この地球の酸素と二酸化炭素は、急増したり、急減したり…その度に起こった「地球生物の存在をゆるがす大事件」と、常に安定していた「大気元素」
宇宙で唯一の生命を育んだ「海」、あたりまえのようにそこにある「山」、そしてミステリアスな「川」……。地球の表情に刻まれた無数の凹凸「地形」。どうしてこのような地形になったのかを追っていくと、地球の歴史が見えてきます。
「地球に強くなる三部作」として好評の『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』を中心に、地形に関する選りすぐりのトピックをご紹介します。
- 1ヵ月…………約3億8000万年
- 1週間…………約8800万年
- 1日……………約1260万年
- 1時間…………約53万年
- 1分……………約8800年
- 1秒……………約146年
今回は、前回のプレートテクトニクス開始の後に起こった、地球が丸ごと凍ってしまった大事件「スノーボールアース」を取り上げます。その原因と影響、予想されている解凍の経緯、そして、その後の地球の変化などについて解説します。 この記事で出てくる「地球カレンダー」とは 地球史、およそ46億年という長い時間を感覚的にとらえるために、「地球カレンダー」という物差しを使って記述しています。これは46億年を「1年」に置き換えて、各年代を「日付」で表したものです。46億年を「1年」と換算すると1ヵ月…………約3億8000万年1週間…………約8800万年1日……………約1260万年1時間…………約53万年1分……………約8800年1秒……………約146年なお、年代測定の精度その他の事情によって、研究者の間で必ずしも一致しているわけではなく、また新たな知見により変動が生じることもあります。今回の記事では11月 6日の出来事をとりあげます。
*本記事は 『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』 (講談社・ブルーバックス)の内容を、再構成・再編集のうえ、お届けします。
スノーボールアース事件
地球カレンダーでは「11月 6日」にあたる約7億年前、地球に大事件が起こりました。地表のほとんどすべてが氷に覆われてしまう「スノーボールアース」という現象が勃発したのです。
日本語では「雪球地球」と訳されているスノーボールアースという言葉は、1992年にカリフォルニア工科大学のジョセフ・カーシュビンクが提唱し、その後、ハーバード大学のポール・ホフマンによって大いに広められました。ことの起こりは、アフリカ南西部のナミビアの砂漠から氷河が運んだ堆積物が見つかったことにあります。

ナミビア・カオコベルド地方の風景。氷河堆積物が多数発見されてている photo by gettyimages
氷河の多くは、山岳地帯で形成されます。温度が上がって融けはじめた氷河は、氷の板となって山を下ります。その速度は1日に数十cmから数十mまでとさまざまですが、長時間をかけて大きく移動します。
氷の板といえどもその圧力は強く、山を下るときには周辺の岩石を破壊します。破壊された岩石は氷の中に取り込まれ、ともに移動して下流へと運ばれます。やがて氷の板が融けてしまうと、それ以上は進めなくなり、運ばれてきた岩石はその場所で停止して堆積物の小山をつくります。このような岩石を氷堆石(ひょうたいせき・モレーン)といいます。
ニューヨークのマンハッタンの公園には巨大な花崗岩があり、どこから来たのかわからないことから「迷子石(まいごいし)」と呼ばれていますが、いまでは氷河期に北半球を広大に覆っていたローレンタイド氷床の氷によって運ばれてきた氷堆石であることがわかっています。
ナミビアの砂漠では、この氷堆石からなる地層が見つかったのです。なぜそんな赤道近くの場所に氷河が発達していたのでしょうか?

ニューヨーク、セントラル・パークの迷子石 photo by gettyimages
この疑問から端を発して、当時の地球は表層のほとんどすべてが氷河で覆われていたのだろうとする「スノーボールアース仮説」が提唱されました。現在では、このスノーボールアース事件が過去に少なくとも3回あったと考えられています。約22億年前、それから約7億年前、そして約6億年前です。ただ、最初のスノーボールアースについては、ほとんどのことはわかっていません。
対して「11月6日」に起きた2度目のほうは、その後の地球史に与えた影響がある程度はわかっています。そこで本書では2度目についてとりあげることにします。
このとき、赤道付近でも気温はマイナス50℃まで下がり、地表のみならず、海も水深1000mまで凍りついた状態が数百万年から数千万年続いたともいわれています。当時の地球をもし外から眺めることができれば、まさに雪球のように見えたことでしょう。
スノボールアースの原因
その原因はいまだによくわかっていませんが、もっとも有力そうなのは、二酸化炭素の減少によって、温室効果が小さくなったという考え方です。たしかにこの時代までの海には大量の炭酸カルシウムが沈殿していることから、多くの二酸化炭素が当時の大気から除去されて海水中に取り込まれていたと考えられます。超大陸ができあがると地下のマントルが不活発になり、火山活動が少くなくなって二酸化炭素の供給が減るためという見方もあります。
いずれにしても、いったん地球の表面を氷が覆ってしまうと、太陽の光を反射してしまうアルベドという作用が大きくなるために、太陽の熱は地球を暖めることができなくなるのです。スノーボールアース事件は、海と大気と陸による環境調節のバランスがいったん崩れると、地球も「ハビタブル」な惑星ではなくなってしまうことを物語っています。

スノボールアースの想像図 illustration of a ‘snowball Earth’ by NASA
海底下で命をつないだ生物
当時の生物たちにとって、この事件はいうまでもなく大打撃でした。海が1000mの深さまで凍りついてしまっては、生息できる場所さえなくなります。
ところが、この極限状況下でもかろうじて命をつないだ生物はいました。海底にはわずかに、液体の水が残っていたのです。その大きな理由のひとつに、水という物質の特異な性質があります。水は4℃のときに密度が最大、つまりもっとも重くなります。
また、海水は凍る直前で密度が最大になります。そのため氷よりも下に、海水が液体の状態で存在するのです。もし海を満たしていたものが水ではなかったら、地球生物は全滅していた可能性もあります。
スノーボールアース仮説はまだ提唱されてからまもないため、ほとんどのことがまだはっきりとはしていません。
凍結から解放されてもとの地球に戻った理由は、活発になった火山活動による地熱で暖められたからという説があります。あるいは二酸化炭素の濃度が、火山からの供給の増加、光合成生物の激減などによって再上昇したためという説もあり、結論は出ていません。
どうやら確実なのは、この2度目のスノーボールアース事件の直後に、酸素濃度が急上昇していることです。海底の熱水系から供給され、生物に消費されずに沈殿していた有機物、とくに生命活動の制御に重要なリンが、解凍とともに海の表層に上昇し、そのためシアノバクテリアが大繁殖して光合成活動が盛んになったからと考えられています。
生物を陸上にみちびいたオゾン層
酸素濃度の急上昇は、やがて地球進化における大きなイベントにつながります。3つの酸素原子が結びつき、オゾン(O₃)が生まれたのです。地球カレンダー上では「11月上旬」、先カンブリア時代も終わりに近づいた頃でした。
オゾンとは、天気のいい日に海岸などでにおう、魚が腐ったような臭気をもつ気体です。決して好ましいにおいとはいえませんが、わたしたちにすばらしい恵みをもたらしてくれています。
オゾンはやがて成層圏の中に集まって、オゾン層を形成します。地上から50kmほどの高さのところです。
オゾン層ができたことで、太陽からの光のうち、紫外線がカットされるようになります。紫外線は生物にとっては大量に浴びると危険な光です。オゾン層の形成によって生物は、海水というバリアがなくても陸上にも棲めるようになったのです。ただし、それは地球カレンダーではもう10日ほどあとのことです。

地上から50kmほどの高さにオゾン層が形成されたことで、紫外線がカットされるようになった illustration by gettyimages
地上から50kmほどの高さにオゾン層が形成されたことで、紫外線がカットされるようになった photo by gettyimages
酸素はこのように、わたしたちが呼吸に使うほかにも、きわめて重要な役割を果たしています。地球は「水の惑星」といわれますが、太陽系で唯一、酸素が豊富にある惑星となったことも、わたしたちの生存には欠かせない条件でした(もっとも、その酸素も海から生まれたものですが)。
ところで、わたしたちはふだん、酸素の存在などあまりにも当たり前すぎて、それがなくなってしまう心配などしたこともありませんが、酸素は地表の有機物や鉱物を酸化することで、どんどんなくなってしまう気体です。もし補充がなければ、たちまちわたしたちは死んでしまいます。はたして、酸素が足りなくなることはないのでしょうか。
「大気の王者」窒素
結論をいえば、その心配はないようです。酸素はシアノバクテリアの出現以来、増えつづけていましたが、ある時期からは安定し、大気中に占める割合は現在、約21%です。
それでも、植物が放出する酸素と、動物の呼吸や酸化で消費される酸素は釣りあっていると考えられています。ただし、酸素の供給は植物などによる光合成によってのみなされていることは忘れてはならないでしょう。
では現在、大気中にもっとも多く存在している元素は何でしょうか。それは窒素です。割合でいえば圧倒的で、78%にもなります。しかし、窒素がいつからこのように「大気の王者」となったのかは、実はよくわかっていません。
窒素はその化学的な反応がアルゴンのような不活性ガスほどではないにしてもきわめて遅く、そのために、ややもすれば忘れられがちで、あまり研究もされていない元素です。
窒素の供給元は火山ガスなどの脱ガスで、地球の歴史を通じて見ると徐々に追加されてはいますが、地球の形成に伴ってマグマオーシャンをつくったガスとして放出されたときから、その量はあまり変化してはいないというのが多くの人の考えです。
反応性が乏しいために、酸素や二酸化炭素のような出入りが少なかったからだろうと考えられています。現在の大気中での割合の高さは、酸素は増えつづけていたけれどもやがて安定するようになり、二酸化炭素は大きく量を減らしていった結果、相対的に窒素がもっとも多く残ったからではないか、というのが大方の見方です。
地味に思われがちな窒素はしかし、植物の三大栄養素は窒素、リン酸、カリといわれるように、植物の成長には欠かせない元素です。

窒素は植物の生育に欠かせない元素だ。とくに葉の成長に働くことから「葉肥」と呼ばれる photo by gettyimages
さて、約7億年前のスノーボールアースを境とする酸素の急激な増大をもって、長かった先カンブリア時代は終わりを告げ、現在へと続く顕生代の扉が開かれます。生物が多細胞化して人の肉眼でも見える大きさをもち、「殻」というかたちで化石として明確に残されるようになるカンブリア紀の到来です。地球カレンダーではもう師走も近い「11月中旬」のことですが、地球と海の進化史はこれから佳境を迎えます。
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さて、地球の歴史は着実に進みながらも、平穏無事の時期ばかりではありません。続きましては、またしても地球生物の危機となった「海洋無酸素事件」について取り上げます。