学歴すごい…ハーバード→MITの才媛だった! 朝ドラで"元妻"演じた俳優は「日本語ペラペラ」〈ばけばけ第54回〉

『ばけばけ』第54回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」連載です。本日は、第54回(2025年12月11日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

「結婚は失敗でした」

 今日も外国ドラマかと思ったけれど、最初は朝ドラだった。

 トキ(高石あかり、「高」の表記は、正確には「はしごだか」)が川を見ながらたそがれていると、サワ(円井わん)がお茶わんを持ってくる。

「あっつーっ」「落ち着くだわねー」

 熱いお茶を入れてくれたんだなと思ったが、どうやら「お茶」ではなく「白湯(さゆ)」と言っている。

 貧しさを感じる瞬間である。

 熱い白湯くらいで落ち着くはずもないとサワはトキの動揺を見抜いている。

「まだそわそわしちゃうしちょる」

 そこへ司之介(岡部たかし)が現れて、サワまで巻き込み、「がんばれがんばれお嬢様 がんばれがんばれヘブン先生」と川に向かって応援をはじめる。

 ヘブン(トミー・バストウ)とリヨ(北香那)が結婚してトキが女中になれば、給金が70円になり、いくらかサワにも渡せると適当なことを言う司之介。それよりいくらかウメ(野上まる)に渡してあげてほしい。トキよりウメのほうが働いていると思うのだ。という疑問はさておき。主題歌がはじまって終わると、本格的外国ドラマが再びはじまる。

「結婚は失敗でした」

 ヘブンが黒人女性マーサ(ミーシャ・ブルックス)と結婚したことが職場で問題になり、クビになってしまう。

 マーサはそれがわかっていたのでヤケになる。

 雷雨のなか、ヘブンがやけ酒をあおっていると、マーサが大家にカミソリで切りつけ捕まったと知る。

 牢屋に入れられたマーサは「私になんか関わらなければよかったのよ」とヘブンを突き放す。

 それでもヘブンは「アイラブユー」と寄り添おうとするが……。

「湯たんぽ壊す 誰のため」

「恨むなら自分を恨んで」「私は反対したんだから」とけんもほろろで。

 その後のマーサに手を焼いたヘブンは、せっかく見つけた居場所を自ら手放してしまった。

 以後、居場所を見つけたり、誰かと一緒になることはできないと考えるようになった。

「人と深く関わることはやめたのです」

「どの国でもどの街でもただの通りすがりの人間として生きていくことにしたんです」

「誰とも深く関わらない。恋人でも、友人でも、誰でも。そう決めたんです」と通訳する錦織(吉沢亮)がひじょうに浮かない顔をしている。

 リヨもこれ以上は追及できなかったのだろう。

 ヘブンと錦織が重い足取りで江藤宅からヘブン宅に戻ってくる。

 いつもなら、いったん中に入りそうな錦織だが、「わたしはここで」と玄関先で踵を返す。

 元気のないヘブンに「お酒 飲む ないですか」と気遣うトキ。

 「ありがとう」と言葉少ななヘブン。

 鏡に向かって着物に着替えているカットと、回想でマーサとヘブンがうまくいかなくなっている様子が鏡に映っているカットに呼応するようで、ヘブンが過去をのぞき込んでいるようにも筆者には見えた。

 愛鳥チェアが鳴き、ヘブンは鳥かごを見つめる。ちゃんとチェアの正面顔が映り、ヘブンと向き合っているように見える。鏡とチェア。ヘブンの心を映す装置になっているようだった。

 おもむろにヘブンはカゴの戸を開けると、チェアを出して、庭から外へと飛ばしてしまう。

 トキにはそれがリヨとの別れを示していると感じられたのだろう。リヨのもうひとつの贈り物・湯たんぽも壊そうとして――。

「違う!」

 トキの勘違いを笑うヘブン。

「チェアを逃がしたのはチェアのため」

「湯たんぽ壊す 誰のため」

 チェアには定住できないヘブン自身を重ねたとはいえ、湯たんぽはもったいない。

 人種の違いが人と人を分断する。だから最初から関わらない。ヘブンの抱える苦悩が判明したが、トキの勘違いは期せずして、強張ったヘブンを笑わすことができた。

 どんなに寒くて悲しいことがあっても、あったかい湯たんぽ、あったかい白湯(お茶)、ちょっとした行為、これらがひととき人の心を溶かす。

マーサ役は「圧倒的にお芝居が巧かった」

 苦悩するマーサを演じたミーシャ・ブルックスも日本が好きで、本当は日本語がうまいそうだ。

 最後に彼女について、橋爪國臣チーフ・プロデューサーのコメントを紹介しよう。

「ミーシャはオーディションで決めました。日本には黒人女性でお芝居をされている方はあまり多くありません。アメリカ在住のとても才能のある役者さんで、日本でお芝居をしたいという方がいると紹介をいただき、日本に来てもらってオーディションに参加してもらったら、圧倒的にお芝居が巧(うま)かった。

 しかも日本のことが大好きだそうで、過去に日本に留学した経験もあり日本語が堪能なんです。奈良県でホームステイをしていたそうです。ハーバードを卒業してMITでも学ばれ、それで俳優をしている才媛です。台本の理解力もとても高く、芝居の基礎も学んでおられていて、すばらしい演技をしてくれました。

 トミーは『ばけばけ』ではふだん、日本語がたどたどしい演技をしていて、それも巧いですが、マーサと英語での芝居をするトミーを見ると、彼の本当の演技力がわかる気がしました。アメリカの空気感みたいなものが出ていると思います。ミーシャさんの住んでいるところがシンシナティの近くだそうで、まさにぴったりだったのではないでしょうか。

 トミーはマーサとオフの時間も英語でずっと喋っていました。おそらくこの数カ月、日本語中心の現場にいて疲れも出てきた頃でしょうし、息抜きになったのではないかと思います」

 橋爪CPの話を聞いて、番宣に出てくるトミーはいつも快活で、日本語もうまく、サービス精神にあふれて見えるが、ひとり日本に来て、母国語を存分に使えない環境に身をおいているのはやっぱり大変なのだろうなあと思った。まさにヘブンの気持ちを身をもって経験しているのだろう。

フォトギャラリー

主なシーンより

第11週(12月8日~12月12日)

「ガンバレ、オジョウサマ。」あらすじ

新年を迎え、トキ(高石あかり)たち松野家、ヘブン(トミー・バストウ)、錦織(吉沢亮)、平太(生瀬勝久)たちで新年会が行われる。ヘブンは新年の挨拶で、「来年までに松江を去る」と宣言。ヘブンがいなくなれば女中の仕事も失い、地獄の借金返済生活が再開してしまう。ヘブンを松江に留まらせるために松野家はリヨの恋を応援することに。そんな中、リヨ主催の快気祝いに招待されたヘブンは、そこで自分の過去を語り始める。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】髙石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」)  トミー・バストウ / 円井わん 岩崎う大 ミーシャ・ブルックス 北香那 前原瑞樹 杉田雷麟 日高由起刀 下川恭平 野内まる / 渡辺江里子 木村美穂 / 吉沢亮 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 佐野史郎 生瀬勝久 小日向文世 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始