職場で「働かないおじさん」が誕生してしまうワケ

「働かないおじさん」が生まれる原因と、組織が行うべき対策とは?(写真:プラナ/PIXTA)
これ以上頑張っても給料は上がらないから、必要最低限の仕事だけしてやり過ごそうーー。そんな思考に陥る中高年男性を「働かないおじさん」と揶揄する声が、近年SNSなどで散見されている。
【画像を見る】あなたのプロアクティブスコアは?12の質問から実際に測定してみよう
AIの台頭など変化の激しい現代社会で、そうしたミドルシニアはどうすればよいのか、そして組織はどのようなサポートをするべきか。構造的課題とその処方箋に迫る。
データからひもとく「働かないおじさん」
日本総合研究所が実施したプロアクティブ行動に関する調査から、「働かないおじさん」が生まれる構造が見えてきた。
プロアクティブ行動とは、「自分自身のキャリアや組織の環境に対し先見的で、未来志向・変革志向の行動」を指す。
アカデミアの協力のもと、日本におけるビジネスの文脈で使えるようプロアクティブ行動を4つの行動(①革新行動、②外部ネットワーク探索行動、③組織内ネットワーク構築行動、④キャリア開発行動)として整理し、個人のプロアクティブスコアを測定できる12の質問項目(5段階評価)を開発した(図表1)。読者の皆様もぜひ試してほしい。

図表1 (画像:日本総合研究所)
この質問項目に回答することで、何か新しいことに取り組む(革新行動)ために、社外から知見を得る(外部ネットワーク探索行動)とともに、社内に協力者をつくり(組織内ネットワーク構築行動)、その過程で自分自身も成長していく(キャリア開発行動)ことが、どの程度取れているかを測定できる。
WEB全国調査や個別企業調査から、プロアクティブスコアが高いほど、職務成果、ワーク・エンゲイジメント、そしてウェル・ビーイングが高まることがわかっている。
つまりミドルシニアにとって、プロアクティブな人材になることで、今後のキャリア・ライフがより充実したものとなる可能性があるのだ。一方、データからはミドルシニアが直面する難しさも浮かびあがっている。
2024年調査(2万400人対象)から、ミドルシニア世代のスコアは40代後半が2.85、50代前半が2.83と他の世代と比較して低くなっている現状が明らかとなったのだ(図表2)。

図表2 年代別プロアクティブスコア (画像:日本総合研究所)
ただし、ミドルシニア世代のプロアクティブスコアが一様に低いわけではない。注目すべきはスコアが2極化している点にある。管理職のプロアクティブスコアは比較的高い一方、非管理職層の低さが目立つ(図表3)。

図表3 役職・年齢別プロアクティブスコア (画像:日本総合研究所)
ここから読み取れるのは、管理職になるというある意味わかりやすい経済的・社会的インセンティブが機能しなくなった時に、プロアクティブ行動を維持・拡大することの難しさである。
冒頭で紹介した「働かないおじさん」と揶揄される現象が、データから示される結果となったといえる。
ただ、これは個々人の問題とはいえない。管理職のポストに限りがある以上、管理職になれずキャリアの天井が見えてきたミドルシニアのプロアクティブスコアが低くなってしまうのは、労働市場が社内に閉じがちな日本型雇用の構造的な問題である。そのため「働かないおじさん」と揶揄される現象は個人の自己責任として片付けてよい問題ではない。
加えて、働かないおじさんと呼ばれる側からすれば、若いうちは仕事の成果に比べて相対的に低い給与水準で働いていたため、今になってその頑張りを回収しているという思いもあるだろう。
一方、外部環境のせいにして目の前の問題から目を逸らすわけにはいかない。自身の置かれている状況を打破できなければ、待っているのは黒字リストラやAIリストラである。
ミドルシニアにおいて顕著に低くなるスコアとは
では、ミドルシニアのプロアクティブ行動を高めていくためにはどうすればよいのか。改めてミドルシニアのスコアを全世代の平均スコアと比較する形で確認しておく。プロアクティブスコアと各行動別のスコアを示したのが図表4である。

図表4 ミドルシニアのプロアクティブスコア (画像:日本総合研究所)
スコアが、革新行動、組織内ネットワーク構築行動、キャリア開発行動、外部ネットワーク探索行動の順になっているという傾向は、全世代平均スコアと同様である。一方、外部ネットワーク探索行動とキャリア開発行動は2.8を下回っており、その低さが目立つ。
このことから、ミドルシニアのプロアクティブ化に向けては、外に出て知見を広げることと、キャリアを自身で描きその実現を目指していくことが重要となる。
必要なのはキャリアの後半期における働くことの意義を改めて問い直すことだ。管理職という立場や高い給与だけに働くことの価値を見いだすのではなく、次世代への継承、地域・社会貢献、自己実現など、改めて働くことに対する自己の価値観・パーパスを再定義することが大事だ。
新しい価値観を定義できれば、新たなキャリア展望が生まれ、それを実現するためのキャリア開発行動や外部ネットワーク探索行動が促進される。
上司はどのようなサポートをするべきか?
ミドルシニアのプロアクティブ化に向けては、上司の役割も大きい。われわれの調査からは、プロアクティブな行動を促進するために最も重要な要因が「自己効力感」であることが明らかになっている。
自己効力感とは、「自分ならできる」「きっとうまくいく」と自分自身が考えている状態であり、小さな成功体験の積み重ねによって高まることが知られている。
そのため、上司がミドルシニアの状況を踏まえて、仕事のアサインなどの工夫し、成功体験を経験できるよううまくガイドすることで、ミドルシニアの自己効力感を高めることができる。
自己効力感を高めるもう一つの大きな要因が、他者からのポジティブなフィードバックである。ミドルシニアに対して、「何を言っても今さら変わらない」と考えるのではなく、小さな成功を適切に認識させたり、本人の強みを具体的に言語化したり、チームへの貢献を明確にしたりするフィードバックが、ミドルシニアの自己効力感の向上につながるのだ。
またチーム内の心理的安全性を高めることも上司の重要な役割である。チャレンジがたとえうまくいかなかったとしても、チャレンジ自体を賞賛し、再チャレンジできる環境を整備する。
安心してチャレンジしようと思える組織風土を築くことが、ミドルシニアの小さな挑戦を促し、プロアクティブスコアを向上させるカギとなるのだ。
ミドルシニア期が人生の岐路になりうる
長年培った習慣や思考パターンを変えることには、相当なエネルギーが必要だが、その挑戦は今後の人生をより豊かにする可能性を秘めている。
重要なのは、年齢を言い訳にしないことだ。図表2が示すように、プロアクティブスコアは60代に向けて再び上昇する傾向がある。ミドルシニア期をどう過ごすかが今後の人生の分岐点となる。
人生100年時代において、ミドルシニア期はキャリアの終盤ではなく、新たなステージの始まりである。今こそ、自身のキャリアを守り、育むため、プロアクティブ行動を実践し、自らのキャリアの未来を拓く一歩を踏み出す時である。
最初は小さな歩みでも、きっと大きな変化への第一歩となるはずだ。