民間ロケット「カイロス」3度目の挑戦が持つ意味

小型ロケット「カイロス」(画像:スペースワン)
小型人工衛星を軌道に投入する「宇宙宅配便」事業の実現を目指す国内民間企業スペースワンは、2026年2月25日に自社製ロケット「カイロス3号」の打ち上げを予定している。
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同社は2024年3月および12月に、カイロス初号機および2号機の打ち上げに臨んだが、いずれも失敗に終わっており、今回も民間企業初の人工衛星の軌道投入に挑戦する。
存在感増す民間宇宙企業
民間の宇宙企業といえば誰もがすぐに思い出すのが、イーロン・マスク氏が率いるSpaceXだ。2002年に設立されたSpaceXは、いまやファルコン9ロケットを数日おきに打ち上げ、人工衛星の軌道投入だけでなく、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士や物資輸送も一手に担うまでになっている。
2025年にSpaceXがロケットを打ち上げた回数はこの記事を執筆している12月20日時点で165回を数え、年内にさらにあと2回を積み上げて167回に到達する可能性が残されている。
SpaceXの打ち上げ回数が伸びている要因のひとつは、自社で運用しているStarlinkの衛星コンステレーションを維持する必要があるからだ。
衛星コンステレーション方式は小型通信衛星を大量に軌道に投入することで、地上にくまなくサービスを提供できるメリットがあるが、寿命を迎えたりトラブルで使えなくなる衛星も続々と出てくる。Starlinkは数千基規模の小型衛星でサービスを提供しており、それを維持するためには継続的な衛星の投入が欠かせないため、SpaceXは2024年に実施した134回の打ち上げのうち89回、2025年は165回のうち122回をStarlink衛星の打ち上げに充てているのだ。
もちろんStarlinkは極端な例だが、小型の人工衛星に対するニーズは2020年台以降高まりつつある。たとえば、10cm×10cmのユニットを組み合わせて構築するCubeSat規格の超小型人工衛星や、数十kg級の小型人工衛星は、短期間かつ低コストで開発することが可能であり、民間企業や大学その他研究機関などが独自に設計開発や実証実験を行えるメリットがある。
一般的には、小型人工衛星の軌道投入は、他の人工衛星を打ち上げるロケット(国内ならばH-IIAなど)に相乗りする方法や、いったん補給物資とともにISSに送り、日本実験棟「きぼう」から宇宙空間に放出してもらう方法などがある。だが、そのコストは相乗り方式で数千万円はかかる。ISSからの放出はもっと安価だが、ISSそのものが2030年で運用を終了してしまう見込みだ。
こうした背景から、小型人工衛星などを低コストかつタイムリーに軌道に送り込むことができる小型ロケットのニーズは、今後さらに高まると予想される。だが、現状では、この小型人工衛星を打ち上げるためのロケットが足りていないのが実情だ。
民間企業初の人工衛星軌道投入を目指すスペースワン
スペースワンは、世界的な民間企業による宇宙ビジネス参入機運の高まりを受けて、2018年にキヤノン電子、清水建設、IHIエアロスペース、日本政策投資銀行から出資を受けて設立された。
SpaceXが大型二段ロケットの1段目ブースターを再利用可能な設計とすることで、驚異的な打ち上げ回数を記録するまでになったのに対し、スペースワンは小型ロケットを用い、大型ロケットよりも柔軟なスケジュールと、低コストで小型の衛星を大量に打ち上げるビジネスモデルを確立することを目指している。

スペースポート紀伊のロケット発射場(画像:スペースワン公式X)
そして小型ロケットとはいえ、柔軟なスケジュールでの打ち上げを実現するには、常設のロケット発射場が必要になる。スペースワンは、2018年11月に「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」(宇宙活動法)が施行され、民間企業による宇宙活動についての法整備が行われたことを受けて、和歌山県串本町内に「スペースポート紀伊」を建設した。
スペースポート紀伊は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が管理運営する種子島宇宙センターと、同じくJAXAの鹿児島宇宙センターが管理する発射施設につづく3カ所目、民間が管理運営するロケット発射場としては初の施設となる。
その発射場は本州最南端に近く、ロケットを打ち上げる南~東方向が海に面して大きく開けているため、ロケットの能力を最大限引き出す経路での打ち上げが可能という好条件を満たした場所に作られた。
小型ロケット「カイロス」とは
スペースワンが開発する小型ロケットのカイロスは、小型人工衛星の打ち上げを目的として開発されている。その先端部には、多くの地球観測衛星が使用する太陽同期軌道(SSO)に、約150kgまでのペイロードを投入することが可能だ。
小型とは言っても、ペイロードを軌道まで打ち上げる能力を持たせるために、カイロスの全長は約18mにもなる。わかりやすい比較対象を挙げるならば、2025年大阪・関西万博に展示された実物大のガンダム像がある。片膝をついた状態で天を指していたガンダムの、あの指先の高さが地上約16mと言われている。また、ガンダムは直立したときの身長が18mという設定であり、カイロスと同じ背の高さだ。

小型ロケット「カイロス」(画像:スペースワン)
カイロスの設計上の特徴として、固体燃料を採用しているところが挙げられる。SpaceXのファルコン9やJAXAのH-IIA、ロシアのソユーズなどはいずれも、液体燃料と酸化剤の組み合わせを使用している。この方式は推進力の制御が容易であるというメリットがある一方、エンジン構造が複雑になるため、開発・組み立て・取り扱いなどにおいて技術的なハードルが高い。
固体燃料ロケットの場合は、打ち上げ後の制御の面では液体ロケットに劣るものの、エンジン構造を単純にでき、開発や組み立てが比較的容易でありつつ、小型でも強い推進力が得やすい利点があり、カイロスのような小型ロケットには向いている。
また、固体燃料式ロケットは、打ち上げ直前に燃料を充填する液体燃焼方式とは異なり、すぐに打ち上げられる状態で保管しておくことが可能。そのため、打ち上げ契約の締結から打ち上げ実施までの準備期間が短縮できる。さらにカイロスの場合は、ペイロードの引き受けから最短4日で打ち上げることも可能だとうたっている。
2024年3月、初号機の打ち上げが実施
カイロスは当初、2021年の打ち上げを目指して開発が行われていたが、新型コロナのパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などの影響によって延期を繰り返すこととなり、2024年3月にようやく初号機の打ち上げが実施された。
だが、初号機の打ち上げでは、固体燃料の燃焼による推力があらかじめ設定されていた飛行正常範囲よりもわずかに不足していることが検知されたため、ロケットが数十m上昇したところで、搭載システムが自動的に指令破壊を行ったと発表された。

スペースポート紀伊からのカイロス2号打ち上げの様子(画像:清水建設)
カイロス2号の打ち上げは同年12月に行われた。この打ち上げでは、順調に上昇していくロケットの姿が見え、地域住民らが集った見学場でも大きな歓声が上がった。だが、離陸後80秒ほどが経過したところで第1段エンジンのノズル駆動制御に異常が発生、機体制御が困難になってしまった。ただ、そのまま飛行を継続し、第2段の燃焼開始とフェアリング分離を実施した後に、飛行経路の限界値逸脱によって自動的に破壊された。最終的に到達した高度は110kmに達したという。
国際航空連盟(FAI)による取り決めでは、宇宙空間は一般に海抜高度100km以上とされているため、結果としては、カイロス2号は宇宙空間には到達できたことになる。
ちなみにスペースワンは、ロケット打ち上げ前手順の自動化なども行っており、打ち上げ中のカイロスに異常が発生したときは自動的に指令破壊を行うようにもしているという。
スペースワンの豊田正和社長は、2度目の打ち上げ後に行われた会見では、次に生かせるデータを収集できたとして「失敗とは捉えていない」と述べた。また、この会見にオンラインでコメントした経済産業省製造産業局長の伊吹英明氏は「完璧な成功には至らなかったのは残念」と率直に述べつつ「誰よりもリスクに立ち向かっているスペースワンの次回の打ち上げに期待している」とした。
結果を出すことが期待されるカイロス3度目の挑戦
初号機と2号機のインターバルが9カ月という短期間で行われため、カイロス3号機もそれほど待たずに準備されると思った人は多かったかもしれないが、スペースワンからは次の打ち上げに関するアナウンスはなかなか出なかった。
ただ、スペースワンは2025年4月にXアカウントを開設し、ロケットを宇宙に飛ばす場所とはとても思えない、スペースポート紀伊ののどかな日常の(ときおり野生の鹿が現れたりする)様子をはじめ、地元からの応援メッセージ紹介や、フィリピンで開かれたアジア・太平洋地域宇宙機関会合(APRSAF)への参加報告など、バラエティに富んだ活動を世界に発信している。

カイロス3号のミッションマーク(画像:スペースワン)
また、カイロス3号の打ち上げに向けて、同社はこの打ち上げを支援したいと思う人々や企業が手軽に参加できるクラウドファンディングを「READYFOR」で開始している。支援枠は5000円から用意されているのだが、金額に応じた返礼品が用意される枠もいくつかある。もしカイロスの打ち上げを応援したいと思う場合は、支援を検討してみてもいいかもしれない。
なお、カイロス3号には、超小型衛星コンステレーションの運用を目指すアークエッジ・スペースの技術実証用衛星「AETS-1」、JAXAのベンチャー企業で過酷な宇宙環境で動作するコンピューター開発を行うSpace Cubicsの「SC-Sat1a」、70kg超小型衛星「TATARA-1R」、そして東京都港区の広尾学園中学校・高等学校の人工衛星プロジェクト「Hiroo Engineering for Orbit(HErO)」がペイロードとして搭載される。
地域振興も含む活動でさらに飛躍へ
2025年12月24日には、JAXAが行った「宇宙戦略基金」の公募に対しスペースワンが提出したテーマ「高頻度打上げに資するロケット製造プロセスの刷新」が選ばれたことが発表された。スペースワンの豊田正和社長は「当社ロケットの根幹である固体燃料モータの製造プロセスを刷新し、自動化・効率化を進めることで、高頻度打上げを実現できる体制を整えることを目指す」とコメントしており、2月の打ち上げには直接影響を与えないかもしれないが、カイロス4号機以降にはきっと、このプログラムからの成果も生かされるはずだ。
スペースワンのロケット事業は、試算によれば和歌山県への経済波及効果が1回あたり約12億円にも上る可能性があるとされている。また、スペースポート紀伊周辺地域の高校では、2024年より元JAXA職員を教員として採用し、宇宙科学や技術を学ぶカリキュラムを盛り込んだ「宇宙探究コース」を開設、将来の宇宙産業を担う人材の育成にも取り組み始めている。
和歌山県は地元産業においてもサプライチェーン構築や宇宙産業人材創出に寄与する取り組みとして「Kii Space HUB」と題した活動を2025年6月に開始している。こうした取り組みを通じて、和歌山県は2040年には宇宙への玄関口『スペースエントランス』となることを目指し、県内10市町村と共にアクションプランを策定しているという。

和歌山県 宇宙まちづくり推進「Kii Space HUB」事業のキービジュアル(画像:和歌山県)
こうした数々の取り組みのためにも、まずはカイロス3号の打ち上げが成功することに期待したい。
そして、カイロスが運ぶ人工衛星とともに、スペースワンの事業も軌道に乗っていくことで、国内宇宙産業だけでなく、地域への貢献もさらに広がっていくことだろう。