暗黒という名の透明な存在「ダークマター」。じつは、見えないけど、観測できる…なんと、銀河の歪みは、重力が起こした「時空の歪み」だった

いまから約138億年前、ビッグバン直後の宇宙には、光を放つ星も銀河もまだ存在せず、ただ暗闇が広がる「暗黒時代」が続いていました。やがて、最初の星や銀河が生まれ、「宇宙の夜明け」が訪れます。そこから数億年かけて、宇宙は少しずつ光で満たされていきました。

では、この決定的な転換は、いつ、どのように起こったのでしょうか。

じつは、宇宙暗黒時代の記憶を私たちに届けてくれる微弱な電波があります。「21cm線」と呼ばれる中性水素からの微弱な電波です。

古代から現代にわたる人類の宇宙観から、天文学・宇宙研究の最前線までの幅広いテーマを、21cm線によって解明された最新の成果とともにご紹介するのが、『宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線で探る、宇宙138億年史』(講談社・ブルーバックス)。本記事シリーズでは、この『宇宙暗黒時代の夜明け』からの興味深いトピックをご紹介していきます。

前回の記事で取り上げた、ビッグバン後の暗黒の宇宙に、水素ガスや宇宙マイクロ波背景放射とともに存在した「ダークマター」について、さらに詳しく解説していきます。

*本記事は、『宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線で探る、宇宙138億年史』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

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銀河を回転させる「見えない質量」

ダークマターの存在が明らかになった手がかりは「重力」にあります。

ダークマターを探る研究は1930年代にさかのぼります。

スイスの天文学者フリッツ・ツヴィッキーは、銀河団(何百~何万個もの銀河が集まった巨大構造)の運動を観測し、「見えている星やガスだけでは、銀河団を構成する銀河を引き留めるのに十分な重力がない」ことに気づきました。この謎を説明するため、彼は「目に見えない質量が存在するに違いない」と考え、それがダークマターという発想の出発点となりました。

さらに1970年代、アメリカの天文学者ヴェラ・ルービンは、銀河の「回転曲線」を詳細に観測しました。天の川銀河のような渦巻銀河では、星々が中心の周囲を回転しています(記事冒頭の写真)。

ニュートン力学に基づけば、中心から遠い星ほど遅い速度で回るはずです(太陽系で太陽から遠い惑星ほど公転速度が遅いのと同じです)。ところが実際には、銀河の外縁部の星も中心部とほぼ同じ速度で回っていることがわかりました。

これは、見える物質だけでは説明できません。しかし、銀河の外側に「見えない質量」が大量に存在し、その重力によって回転速度が保たれていると考えれば矛盾は解消します。これこそがダークマターなのです(図「銀河の回転曲線とダークマター」)。

銀河の回転曲線とダークマター。観測結果を説明するには、ダークマターの存在が必要になる

ルービンの観測は、ダークマターの存在を強く支持する決定的な証拠となりました。

ダークマターが歪める「時空の歪み」を利用する

2000年代以降は、ダークマターの重力的影響を利用して、その存在を探る新たな方法が発展してきました。その代表が「重力レンズ効果」(「ハッブル宇宙望遠鏡による銀河団の写真」)です。アインシュタインの一般相対性理論によると、質量を持つ物体が存在すると時空が歪み、重力が発生します。

この「時空の歪み」は、遠くの銀河から出た光が、途中で重い天体(たとえば銀河団など)を通過する際に光の経路を曲げる働きをします(図「重力レンズ」)。これが重力レンズ効果です。

上:ハッブル宇宙望遠鏡による銀河団の写真。重力レンズ効果によって銀河の像が歪んでいる photo by NASA, ESA, M. Postman(STScI), and the CLASH Team/下・重力レンズ奥側の銀河から出た光の経路が、手前の地球と銀河の間に存在する銀河団の重力レンズ効果によって歪められている figure by NASA, ESA & L. Calçada

実際、銀河団の質量のうち約80〜90%がダークマターだと考えられています。銀河団は太陽の100〜1000兆倍もの質量を持ち、そのうちの大半がダークマターです。

この膨大なダークマターの重力によって時空が大きく歪むため、背景の銀河からやってくる光は曲がり、カメラのレンズのように拡大されたり、像が引き伸ばされたりします。この現象を詳しく観測・解析することで、見えないダークマターの量や分布を推測することができます。

ダークマター自身は光を発しないため、普通の望遠鏡では見ることができませんが、重力レンズ効果を利用することで、ダークマターの「重力的な影響」を間接的に捉えることができるのです。

天文学者にとっては、まさに「ダークマターという見えないものを重力レンズ効果で"見る”ために望遠鏡を覗いている」と言えるでしょう。

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続いて、ダークマターと揺らぎの関係、重力による成長についてお送りします。

宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線で探る、宇宙138億年史

誕生初期、暗黒だった宇宙の記憶を、現代の私たちに届けてくれる微弱な電波21センチ線。可視光では見えない宇宙の深淵を、この21センチ線という窓から覗くことができるのです。21センチ線を用いた観測によって宇宙の黎明を探る研究を、最新の成果とともに紹介。

夜空を見上げる視線が変わる、最前線の宇宙物語。