「やかんで撲殺」「ベッド上で刺殺」女性による殺人事件と“男ばかり殺害した”シリアルキラーの壮絶半生

Netflix『アイリーン:シリアルキラーの数奇な人生』独占配信中

アイリーン・ウォーノスが世界に与えた衝撃

当然ながら殺人という行為は、加害者の性別によって語られることは少ない。しかし、ある一人の女性が連続殺人犯として全米を震撼させたとき、その例外性は大きな注目を集めた。1989年から1990年にかけて、米フロリダ州で少なくとも7人の男性を銃で殺害したとされるアイリーン・ウォーノスだ。

高速道路沿いで売春をしていたアイリーンは動機について、客から性的暴行を受けそうになったため「自己防衛だった」と主張したが、後に一部の殺人については金銭目的だったことも認めている。遺体は森林地帯で発見され、いずれも銃撃によるものだった。

アイリーンの犯行の背景には、幼少期からの虐待、ホームレス生活、精神疾患などがあるとされ、裁判ではその精神状態が争点となった。しかし、彼女は1992年に第一級殺人で有罪判決を受け、2002年に死刑が執行される。

この連続殺人事件は大きな注目を集め、2003年には『モンスター』のタイトルで映画化。徹底的な肉体改造でアイリーンを演じたシャーリーズ・セロンがアカデミー賞ほか主演女優賞を総なめにした。

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女性による殺人は“珍しい”のか? 統計から見えてくるもの

殺人事件の加害者は世界的に見て圧倒的に男性が多く、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2023年に発表した<Global Study on Homicide>によれば、世界全体で故意による殺人の被害者の81%、そして加害者(容疑者)の約90%が男性であり、殺人事件が構造的に男性中心に起こっていることが示されている。

その一方で、女性による殺人事件の多くは親密な関係性の中で発生しているのが特徴だ。動機としては、DV被害、精神的疾患、嫉妬、金銭的対立などが挙げられ、男性による計画的・組織的な殺人とは傾向が異なる。殺害手段も銃撃、刺殺、絞殺、鈍器による殴打など多様で、関係性の崩壊や心理的圧迫が引き金となるケースが目立つ。

こうした背景を踏まえると、女性加害者は統計的には少数派ではあるものの、社会的・心理的な文脈を読み解くうえで重要な意味を持つ。以下に紹介する近年の事例は、そうした構造を具体的に示すものと言えるだろう。

「やかん」で撲殺、銃殺や刺殺も…積もり積もった苦悩が暴力に転化

2023年、スコットランド・アバディーンでエリザベス・アン・スウィーニーが男性を「やかん」で殴打し殺害した事件は、女性による極めて暴力的な殺人として注目を集めた。被害者は70か所以上の外傷を負い、加害者には過去にも暴力歴があった。同年、カナダ・オンタリオ州では、女性が同居男性を絞殺。精神疾患の診断を受けており、家庭内暴力の被害を訴えていた。事件後、自ら警察に通報している。

2024年にはロンドン郊外で、女性が元交際相手をナイフで刺殺。長年のDV被害を主張し、裁判では自己防衛の延長が争点となった。2025年6月、米オハイオ州ではジェニファー・ウィルソンが2人の男性を銃で殺害。金銭トラブルと感情的対立が動機とされ、いずれも顔見知りだった。同年7月、フランス・マルセイユでは、女性が元交際相手をナイフで刺殺。嫉妬と関係のもつれが背景にあり、加害者は自ら出頭している。

いずれも加害者と被害者の間に親密な関係があり、動機は感情的・心理的要因に根ざしている。殺害手段は鈍器、絞殺、刺殺、銃撃と多様だが、いずれも蓄積された葛藤が暴力に転化した点で共通していると言えるだろう。

アイリーンは“殺人鬼”だったのか? Netflixドキュメンタリー配信中

BBCとNBCが合作したNetflixの『アイリーン:シリアルキラーの数奇な人生』はアイリーン・ウォーノスの人生と犯罪を、社会的背景と精神的葛藤の視点から再検証するドキュメンタリー。現在独占配信中の本作は前述したアイリーンの事件を扱っているが、単なる犯罪記録ではなく、彼女の生い立ち、社会からの排除、そして「怪物」と呼ばれるに至った過程を掘り下げている。

監督のエミリー・ターナーは、「彼女は“生まれた”のではなく“作られた”存在だった」と語り、アイリーンの人生がいかに暴力と孤独に満ちたものだったかを描く。彼女は幼少期から性的虐待や家庭内暴力にさらされ、10代でホームレスとなり、売春を通じて生計を立てるようになった。その中で「人を信じる感覚を失った」という彼女が殺人に至るまでの心理的変化が、豊富な捜査映像や関係者コメントをもとに丁寧に描写されている。

死刑執行まで8年間にわたってアイリーンと文通していた映画作家ジャズミン・ハーストは、「ほとんど三重苦ね。同性愛者で女性で売春婦」と彼女の境遇を代弁する。かつて獄中のウォーノスと面会した様子を映した冒頭シーンだけで、アイリーンの不思議な魅力に引き込まれてしまうはずだ。

“女性版テッド・バンディ”などと呼ばれるアイリーンだが、このドキュメンタリーを観ればその比喩に違和感を覚えるだろう。4年間にわたって共に各地を転々としたパートナーであり、また殺人を犯すトリガーになったとされる存在、タイラ(ティリア)・ムーアを庇うような発言、そして唯一の親友だったドーンの証言からも、アイリーンの本来の人間性が伝わってくる。

Netflix『アイリーン:シリアルキラーの数奇な人生』独占配信中

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