「大谷翔平はボイコットすべき」”WBC地上波放送なし”が日本人野球ファンを激怒させた”3つの理由”
大会スポンサーがあえて懸念を表明
「来年3月開催のWBC放送権をNetflixが獲得へ」「Netflixの独占配信で地上波放送なし」というニュースが報じられてから10日が過ぎた今なお関連ニュースが相次いでいる。
この間、「東京プールの運営・興行を担う読売新聞社が『WBCIが当社を通さず直接Netflixに日本国内での放送・配信権を付与した』ことを発表」「NPB(日本野球機構)もWBCIからNetflixの独占権を知らされていたことを明かした」「前大会を放送したテレビ朝日とTBSが放送権を得られなかったことを明かし、無料の地上波で放送することの意義を強調」「パ・リーグの楽天・井上智治理事長が『12球団共通で非常に残念』とコメント」「東京プールの大会スポンサー・ディップが『多くの人々が気軽に楽しむ機会が奪われてしまう』懸念を表明」「WBC独占配信のNetflix・CEOが視聴方法に言及『試合は会員だけに提供される』」などの記事が相次いで報じられた。
アメリカのMLBでは大谷翔平や山本由伸らの活躍が続き、日本でもNPBのペナントレースが大詰めと野球関連の報道が増える中、WBCのニュースもまだまだ落ち着きそうにない。
ここにきて気になるのは、不満の高まりからか、「大谷翔平はWBCをボイコットすべき」などの強烈な声があがりはじめていること。その背景にはどんなことがあって、大谷の去就にどんな影響を与え得るのか。

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多くの日本人が不満を抱いている「3つの理由」
「Netflix独占配信で地上波放送なし」に多くの日本人が不満を抱いていることは間違いないだろう。その主な理由は3つあり、以下にあげていきたい。
最大の不満であり1つ目の理由は、スポーツや国際大会におけるWBCI(MLBとMLB選手会が設立した会社)のビジネスライクなスタンスだろう。今回の件には、背景に放送権の高騰があり、それを是とするWBCIに不満の矛先が向けられている。
スポーツを文化や公共の財産とみるのか、ビジネスとしてみるのか。競技を持続的に発展させていくためにはビジネスを前面に押し出した戦略ばかりでは難しく、どのように両立させていくのか、バランス感覚が求められる。
その点、ビジネス前提のアメリカと、文化や公共の財産も重んじる日本とでは相容れないものがあるのだろう。少なくとも現時点では国民感情や生活習慣における両国の差は大きく、開催までの半年間でそれが埋まるとは思えない。
また、WBCに関してはこれまでも「参加国の権利として認められるはずの代表チームスポンサー権やグッズのライセンシング権がなく、WBCIが利益の多くを得ている」などの参加国軽視のビジネスライクなスタンスがNPB関係者とファンの不満を買ってきた過去があった。
日本人には、誰もが気軽に楽しめ、一体感を共有してきたものを“国民的スポーツ”“国民的イベント”とみなしてきた歴史がある。逆に貧富や生活環境の差に左右されるものは“国民的”とは認めないだけに、このままでは来春のWBCも「ビジネスイベント」と突き放す人々がいるかもしれない。どんな名勝負が繰り広げられようが後に語り継がれる「伝説の試合」とはならないのではないか。
今回の報道で象徴的なのは、第一報時から現在まで「日本でもユニバーサル・アクセス権の法整備を求める声があがっている」こと。イギリスなどの欧州では、国民の関心が高いスポーツイベントの保護が法的に保証され、有料事業者の独占放送を禁じているのだが、これを日本にも早く導入しようという建設的な声が散見される。
その上で重要なのは、不満の声をあげるすべての人々が無料にこだわっているわけではないこと。「1か月加入すればいいだけ」「他のコンテンツも見られるから安い」などの声もあるが、「Netflixの1か月890円~を払いたくない」というお金の問題だけではないところにこの問題の複雑さがうかがえる。
なぜDAZNではなくNetflixなのか
「お金の問題にこだわっているわけではない」という最たる存在は、WBC視聴者の中核を担うNPBのファンたちだろう。
ペナントレースの盛り上がりやスター選手の誕生などで多少の上下こそするものの、「国内12球団のファンを併せると2000~3000万人」と言われるだけに、彼らの声を無視して独占配信を強行することはNetflixにとっても得策ではないはずだ。
なかでも、日ごろDAZNやCSなどの有料で試合を見ている人々のWBCに対する視線は思いのほか厳しい。もちろん彼らは「侍ジャパン」こと日本代表と選手たちを応援しているが、それは「選手が望む形式の大会であること」「ケガの不安を軽減させること」「次世代を筆頭にNPBの新たなファン発掘が見込めること」などの前提があってこそ。
ひいきのチームや選手、引いてはNPBにとって参加の意義が薄く、リスクが大きいのであれば「辞退してほしい」と考えている人は決して少なくない。彼らにとって最も重要なのは、ひいきのチームが優勝することであり、WBCは見たい大会ではあるものの二の次。その点、WBCは前回大会で負傷者や休養が必要な選手が続出したほか、メジャー志向を加速させるなど、その悪影響はNPBのファンたちに認識されている。特にリスクの高い投手は球団、ファンともに「できれば参加しないでほしい」と考えている人も多いのが現実だ。
そんな参加への前提が揺らいでいることに加えて、NPBファンたちを怒らせたのが、独占配信がDAZNではなくNetflixだったこと。
彼らにしてみれば、「日ごろお金を払って見ているDAZNなら地上波の放送なしもまだ理解できるが、これまでNPBに貢献してこなかったNetflixにお金を追加して見なければいけない」ことに納得ができない。つまり、「ここだけ金を出して奪うのはやり方が汚い」と怒っているのだろう。
そもそもNetflixが得意なドラマや映画を好む人と、スポーツを好む人の嗜好は一致しづらい言われ、実際に「どちらかだけを見る」という人が多い。だからこそNetflixは新たな顧客獲得を狙ってWBCに参入したのだが、狙われた側の視聴者としては手続きや金銭の負担などもあって嫌悪感があるのかもしれない。
そんなNetflixに対するNPBファンの怒りが、現在ネット上に不満の声があがる2つ目の理由となっている。

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未来を作る日本の「にわかファン」を軽視
また、ここにきて「だからNetflixの独占配信はよくない」という理由としてコメントが増えているのが、WBCの開催目的について。これが不満の声があがる3つ目の理由となっている。
WBCは野球が夏季五輪の正式種目から除外されたことや、MLBで多国籍の選手が活躍するようになったことなどを背景に、野球の国際的な普及と発展を目指すためのものとされてきた。今回の「無料の地上波放送なし、有料の配信のみ」という状況はそんな本来の目的からかけ離れたものであることは間違いないだろう。
SNSのコメントに「地上波がないなら見なくてもいいや」という声が目立つように、大谷翔平の人気ですら「無料だから」が背景にある。実際、「大谷がどんなに活躍しても情報番組やネット動画などで無料のダイジェストを見るだけ」が多くを占めているのが現実。「野球の普及・発展のためにはそんなライト層をどれだけ取り込めるか」が重要なはずだが、彼らにNetflixへの手続きと支払いを促せるのかと言えば疑問が残る。
また、日ごろメジャーリーグを有料配信のSPOTV NOWやMLB.TVなどで見る人はまだまだ少なく、WBCIとしても無料でより多くの人々に見てもらうほうが野球の普及・発展につながるだろう。もともと日本人は、野球のMLB、バスケットボールのNBA、アメリカンフットボールのNFL、アイスホッケーのNHLなどアメリカのスポーツを積極的に見る人の数は限定的と言われてきた。
日本人が好むのはアメリカのスポーツではなく国際大会の日本代表戦。オリンピックや各競技のワールドカップが放送され、日本代表が勝ち進むたびに「にわかファン」が発生して日本中で盛り上がる現象が続いてきた。野球界にしてみれば、その「にわかファン」を本当のファンにつなげることが重要なはずなのに、WBCIが自らその間口を狭める方向に舵を切ったのは、やはりビジネスとしての利益が理由なのか。
テレビ業界には「ボクシングが『井上尚弥という世界的なスーパースターを筆頭に多くの世界王者がいるのに国内人気が上がらない』と言われるのは、彼らの試合が地上波で生放送されなくなったから」という根強い声がある。良くも悪くも「地上波で生放送していたら見る」というライト層を手放したことで大衆性が薄れ、新規ファンが増えづらくなっているとしたら、今回のWBCで野球も同じ道を歩むのかもしれない。
大谷の決断に注目が集まる
では大谷に対する「ボイコットしてほしい」という声はどのようにとらえるべきなのか。
野球人口の減少は関係者にとっては重要な問題であり、全国各地でその改善に向けたさまざまな取り組みが行われている。大谷が全国約2万の小学校に約6万個のグローブを贈ったことは記憶に新しいが、「子どもたちが野球にふれてほしい」という思いを持つ彼は「子どもたちが見られなくなるかもしれない」現況を憂いでいるのではないか。
これまで大谷は数々のトラブルに見舞われても「プレーに集中する」という姿勢を貫いてきただけに、放送権をめぐる騒動にも関与しないのかもしれない。ただ、大谷が参加すれば多くの選手が「一緒のチームでプレーしたい」と思い、辞退すれば「無理して参加しなくてもいいかな」と考えても不思議ではないだろう。
もともと代表選手たちは「ミスしたら猛烈に叩かれる」「ケガをしたらチーム、チームメイト、家族に迷惑をかける」などのリスクを負って参加するだけに、よほどメジャーリーグ指向の高い選手以外は慎重になってもおかしくないようにも見える。大谷はそんな他の選手たちに影響を与えてしまう存在だけに、今秋のシーズン終了後から年明けにかけて難しい決断を迫られるのではないか。

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日本のテレビ局は「自業自得」
最後にもう1つあげておきたいのは、地上波のテレビ局にも問題が山積だったこと。すでにNPBの試合放送は極めて少なく、各チームのホームタウン以外はほとんど見られず、スポーツニュースの速報すらほとんどなくなっていた。言わば、視聴率至上主義で野球というスポーツを半ばあきらめたような状態が続いていただけに、今回の「地上波放送なしは自業自得」と言われても仕方がないのかもしれない。
さらに民放各局はU-NEXT、Hulu、FODなど「それぞれが自局系の有料配信サービスを持つ」というスケールメリットが小さく、ユーザーに不便な視聴環境を続けることで、配信でも野球を見せることがほとんどできていない。もし民放総合の有料配信サービスがあれば、NPBの全6試合を配信してNPBファンをフォローすることができるのではないか。
ともあれ、このまま来春を迎えたら日本のテレビ局が情報番組で連日WBCを扱い、Netflixの宣伝にひと役買う形になるのは間違いない。これをきっかけに「スポーツのビッグイベントが地上波で見られるのはダイジェスト映像と前哨戦のみ」になっていくとしたら、後に今回の件が分岐点として記憶されるだろう。
一方、Netflixとしては地上波では見られなかった野球中継の新たな醍醐味を提示して違いを見せたいところだろう。さらにその上で若年層を引きつけるなど野球界の希望につながるようなムーブメントを起こせれば「Netflixでよかった」と言われるはずだ。

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