固体燃料ロケットの新しい燃料候補「二ホウ化マンガン」の安定合成に成功

ロケットを宇宙に飛ばすには膨大な推進力が必要であり、その源として専用の燃料と酸化剤が使われます。特にエネルギー源となる燃料は重要であり、体積や重量当たりのエネルギー効率が高い物質であるほど高性能な燃料であることになります。

ニューヨーク州立大学オールバニ校のJoseph T. Doane氏などの研究チームは、固体燃料ロケットで使用される燃料の候補に長年挙げられながら、これまで安定して合成する方法が見つかっていなかった「二ホウ化マンガン」について、純粋なものを安定合成する方法を見つけました。これは固体燃料ロケットの燃料として広く使われているアルミニウム粉末と比べて、体積当たりでは148%もエネルギー効率が良い物質です。

また、これだけエネルギーを蓄えていながら、条件が整わなければ火で直接炙っても燃えないなど、安全性が高いという特徴があります。

「二ホウ化マンガン」は固体燃料ロケットの潜在的な燃料候補

地球の重力に逆らってロケットを宇宙に飛ばすには、膨大な推進力が必要となります。この推進力は、ロケットに積まれた「燃料」と、燃料の燃焼を助ける「酸化剤」を混合・燃焼させることで賄われます。

しかしそれでも、求められる推進力が膨大であるために、ロケットの体積と重量の大半が燃料と酸化剤に費やされます。端的に言えば、ロケットはほとんど燃料と酸化剤の塊とも言えます。

このため、高性能な燃料を使うほど、ロケットの効率が良くなり、ロケットの打ち上げに掛かる全体のコストが低下します。高性能な燃料とは、体積当たりや重量当たりで比較した時に、より多くのエネルギーを放出する物質を指します。

ロケット燃料には固体燃料を使うものと液体燃料を使うものがありますが、このうち固体の燃料を使うタイプの場合、現在広く使われているのは「コンポジット推進薬」です。これは、「アルミニウム粉末」と「ポリブタジエンなどの合成ゴム」を燃料として、ここに「過塩素酸アンモニウム」などの酸化剤を加えた混合物です。

【▲ 図1: 二ホウ化マンガンの結晶構造。わずかに歪んだ六角形で構成されているホウ素のシート(緑色)に、マンガン原子(灰色)が挟まる構造をしています。(Credit: Joseph T. Doane, et al.)】

もちろん、固体燃料ロケット用の新しい燃料の研究開発も続けられています。いくつかの候補の中で注目されているものの1つが、マンガン原子とホウ素原子が1:2の割合で結合した「二ホウ化マンガン(MnB2)」です。これは金属二ホウ化物の1種として1960年代から研究がされていた化合物で、長年潜在的な燃料の候補でした。その理由は、化学構造に歪みがあるためです。

化学構造に歪みがある状態とは、たとえるならば、バネつきの蓋を押し込み、ツメでひっかけてロックしたようなものです。ロックを外せばバネが押し戻され蓋が勢いよく開くように、歪みが解消される際に大量のエネルギーを放出します。化学構造に歪みがある物質を合成できれば、小さな体積に大量のエネルギーを押し込むことができます。

二ホウ化マンガンは、それぞれが六角形に結合したホウ素のシートの間にマンガンが入り込むサンドイッチ構造をしています。しかしこの六角形構造は完全に正六角形ではなく、わずかに歪んでいます。この、正六角形から歪める分だけの力がエネルギーとして蓄えられていることになります。

瞬時の加熱と冷却で合成に成功!

しかし、二ホウ化マンガンの合成が難しいことが実用化を阻んでいました。そもそも、化学構造に歪みがある物質は、歪みがない物質と比べて不安定であるため、合成が困難です。二ホウ化マンガンの場合、最低でも1100℃以上の高温を与えなければ合成できないことが理論的に示されていますが、これだけでは不十分です。

過去の合成実験から、単に高温を与えても二ホウ化マンガンを上手く合成できないことは知られていました。まず、これほどの高温では金属マンガンが蒸発してしまうため、原料物質からマンガンが逃げ出し、マンガンとホウ素の理想的な比率から変わってしまいます。また二ホウ化マンガンは不安定であるため、高温環境ではすぐに四ホウ化三マンガン(Mn3B4)と単体ホウ素に分解してしまいます。これらはいずれも燃料にはならない不純物となってしまいます。

ニューヨーク州立大学オールバニ校のJoseph T. Doane氏などの研究チームは、過去の研究結果を元に安定した合成条件を探りました。過去の合成実験を踏まえると、加熱時間をなるべく短くし、その後急冷することで、金属マンガンの蒸発と二ホウ化マンガンの分解を最小限に抑えられることが示唆されます。

【▲ 図2: 二ホウ化マンガンの合成の様子。アーク放電により3000℃以上の高温になっています。(Credit: Joseph T. Doane, et al. / Photo: Brian Busher)】

そこでDoane氏らは次の合成実験を行いました。原料としてマンガンとホウ素の粉末を混ぜてペレット状に固め、強化ガラスの容器に入れます。次にこの混合物に電流を流し、アーク放電による熱を与える「アーク溶解炉」の手法で3000℃以上の高温を与えます。最後に、蒸発や分解を防ぐため、加熱は1分以内とした後、ほぼ室温に相当する9℃まで急冷します。

これによって得られた生成物を様々な手法で分析した結果、純粋な二ホウ化マンガンの合成に成功しました。合成された二ホウ化マンガンの性質は、理論的に予測されたものと一致しています。

エネルギー保持と安定性を兼ねた物質

今回合成された二ホウ化マンガンが固体燃料ロケットの燃料として優れているのは、保持しているエネルギー量の多さだけではありません。まず二ホウ化マンガンは、化学構造が歪んだ不安定な物質と説明しましたが、歪みを解消するような条件が整わない限りはかなり安定しています。

【▲ 図3: 二ホウ化マンガンに火を近づける実験の写真。加熱されてはいるものの、二ホウ化マンガンは燃焼していません。(Credit: Joseph T. Doane, et al.)】

実際、二ホウ化マンガンの燃焼実験では、(実際のロケットの燃料としても使われる)灯油に混ぜると燃えるものの、二ホウ化マンガン単独では、たとえ火で直接炙っても燃えませんでした。アルミニウム粉末ならば同じ条件で簡単に燃えてしまいます。エネルギーを多く保持しながらも、条件が整わなければ燃焼しないという特性は、燃料を取り扱う上での安定性・安全性を高めます。

この性質は保管時にも発揮されます。アルミニウム粉末を湿度が高い空気に晒せば簡単に酸化してしまいますが、二ホウ化マンガンは大気に2週間以上晒しても酸化の兆候が見られませんでした。

もし二ホウ化マンガンが固体燃料ロケットの燃料として利用できるならば、1gに3万9360ジュール、あるいは1立方cmに20万8080ジュールという大量のエネルギーを詰め込むことができます。これはコンポジット推進薬に使われるアルミニウム粉末と比較して、重量当たりでは26%、体積当たりではなんと148%もエネルギー効率が改善することになります。しかも、条件が整わなければ燃焼や分解しないという特性は、取り扱いを簡単にするという点でも重要です。

余談ですが、今回の合成実験は、初めから二ホウ化マンガンの合成を目指したものではなく、偶然からスタートしています。ホウ化物は極めて硬く、中にはダイヤモンドと肩を並べるものもあります。Doane氏らはそのような硬質材料を見つけるための合成実験中に、マンガンホウ化物が鮮やかなオレンジ色に輝くのを目撃したことをきっかけに、今回の合成実験を思いつきました。合成中に生じた光は、まさにこの化合物が潜在的に秘めているエネルギーを示していました。このような気づきを大事にしたことが、今回の発見に繋がったとも言えます。

ひとことコメント

膨大なエネルギーを蓄えている一方で、条件が整わないと燃えない。優れた特性と安全性を両立しているよね!(筆者)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

・Joseph T. Doane, et al. “Violations of Coordination: Exploring Metastable Diborides via Energetic Transition Metals”.(Journal of the American Chemical Society)

・Erin Frick. “UAlbany Chemists Create New High-Energy Compound to Fuel Space Flight”.(University at Albany)