「AIの次」は量子コンピューター、投資時期が難題

ドイツにあるIBMの量子データセンターに展示された量子チップの模型

量子コンピューティングに改めて注目が集まっている。米グーグルの最近の技術的進歩や、米政府がこの技術に取り組む企業に出資を検討していることが伝わったためだ。だが、この業界に投資して得られるリターンがいくつかの明白なリスクを上回るのは、まだ先のことだ。

米株式市場ではこの数カ月、量子関連銘柄の大半が急上昇しており、量子コンピューティング企業イオンキューの株価は過去6カ月でほぼ2倍に、同業Dウェーブ・クオンタムは4倍超になった。

その熱狂ぶりは、人工知能(AI)と同様に、米国が優位に立とうとしている地政学的な競争の鍵となり得る産業への関心が芽生え始めたことを表している。これはまた、量子コンピューティングの大きな潜在力を反映しているとも言える。

量子コンピューターは従来型コンピューターとは全く異なる方法で計算を行う。量子コンピューターは、0か1のいずれかしか取れないビットでデータを表現する代わりに、一つの量子ビットで0と1の情報を同時に表現できる量子力学的特性を活用している。

この工夫により、量子コンピューターは一度により多くの可能性を処理でき、従来のコンピューターでは永遠に近い時間がかかる問題の解決に道を開く。例えば、強力な量子コンピューターは複雑な分子の組み合わせを迅速に検証でき、新薬の早期発見につながる可能性がある。科学者らはすでに量子コンピューターを使って、太陽電池の効率を上げる材料を特定したり、欧州航空機大手エアバスの航空機性能をシミュレートしたり、電力網を最適化したりしている。

グーグルの量子コンピューター

しかし、性能にはばらつきがある。現時点で最も先進的な量子コンピューターであっても、従来型コンピューターよりも優れているはずの分野で、それを上回る性能を発揮していないことが多い。これは主に、現在の量子コンピューターは電子頭脳の大きさが不十分で、計算エラーを十分確実に訂正できないためだ。

さらに、大規模でエラーのない量子コンピューターの構築は極めて難しいことが明らかになっている。その多くに備わる部品は、量子効果を利用可能にするために絶対零度近くまで冷却しなければならない。量子コンピューターは物理的に大きく、繊細であることが多い。米IBMは約10年間取り組んでおり、最大級に強力な量子コンピューターを製造しているが、その最先端システムでも量子ビット数は156にとどまる。

アナリストらは、量子コンピューターが従来型コンピューターでは解決できない多くの問題に取り組むには、はるかに多くの量子ビットが必要になると述べている。IBMは今年、2033年に2000量子ビットに到達する道筋を示すロードマップ(行程表)を発表した。この分野のリーダーと目されている、もう一つの巨大テック企業であるグーグルは、105量子ビットの量子チップを持ち、1000量子ビットのマイルストーン(節目)達成を目指しているが、そのスケジュールはあまり明確ではない。

グーグルは10月、自社の量子コンピューター用チップについて、特定の計算を従来型コンピューターの1万3000倍の速さで実行できると発表し、量子コンピューティングがもたらし得る進歩の一端を示した。

量子コンピューティング業界を担当するバンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリスト、ワムシ・モハン氏は「今後5年間、あるいは2020年代末を見据えた場合、スケーラビリティ(拡張性)が最も主要な問題となる」とし、「拡張可能にすることができれば、この技術の有用性は飛躍的に高まる」と述べた。

拡張競争の勝者が誰になるかは全く分からない。IBMとグーグルだけでなく、同じ巨大テック企業の米アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトも大量の資金を投入している。量子コンピューティングを手掛ける、相対的に規模の小さい上場企業の一つが躍進し、市場で勝利する可能性もある。あるいは、米サイクオンタムのような新興企業が勝者になるかもしれない。同社はオーストラリアとシカゴで大規模量子コンピューターを構築している。シカゴでは9月に施設の建設が始まったばかりだ。

量子コンピューティングはまだ黎明(れいめい)期にあるため、どの基本的な技術アプローチが最も拡張性に優れるかさえ明確ではない。IBMやグーグルなどの企業は、絶対零度近くまで冷却した材料を使用している。イオンキューなどその他の企業は、空間に捕捉され浮遊する荷電粒子を使用し、サイクオンタムは光の量子特性を利用している。

従って、トランプ政権などの潜在的な投資家にとって、量子コンピューティング現象に投資する道はハイリスクなものしかない(ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は10月下旬、トランプ政権がイオンキューやDウェーブなどの企業への出資を検討していると報じたが、政権側はこの報道を否定している)。数十年前のビデオテープの規格争いでベータマックスがVHSに敗れたのと同じように、現在のアプローチのいずれも簡単に頓挫する可能性がある。政府が早い段階で一つのアプローチを優先的に支援し、それが間違った選択だったことが後に判明した場合、業界の足を引っ張るという逆効果をもたらしかねない。

決着がつくまでにどれくらい時間がかかるかも定かでない。BNPパリバのアナリスト、デービッド・オコナー氏は最近のメモで、量子コンピューティングは今や科学実験というよりも、コンピューターを大きくする方法に関するエンジニアリング問題だと指摘した。それが解決されるまでに3~4年かかりそうだという。

それが実現するかどうかを予測するのは困難だ。しかし、こうした課題が解決されれば、量子コンピューティングは急速に成長し、投資家に大きなリターンをもたらすと思われる。BofAのモハン氏は、量子コンピューティング関連の売上高が2030年までに42億5000万ドル(約6600億円)に達するとみている。これは驚くべき金額ではないが、無視できるほどでもない。米半導体大手エヌビディアの約10年前の売上高とほぼ同じだ。

目下の問題は、量子コンピューティングが投資に値する技術になるかどうかではなく、いつそうなるのかだ。そして、まだしばらくは時間がかかるだろう。