「おせち」食べる?食べない?変わる正月の定番

お重に入った「おせち料理」ではなく、買ってきたものと手作りしたものを組み合わせ、お皿に盛って、新春のご馳走とする家庭も増えています(写真:polkadots / PIXTA)
2025年もあと少し。今年の年末年始は暦の並びから大型連休になる人も多そうだが、物価高の影響もあってか、自宅で静かに過ごす派も多いのではないだろうか。
【画像】「こんなに高くなったのか…」おせち料理平均価格の推移
そうなると気になるのは、おせちをどうするか問題。今、おせちを作る人はどのぐらいいて、買う人はどのぐらいいるのか。食べ方や作り方にはどんなトレンドがあるのか。そしてそのような動向から、何が浮かび上がるのだろうか。
おせちは「家族が食べたがらない」
レシピサービスの最大手、クックパッドが実施した「2026年おせち料理に関する意識調査」(10月31日~11月4日、721人対象)によると、おせち料理を「作らない・食べない」と「まだわからない」人を合わせれば22%。

(画像:クックパッドプレスリリース:おせち予算に15,000円の壁「2026年おせち料理に関する意識調査」より)
準備しない理由のトップは、「家族が食べたがらないから」でほぼ半数。味付けが濃いなどの理由で好きでないこと、おせちを食べる習慣がない、という人も4分の1強いる。家族が少なく余る、ふだん通りの食事がしたい、という人も2割前後いた。

(画像:クックパッドプレスリリース:おせち予算に15,000円の壁「2026年おせち料理に関する意識調査」より)
ほかにも各社が、おせちに関するアンケート結果を公表しているが、だいたい同じような結果だ。ネガティブな声を集めてみると、やはりおせちを食べる習慣は廃れつつあるのではないかと思える。そしてほぼ、どのアンケートでも不満の多数派は作る手間とコストである。
おせちは一般的に、一の重に黒豆に数の子など、二の重に焼き物や酢の物、三の重に煮物といった決まりがあるが、地域や家庭によってその決まり事にも違いがある。
『日本の食文化①食事と作法』(小川直之編)によると、数の子や煮豆、昆布巻き、ごまめ、たたきごぼうなどを重箱に詰める形は江戸時代に武家で始まったもので、20世紀になって『婦人之友』などの女性誌が現在の定型を広めた。
三が日に料理しない、という前提があり、冷蔵庫がない当時の一般家庭で保存性を高めるためもあって、味つけが濃くなったと言われている(諸説あり)。
しかし、時代は変わり、今は自分たちの好みに合わせて味付けを薄めにする人もいるだろうし、薄味のレシピを提案する料理家もいる。しかし、伝統行事の定番イメージを変えるのが難しいからと、薄味のアレンジが敬遠される側面もありそうだ。
おせちの簡略化は今に始まった話ではない
働く女性が増えているのだから、手間を減らしたい潮流も出てくるのは当然と言える。
おせちは家で作らず、百貨店やレストランなどで購入する、という選択肢は豊富にある。少人数家族の増加や大勢で集まらなくなった傾向もあり、少人数用のおせちも人気。洋風や中華風など、アレンジされたおせちもすっかり定着した。
手作りする場合も量を減らす、時短レシピにするといった簡略化のノウハウが提供されている。
実は、おせちの簡略化はすでに昭和時代から始まっていた。例えば1970年の『主婦の友』1月号は、早くも皿盛りの「ビュッフェスタイルの盛り合わせ」を提案していた。また、「ボリューム本位の洋風おせち」は、エビフライや富士山の形に盛りつけたポテトサラダなどを紹介している。
75年の『きょうの料理』テキスト12月号の正月特集も、「最近はお正月料理も市販品を買って、それに手作りのものを添えるといった人が多くなりました」という文章で始まっている。手作りを推奨しつつ、「最近は、お正月の三が日を過ぎると、おせち料理も少しうんざりという方も多いようです」という説明もある。
70年代といえば、ハウス食品の「ククレカレー」の「おせちもいいけどカレーもね」と語るCMが開始されたのが76年だ。「おせちに飽きた」人が増加して、すでに半世紀も経っていることになる。この頃は洋食・中華が家庭に定着し、和食が敬遠されるスタート地点。2世代分の時間が流れた今、「おせちを食べる習慣がない」人が2割前後いてもおかしくない。
これからもおせちはどんどん廃れていってしまうのだろうか? 共働き家庭が主流になり、シングル化が進んだ影響もあるのか、そもそも家庭で料理をしない人も増えているし、家族が一緒に同じものを食べるとは限らない現状もあり、おせちの行方が気になる。
食の話題にも詳しいジャーナリストの佐々木俊尚氏は、音声プラットフォーム「Voicy」で12月7日、「わが家のおせちは元旦の『儀式』としてのみある」という題で放送を配信していた。三が日だろうとお店も開いているので、おせちを作り置く意味もないとはいえ、新年を迎える「通過儀礼としてのおせちには意味があると思っている」と語る。
「だから大量に作らない」として、毎年、黒豆や紅白なますなど4種類のみ、1回か2回で食べられる分だけ作るそうだ。これらは当然お重ではなく、皿に盛って「まるで儀式のように食べる」という。
前述のクックパッドのアンケートでもお重のサイズを聞いたところ、「重箱なし(大皿などで盛り付ける)」が4割もあった。一方で、重箱3段以上が3割いたので、簡略派とていねい派に二極化する傾向があるようだ。

(画像:クックパッドプレスリリース:おせち予算に15,000円の壁「2026年おせち料理に関する意識調査」より)
平成が終わる頃から、料理メディアが皿盛りを提案してきたこともあり、皿盛りおせちが増えてきたのかもしれない。とはいえ、皿盛りおせちはある意味先祖返りとも言える。先述のように、もともと正月の儀礼的な料理を重箱に詰める習慣はなかったからだ。
高知にはもてなしの際、大皿にごちそうを盛り付ける皿鉢料理がある。大皿盛りこそ、もしかすると日本らしいのかもしれない。
また、ある意味伝統的な発想とも言える、「正月に料理しないため」「ごちそうを食べたい」といった理由で高級おせちを購入する人もいれば、逆に手の込んだ料理を作る機会が楽しいという人もいる。
おせち離れには物価高も影響?
ただ、今年は物価高に押され、簡略化する人やなくす人が増えそうでもあり、今年がおせち衰退のエポックになるかもしれない。帝国データバンクの調査によると、2026年正月のおせち料理の平均価格は2万9098円(税込)で、前年に比べて1054円(3.8%)の値上げだった。

おせち料理平均価格推移(画像:帝国データバンク レポート『2026年正月シーズン「おせち料理」価格調査』より))

おせち料理の原材料価格動向(画像:帝国データバンク レポート『2026年正月シーズン「おせち料理」価格調査』より))
昨年は、郵便料金が急上昇したこともあり、年賀状を出す習慣を終わらせた人が多かった。おせちも似たようなもので、正月の習慣自体が、様変わりする過渡期にあるのかもしれない。
クックパッドのアンケートでも、前述のようにおせちを作らない予定の人たちが14・6%いた。他のアンケートでもおせちを作らない、そもそも食べる習慣がないといった声が2割前後あり、食べない人は意外に多い。そして、興味深いことに、重箱おせちも年賀状も、明治以降の比較的歴史の浅い習慣である。
平成時代から、「おせち離れ」を心配する声は多かった。だからこそ、料理メディアは簡単レシピや薄味レシピ、皿盛りといった、ラクになる提案をくり返してきた。家族の人数が減る現状に合わせて、少人数おせちを売る店も増えた。あの手この手で、おせちを食べる「伝統」を守らせようと取り組んできたのである。
しかし、改めて歴史を振り返ると、現代の「おせち離れ」は杞憂かもしれない。皿盛りおせちが実は伝統的な正月料理に近いこと、重箱おせちの歴史が200年余りしかなく、一般化したという意味では100年余りしかないことが分かった。
そして半世紀ほど前から、「飽きやすい」おせちを楽しむために、洋風おせちなどの提案がされてきて、今やすっかり定着している。市販のおせちには、ビュッフェパーティの料理と見まがうオードブルを詰め合わせた料理がたくさんある。
「わが家の雑煮」も多様に
実は人々が長く食べてきた正月料理は、雑煮である。雑煮を食べる習慣は室町時代から始まり、江戸時代には身分に関係なく定着したというのが定説である。
よく知られているように、雑煮は白味噌仕立て、澄まし汁など地域によって味付けも違えば、入れる具材も違う。もちの形も関東は角で関西は丸といった違いがある。雑煮のほうが幅広い人たちに食べ継がれているのではないか。各地の雑煮文化を研究する人もいるし、どんな雑煮を食べるかを語り合って盛り上がる場面もあるなど、関心は高い。
冷たいままいただくおせちと異なり、雑煮は常にあたたかい状態で提供される。そして、その味がわが家のもの、地元のものと多くの人は知っている。親や祖父母などから「わが家の雑煮」について語り聞かせられた人も多そうだ。
出身地が異なるカップルが増えたこの数十年、「わが家流」のアレンジをした家庭も多く、そうした独自の雑煮が家族の歴史を紡いでいる場合もある。その子どもたちが成長し、また新たな味を採り入れることもある。多様性をそもそも含んだ行事食だという側面も、雑煮を栄えさせているのではないか。
ノスタルジーと誰かの理想に縛られ、現実を見失いがちな私たちだからこそ、正月の何が変わり、何が変わらないのか。そしてその理由は何か。しっかりと見定める必要があるのではないだろうか。