海水温の上昇が「潜水艦戦に大きな打撃」と科学者が警鐘。でも「気候変動のたわごと」と米ヘグセス国防長官

北大西洋で最も顕著な打撃, 探知範囲が半減…唯一の例外は日本海, 気候変動で従来の戦術・技術が時代遅れに, 問われるロシア潜水艦対策, 驚異的なペースで戦力強化する中国

海水温上昇と海中塩分濃度の低下によって潜水艦の探知が難しくなる分、対潜水艦作戦は困難になるという。

  • 世界の海では、海水温の上昇や塩分濃度の変化が進んでいる。
  • 潜水艦戦はその直接的な影響を受ける可能性があり、一部の海域では艦艇の探知がより困難になるだろう。
  • 新たな研究は、対潜水艦戦がこうした変化に適応する必要があることを示唆している。

新たな研究によると、海水温が上昇するにつれて、潜水艦の発見が格段に難しくなる可能性があると指摘している。

艦艇の乗組員は行動パターンを変え、より温かい海域に移動し、音響特性の違いを利用しながら姿を隠すようになるかもしれない。その結果、軍による潜水艦の探知方法も変化する可能性がある。

北大西洋で最も顕著な打撃

潜水艦は、沿岸防衛から通常兵器および核兵器による攻撃オプションに至るまで、さまざまな任務において戦略的に重要な存在だ。特に敵対勢力の近くを航行する際には、重要な海域を静かに動く必要がある。同様に重要なのが、海中における艦艇の音響プロファイルを識別して、敵あるいは対立勢力の潜水艦を探知する能力だ。

潜水艦はしばしば、海上哨戒・偵察機といった航空機、水上艦艇、ほかの潜水艦による受動・能動ソナーによって位置を特定され、追跡される。流体力学的効率を著しく高める設計を持つステルス性の高い艦艇は発見や継続的な追跡がされにくいが、環境もまた探知されにくくする上で重要な役割を果たしている。

2025年3月、研究者のアンドレア・ジリ(Andrea Gilli)氏とマウロ・ジリ(Mauro Gilli)氏が、気候変動が潜水艦戦に及ぼす影響に関するNATO防衛大学(NATO Defense College、NDC)の論文を発表した。前者は上級講師でNDCの上級非常勤准研究員、後者はチューリッヒ工科大学(ETH Zürich)の軍事技術と国際安全保障の上級研究員を務めている。

彼らの研究は、1970〜1999年の水温と塩分濃度の過去の値を比較し、2070〜2099年の将来値をシミュレートした。彼らは「ほとんどの海域で、潜水艦を探知できる範囲が縮小している」と結論づけた。

それは特に北大西洋で顕著となっており、西太平洋では程度は低いものの同様の傾向があるという。それらの海域はいずれも、ロシア、中国、北朝鮮といった敵対勢力に対する抑止と防衛にとって極めて重要な関連性を有すると特定されている。これらの海域の中には、ほかの海域より急速に温暖化しているところもある。

探知範囲が半減…唯一の例外は日本海

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この研究結果は、北大西洋のような一部の海域で潜水艦探知に大きな変化が生じることを示している。

海水温と塩分濃度の変化は、水中における音の伝わり方に影響を与える。その変化は表層の水だけにとどまらない。温暖化が拡大し、氷の融解による水中塩分濃度が低下することで、より深い層にも影響を及ぼす。

2人のジリ氏によると、例えば、北大西洋のビスケー湾沖では潜水艦の探知範囲が60kmから35kmに狭まっていることを発見した。西太平洋の第一列島線と第二列島線の間では、減少幅は10kmから7kmに縮小していた。

ただし、唯一の例外は北朝鮮の潜水艦が活動している可能性のある日本海(東海)だ。この海域では「水の塩分濃度と温度の変化、および海流が複雑に作用している結果」探知範囲が10kmから45kmに拡大する可能性があるという。

気候変動で従来の戦術・技術が時代遅れに

この研究では、潜水艦の探知が困難になるのであれば、探知方法を進化させる必要があるとしている。彼らはまた、これは地球規模の気候変動という現実に対して軍が適応していく過程の一側面であり、環境の変化によって従来の軍事戦術やドクトリン(教義)、技術が時代遅れになる可能性を示していると指摘した。

「状況によっては、潜水艦の探知がこれまで以上に困難になるだろう」と2人は述べた。「この変化はNATOの潜水艦部隊にとって有利に働く一方、NATO対潜水艦部隊にとっては新たな課題となる。現在および将来の潜在的な敵対勢力に対処するためには、より多くの、そして異なる資源が必要になる」。

問われるロシア潜水艦対策

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ロシア、中国、北朝鮮は潜水艦部隊の戦力と能力の強化を最優先課題としている。

このテーマは広く議論されていないが、ほかの研究でも同様の懸念が提起されている。

2023年、防衛エンジニアリング企業アドロイタ(ADROITA)のシステムエンジニア、リース・キッセル(Rhys Kissell)氏は、水温が急激に変化する「温度躍層」が存在する場合、潜水艦の探知が難しくなる可能性があると結論づけた。しかし、温度躍層が存在しない場合は音がより遠くまで伝わる可能性があるため、発見が容易になる可能性がある。これは、隠れることが容易な沿岸や浅い海域よりも、外洋でより大きな影響を及ぼす可能性がある。

そして2024年、ジリ両氏と数名の専門家は、このまま気候変動が海水温と塩分濃度に影響を及ぼし続けると、北大西洋の中緯度では潜水艦の音響探知が著しく困難になり、高緯度では中程度には困難になると報告した。

アメリカとヨーロッパの軍はここ数年、大西洋、北極海、バルト海などで活動を活発化させているロシアの潜水艦への対抗措置を講じてきた。その結果、これらの海域で潜水艦を探知する能力をどう高めるか、同時に自らの潜水艦の潜伏状態をどう維持するかが問われている。

驚異的なペースで戦力強化する中国

一方、中国もまた、潜水艦戦力を強化している。数十年にわたり強力な潜水艦部隊の整備に苦戦してきたが、近年の艦艇はより静粛性と性能が向上している兆候が見られる。これは中国が進める大規模な海軍力増強の一環でもあり、アメリカとその同盟国を警戒させるほどのスピードで軍艦と軍事艦艇を建造している。

北朝鮮は世界最大級の潜水艦艦隊を保有している。艦艇の老朽化を考えると、その運用能力に疑問があるが、北朝鮮は潜水艦とその戦力の再構築を最優先してきた。

今回の新たなNDC報告書のような研究は、気候変動の影響を考慮する重要性を強調している。しかし、アメリカ国防総省の新指導部はそうした懸念を退けている。国防総省のピート・ヘグセス(Pete Hegseth)長官は最近のX投稿で、「国防総省は気候変動のたわごとには関与しない」と述べた。

また国防総省内部では、気候変動への取り組みを排除する動きが進められており、ヘグセス長官はそれらを「税金の無駄遣いだ」と主張している。いくつかの例外はあるものの、こうした取り組みが省内で優先事項とされていた時期は、明らかに過去のものとなっている。