16年目を迎えた『あさイチ』生放送の現場に行ってみた。鈴木奈穂子アナが生放送中にメールの選定にも参加「ちょっと聞いてください!」を受け止める番組に
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【写真】生放送の最中に届いた視聴者の声を選ぶ鈴木アナ
目の前であの朝ドラ受けが…
6月25日の午前8時過ぎ、NHK放送センター(東京都渋谷区)にある『あさイチ』の収録スタジオにお邪魔した。広報に案内してもらい、スタジオに足を踏み入れる。まもなく始まる生放送に向けて、スタッフは準備の真っ最中。MCを務めるお笑いコンビ「博多華丸・大吉」の2人と、鈴木アナが見つめているのは、朝ドラこと連続テレビ小説『あんぱん』が放送されているモニターだ。会話を交わすことなく画面をじっと見つめている。
午前8時15分、大吉さんの「6月25日水曜日のあさイチです」というあいさつで番組がスタート。MC3人による朝ドラの感想、通称「朝ドラ受け」が目の前で展開された。
直前に放送されたのは『あんぱん』第63回。ヒロイン・のぶ(今田美桜)と4年ぶりに再会した嵩(北村匠海)が焼野原で語りあう内容だ。教師として子どもたちを戦地に送ったことに苦しむのぶに、嵩が「死んでいい命なんてない」と励ます回だった。
「今週、我慢していたんです」と上を向き、涙をこらえる鈴木アナウンサーにさっとスタッフがティッシュペーパーを差し出す。そこに大吉さんが「本番直前に、『大丈夫ですか?』と聞いたら大丈夫だと言っていたのに!」とつっこんだ。スタジオ内に笑いが起こる。おなじみのこの「朝ドラ受け」のやり取りは、インターネットの記事になることも多い、人気コーナーだ。
朝ドラ受けが終わると、特集がスタート。この日は「配偶者との死別 ”ひとりを生きるヒント”」。ゲストはタレントの榊原郁恵さんと俳優の的場浩司さん。専門家として登場したのが、配偶者を亡くした人たちで作る「没イチ会」を主宰する小谷みどりさんだ。
スタジオ内のカメラは有人が4台、無人が1台。カメラマンを入れて、スタジオにいるスタッフは20人ほどだろうか。スタジオの外には、プロデューサーやテクニカルディレクター、タイムキーパー、照明担当者が詰めている部屋があり、モニターを眺めながら指示を出したり、作業をしたりしていた。
メールやファックスの紹介に
『あさイチ』といえば、視聴者の意見を紹介するコーナーが人気だ。スタジオの入り口近くの小部屋へ行くと、スタッフ3人ほどが生放送中に届くメールやファックスをチェック。内容を見て、誤字を直し、一定のレイアウトに整えてプリントアウトしたものを仕分けていく。
続々と意見が届く。「こんなに来るなら第2弾をやってもいいかも」という声も聞こえてくる。小部屋の外の机には、プリントアウトされたメールやファックスが「男性の意見」「(悲しみから)回復しつつある」「回復できていない」など内容ごとに並べられていた。
番組の前半ではMC陣が事前アンケートで届いた声を紹介。午前9時のニュースが始まる直前には、鈴木アナが「視聴者の方からも800件以上のメッセージをいただいています」と放送中に届いたメールやファックスの一部を読み上げた。
一方、スタジオの隅では、料理コーナーの準備中。ゲストでタレントのはなさんの姿があった。移動式調理台の上に材料が並んでいる。午前9時半すぎ、料理コーナーの開始に合わせて、スタッフが調理台をカメラ前に移動。空いた場所に折り畳み式の机が広げられた。届いたメールやファックスが並べられ、鈴木アナがスタッフとともに紹介する意見を選んでいく。
料理コーナーはわずか15分。この間に番組の最後「エンドトーク」で紹介する意見を検討するのは大変そうだ。鈴木アナがメールやファックスの選定まで関わっているとは思わなかったので驚いた。
特集では、妻に先立たれた男性が、地域包括支援センターに足を運び、担当者と会話をし、居場所を見つけようとする場面もあった。「センターに行くのはハードルが高いでしょうから、電話相談があるという意見も入れたほうがいいのでは?」という鈴木アナの意見にうなずくスタッフ。専門家である小谷さんも呼ばれて検討が続く。この間に、エンドトークを行うセット内の飾り窓に、スタッフがプリントアウトされた意見や感想を貼り付けていく。中にはゲストの榊原さんの似顔絵もあった。

エンドトークで鈴木アナウンサーが視聴者の意見を読み上げる(撮影:本社・油原聡子)
エンドトークが始まると、鈴木アナが寄せられた視聴者の声を読み上げ、小谷さんもコメントして、無事に番組が終了した。
ラジオのような双方向性
鈴木アナは、『ニュース7』のキャスターなどを経て、2021年度から『あさイチ』のMCを務めている。ともにMCを務めるお笑いコンビ「博多華丸・大吉」の2人は、「番組の支柱のような存在」と表現する。生放送を終えた鈴木アナに話を聞いた。
「困ったことがあるとまず、みんな大吉さんを見ます。スタジオでうまく言葉がつながらない時、大吉さんがなんとかしてくれる。誰も傷つけない、でも通り一遍ではないコメントがすごいなと思います。打ち合わせで不安なことがあっても、大吉さんが『大丈夫です、お任せください』と言ってくれる。何がどう大丈夫かはおっしゃらないんですが(笑)、安心できます」
華丸さんは、自由な発言や新たな視点で、場を和ませてくれるという。この日は、妻を亡くした男性が、支援センターの紹介でレコード喫茶に行ったことが報告された。ほかの出演者がレコード喫茶で参加者が集まる様子に注目するなか、華丸さんは「(男性の)顔色もよくなったね」とコメントしていた。
「華丸さんは、普段から台本をしっかり見るタイプではなくて、だからこそ大吉さんとの視点の違いがまたおもしろい。華丸さんが思いがけないことを言って場を和ませてくれたり、意外な流れになったりすることもある。お2人のコンビネーションや仲の良さが番組ににじみ出ているのも良いですよね」と信頼を寄せる。
鈴木アナも共感
大人の女性がターゲットの番組だけに、鈴木アナ自身も共感するテーマが多いという。印象に残っている回は今年4月9日放送の「白髪対策決定版2025」だ。「私は今40代前半。最近白髪が生え際に出始めていたんですが、自分の白髪をなかなか受け入れられなくて。他の人と白髪の話をすることもできなかった」と振り返る。

鈴木奈穂子アナウンサー(撮影:本社・武田裕介)
放送では、出演者の白髪事情が次々明かされた。「華丸さんは意外に多いとか、大吉さんはよく見ると白髪があるけれど、染めていないとか。私自身、最初は自分の白髪の話をすることには消極的でしたが、思い切って話してみたら、意外にもすんなり話せたんです」
「白髪に悩んでいます」「ケアグッズを使っています」――。視聴者からの反響も大きかった。
「おかげで私自身も白髪の話をすることに抵抗がなくなりました。後日、後輩がふらっと私のところに来て、『奈穂子さん、自分の白髪が気になるんですけど、何かいいアイテムありませんか』と声をかけてくれて。今では職場で白髪トークもしています。普段悩んでいることも、人と話すことでこんなに心が軽くなるのか、と実感した経験でした」と振り返る。
多いと数千件の声が
キャスターとして数多くの番組に出演していた鈴木アナ。「ニュース番組での自分の役割は、世の中で起きている最前線の情報を、正確にわかりやすく伝えていくことでした。『あさイチ』は、そうした世の中の情報や話題に対して、『何を感じていますか?』『どうすれば皆さんの生活が良くなると思う?』という視点で進行しています。いろんな方の意見や反響がリアルタイムで返ってくるので、双方向性をすごく感じています」

生放送中に視聴者の意見をチェックする鈴木奈穂子アナウンサー(撮影:本社・油原聡子)
あさイチのホームページには、「番組が大切にしているのは、みなさんの声。放送中にメールやFAXで寄せられる疑問・質問に、時間の限りお答えします」という文章が掲載されている。実際、放送中も、メールやファックスなどで届く視聴者の意見がたびたび紹介される。
「『ちょっと聞いてください!』といった視聴者の方のメッセージを読むことが多いのですが、何か言いたくなったり、吐き出したくなったりする番組なんだなと感じています。そこでみんなが納得する正解が出るわけではないけれど、一緒に考えたり、共感したり。みんなで分かち合い、疑問を一緒に感じて、次の1歩を踏み出そう、今日も頑張ろう!と思ってもらえる番組だと感じています」
生放送中に届くメールやファックスは平均800~900件、多いと数千件にもなる。
「『今日のあさイチ、ちょっと違うんじゃないですか』という意見も大事にしようと、スタッフとの間でも共有しています。新しい視点の意見が入ると番組の雰囲気がガラッと変わる。いろんな人の思いや立場がありますから、自分なりに覚悟を持って選んでいます。スタッフがまずは厳選していますが、多い時で数十通が私の手元に来ます。最終的に選んで読み上げるのは自分なので、責任をすごく感じています」と語る。
最大限にアンテナを張って読んでいるつもりでも、「違ったかも」と思うこともあるという。
「女性視聴者が多いので、夫やパートナーに対する愚痴のような内容も結構届くんですね。私も妻の立場から大いに共感する部分もあったので(笑)、そうしたメッセージを多めに読んだら『夫の愚痴ばかり聞かされて朝から嫌な気持ちになりました』という声を頂き、一方の立場からの声ばかり紹介したことを反省しました。かといって、あまりにも中立性を意識しすぎて当たり障りのない声ばかり紹介するのも違うと思いますし、本当に難しい。けれどそこが面白い。視聴者の方に見守られながらここまでやってきたと思っています」
SNSの発達した今でこそ視聴者の意見を紹介する番組も増えてきたが、『あさイチ』では、16年前の開始当初から、視聴者とのつながりを大切にしてきた。「NHKの中でも、視聴者の声がここまで届く番組はそんなに多くはありません。これからも双方向のやり取りを大事に番組をお届けしていきたいと思っています」と語る。
(川口由貴、油原聡子)
■鈴木奈穂子
アナウンサー。神奈川県出身。2004年にNHKに入局。『おはよう日本』『ニュースウオッチ9』『ニュース7』などを担当し、2021年度から『あさイチ』のMCを務める。