回転寿司が「うどん・ラーメン」にこだわるワケ

くら寿司十条店(筆者撮影)
お寿司だけでなく、麺類もケーキも、ハンバーガーも。今どきの回転寿司店は、それぞれの専門店に行かなくてもいいくらいに、充実したメニューを揃えている。
【画像】くら寿司の「こだわり讃岐うどん」はこんな感じ
なかでも「くら寿司」は、うどん・ラーメンにこだわる。9月5日からは、期間限定商品でこだわりの讃岐うどんを発売……ここで、香川県民が反応した。提供の手間がそれなりにかかる「釜揚げうどん・釜玉うどん」、お寿司屋さんの厨房で、どう提供しているの? そもそも、美味しいのか?
実食しかない。近所の「くら寿司」でうどんやラーメンをしっかり堪能したうえで、本社広報の方にも「お寿司屋さんの讃岐うどん」誕生の事情を伺った。
くら寿司の「釜揚げうどん」は「本物」か?

くら寿司の「【讃岐】釜揚げうどん」。かなりの極太麺だ(筆者撮影)
筆者は香川県高松市の出身でもあり、全国的な「讃岐うどんブーム」のきっかけとなったタウン誌連載「ゲリラうどん通ごっこ」の初期掲載店が、家から徒歩圏内に数軒という環境で数年間を過ごした。先に書いておくと、今回の取材のきっかけは「こだわりの讃岐うどん」「釜揚げうどん」への疑念があったからだ。
発売の前日に、香川県在住の親戚から「くら寿司」の商品リリース告知がLINEで共有された。通常の「釜揚げうどん」は茹で窯から揚げるため「麺の表面の泡立ち」「茹で湯の濁り」があるが、「くら寿司」の画像を見る限り泡なし、湯は透明。「これは『釜揚げうどん』か?」という問いかけに、親戚グループの十数人全員が「疑わしい」「釜揚げではなく『湯だめうどん』だ」と回答を寄せた。
朝5時に発信したLINEへの返信が6時間で出そろうあたり、「ニセ讃岐うどん・釜揚げレーダー」感度の凄まじさがうかがえる。といった経緯で、親戚を代表して確かめつつ「くら寿司」広報の方にも、いろいろとお話を伺ってみた。
食べた結果「美味しい釜揚げうどんでした、くら寿司さん、疑ってすいません!」

くら寿司の麺類注文タッチパネル(筆者撮影)

くら寿司十条店(筆者撮影)
「くら寿司」はメインのお寿司以外にもサイドメニューの開発に力を入れている、麺類に関しても、2012年には「7種の醤油らーめん」が爆発的なヒットを記録。「回転寿司屋のラーメン・うどん」ランキングではおおむね上位につける、安定した売れ筋商品だ。
今回検証する麺類は「【讃岐】釜揚げうどん」「【讃岐】釜玉うどん」「かに白湯ラーメン」の3種類(いずれも9月5日発売)。前日には「讃岐うどん」にリニューアルする前の商品も、同じ店(東京都北区・十条店)でいただいている。
まずはタッチパネルで注文。「釜揚げうどん」は釜で茹でたてのモノを提供するため、茹でている最中でなければ注文から提供まで数分を要する。今回は注文から11分待たされたため、第1段階はクリアだ。

くら寿司の【讃岐】釜揚げうどん(筆者撮影)
オーダレーンから提供されたうどんは……表面には、デンプンのα化から来るしっかりとした粘り気がある。
通常の「かけうどん」用の麺は、この層を流水で流して引き締めてから提供するが、「釜揚げうどん」はこの“ヌルヌル層”が出汁としっかり絡んで、通常のうどんでは味わえない旨みを引き出してくれる。麺の表面には釜から揚げた麺特有の泡がしっかり付着しており、どうやら本格的な「釜揚げうどん」であるようだ。

くら寿司の【讃岐】釜玉うどん(筆者撮影)

【参考】釜揚げうどん(右)湯だめうどん(左)比較。泡が立ち、麺がヌルヌルしている様子がわかる。東京都江東区「こがね製麺所」森下店(筆者撮影)
後から頼んだ釜玉うどんも、麺の表面のヌルヌルが卵黄と絡み、「うどん版カルボナーラ」のようなしっかりした旨みを形成していた。こちらも、まごうことなく「釜玉うどん」だ。
退店後に「くら寿司」広報の方にお話を伺ったところ、該当商品は釜で茹でた麺を水で締めずに提供しており、一般的な「釜揚げうどん」で間違いないそうだ。また、別ルートで筆者知り合いのうどん店店主に聞いたところ「釜揚げでも、お湯に溶け出すデンプン質が少ない時間帯(朝一番など)は、泡が出ない」とのこと。このあと「くら寿司」様に「疑ってすいませんでした!」とお詫びしたことは言うまでもない。
くら寿司の「讃岐うどん」は、超・極太麺!

くら寿司の【讃岐】釜玉うどん(筆者撮影)

くら寿司の【讃岐】釜玉うどん アップ(筆者撮影)

【讃岐】釜揚げうどん 断面 (筆者撮影)
「くら寿司」が3年をかけて開発した「こだわりの讃岐うどん」の実力を検証してみよう。ここからは「経済誌のライターがチェーン店の商品力を検証」というより「全国47都道府県のご当地うどんを食べ歩いたマニアの目線」が入ることを、ご了承いただきたい。
同社のプレスリリースによると、くら寿司の讃岐うどんは3年をかけて開発した「伸びにくく、コシのある極太麺」であるようだ。前のフェア期間(9月4日まで)に提供されていた「ベーコン天釜玉うどん」の麺と、太さを比較してみよう。
「くら寿司」の極太麺をじっくりと試食した限り、釜揚げ特有のモチモチとした食感や、小麦粉の旨みがしっかりと味わえる逸品であった。手で引っ張ると2~3割は伸びるほどに弾力があり、数本の麺を10分ほど置いて食べても、まだ食感が残っている。この麵は「寿司→うどん→寿司→うどん」といった順番で食べることもある回転寿司屋ならではの「時間が経っても美味しい」という特徴を持っているようだ。
そして極太麺の断面を肉眼で見る限り、表面は十分に水を吸ってモチモチ、中心部はほんのりと吸水している状態だ。うどんに限らず麺類のコシは、物理的な「水分勾配」(パスタでいう「アルデンテ」状態)によってコシが保たれ、この水分が平均的になると、麺の食感はなくなってしまう。
「くら寿司」は芯までの水分到達に時間がかかる極太麺であり、かつ、茹で上がり後に麺が伸びないよう、熟成時間を長めにとっているとのこと。
一定の太さ・熟成の手間によって、釜揚げうどんの持ち味である「モチモチ食感」と、「釜揚げうどん」だと失われがちな「麺の伸び・コシ」を両立できている麺ではないか?……そう考えると、よく計算されている。

くら寿司の新商品「かに白湯らーめん」(筆者撮影)
また、釜揚げのつけ出汁の薫りが、驚くほどよかったことも見逃せない。片手間でうどんを出す店だと「だしパック」などで対応する店も多い中、「くら寿司」では昆布・かつお節などの素材から出汁を取っているとのこと。ほか、ラーメンも店内でとった出汁を使用しているそうだ。
ただし、「讃岐うどん」として考えると、出汁のイリコ風味の薄さなど、一定の不満は残る。それでも、回転寿司店で釜から揚げたて・モチモチの釜揚げうどんを食べることができるのはサプライズであり、食した限りではしっかり及第点!な出来であった。
「くら寿司」は、釜揚げうどん一つとっても「タイミングを合わせて釜から揚げ、サッと提供」「出汁は素材から取る」というひと手間を、惜しまずにとっているようだ。お寿司を提供しながら、一定のタイミングで揚げて提供、といった手間がかかる「釜揚げうどん」「釜玉うどん」、ラーメンなどを並行して作る……客側は美味しいからいいようなものの、現場のオペレーションの大変さがうかがえる。
なぜ、回転寿司店がここまで、うどん・ラーメンにこだわるのか?「くら寿司」広報の方に、いろいろとお話を伺ってみた。
回転寿司店のうどん・ラーメンは「広くお客様に喜んでいただくため」

オーダーレーンを流れるお寿司(筆者撮影)
「くら寿司」広報の方によると、同社の店舗は小さな子供連れのファミリーや、グループで食事を楽しむ方も多い。そうなると、生魚がメインの寿司を食べられない人々もおり、こういった人々のためにも、ラーメン・うどんやケーキ、おつまみなどの多様なメニューを取り揃えることで、様々なお客様のニーズに応えられるという。
そして、「くら寿司」が掲げているのは「専門店を超える味の追求」。うどん店・ラーメン店などに行かずとも、「くら寿司」に行けばまとめて満足できるようなサイドメニューを充実させている。
また、サッとお腹を満たしたいランチ利用でもうどん・ラーメンは人気で、「お寿司と一緒に楽しめるほどよい分量というのもポイント」だという。回転寿司店で手ごろな麺類があれば、「うどん・ラーメン+お寿司」の組み合わせをカスタマイズできるようなもの。お寿司屋さんなのに麺類が本格的で美味しいと、ちょっと得した気分になるだろう。

うどんを高速レーンで運ぶために、留め具付き容器で固定している(筆者撮影)
「くら寿司」は他社に先駆けて麺類を充実させており、比較的早くにヒット商品に恵まれた。だからこそ、既製品やパックでいいはずのうどんに関しても、厨房でしっかり調理するノウハウを得ることができたのだろう。
「くら寿司」では寿司よりうどん・ラーメンを先に頼む方も多いといい、「回転寿司だけでない、サイドメニューの充実」の先頭を切ったうどん・ラーメンの存在が、同社にとってかなり重要なものであることがうかがえる。
「くら寿司」の釜揚げ・釜玉は冷凍 しかし「侮れない!各社の冷凍技術」

くら寿司【讃岐】釜揚げうどん アップ(筆者撮影)
さて、こだわりの「讃岐うどん」極太麺は、どう開発したのか……「くら寿司」広報の方に伺ったところ、釜揚げ・釜玉うどんは「3年をかけて開発、麺はメーカーさんに弊社用に製造いただいているものです」とのこと。店内で粉と水の状態から練り上げている専門店と比べて、どうなの? と思いがちだが……実は、今どきの「冷凍讃岐うどん」は、結構スゴい。
冷凍うどん世界シェアの全国1位を誇る「テーブルマーク」は香川県観音寺市で創業、旧社名の「加ト吉」時代から、冷凍食品の歴史を作ってきたパイオニア企業だ。香川県綾川町(綾上工場。釜玉うどんの元祖「山越うどん」の近く)、名水の里・新潟県南魚沼市などに工場を持ち、「讃岐」だけでなく、「稲庭」など全国のご当地うどんを次々と開発・販売している。
また「四国日清食品」は、旧社名の「ピギー食品」時代から独自の凍結技術を持ち、「恐るべきさぬきうどん」で激賞され、いまも「名店並みに美味しい冷凍讃岐うどん」として知られる。もちろん、日清傘下となったあともノウハウは健在だ。
この2社だけでなく各社とも技術を持っているため、いまの冷凍食品各社の技術をもってすれば、「くら寿司」の求める「太く、伸びにくい」極太麺という要望に応えるのはお手の物だろう。なお、香川県は冷凍うどんの盛んな出荷もあり、冷凍食品全体の出荷額が全体の9.65%、堂々の全国トップだ。(2021年 総務省・経済産業省調べ)
これがうどんメインの専門店だと、コストがかさむ冷凍輸送より、店内で粉を自ら練ったほうが安上がりだ。ここは、回転寿司店の注文頻度だから提供できているといえるだろう。

丸亀製麺の「釜揚げうどん」。創業店にて(筆者撮影)
なお、昔の都内で「讃岐うどん」といえば、麺のパックを開けて既製品のダシをかけただけの雑な店もよく見かけた。今や「丸亀製麺」「はなまるうどん」「こがね製麺所」などチェーン店や個人店など、各店ともしっかりと品質を保っている。かつ「くら寿司」でもこだわりの讃岐うどんをいただけるとなると……有難い世の中になったなぁ、と痛感するとともに、どの店でうどんを食べていいのか、さらに迷ってしまう。ぜいたくな悩みなのだろう。