「コシヒカリを狙って何度も侵入」「民家で老婆を殺害」…岩手県が恐れる「最凶ツキノワグマ」
クマが住宅地で人を襲うニュースが増えている。これは決して偶然ではない。人間社会で起きた歪みが、クマの生態を大きく変容させた証左なのだ。
ツキノワグマが民家に侵入して殺人
ガタッ、ガタタッ、ガタッ。
7月1日午前5時ごろ、岩手県北上市和賀町山口。ここは人口約400人の小さな集落で、土地の多くが水田の農村地帯だ。山と平地の境目に位置し、近くには一級河川の和賀川が流れている。
この山口地区の一軒家で、小屋の戸を引っかく音が鳴り響く。「侵入者」は小屋に目当てのブツがないとわかると、住居のある母屋へ向かった。
ガタタッ、ガタタタッ。

北上市に掲げられた看板/編集部撮影
鍵のかかった玄関の引き戸を開けようとするも、扉は開かない。それから母屋の横にまわり、キッチンの出窓を強引に割った。だが二重窓になっていて、奥側の窓には手が届かず中には入れない。仕方なく母屋を後にした「侵入者」は、隣家に移動した。用が済むと、また次の隣家に向かう。
ガタッ、ガタッ、ガタッ。
早朝の田園地帯に、不気味な音が何度も響き渡る。それから3日後、世間を脅かす凄惨な事件が起きた。
「7月4日午前7時40分ごろ、山口地区に住む高橋成子さん(81歳)が、自宅の居間で血を流して倒れているところを長男に発見されました。高橋さんの全身には動物の爪でつけられたような傷が多数あり、駆け付けた警察により死亡が確認されました。死因は出血性ショック。現場の状況からツキノワグマに襲われたと見られています」(全国紙社会部記者)

高橋さんの葬儀が行われた斎園にもクマ出没の張り紙が貼られていた/編集部撮影
本州最大の食肉類であるツキノワグマだが、本来は温厚で臆病な動物として知られている。それが民家に侵入して人を殺すとはどういうことか。本誌記者は現地へ飛んだ。
昨年から夫が施設に入っていた高橋さんは、独居生活をしていた。昔は庭の草刈りもこなしていたが、ここ数年は手つかずで森のような状態になっていたという。クマからすれば、人が住んでいない家だと思ったのかもしれない。
高橋さんの葬儀に参加した近隣住民はこう語る。
「頭と顔を攻撃されたようです。ご遺体の頭には布が巻かれ、顔は傷跡が見えたものの縫合で綺麗になっていました」
1日に4回もクマが侵入
この殺人ツキノワグマについては、6月末から地元で話題になっていた。山口地区のあちこちで「小屋にクマが入った」といった被害が相次いでいたのだ。目撃情報が出たばかりの時期には、なんと一日に4回もクマに侵入された住民がいる。6月30日に被害に遭った、当事者の高橋幸俊さんはこう振り返る。

被害の様子を説明する高橋さん/編集部撮影
「最初に見たのは午前8時半です。ガタガタと音がするので敷地内の小屋を見に行くと、クマが侵入していました。引き戸を器用に開けて入ったようです。私の存在に気づくと逃げていきました。
引き戸に鍵をかけてから、10時ごろに役所の職員に来てもらいました。現場の小屋まで案内すると、またクマがいたのです。別の扉を強引に押し倒して侵入していました」
高橋さんと職員の姿を見てクマは再び逃げだした。小屋の中を確認してみると、大きな箱に入れていた米2袋が食われていた。蓋代わりにベニヤ板を置いていたが、きれいにズラしていたという。
「食べられたのはコシヒカリの古米です。残った米は自宅に移動させました。空にした箱には、元通りベニヤ板を載せ、その上にコンクリのブロックを5つ置いた」(高橋さん)
鉄の棒を持ってツキノワグマと対峙
侵入はこれで終わらない。午後5時、再びクマが侵入。ブロックをすべてどかして米を探すも、見当たらないことに苛立ったのか小屋の中を荒らして回る。音に気付いた高橋さんは、腹が立って鉄の棒を持ち外へ出た。すると、小屋から出たクマと鉢合わせに……。
「もう私を見ても逃げる様子がない。3メートルくらいの距離でにらみ合いました。『やるかコラッ』と大声を上げるも動じない。それどころか地面に置いてあった小型ラジオを手ではじき飛ばした。鉄の棒を振りかざすと、ようやく藪の中へ逃げたんです。全長にして1・5メートルくらいあるように見えました」(同前)

右手に持った鉄棒でクマと向き合った高橋さん/編集部撮影
4回目の遭遇は午後5時50分。物音がした台所の方向に向かうと、クマが家の外についた換気扇によじ登ろうとしていた。高橋さんはさすがに身の危険を感じ、その日は近くに住む長男宅に身を寄せる。翌日の朝、自宅に戻ると驚愕の光景を目にした。
「ついに母屋に侵入しようとしたのか、玄関の引き戸を開けようとした痕跡があった。さらに換気扇の下にあるガラス戸は割られ、網戸も壊されていました。ウチに来た後は、隣の家にも入っていたようです。やはりその小屋にも米が置いてありました」(同前)
後編記事『【衝撃写真】「クマが里中に住み着いている」…!岩手の猟師たちが警告する「殺人ツキノワグマ」の正体』へ続く。
「週刊現代」2025年08月04日号より