73歳になったプーチン氏が決して語らない「戦争」終結の困難さ。ロシア経済は「まだ耐えられる」けれど…

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か, 政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」, ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由, 歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

プーチン大統領は誕生日の翌日10月8日にタジキスタンを訪れた。左はタジキスタンのエモマリ・ラフモン大統領。公式歓迎式典に出席した際の様子。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が先週10月7日、73歳の誕生日を迎えた。69歳だった時に開始したウクライナ侵攻から、3年半が経過したことになる。ロシアはいつまで戦争ができるのか。素朴だが本質的な疑問である。

ヨーロッパとロシアの経済・金融分析を専門とする立場から答えれば、経済的には戦争は継続できるが、政治的には確実に困難となっているという見方が妥当だろう。ロシアとウクライナの戦争は、ウクライナにとっては総力戦だが、ロシアにとっては局地戦である。国力に鑑みれば、両国の差は著しく大きい。

資源もあるため、ロシアには、まだ戦争を続けるだけの余力があると考えられる。ロシア経済は減少、軍事ケインズ効果(軍需が景気をけん引する力)が一服し、軍事スタグフレーション(軍需が民需を圧迫し景気が停滞する局面)に陥っている。その意味で経済は厳しいが、とはいえ直ぐに立ち行かなくなるという危機的状況ではない。

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か, 政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」, ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由, 歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

軍服を着た女性交通誘導官。ロシアのビクトリーパレード80周年を記念した展覧会「イマーシブ・オープンエア・ミュージアム」にて(2025年6月撮影)

ロシア経済の課題は、基本的に「軍需拡大」がどんな悪影響として表れるかで語ることができる。(1)民需圧迫にともなうインフレ、そして(2)都市部の国民にも生活水準の低下が顕在化する ── ことだ。

まず、ロシアの経済活動に占める軍需部門は着実に膨張している。戦争を継続する限り、軍需部門は今のままか、あるいはもっと膨張する恐れが大きい。そうなれば民需部門が一段と圧迫されるため、政府は経済運営の統制を強める必要がある。この過程ではインフレがどうしても強まるから、政府は価格統制を実施するかもしれない。

また軍需が優先されるから、軍需以外の公需は減退する。つまり政府は、国民に対して、軍事サービス以外の公共サービスを提供し難くなる。福祉の水準が低下すれば、国民の生活は自ずと苦しくなる。それに、現在は農村部を中心に徴兵が行われているが、それが都市部にも及ぶことになる。都市部の国民も、戦争を実感することになる。

かつて日本もそうだったが、戦争はまず、農村部の社会経済を疲弊させる。都市部の国民が生活水準の低下というかたちで戦争を実感するのは、戦争もいよいよ厳しさを増してきた段階である。

2022年以降、現在までにモスクワやサンクト・ペテルブルクなどロシア都市部を訪問した識者は、生活水準の低下が感じられなかったという声が多いが、それは当然だろう。

政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か, 政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」, ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由, 歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

ロシア軍が用いるシャヘドドローンのデコイ(おとり)バージョンとして設計された「ガーベラ」の残骸を調べるウクライナ当局者。

プーチン大統領には、都市部の国民が戦争を実感する前の段階で、ウクライナとの戦争をどうにか終幕させたいという考えがあるのではないだろうか。プーチン氏はロシア国民の支持を極めて重視する。現に国民は、生活が相応に安定しているため、独立系調査会社レバダセンターの世論調査(9月時点)でも87%がプーチン大統領を支持している。

いわばプーチン体制は、国民の生活の保障の上に成り立っているからこそ、それが崩れてしまえば、体制そのものが大いに揺らいでしまう。都市部の国民生活の動向が重要な理由はここにある。

ここで問われてくるのが、ウクライナとの戦争を継続した場合、国民の生活水準が著しく低下する恐れが強いことだ。経済運営に際して軍需を優先し、民需を後回しにする統制が強まるためだが、これはプーチン大統領としても避けたい状況だろう。

それに、ロシアにとっては局地戦とはいえ、すでに3年以上もウクライナとの間で戦争が続いている。これは近代戦の中では、かなり長期の部類に入るのではないか。3年以上も戦争が続けば兵士の疲労も相当なものだ。そもそも3年も戦争をしているのに、なぜ勝てないのかと疑問を持つ国民も増えるだろう。

政権にとっての最優先事項は、「プーチン体制をどう継続させるか」だ。

73歳という年齢は国のトップとして相応に高齢でもあり、健康寿命が自ずと意識される年齢である。禅譲するにせよ、院政を引くにせよ、健康なうちに表舞台から去るに越したことはない。プーチン氏の後継者問題は、戦争前から一貫していたロシア政治の課題だ。

後継の体制を国民が支持するかどうかカギを握るのも、やはり生活の保障にある。戦争が長引けば長引くほど、国民の生活の安定は脅かされる。経済的にはまだまだ戦争は継続できるが、その領域に足を踏み込むことは、政治的に自らの首を絞めることになりかねない。

このアンビバレントな状況に、ロシアは差し掛かっていると筆者は考えている。

ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か, 政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」, ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由, 歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

ウクライナのドローン操縦者。現代戦で重要な兵器になったドローンの操縦者は、ウクライナ、ロシア両陣営にとって「高価値目標」となっている現実がある。

だからといって、戦争のクロージングを図ることもまた容易ではないのが、この戦争の難しさだ。経済的には、戦争が終わることで軍需が萎み、景気に強い下振れ圧力がかかることになる。日本も日露戦争後、軍需が急激に萎んだため、深刻な不景気に陥った経験がある。だから、停戦を意識するなら、慎重かつ段階的に軍需を縮小させていく必要がある。

また政治的にも、国民を納得させられる「具体的な戦果」が必要だ。実効支配下にあるウクライナ東部の編入か分離・独立かは分からないが、少なくともそうした具体的な果実が無ければ、ロシア国民の不満は募る。同時に、支配下に置いた地域をロシアは復興させる必要がある。これも重い負担だ。これらの課題をクリアしながら、同時に体制を支える国民の生活水準をキープする必要がある。

つまるところ、ロシアは戦争のクロージングを図る際にも難しい課題に迫られるということだ。複数に困難な問題を同時並行で片づける胆力が、プーチン政権には求められる。

それでも、プーチン大統領という強烈なリーダーシップを持つ指導者がいるうちは、ロシアは何とか回り続けると考えられる。

本当の問題は、ロシアを取り巻く環境がプーチン大統領の存命期間中に改善する見込みが立たないことだ。プーチン大統領の後の指導者に、体制を引き継げるだけの強力なリーダーシップがあるかどうか。ロシアにとって、この難問は最後まで残り続ける。

歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

プーチン73歳の「ロシア経済の課題」とは何か, 政治的には苦しさを増す「ロシアの継戦能力」, ウクライナ侵攻のクロージング難度が「深刻」な理由, 歴史は繰り返すのか。旧ソ連時代の「侵攻」と似た構図

ゴルバチョフ元ソ連大統領とプーチン大統領(2004年撮影)。

今のロシアの状況は、事実上の前進国家であるソ連のアフガニスタン侵攻時の状況によく似てきたのではないか。

ソ連は1979年12月、当時のアフガニスタン民主共和国の共産主義政権の要請を受けて、同国に軍事介入を実施した。政権と対立するイスラム勢力の一掃を目指したが、事態は泥沼化し、ソ連は最終的に撤退することになる。

このアフガニスタン侵攻により、当時、ただでさえ停滞していたソ連の経済は一段と悪化し、後の体制の崩壊の遠因になった。今のロシアも、このままだとウクライナとの戦争が泥沼化し、それが経済の停滞に拍車をかける事態となりかねない。

この「ロシアの不安定化」シナリオを回避したいのは、実は中国とインドのみならず、ヨーロッパも同様だろう。ロシアが不安定化すれば、中東と中央アジアに権力の空白が生じかねない。

何かと軽視されがちだが、ロシアが揺らげばユーラシア地域が広く不安定化する。こうした非常に複雑な状況を、73歳のプーチン大統領は果たして収束させることができるだろうか。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です