ガザ和平案に至るまで イスラエルの「一撃」が道開く

イスラエルが4日、軍部隊がガザで引き続き作戦を実行中で住民の帰還を控えるよう警告したと発表したことを受け、パレスチナ人は南方に避難している

米政府や中東諸国の仲介者らは数カ月前から、ガザでの衝突を少なくとも一時的に停止させ、イスラエル人の複数の人質を解放する合意案を取りまとめようと尽力していた。だがその努力が実を結ばなかった一方、最終的にはある戦闘行為が、紛争を完全に終結させる野心的計画の舞台を整えることとなった。

イスラエル軍は9月9日、イスラム組織ハマスの複数の交渉人がいるカタールのオフィスをミサイルで攻撃。交渉人たちはドナルド・トランプ米大統領が示した最新の停戦案について協議するため、現地に集まっていた。

カタールは米国にとって安全保障上の主要なパートナー国だが、その国土へのミサイル攻撃はトランプ氏にはほとんど警告がなく、カタール政府は何も知らされていない中で実施された。

米国とイスラエル、そしてハマスの重要な仲介役を務めるカタールやペルシャ湾の近隣諸国は激怒し、イスラエルに事態の収拾を要求。トランプ氏と中東担当米特使のスティーブ・ウィットコフ氏は、和平に向けた努力が水泡に帰すことを恐れた。だがトランプ氏はその中で、危機的な状況を自身にとって有利なものに変える判断を下した。

イスラエルによるミサイル攻撃は中東諸国にとって、同地域の緊張が激化する危険性を痛感させるものであり、和平に対する思いはさらに強まった。またイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がその後に控えめな姿勢を取ったこと、さらにハマスの指導者たちがホスト国にとって大きなリスクになりつつあることを受け、トランプ氏の影響力は高まる結果にもなった。

トランプ氏とその側近たちはさらに尽力を続け、3週間にわたるシャトル外交を実施。イスラエル、カタール、そしてサウジアラビアの高官たちとの頻繁な会談の後、トランプ氏はホワイトハウスでカメラの前に立ち、自身の計画を発表した。その傍らに立っていたネタニヤフ氏はこの計画を受け入れ、戦争を終わらせる意思があると述べ、中東諸国やイスラムの指導者たちもそれに続いた。

トランプ氏はこれが「文明史上、最も偉大な日の一つになる可能性がある」とした。

トランプ米大統領は9月、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相を迎えた際、親指を立てるポーズを見せた

複数の関係者によれば、ウィットコフ氏とトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏は、ネタニヤフ氏の腹心のロン・デルメル氏や、カタールとサウジアラビアの高官たちと協議を行い、その中では議論が白熱したこともあった。

だが本当に困難な作業は、これから始まることになる。トランプ氏のチームがまとめた合意案は、戦争の初期にも示されて頻繁に議論されてきた要素が反映されているが、その中には関係者らが不満を示している条項も含まれている。

ネタニヤフ氏はパレスチナ国家への本格的な言及や、ヨルダン川西岸の一部を統治するパレスチナ自治政府による関与に反発。一方でハマス側は完全武装解除に歯向かい、イスラエルが撤退することをより確実にすることを望んでいる。

さらに中東諸国の政府は、この協定がハマスにはあまりにも厳しく、パレスチナ国家の樹立に向けた道筋についてはほぼ内容がないことから、自国民に売り込むことができないと懸念している。

その結果、この案が完全に受け入れられることはないと多くの関係者が内心では思っているものの、誰も公には否定できず、我慢比べの状況となっている。トランプ氏はその中で和平案に対するためらいに目を向けることなく、各国から支持が表明されたとして自身の道を突き進んでいる。

トランプ氏は数日以内にクシュナー氏とウィットコフ氏のチームをエジプトに派遣する予定。両氏は人質解放の取引を成立させ、より広範な計画を推し進めようとしている。またデルメル氏を含む高官で構成されたイスラエル代表団も、間もなくクシュナー氏とウィットコフ氏と会うことになっている。

本記事はホワイトハウス、イスラエル政府、そして中東諸国の政府関係者へのインタビューに基づいてまとめられた。

トランプ氏がまとめた計画の主な要素は20項目で構成されており、いずれもいかなる合意であっても必要なものだと以前からみられていた。その中にはハマスが人質を引き渡して権力を放棄すること、イスラエルがガザから軍を撤退させること、さらに中東諸国の国際部隊がガザの治安を確保することなどが含まれる。またパレスチナの政治家ではない専門家(テクノクラート)が、ガザを管理することなどにも言及している。

イスラエル・ガザ境界のイスラエル側にある軍用車両(3日)

だが数カ月にわたって横断的な懸念が示されたことから、この案が支持を得ることは不可能とみられていた。ハマス側は戦争終結が保証されない限り、残りの人質は解放しない意向で、イスラエルもハマスが無力化されるまでガザから完全に撤退する考えはなかった。中東諸国も、軍を派遣してイスラエルのために働く占領者のようになることを嫌がり、条件としてパレスチナ国家樹立への決意が案に含まれることを求めていた。

こうした状況を背景に、交渉担当者たちは春から夏にかけて、戦争を解決するための包括的な取り決め議論するか、一時的な停戦と引き換えに人質を解放する、より達成可能な限定的な議論をするかで一進一退を繰り返した。だが協議では、どちらにもほとんど進展はみられなかった。

ネタニヤフ氏はこれらの会談で強硬路線を取り、ハマスの降伏を要求。外交よりも軍事行動による紛争解決に重点を移した。

その中で戦争に対する国際的な警戒感も高まっていった。イスラエルは今年の春に、ガザへの援助を2カ月半にわたって禁じたため、現地では食料が極端に不足。国際的な専門家たちは、100万人のパレスチナ人が避難しているガザ市周辺で飢饉(ききん)が発生したと宣言した。パレスチナ保健当局によれば、戦争で死亡した人の数は6万人をはるかに超えたが、そのうちの何人が戦闘員であったかは明らかにされていない。イスラエルはその後、食糧援助の制限を緩和したものの、ガザ市を占領するための大規模な攻撃計画も発表している。

これを受けイスラエルの同盟国であるドイツは武器供与を停止したほか、多くの欧米政府は9月下旬の国連総会でパレスチナ国家を承認する意向を示した。

イスラエルはこの動きを受け、将来的な国家の中心となるヨルダン川西岸地区を併合する可能性を示唆。これは中東諸国の政府にとって、越えてはならない一線でもあった。

アブラハム合意の主要当事者であるアラブ首長国連邦(UAE)は、これによってトランプ氏の外交における看板政策が危うくなると公に警告。ドーハへのミサイル攻撃が実施されたのは、その後のことだった。

ホワイトハウスによればトランプ氏は米軍から攻撃を知らされた。軍はイスラエルからあまり明確でない警告を受けた後、宇宙空間に配備されたセンサーがミサイルを感知したことで、標的がドーハであることを突き止めたという。

カタール首都ドーハでイスラエルの攻撃を受けて爆発が起き、立ち上る煙(9月)

トランプ氏はその後、ウィットコフ氏に対してカタール政府に警告するよう指示。だが警告が伝わったのは、ミサイルが着弾した後だった。ウィットコフ氏はその数日前には、和平交渉の条件を詰めるため、マイアミの自宅でデルメル氏とクシュナー氏と協議を行っていたが、デルメル氏は攻撃について何も言及していなかったという。

ウィットコフ氏とクシュナー氏は、攻撃に加えて事前の通知がなかったことに憤慨。「これは友人のすることではない」とウィットコフ氏は後にデルメル氏に伝えている。

一方のトランプ氏はいら立ちを爆発させ、より率直な反応を示した。複数の政府関係者によれば、トランプ氏はネタニヤフ氏について、「彼は私をばかにしている」と述べた。

米国のパートナー国であるペルシャ湾岸諸国もミサイル攻撃に激怒した。中東地域の各政府がほぼ一致した意見を示したことには、ホワイトハウスやネタニヤフ氏も驚いたという。

カタールは多くの湾岸諸国と同様、裕福だが規模は小さく、米国による保護に依存している。その中でのミサイル攻撃は交渉を混乱させただけでなく、この地域全体の安全意識や米国への信頼を失わせるものとなった。

カタールはミサイル攻撃を受けた後、イスラエルとの情報共有を含むすべてのコミュニケーションを断ち、話し合いのテーブルに戻る前に謝罪を要求。カタールのムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニ首相は米首都ワシントンを訪れ、JD・バンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官と会談した。

サーニ氏はその夜、ニューヨークのトランプタワーを訪れ、トランプ氏とウィットコフ氏と夕食を共にした。ある政府高官は、米国側がトリアージ(負傷者の処置の優先順位を決めること)のような状況に陥っていたと説明。トランプ氏はサーニ氏に対し、米政府がイスラエルの攻撃とは無関係だと断言した。また政府としてこのようなことが二度と起こらないように努力し、和平交渉を軌道に戻したいとも伝えた。

サーニ氏がウィットコフ氏に連絡を取り、ある考えを提案したのはその数日後だった。国連総会が迫る中、トランプ氏はガザに関する米国の和平案に関し、中東・イスラム諸国の指導者たちとの会合を開催することに前向きか、と。そう聞かれたウィットコフ氏はトランプ氏に電話をかけ、トランプ氏は迅速に同意したという。

ウィットコフ氏、バンス氏、ルビオ氏、そしてクシュナー氏はこの会合に先立ち、頻繁にトランプ氏と協議を行い、米政府として達成したい内容を確認。この機会を利用して、戦争を終わらせたいとするトランプ氏の考えは明確だった。同氏は断片的な合意ではなく、これ以上の戦闘や人質もなくし、ガザの復興に着手することを目指していた。

ウィットコフ氏とクシュナー氏はこれを受け、会合で提示する案の起草に取り組んだ。数カ月の交渉では米政府によるもの、フランスによるもの、さらにサウジアラビアによるものなど複数の案が浮上。またトニー・ブレア元英首相も自身の案をまとめていた。トランプ氏のチームはそれぞれの最良の要素を組み合わせて、単一の計画を作ることを決定。米国とイスラエルがそれまでに協議していた約7項目の計画は、21項目の提案に発展した。

トランプ氏は9月23日、国連年次総会に合わせて開かれた中東・イスラム諸国の指導者たちとの会合を主宰し、政府の計画案を提示。合意成立への意欲を改めて表明し、ウィットコフ氏に対して米国の構想を概説するよう求めた。ウィットコフ氏は迅速性を重視し、21項目を約10の主要なアイデアに絞り込み、詳細には触れずに説明を行った。

トランプ大統領は9月の国連総会で、カタール、ヨルダン、トルコ、パキスタン、インドネシア、エジプト、UAE、サウジアラビアの首脳らとの多国間会議に出席した

中東・イスラム諸国の指導者らは会合後、計画の進展について前向きなコメントを口にした。これら指導者は舞台裏では結束して対応することを決め、計画に盛り込まれるべきだと合意した項目を起草。トランプ氏は彼らの懸念が対処されること、そしてネタニヤフ氏に圧力をかけることを約束した。この中にはイスラエルによるヨルダン川西岸併合を阻止することも含まれた。

ウィットコフ氏とルビオ氏はその後も、中東諸国指導者たちの考えを最終草案に組み込むため、彼らと数回会合を持った。

カタール政府は戦争終結への明確な道筋と、パレスチナ国家樹立を含む和平プロセスを要求。エジプトは、パレスチナ自治政府がより大きな役割を果たすこと、そしてこれを支持する国連決議なしには、ガザの治安確保に協力しないと述べた。

中東諸国はまた、イスラエル軍がガザから完全撤退する確約と、ヨルダン川西岸が併合されない保証も求めた。さらに面目を保つため、ハマスに対して兵器を破壊するのではなく、放棄することを求めるよう提案。各国指導者たちは先週半ばには、期待していた影響力を示せたとの安心感を抱いて、会合を後にした。

ネタニヤフ氏は週明けにはホワイトハウスでトランプ氏と会談する予定であったことから、米国チームはイスラエルを計画に参加させることへと焦点を移していった。

ガザ地区への介入能力が制約されることを懸念するイスラエルは、パレスチナ国家樹立を阻止したい考えで、独自の修正案を推し進めることに躍起になった。結果的に、中東諸国が示した変更の多くが元に戻されることになった。

ウィットコフ氏、クシュナー氏、デルメル氏、そしてネタニヤフ氏は週末を通じて作業を継続。クシュナー氏宅からウィットコフ氏の部屋、そしてイスラエル側が宿泊するロウズ・リージェンシーを行き来しながら、数時間に及ぶ難しい協議を重ねた。複数の当局者が新たな案を議論したほか、他国首脳たちとの会話についての報告のため、フロア間を繰り返し移動する様子もみられた。

ネタニヤフ氏は協議に参加するため、ニューヨークで予定していた複数の公式行事への参加を取りやめた。「今夜、皆さんと直接お会いしたかった」と、青白く疲れた様子のネタニヤフ氏は、保守系メディアのジューイッシュ・ニュース・シンジケートとの会合で上映されたビデオの中で説明。「しかし、それが難しい状況となってしまった」と付け加えていた。

UAEのアブドラ・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン外相はネタニヤフ氏と会談するため、約1時間にわたりロウズを訪れた。その際には紛争を終結させる時が来たことを明確に伝えたという。

中東諸国の指導者らが計画の最終版を見た際には、各国が求めた変更の多くが迂回(うかい)され、反対する多くの修正が盛り込まれていることに驚いた。またイスラエル軍がいつ撤退するかについての具体的な記述はなく、パレスチナ国家への言及も弱められていた。

ガザ市に対するイスラエル軍の軍事作戦中に空爆を受けて立ち上る煙(3日)

トランプ氏が計画を発表する直前、中東・イスラム諸国は米国に対し、これはもはや彼らが支持することに合意した内容ではなく発表は延期されるべきだと懇願。だがトランプ氏は予定通りに話を進めた。

同氏はホワイトハウスでネタニヤフ氏と並んで20項目の計画を発表し、「これは誰もが予想していたよりもはるかに大きなものだ」と説明。「だが、中東諸国やイスラエル周辺国、そしてイスラエルの近隣諸国から得られた支持の大きさは信じられないものだった」と付け加えた。

イスラム諸国は案を支持する共同声明を発表する決定を下したが、イスラエル軍の完全撤退とパレスチナ国家への確約を求め続けることも決めている。その中でいくつかの成果も達成し、ガザ復興中のパレスチナ人移住に関するトランプ氏の計画は取り下げられている。

トランプ氏はまた、カタールへの攻撃についてネタニヤフ氏に遺憾の意を表明させることにも成功した。謝罪を行うことは精神的にも良いものだと、トランプ氏はネタニヤフ氏に伝えた。

UAEのムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領は今週、カタールの報道機関アルジャジーラとのインタビューで和平案について語り、「明確化が必要な事項があり、確実に議論と交渉が必要な事項もある」と述べた。米政府は非公式にはこれらの交渉が展開されることを容認する意向だが、表向きにはトランプ氏はこのような考えを認めておらず、合意の成立を求めている。

ハマスは3日夜、トランプ氏の計画を受け入れると表明した際、人質解放を戦争終結やイスラエル撤退に結び付けるなど多くの条件を付けた。中東諸国の一部交渉担当者は、この回答を目にしてこれは「拒否」に相当すると結論付けた。

だがトランプ氏はソーシャルメディアへの投稿で異なる見方を示し、「ハマスが発表した声明に基づき、彼らは永続的な平和の準備ができていると信じている」とした。