「2週間無断欠勤」27歳娘に悩む50歳会社経営者の父が思わず涙した「原因」

「私たちは家族から依頼を受けることも多いです。最近、増えているのは“子供が突然退職して音信不通になった”という問い合わせ。その背景には、実際の求人とは違う条件から脱出したというケースもありますが、ご本人がもともと困難を抱えやすい性質を持っていることもあります。その場合、福祉や医療につなげることもあるのです」

こう語るのは、リッツ横浜探偵社の山村佳子さん。キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。

山村さんは「困っている人を救える人になりたい」という気持ちが強い。学生時代は警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。

これまで「探偵が見た家族の肖像」として山村さんが調査した家族のことをお伝えしてきたが、この新連載「探偵はカウンセラー」は、山村さんが心のケアをどのようにしていったのかも含め、さまざまな事例から、多くの人が抱える困難や悩みをあぶりだしていく。個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。

今回の相談者は関西地方に住む50歳の会社経営者・哲夫さん(仮名)。「半年前に上京した27歳の娘と音信不通になった」と電話がきた。いま勤務している会社から「2週間無断欠勤しており、このままだと懲戒解雇になる」と連絡が来たのだが、娘と話そうとしてもつながらないという。そこで娘の現状を調査してほしいというのだ。

仕事を見つけては、無断欠勤の後に退職

娘は哲夫さんと前妻との間に生まれています。当時20代前半だった前妻は「子育てに飽きた」と娘が2歳の時に、離婚届を置いて家を出ます。それからずっと音信不通だそうです。

哲夫さんは娘と共に実家に戻り、両親と共に育てます。その後、仕事に邁進し、33歳で起業。40歳で5歳年下の女性と再婚し、一男一女を授かります。

哲夫さんの再婚時、娘は高校生だったこともあり、同居はせずに哲夫さんの両親と暮らし続けます。哲夫さんは精神的にも経済的にも娘を支えますが、娘は希望して進学した専門学校を半年で退学。それから26歳になるまで、仕事を見つけては、無断欠勤の後に退職することを繰り返します。

仕事を見つけては、無断欠勤の後に退職, 「人間関係リセット症候群」ではないか, 孤独に苦しんでしまうことも, 「私は誰からも愛されない」, マッチングアプリで出会ったホストの男性が…

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「このままでは娘はダメになる」と哲夫さんは親子の縁を切る覚悟で、娘を東京で生活させることを決めます。とはいえ、住むマンションは哲夫さんが契約し、向こう2年間の家賃も負担。

娘もそこに哲夫さんの「独立させたい」という強い思いを察し、娘は美容関連会社に契約社員として就職します。最初は順調で安心していましたが、最近、「2週間の無断欠勤が続き、このままでは懲戒解雇」と連絡が入ります。

哲夫さんは、これまで地元で娘が仕事をいきなり辞めるたびに、尻拭いしてきました。今回の上京も娘の無責任な性格を変えたいという気持ちが強かった。だから自分では娘に連絡ができない。そこで私たちに「様子を見てほしい」と連絡をしてきたのです。

「人間関係リセット症候群」ではないか

まず、私たちは都内にある娘のマンションの前で張り込みを始めます。娘の家は、簡易的なオートロックがある築20年程度の女性専用物件で、そこに哲夫さんの親心を感じました。

すぐに無断で仕事を辞める娘のことを哲夫さんは「無責任だ」と思っているようですが、私は「人間関係リセット症候群」ではないかと感じました。これはと正式な病名ではありませんが、今、多くの人が悩んでいる現象です。

傾向として、人からどう思われるかを優先するので、「あの人に嫌われている」と思ったり、仕事のミスをしてしまったことが気になり、自分自身の存在が苦しくなり、その場にいることができなくなって、突発的に退職したり、退学をしたりしてしまうのです。

孤独に苦しんでしまうことも

友達やコミュニティとの縁を簡単に切ってしまうことを繰り返し、孤立してしまう傾向もあります。「絶交だ」などと言い、その瞬間は楽になるのですが、後から孤独が襲ってきて苦しむ人も少なくありません。

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「性格」と言い切れないものが…Phto by iStock

この、人間関係リセット症候群には、さまざまな要因が絡み合っており、その中に発達障害の要素が含まれることがあるそうです。もしかすると娘は、誰にも言えない苦しみやストレスを抱えている可能性も高いです。

次の「職場」は…

そんなこと思いながら、娘のマンションの前で張り込んでいると、17時に娘が出てきました。身長は150センチと小柄でほっそりしています。厚めの前髪に、両サイドの髪をあごまで切りそろえているロングヘアです。髪がツヤツヤとしており、実年齢より幼い印象です。

近くのコンビニに行き、エナジードリンクとレモンサワーを購入し、歩きながら飲みながら繁華街がある駅へと向かいます。下車して入っていたのは、個室で性的なサービスを展開する風俗店でした。

店のホームーページを見ると、娘らしき人が「20歳」として掲載されていました。そこで23時まで働き、再び駅に向かいます。そして、駅でホスト風の男性と待ち合わせして、タクシーに乗り、男性の家らしきマンションに入って行きました。

深夜に男性と手を繋いで出てくると、近くの居酒屋に入り、娘は男性に甘えています。「私のこと、愛してる?」などと言いながら、最初は良好な雰囲気だったのですが、「なんでわかってくれないの?」「どうせ私が悪いんでしょ?」とか「私なんてもう死んだほうがいい」などと物騒なセリフも出てきました。

男性がうんざりしてスマホを出すと「誰とLINEしているの?」「私のことめんどくさいと思ったでしょ?」などと責めている。男性が無視していると「裏切ってるんでしょ?」など言いつつ、娘は泣いていました。

「私は誰からも愛されない」

男性が娘を慰めると、「私は誰からも愛されない」「全部母親が悪い」などと言いながら「私のこと、絶対に嫌いにならないでね」などと言っている。お酒を飲んでいることもありますが、かなり脈絡がない。

いきなり立ち上がって、5000円ほどの会計を娘が払い、「私がこんなに苦しいのに、あなたは全然わかってない。私のことを捨てたんでしょう」と言いながら、タクシーに乗り、自宅に帰るのかと思いきや、地元のバーに入って行き、ここでは正体がなくなるほど泥酔していました。

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そして、店の常連の男性に連れられて、自宅マンションに帰宅。30代の男性は、泥酔する娘の胸を揉んだり、キスをしたりしており、娘もそれに応えている。ただ、女性専用マンジョンだと家に入ろうとする男性を断っていました。

この1日の調査で、かなり娘は心が疲弊していると感じました。すぐに哲夫さんに連絡し、現状を話します。哲夫さんは600キロ以上運転し、車で私たちの事務所に来てくださいました。

「娘がこういう店で働いているのはショックです。実は私、“まともに働けないなら、風俗で働く覚悟を持て。そのくらい本気だからな”と脅してしまったんです。あんなこと、言わなければよかった」

そう言いながら泣いていました。やはり、親としては職業とはいえ、娘が見知らぬ男たちからモノのように扱われるのは悲しいものがあります。

私は哲夫さんに、「おそらく娘さんは無責任なのではなく、人間関係リセット症候群の可能性があるかもしれません」と話しました。最初は「怠け病にそれらしい名前をつけて、皆が娘を甘やかしてクズにさせる」などと怒っていましたが、私が過去の実例を持ち出しながら話していると「そうかもしれない」と思うように。ひとまず、車で娘の家に向かい、そのまま一緒に実家に帰ると話していました。

マッチングアプリで出会ったホストの男性が…

後日、哲夫さんから連絡があり、娘を精神科に連れていったところ、発達障害の疑いがあると言われたそうです。「知能指数は悪くないので、訓練をすれば社会で生活ができると言われ、ホッとしました」と話していました。娘には対人恐怖やパニックなどの症状がみられるので、自閉スペクトラム症(ASD)の可能性が高いように思いました。コミュニケーションや対人関係に困難を抱く方が多くいます。適切に対応すれば問題なく社会で生活ができるので、なによりきちんとケアをすることが大切です。

加えて、「あのタイミングで連れて帰ってよかったです。娘はマッチングアプリであのホストの男性とマッチし、デートを重ねるうちに、風俗店で働くことを勧められたらしいです。すでに、私が“もしものために”と渡したお金のうち80万円を使っていました。東京は怖いところですね」と続けていたのです。

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私たちは地方に住む親御さんから、「娘がホストにハマった」という調査依頼を受けることも多いです。全部が全部とは言いませんが、その多くの調査対象者に、心の病が関わっていることが多々あります。そして心の病はきちんと医療の場で治療することが必要です。

哲夫さんの娘は2歳のときの記憶があるわけではないけれど、「母親が出ていった」という現実が彼女の心に負担をかけていたことは間違いありません。「誰からも愛されない」と孤独を感じていました。本当はもっと前から治療を必要としていたのだろうと感じます。

ただ、今回このことが判明したのは、哲夫さんが調査を依頼したからです。無断欠勤から音信不通になり「おそらくいつもの“病気”かもしれません」と相談してきたときは、ちょっと身勝手な娘に困った父親の様子ではありましたが、本当に病気だということを認識し、自身の突き放した言葉の影響を考えて心から反省をしていました。今後は娘への対応も大きく変わってくることでしょう。

安心できる場所があると、人は穏やかになります。娘さんが祖父母の愛情、哲夫さんの愛情を改めて確認でき、「誰からも愛されない」という誤解を解くことができれば、本当の自立をすることができるのではないでしょうか。

調査料金は15万円。(経費別)です。