「今田美桜は可愛いのに、なぜ嫌われた?」…『あんぱん』ヒロイン・のぶ”大胆脚色の功罪”と「愛されないヒロイン」がここから挽回する可能性
4ヵ月間結ばれなかった2人
3月31日の第1話からまもなく4ヵ月が経過し、朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)の第17週「あなたの二倍あなたを好き」が放送された。25日放送の第85回では主人公・のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が紆余曲折を経て気持ちを確かめ合うシーンがあり、ネット上には「ついにきた」「やっと結ばれた」など歓喜の声があがっている。
朝ドラにおけるヒロインの恋愛成就と結婚はターニングポイントというだけでなく、視聴者にとって期待感の高いシーン。『あんぱん』は、やなせたかしと妻・小松暢がモデルの物語であることが明かされていたため、これまで何度か「まだなのか」「いつなのか」という声があがっていた。まさか全体の3分の2が終わるタイミングまで待たされるとは思っていなかった人が多いのではないか。

NHK連続テレビ小説『あんぱん』公式サイトより
ただ、嵩は幼いころから、のぶに好意を寄せていた。なかなか気持ちを伝えられず、ようやく決意したときには「一番古い友達」と言われ、さらに彼女が結婚することを知ってしまう。嵩はのぶのことをあきらめて失意のまま戦地へ向かい、過酷な日々を過ごした。
さらに終戦後、再会した2人は図らずも新聞社で一緒に働くことになる。嵩は雑誌の表紙にのぶがモデルの絵を描くなど、彼女への気持ちは変わっていなかった。しかし、のぶは東京での仕事に誘われたことで再び離れ離れになり、嵩は今度こそ気持ちを伝える……。
こうして振り返ると、ヒロインの相手がわかっている朝ドラとしては最長レベルの遠回りだったことがわかるのではないか。だからなのか2人が結ばれた現在も祝福の声ばかりではなく、「遅い」「今さら」などのネガティブな声もあがっている。
さらに気になったのは「やっぱり、のぶを好きになれない」という声も散見されること。これにはいったいどういう理由があり、今後のぶはそんなネガティブな声を覆すことができるのか。
のぶを好きになれなかった理由
まずなぜ本来、視聴者が成長や活躍を見守る主人公でありながら、「のぶを好きになれない」という声が散見されるのか。
のぶは男勝りで勝ち気な性格から「ハチキンおのぶ」と呼ばれ、嵩と初対面のシーンでも自分からぶつかりながら「気をつけや、ボケ!」と言い放っていた。その他でも弟とケンカしている嵩にビンタしたり、東京から遠距離電話をかけた嵩に怒りをぶつけて切ったりなどの感情的な言動を連発。さらに長年のぶを思い続けた幼なじみの嵩に結婚を報告せず、「相手の若松次郎(中島歩)と偶然出くわして悲しい事実を知る」という残酷なシーンもあった。
しかし、それ以上に視聴者を戸惑わせたのは、突然「教師になりたい」と言い出し、突然「忠君愛国」に目覚め、突然「次郎との結婚」を決めたこと。そこに至る感情の流れはあまり描かれず、逆に教え子に愛国を説き続け、最愛の人が戦死した妹・蘭子(河合優実)に「『立派や』と言ってあげて」「誇りに思わないと」などとデリカシーのない言葉をかけ、それでいて自分は結婚するなどの言動に疑問の声があがっていた。

NHK連続テレビ小説『あんぱん』公式サイトより
視聴者にしてみれば、「父親のいない家の長女なのに家業の石屋もパン屋も継がず、何で急に教師になりたいと思ったのか?」「何で急にそこまで忠君愛国になったのか?」「今まで誰も好きにならなかったのに、何で急に次郎と結婚しようと思ったのか?」という感が否めなかったのだろう。
一方で健気に家のために尽くす妹の蘭子とメイコ(原菜乃華)のほうが朝ドラのヒロインらしく、「妹たちのほうが好き」「こっちが主人公で見たかった」とまで言われてしまう始末。『あんぱん』そのものへの愛着はあっても、のぶに対する愛着は芽生えず、「苦手」「共感できない」などの看過できない声があがっていた。
大胆な脚色の功罪
のぶが「苦手」「共感できない」と言われてしまう背景には、制作サイドの大胆な脚色があった。モデルのやなせたかしと妻・小松暢が出会ったのは終戦後の新聞社だが、ドラマでの出会いは小学生のころ。制作サイドが「一緒に育った幼なじみであり、長年思い続けた運命の相手」という設定を選んだことで、結婚に至るまでの過剰なすれ違いが描かれることになった。
視聴者は、のぶにとって嵩は運命の人であり、結婚相手であることがわかっているのに、肝心の本人は嵩の自分への思いにも、自分の嵩への思いにもまったく気づかない。のぶは「誰も好きにならない鈍感な女性」というドラマが動きづらい設定のため、前述した「突然」を重ねることで見せ場を作っていかなければならなかったのだろう。

NHK連続テレビ小説『あんぱん』公式サイトより
しかし、のぶは嵩のいる高知を襲った地震がきっかけとなって、ようやく彼が大切な存在であることに気づいた。のぶにとっては戦争で夫を失ったことに続く「ロス」の危機だけに、幼なじみという脚色がついに最大限の効果を発揮したように見える。実際、24日の第84回で放送された「嵩は子どものころからウチにはなくてはならん人です」「ホンマにバカですね。今ごろ気がつくなんて」というセリフにはこれまでにない実感と説得力が宿っていた。
ただ実はその前から、のぶには視聴者が共感できる要素が芽生えはじめていた。
上京の誘いを受けた際、「雇ってくれた高知新報の人ら、まだ仕事で恩返しできていないき」と断る姿勢を見せ、祖父・釜次(吉田鋼太郎)の後押しでようやく決意。嵩にも「迷惑かけるね」といたわったほか、「先に行って待っているね」「ぼやぼやしよったらおじいちゃんになってしまうで」と優しく発破をかけて視聴者の共感を誘っていた。
そしてもう1つ見逃せないのは、このところ妹・蘭子とメイコの登場シーンが抑えられていたこと。それまで『あんぱん』は“主人公・のぶの物語”というより“三姉妹の物語”という感があった。それが我が道をゆく姉・のぶを差し置き、地道に家族を助ける妹・蘭子とメイコへの思い入れを生んでいただけに、「ついに“のぶの物語”のスイッチが入った」というムードが感じられる。
残り4ヵ月間で挽回なるか
ようやく視聴者が主人公・のぶに共感できるようになり、ほどなく嵩も上京。嵩の夢を叶えるために二人三脚での日々がはじまっていく。
ここにきて大きな脚色はなく、ほぼ史実通りの物語になっていることから、今後は漫画家を目指す道のりのほか、『手のひらを太陽に』の作詞、詩集『愛する歌』の出版、そして『アンパンマン』の誕生などを描くことが予想される。放送期間は2ヵ月間しか残されていないだけにハイテンポの展開になるだろう。
しかも『あんぱん』にはまだまだ楽しみがある。今をときめくMrs. GREEN APPLEの大森元貴が作曲家・いずみたくがモデルの「いせたくや」、眞栄田郷敦が漫画家・手塚治虫がモデルの「手嶌治虫」、藤堂日向が演出家・作詞家・構成作家・永六輔がモデルの「六原永輔」、乃木坂46の久保史緒里が歌手・宮城まり子がモデルの「白鳥玉恵」役で出演するという。
これらの人物が嵩とどのように関わっていくのか。そして、のぶはどのような言葉と姿勢で嵩を支えていくのか。ここまでの約4ヵ月間さんざん待たされたが、ついに誰もが見たかった物語がはじまるだけに、9月下旬の最終週に向けて右肩上がりで盛り上がっていくだろう。

NHK連続テレビ小説『あんぱん』公式サイトより