものも存在します。
テクノロジーの発展もすさまじく、「英単語ターゲット」をはじめ、暗記系のアプリケーションがたくさん開発されています。
スタディサプリのような授業動画が安価に観れるサービスも数多く登場しています。令和の学生は、過去類を見ないほどに恵まれた学習環境にあると言っても過言ではないのです。 しかし、そんな状態であるにもかかわらず、最初の質問の答えは「昔の中高生のほうが学力が高かったのではないか」というものになります。
もちろん当たり前の話ですが、これは「どこを切り取るか」という話でしかありません。科目や調査対象によって大きく結果が変わってくるのは当然ですから、一概に「今の学生のほうが賢くない」と言うことはできません。ですが、全体的な傾向として、今の学生のほうが学力的に落ちている面があるのは事実です。
学習環境がよくなっても学力があがっていない
例えば、OECD生徒の国際学習到達度調査(PISA)のデータでは、15歳の学生に対して調査を行っています。読解力のスコアは、2000年の日本の結果が平均スコア522点だったのに対して、2022年には516点まで下落しています。
「数学リテラシー」という項目でも、2000年の557点から急落して世間に衝撃を与えた2003年の534点から盛り返すことができず、2018年には527点、2022年には536点と低空飛行を続けています。
PISAのデータ以外でも、学習状況調査や模試の結果などで見ても、昔と今で比べて、学力はそんなに上がっていない、むしろ下がっているのではないか、という見方が強まっています。
では、なぜ学習環境がよくなっても学力が高くなっていないのでしょうか?
これにはいろいろな理由が考えられます。スマホの普及が大きな要因になっているのではないかという見方をする専門家もいますし、入試形態の変化の影響だという分析をしている教育関係者もいます。
そんな中で、僕は「与えすぎ」と呼ばれる現象なのではないかと思っています。植物に水をあげすぎるとかえって枯れてしまうように、今の学生たちに対して、大人が情報や答えを与えすぎなのではないか、と。
例えば、今の参考書には、たくさんの情報が載っています。英単語帳1冊でも、昔は書いていなかったような、英単語の類義語や反対語・覚え方のコツやポイント、例文に発音まで、すべてが網羅された完璧な参考書が多いです。
でも、昔の参考書はそれらが載っていなかったからこそ、自分で調べて、書き足す必要がありました。類義語や反対語を調べて、例文を探して、そうやって自分のものにする時間がありました。
でも、今の参考書はそんなことはしなくてよくなっているため、調べたり書き足したりすることはありません。今の受験生たちを見ていると、参考書がとてもキレイで、書き足したりすることがないことに気付かされます。
重要なポイントにはあらかじめ線が引いてあるため、蛍光ペンで重要だと思うところにマークをすることすらありません。その状態だと、確かになかなか学力って上がらないんですよね。
「満腹感」よりも「飢餓感」が重要
ドラゴン桜では、人間の成長には「満腹感」よりも「飢餓感」が重要だ、という話があります。
※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。

漫画『ドラゴン桜』

漫画『ドラゴン桜』

(漫画:©︎三田紀房/コルク)

漫画:ドラゴン桜

漫画:ドラゴン桜

(漫画:©︎三田紀房/コルク)
学習の本質的なプロセスが失われた現代
ここで描かれている「飢餓感」というのは、足りないものを補いたいと考え、よりよい方向に進むための原動力だと思います。それが今の子どもたちには足りていない、ということですね。
完璧に整った参考書、最初から線が引かれた情報、書き込み不要な学習ツール……。
これらは確かに便利ではありますが、「自分で考え、調べ、構造化する」という学習の本質的なプロセスを奪いがちです。人が成長するうえで最も大切なのは「飢餓感」、つまり足りなさを埋めようとするエネルギーです。それが満たされすぎた状態では、逆に学力は育ちにくいのかもしれませんね。
出典:
・National Center for Education Statistics
・PISA 2022 Report