暖房費0円!「着る暖房・モモンガ」の底知れぬ実力

意外と動きやすく、抜群に暖かい, もともとはアウトドア用品として開発, 「自分の体温」が、身体を包む空気を暖める, なぜクラウドファンディングでしか売らないのか?, ユーザーの声は瞬時に反映, 「ユニクロ」や「ワークマン」は目指していない

「着る暖房」と巷で噂の防寒着「モモンガ」を、マイナス4度の極寒の中で着用すると……(写真:ファーブル提供)

本格的な冬が到来し、電気を一切使わない“究極のエコ暖房”が話題だ。「着る暖房」とも評される、その名も「モモンガ」。これまでに5シーズン販売し、販売総額は1億円を突破したという。

【写真】「暖房費ゼロ円!」究極の着る暖房《モモンガ》はこんな服

部屋の暖房をつけるのではなく、暖房を身にまとい、身体自体を暖める。目からウロコの発想。そして全身を覆う一体型のシルエットはまさに“モモンガ”のようで、思わず目を奪われる。

奇抜な外見とは裏腹に、ただの寒さ対策だけでなく、暖房費の節約や、災害時の備え、アウトドア人気などを背景に、確実なヒット商品となっている。

本商品の主戦場は、クラウドファンディングだ。発売を開始した2020年から毎年のように大きな反響を呼び、最新作となる「モモンガ5(税込2万3000円)」は、プロジェクト開始から1時間で目標金額を大きく上回った。応援購入額は最終的に2467万円に達し、達成率は8226%に届いたという。

この“着る暖房”の実力と、なぜ異端でもある防寒着の支持が広がったのかを、「モモンガ」の生みの親、ファーブルの坂井勇一郎社長に聞いた。

【写真を見る】「暖房費ゼロ円!」究極の着る暖房《モモンガ》はこんな服(13枚)

意外と動きやすく、抜群に暖かい

「着る暖房」とは、まさにその通りだと、実際に着用してみるとすぐに理解できる。

モモンガを着た瞬間、世界が変わったように感じた。暖かさを越えて、下手したら暑いとすら感じる。雨の降る寒空の中の取材にもかかわらず、想定外の感情に驚いた。

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厚みのある素材だが、意外なほど軽い(撮影:東洋経済オンライン編集部)

モモンガは5層構造になっており、中綿には保温性に優れたサーモライト中綿、裏地には断熱効果の高いアルミ蒸着の保温生地を使用している。

そして他の防寒着と明らかに違うのは、どこからもすきま風が入らないことだ。厚手のダウンやベンチコートでも、中腹部は十分暖まる。だが、裾の足元や袖から冷たい空気が吹き込むので、完全には寒さが消えない。

一方モモンガは、足元もすっぽりと覆われており、指先と顔以外のすべてが完璧にカバーされているので、冷たい空気が入る余地がない。まるで布団に入ったまま歩いているかのような、首から下が異空間にいるような感覚だ。

次に驚いたのは、見た目に反して動きやいことだ。完全防備の見た目から、着ぐるみのような着心地を想像していた。しかし、モモンガは軽く、薄い。通常の防寒具とさほど変わらない厚みなのである。

中の服を何重にも着込む必要がなく、モモンガで覆えば寒さを感じない。それも動きやすさの理由だろう。全身が一体型のつなぎになっているので、着るまでには多少の労力がいるものの、一度着用してしまったら、機敏に動ける。走ることもできそうである。

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モモンガを着用した全身像。まさにモモンガのような足の間の膜が動きにくいかと想像していたが、意外と動作に影響はなかった。写真はシリーズ最強の保温性を誇る「モモンガ エクストラ2」(税込み2万7000円)。極寒のアウトドアでも暖かそうだ(撮影:東洋経済オンライン編集部)

実際、ユーザーレビューには、その防寒効果を示す声が寄せられている。

「今季最低気温のテレワークで、暖房つけずにモモンガ着用してみました。とても暖かいです。暖房要りません」

「体温が逃げないのでとても暖かいです。着たまま動けるので快適に使用しています」

実際に着用することで、モモンガの実力をまざまざと思い知った。

もともとはアウトドア用品として開発

もともと新卒から30年近く、アパレルメーカーで企画をしてきたという坂井社長。独立してすぐに開発に取り掛かったモモンガは、自身の好きなアウトドアから発想を得た。

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最初はややコツがいるが、脱ぎ着は思ったよりも大変ではない(撮影:東洋経済オンライン編集部)

知人を誘ってキャンプに行くことも多かった坂井社長だが、キャンプ初心者がたいてい同じようなミスを犯すことに気づいた。

「『夜は冷え込むよ』と口酸っぱく言っても、昼間は暖かいからと大した防寒着を持ってこないんですよね。夜になって焚き火を囲みながら食事やお酒を楽しみたくても、テントの中の寝袋に籠もってしまう人も多い。じゃあ寝袋に入ったまま輪に参加できたらいいんじゃないのか。それがモモンガ開発のきっかけなんです」

寝袋の暖かさを備えつつ、服のように動ける可動性を持つ防寒具。仲間への思いやりから、「着て歩ける寝袋」というコンセプトが生まれた。

「モモンガ」という衝撃的なネーミングは、まさにそのシルエットから連想されたものだ。見ると納得の形状は、奇抜でありながら、機能的な理にかなっている。

本来は動けない形状の寝袋を“着てしまう”ことで、暖かさを確保したままキャンプ場の夜を自由に過ごせる。これはモモンガの最大のアイデンティティとなった。

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足元もそうだが、腕まわりも可動性は高く、通常のアウターと同様に難なく動かせる(撮影:東洋経済オンライン編集部)

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写真のようにバッグの形状で持ち歩いたり、不使用時はクッションとしても利用できる(撮影:東洋経済オンライン編集部)

「自分の体温」が、身体を包む空気を暖める

アウトドア用に開発されたモモンガだったが、20年に初代を販売すると、日常の防寒着として着用する人が予想以上に多いことがわかった。

「在宅勤務が増えて、自宅の暖房代が上がってしまったという声や、年金暮らしで暖房代を節約したいという声なんかもいただきましたね」

そのため、日常着としても快適に過ごせるよう、改良に改良を重ねたのが現行品であるモモンガ5である。

奇抜なネーミングながら、しっかり本格派。この実力には坂井社長も自信を持つ。

商品の画像を見てわかるように、足元は実際のモモンガのように飛膜でつながるシルエットとなっている。モモンガに似せたのは可愛さを重視したわけではなく、意図的に「ダボダボ」にしてあるのだ。

「すき間なくピタッとした服で体を覆うほうが、一見暖かいように感じますよね。ですが、実は身体の周りに空間を用意し、そこに暖かい空気の層を作って包み込むことが、暖かさの秘訣なんです」

モモンガの暖かさは、着た人自身の体温から生まれているのだ。体温が身体の周りの空気を温めている。熱は空気が動かないところで保たれるため、ゆったりしたシルエットで、たっぷりと空気を身にまとうことが、モモンガの圧倒的な暖かさを作っているという。

一切電気も灯油も使用しないエコ仕様ながら、37度前後の体温を熱源とし、暖房をまとったかのような暖かさを実現している。暖めたいのは部屋ではなく自分なのだから、自分1人でいる空間なら、これ1枚あれば十分だろう。

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左から順に改良を重ねたモモンガの足元。動きやすい仕様へと変化しているのがわかる(撮影:東洋経済オンライン編集部)

なぜクラウドファンディングでしか売らないのか?

また中綿には、アメリカ発の高機能素材「サーモライト」を採用した。これは中空構造により空気を効率的に蓄え、体温を逃がしにくい。坂井社長曰く「ホッキョクグマの毛と同じ構造だった」という。軽さと暖かさの両立に寄与する、機能的な選択だ。

「身体に密着させて保温する」というこれまでの機能性アパレルの常識とは真逆の発想が、衝撃の暖かさを実現した。

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モモンガのフードを被ると首元にはまったく風が入り込まず、身体はポカポカだ(撮影:東洋経済オンライン編集部)

気象学と衣服の関係を研究する医学博士に検証を依頼したところ、「衣服内の空気の滞留が確保されており、理論的にも保温性が高い構造」であることが判明した。

坂井社長は「自然にやってきた工夫が、実は理にかなっているとお墨付きもいただけたんです」と話す。

モモンガがここまで支持を広げられた背景には、クラウドファンディングの存在がある。ファーブルは、初代モデルの発売以来、毎年クラウドファンディングを活用してモモンガを販売。そして改良を重ねてきた。

クラウドファンディングは、新しい商品やサービスの開発段階で、支援者から「応援購入」という形で資金を募る仕組みだ。

メーカー側にとっては初期生産のリスクを抑えながら、ユーザーの反応を早期に得ることができる。いわば受注生産のような仕組みで、購入をあらかじめ確約させられることも魅力的である。

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モモンガは5層構造になっているが、裏地にはアルミ蒸着の保温生地を使用している(撮影:東洋経済オンライン編集部)

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極寒の雪山で行われたテスト結果。モモンガの中はポカポカだ(写真:ファーブル提供)

ユーザーの声は瞬時に反映

万能な仕組みに思えるが、ヒット商品を生み出すのはそう簡単ではなく、数十万円の資金集めで終わるなど、準備に見合わないプロジェクトも散見される。その中でモモンガは異例の大ヒットといえる。

「クラウドファンディングのユーザーは、他のECサイトと違って目当ての商品があるわけではない。新しいモノや面白いモノを探しに来ている。だから一目で目を引くデザインのモモンガと、その実用性がハマったんだと思います」

坂井社長も、ユーザーとしてクラファンを利用していたことから、ユーザーが興味をもつ商品ページづくりにこだわった。また、クラウドファンディングの仕組みは単なる販売チャネルではなく、「改善のヒントが集まる場所」だと坂井社長は話す。

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写真左のようなキルティング生地を使用したこともあったが、この縫い目からも微量の冷気が入り込むといい、現在は縫い目のない生地を採用している(撮影:東洋経済オンライン編集部)

「基本的に一度出した商品はそのまま再販できないので、再販するためには必ずどこかをバージョンアップする必要があります。結果として、そのたびにお客さまの声を取り入れて、どんどんモモンガが進化しているんです」

実際、モモンガはユーザーの要望を反映する形で細かな部分が改良されてきた。

「階段を降りづらい」「トイレで扱いにくい」「足元の可動域を広げてほしい」

こうした声を取り込み、最新作「モモンガ5」では裾がフルオープンで開閉できる仕様に改良された。しゃがんでも裾が地面につかず、トイレでも扱いやすい。

まくり上げた裾は、ボタンで上半身に固定ができるのも気が利いている。日本の繊細なものづくりのこだわりが体現された商品だ。足回りの構造も見直され、階段の上り下りがしやすくなった。

「なんなら暖かすぎるというクレームもいただいたくらい。薄手のモモンガも作ろうかな……(笑)」

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裾をまくりあげて胸元のスナップボタンで止めれば、お手洗いの際なども脱がずとも対応できる(撮影:東洋経済オンライン編集部)

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裾のスナップボタンで止めれば、通常のダウンのような着用感に(撮影:東洋経済オンライン編集部)

「ユニクロ」や「ワークマン」は目指していない

改良点は決して派手ではない。しかし、ユーザーの使用環境を理解しながら細部を積み上げるモノづくりは、規模の小さなメーカーだからこそ可能なアプローチだ。

坂井社長はこう続ける。

「私はユニクロやワークマンは目指していない。自分たちにしかできないアイデアで勝負しています。ユーザーとの近さもそうです。いただいたほとんどの声を実現できたんじゃないかと思います。フィードバックは本当にありがたいので、どんどん意見をいただきたいです」

次稿となる後編では、社員3人の小さな企業が「モモンガ」のヒットを生み出した背景、そしてなぜアパレル業界の主流である「大量生産」を否定し、この受注生産モデルを選んだのか。その異端なビジネスモデルと哲学に迫る。