【葛藤】日中関係の悪化で観光客減少も…観光都市京都が抱えるオーバーツーリズムの現在地
近年、日本を訪れる外国人観光客(インバウンド)数は急増し、その中でも、特に人気を集めるのが「京都」だ。2024年には、年間のインバウンド数が初めて1000万人を突破し過去最高を記録、2025年もそれを上回るペースで推移するなど、京都人気は留まるところを知らない。
一方、観光客の増加に伴い再燃しているのが「オーバーツーリズム」。特に、インバウンドによる迷惑行為や混雑による市民生活への影響は依然として大きな問題となっている。2025年、京都では様々なオーバーツーリズムが巻き起こった。
「春夏秋冬」一年を通じた取材で見えた“観光都市”京都が抱えるオーバーツーリズムの現状を振り返り、新たな年を迎えた京都の観光の在り方とインバウンドとの向き合い方について考える。
■私有地に勝手に侵入 写真撮影に器物損壊“やりたい放題”防ぐ手立ては?
「春」京都観光のハイシーズンのひとつ・桜の季節だ。京都市内には寺院や公園など、桜の名所と言われるスポットは多く、毎年国内外から多くの人が訪れる。
そんな中、ある悩みを発信したのは京都市東山区にある「高台寺岡林院」。豊臣秀吉の正妻「ねね」ゆかりの地であることから名づけられた名所「ねねの道」に面しているが、普段は一般公開されていない閑静な寺だ。

提供:青山住職 粉々に砕かれた欄干 ©ytv

Xより 高台寺岡林院住職の投稿 ©ytv
これは、高台寺岡林院の住職が投稿したSNSの一部。許可なく敷地内に立ち入る観光客が後を絶たず、無断で写真撮影などが行われているという。竹でできた欄干が粉々に砕かれる被害もあり、悲痛な思いを打ち明けるに至った。
住職の青山公胤さんは、「人が救われる場所だったり、安らぎを得られる場所のはずのお寺でそんな思いをしてほしくない。そういう思いがあって発信した」と話す。

マナー違反の商業撮影 ©ytv
このように、立ち入り禁止の寺院や住宅の敷地へ勝手に侵入し、散策や撮影をする迷惑行為は後を絶たない。こうした観光客に、直接話を聞くと―
Q許可を取って写真を撮っていますか?ここは人の家ですよ。
中国から訪れた人
「すみません、知らないです。ここで写真撮っちゃダメ?」
中にはツアーを引率しているプロのガイドとみられる人物が、率先して撮影している場面にも遭遇した。
Qお金を貰って撮っているんですか?
台湾から訪れた人
「そうです」
Qここは人の家で、許可がないと写真を撮ったり座ったりすることは禁じられていると思います。
台湾から訪れた人
「ルールがあったら今度守ります。ここは誰も住んでいないと思って、ちょっと写真を撮っても大丈夫かなと思って。もしダメだったら撮らないですね」
軽い気持ちから行動してしまう観光客もいる一方で、商業目的での写真撮影を繰り返す人など、悪質な例も散見された。
京都市では、観光するうえでのマナーが書かれたリーフレットを配ったり、観光地に立て看板を設置するなど一定の対策をしているが、効果が上がっているとは言い難い。
■舟屋が有名な港町・伊根町から失われる平穏 住民生活と観光地との境界線は?

伝統的な舟屋が立ち並ぶ京都・伊根町 ©ytv
「夏」厳しい残暑が続く9月。オーバーツーリズムの影響は京都市内だけでなく、京都府北部の小さな港町・伝統的な舟屋が立ち並ぶ景観が有名な伊根町でも見られた。
舟屋の景観が美しいとSNSを中心に話題になるなど、近年観光地として注目されている。飲食店などが増える一方、観光客が訪れる場所は地元の人々の生活空間と重なっているのも現実だ。
狭い道幅に、遠方から来た車が次々と行き交い渋滞を引き起こしたり、地元住民が路線バスに乗れないなど、暮らしに直接影響を及ぼしていた。

渋滞がたびたび発生 ©ytv

敷地内に無断で立ち入りする観光客も ©ytv
取材中、住民の敷地内に無断で立ち入り、飲食を行う外国人観光客の姿も見られた。舟屋で生活し、朝早くから活動する漁師に話を聞くと、「のんびりと暮らせません。勝手に玄関を開ける外国人の方もいる。言葉が大きかったり、スーツケースもゴロゴロ引きずって。疲れていても昼寝もできない状態」と行き場のない本音を話す。

舟屋日和・三野成彦代表取締役 ©ytv
静かな伊根町で暮らしたい、という住民の願いが聞かれる一方、観光は新たな雇用など経済効果を生み出している側面もあるという。
町の観光施設・舟屋日和の代表は「観光に訪れたお客様が時間をつぶしていただくところがない、遊んでいただくところがない。地元の若者が帰ってきても職場がないという状況。もともと観光地ではないので、住民の皆様にはご理解をいただくしかないと思っています」と話す。
伊根町では、駐車場の整備や警備員の雇用などハード面の対策に加え、観光バス事業者に協力を仰いで、大阪や京都市内でマナー啓発のチラシを配るなど、節度ある観光の呼びかけも行っている。
地元の暮らしを守りながら、観光地としての受け入れ態勢を作る対策も一筋縄ではいかない現状が見られた。
■嵐山のシンボル・竹林に落書き350本 倒壊の恐れで一部を伐採する事態に

京都・嵐山「竹林の小径」 ©ytv
「秋」最も多くの観光客で混雑する季節。観光客の一番のお目当ては”紅葉”だ。本格的な紅葉シーズンを迎える前の10月、京都市を代表する観光地・嵐山がある被害に悩まされているとの情報を得た。
それが”竹林への落書き”だ。「竹林の小径」と呼ばれるおよそ400メートルに及ぶ竹のトンネルには、連日多くの人がその幻想的な空間を求めて訪れる。

竹への落書き ©ytv
地元の関係者とともに確認したところ、無数の竹にハートや日付、名前のようなアルファベットなどが、ナイフや鍵のような硬いもので刻まれた跡が確認できた。ごくわずかではあるが、日本語が刻まれた箇所もあった。
京都市の調査では、被害は少なくとも350本に及ぶという。竹は一度傷つけられると細胞が再生することはなく、傷痕はそのまま残ってしまう。傷が原因で光合成ができなくなり、最悪の場合、枯れて倒壊する可能性もある。
11月、京都市は試験的に遊歩道に沿った部分の竹22本を伐採した。今後も伐採の効果を確かめながら、範囲を拡大するか検討するとしているが、一部の観光客の行為で対策が必要とされるのは、地元にとっても大きな痛手だ。
嵐山商店街の石川恵介会長は、「不法な行為に対して竹を切らないといけないのは、地元として残念。悲しいなという気持ちになります」と話してくれた。
寺などへの無断侵入も、伊根の私有地での騒音騒ぎも、竹林への落書きも、それぞれ一定の対策はなされているものの、根絶は難しいのが現実だ。
■オーバーツーリズム対策のカギ 観光客の”分散” 観光客の行き先をコントロールできるか

「西山」エリアの高台から見られる紅葉が見事な「善峯寺」 ©ytv
オーバーツーリズム対策として京都市が近年推し進めているのが「分散観光」だ。嵐山など観光客が集中する特定の観光地から少し離れた「穴場スポット」の情報を発信することで、観光客に訪問先の分散を呼びかけている。
嵐山に隣接する「西山」エリアの高台から見られる紅葉が見事な「善峯寺」を訪れると、拝観者はまばらで閑散としていた。重要文化財の改修などに必要な費用は、主に拝観料から賄われる。静かで心地が良い一方、“人がこなさすぎる”のが死活問題だという。
そこで始められたのが、竹を使った境内のライトアップ「京都西山竹あかり」だ。タケノコの産地として有名な西山エリア。竹林の管理で伐採された竹を観光資源として活用し、観光客を呼び込む取り組みだ。

竹を使い境内をライトアップ「京都西山竹あかり」 ©ytv
ライトアップ当日の夜、日中とは打って変わって多くの人でにぎわっていた。関東など遠方からの来訪もあり、中には、「ライトアップで善峯寺を知った」と話す観光客の姿もあった。
区役所の担当者は「地域に負担がかかるような数の集客は地元も望んでいない。ただ、来ていただくことで地域経済も活性化するので、西山に足を運んでいただけたらこれだけゆったりと京都らしさを感じていただけるということを伝えていきたい」と話す。
■あの有名なキャッチコピーにも影響? 「そうだ 京都、行こう。」ターゲットにも変化が

東福寺・通天橋から見下ろす紅葉 ©ytv
分散観光をめぐる動きは、行政だけではなく民間にも広がりつつある。「そうだ 京都、行こう。」でおなじみのJR東海は2025年、”隠れた名所”を意識したCM作りを行った。ロケ地に選ばれたのは京都市東山区にある東福寺だ。
JR東海の担当者は「すごく混雑していたらもう二度と来たくないという人もいると思う。意外と空いていて快適だなとか、満足してもらうことが重要なので、分散観光に力をいれている」と狙いを語る。
東福寺といえば、本堂へとつながる通天橋から見下ろす紅葉が圧巻の人気紅葉スポットで、連日多くの人で大混雑しているイメージを持つ人も多いかもしれない。ただ、近年、「人が多い」というイメージが先行し、拝観者はピーク時の半分から3分の1程度に留まり、観光客離れが進んでいた。

東福寺 広報主事・五十部泰石さん ©ytv
東福寺の担当者も「東福寺への注目が落ちているというところに着目をしていただいた。観光客が実際に来ていただかないと京都全体の活性化にもつながらないので、来ていただく方へのおもてなしを考えていかなければならない」と期待を込めた。
■分散できているのは日本人のみ!? 外国人観光客の分散にどう挑むか

世界遺産「仁和寺」 ©ytv
一方で、外国人観光客の“分散”には課題が残る。竹あかりを目的に善峯寺を訪れたのは、ほぼすべてが日本人。JR東海がCMで訴求するのも、京都離れを起こしていた日本人だ。
そこで、外国人観光客の受け入れに挑む寺を取材した。世界遺産にも登録されている京都市右京区の仁和寺。近隣の金閣寺や石庭で有名な龍安寺と比べるとアクセス面や海外での知名度が高いとは言えず、インバウンドの来訪は伸び悩んでいるという。

海外の旅行サイトが運営する予約システム導入 ©ytv
そこで始めたのが、”海外の旅行サイト”が運営する”予約システム”の導入だ。海外サイトを通じて紅葉のライトアップや抹茶体験など仁和寺で体験できるイベント情報を発信することで、海外での知名度アップを目指している。
秋の紅葉ライトアップのイベントを予約サイトを通して募集したところ、日中よりも多くの外国人観光客が訪れていた。スペインからの観光客は、「インターネットで探してたどり着いた。旅行代理店は、この寺については教えてくれなかった。こんなにすばらしい寺なのに!」と海外の旅行サイトで仁和寺を知ったと話してくれた。
2025年11月に予約システムを利用して訪れた外国人観光客数は、2024年と比べて3%増加。仁和寺の担当者は、「小さな一歩ではあるが、これを少しずつ磨きあげて継続していきたい」と話す。
代表的な観光地に行きたいと考えるインバウンド客の心理を変えることは難しく、行き先の分散は簡単ではない。それでもオーバーツーリズムの解消には、分散観光は欠かせない。“観光客の心を動かすような知られざる名所の魅力”を広く伝え続けることが求められている。
■日中関係の悪化で観光客“減少”…ホテル一泊3000円台も

1室7000円台⇒12月は3000円台へ ©ytv
「冬」年の瀬を迎えた12月下旬。京都屈指の観光地・清水寺へと続く参道は、1か月前よりも人出が少ない印象に。観光客の減少の要因は、中国政府が呼びかけた日本への“渡航自粛”だ。
京都駅から歩いて10分のところにあるホテルエリート京都ステーションは、これまで1室7000円台で提供していたが、3000円台まで下げざるを得ない状況だという。ホテルの担当者は、「もともと12月は閑散期で、そこに加えて中国本土からのお客様が来られないということで、慌てふためいたところ。どんどん値下げ競争がはじまった」と話す。
■2026年 持続可能な観光へ
2025年、春から秋にかけインバウンドの増加で顕在化した「オーバーツーリズム」。一転、日中関係の悪化により急な方針転換を求められることとなった冬。2026年、“観光都市”京都がインバウンドにどう向き合っていくのかーその姿は、日本の観光政策の未来を映す鏡となるだろう。