日本から「数学嫌い」が減らない理由。数学嫌いの世界に迷い込む「困ったきっかけ」から、「わからないところがわからない」状態を治す

数学教育に力を入れても、数学嫌いは減っていない…

政府の教育未来創造会議が2022年に、理系分野を専攻する大学生の割合を現在の35%から50%に増やす目標を掲げたのを受けて、関係省庁による理系学部設置や理系学生への奨学金充実を目指す具体的対策が少しずつ動き始めている。背景には将来、デジタル人材が大幅に不足する試算があると同時に、高校で理系を選択する生徒が約2割にすぎないことなどがある。

1980年代から1990年代にかけて、「(技術立国として)経済成長を遂げた日本は、これからは文化だ」という発言が大手を振って歩き、理科・数学の授業時間数を大幅に削減した「ゆとり教育」に突入した当時と比べると、一変した張り詰めた空気を感じる。

現在、日本の出生数は2024年に70万人を割り込み、2025年の日本の出生数は66万人台になる見込みであり、第1次ベビーブーム世代のピークの270万人、第2次ベビーブーム世代のピークの209万人と比べると余りにも少ない。

数学教育に力を入れても、数学嫌いは減っていない…, 話題となった「40-16÷4÷2」という問題, 数学嫌いの世界に迷い込む“困ったきっかけ”, 2元1次連立方程式ができれば、3元1次連立方程式はやる必要ナシ!?, 平面図形をしっかり学べば、空間図形は省略してかまわないという罠, 積分計算がいらない「1/6公式」は便利なのか?, わからないところがあったら先生に質問しなさい、という先生の誤解, わからないところがわからない状態を治すには

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この少子化の問題も、教育未来創造会議の目標に重く伸し掛かっているだろう。それだけに、理系分野の基礎として必須の数学に関する「数学嫌い」を減らし、目覚めた人達が理系分野で活躍する人材に育ってもらうことが緊要な課題である。ところが、TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)等の調査結果でも、日本の青少年の「数学嫌い」の割合は昔から高止まりしたまま推移している。

話題となった「40-16÷4÷2」という問題

2024年に『昔は解けたのに……大人のための算数力講義』(講談社+α新書)を上梓した。2010年頃、桜美林大学就職委員長時代に就活学生のために行っていた「就活の算数」ボランティア授業を、その後の正規授業で発展させた内容を、定年退職後に加筆・修正したものである。

全部で400ページ近くあり、計算規則から素数までを述べた1章「数と計算」、割合から様々な平均の概念を述べた2章「量および比と割合」、面積や体積の概念を述べた3章「図形」、中学数学以降で学ぶ確率・統計の概念も丁寧に述べた4章「場合の数と確率・統計」、大学数学の理解に必須の「すべて」と「ある」の用法を学ぶ5章「論理」、などから構成されている。

その書にある「40-16÷4÷2」はネット上で話題になったことを思い出す。

数学嫌いの世界に迷い込む“困ったきっかけ”

この書の目的を一言で述べると、「やり方の暗記で誤魔化す理解無視の学びではなく、一歩ずつ算数以降の内容の理解を大切にした本来の学びを心掛けると、工夫すれば解決できる問題はいろいろ広がって、数学嫌いを減らすことにも繋がる」というものである。

その書から、『新体系・中学数学の教科書(上下)』、『新体系・高校数学の教科書(上下)』、『新体系・大学数学入門の教科書(上下)』(いずれも講談社ブルーバックス)と繋げると、(小学校中学年以降の)算数から大学数学に至る大河のような一本の「道」が完成し、たとえばデータサイエンスの重要な基礎としての「固有値」の性質、あるいは円の面積公式の厳密な証明である「アルキメデスの取り尽くし法」までを、一歩ずつ完璧に理解できるようになっている。

また、昨年4月に上梓した『いかにして解法を思いつくのか高校数学(上下)』(講談社ブルーバックス)では、「やり方」の暗記だけの問題解法とは一線を画す「発見的問題解決法」の考え方に気付くように配慮し、現在、発見的問題解決法そのものの解説書を準備している。

しかしながら「数学嫌い」の問題を真剣に考えると、前述で示した「道」から外れて数学嫌いの世界に迷い込むような“困ったきっかけ”が多々あることに気付く。

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そこで、それらの事項をまとめた書として『数学嫌いの犯人』(日経プレミアシリーズ)を2026年の新年早々に上梓した。全小項目の題はネットでも見ることができるが、あくまでも“困ったきっかけ”であって、そのように算数・数学を学んでもらっては困るというものである。以下、参考までにいくつかの項目について簡単に要点を紹介しよう。

教育熱心な親御さんが、我が子に「平行四辺形の面積は?」と質問したとき、「底辺×高さ!」と答えると、多くの親御さんは安心するだろう。

2007年度の全国学力テスト算数A(6年生)では、底辺と高さだけ与えられた平行四辺形の面積を求める問題が出題され、正答率は96.0%であった。しかし、2008年度の全国学力テスト算数A(6年生)では、底辺と高さと不必要な辺の長さも与えられた平行四辺形の面積を求める問題が出題され、この正答率は85.3%であった。

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「全国学力・学習状況調査の調査問題」左は2007年・算数A・問5(1)、右は2008年・算数A・問5(国立政策研究所より)

この差が意味することは、「底辺」と「高さ」の意味が曖昧(あいまい)な生徒が1割ぐらいいることを意味している。算数・数学の用語の意味はしっかり理解しておきたいものである。

ちなみに、2023年度の全国学力テスト算数(6年生)では、底辺と高さが同じ2つの三角形の面積が等しいことの認識が怪しい児童が、相当数いることの憂慮すべき試験結果が報告されている。

2元1次連立方程式ができれば、3元1次連立方程式はやる必要ナシ!?

2元1次連立方程式では、1つの文字を消すと1元1次方程式となって、1つの文字の解が分かる。そして、もう一方の文字の解も分かる。

xyzのある3元1次連立方程式では、の3つの式が用意されているとする。たとえば、

ア)2x-y+2z=10

イ)-x+2y-3z=-14

ウ)3x-4y+z=14

最初のステップとして、の2つの式を用いて、y を消去してxzだけの関係式を導いたとする。

エ)3x+z=6

次のステップとして、の2つの式を用いて、yを消去してxzだけの関係式を導いたとする。

オ)x-5z=-14

それによって、の2元1次連立方程式を解いて、xz の値を求めれば、残りのyの値も求められる。

x=1y=-2z=3

そこで、「2元1次連立方程式ができれば、3元1次連立方程式はやる必要ナシ」と思われるかも知れない。

ところが、意外と大切なことが隠れているのである。それは、xzだけの連立1次方程式を導く過程でyを消去した式を導いたならば、続けてyを消去したもう一つの別の式を導かなければならないのだ。

その辺りを徹底する精神がないので、3元1次連立方程式がいつまでたっても上手く解けないで困っている高校生や大学生を、何人も出会った思い出がある。

2元1次連立方程式ができても、3元1次連立方程式も学ばなくてはならない理由は以上である。

変数の個数が「3つ」→「2つ」→「1つ」と着実に減らすように学ぶことによって、変数の個数がたとえば4つの連立方程式では、変数の個数を「4つ」→「3つ」→「2つ」→「1つ」として解いていくことが理解できるだろう。

平面図形をしっかり学べば、空間図形は省略してかまわないという罠

明治維新から間もない1875年から1878年まで、後に「ペリー運動」として有名になった英国のジョン・ペリー(応用数学、数学教育)を、東京大学工学部の前身である工部大学校は招いている。

ペリーの「初歩の算術から小数を用いるべき」および「測量と立体幾何学(空間図形)を多く教授すべき」という考え方は、技術立国としての日本の礎(いしずえ)を築いたものだと言えるだろう。流水量を測定させたり、地図を作らせたり、建造物の模型を作らせたりするような、実際に手を動かすペリーの指導は、いきいきしたものであったことは容易に想像できる。

ジョン・ペリーが多く教授すべきと述べた空間図形を考えると、かつて、日本の子ども達は積み木、綾取り、知恵の輪、プラモデルなどの立体的な遊びをよく行っていた。

ところが現在は、スマートフォン上でのゲームのような平面的な遊びが中心となっている。また、中学校の数学では、空間図形をあまり学習しないで卒業する生徒が多くなっている。さらに、高校数学における空間図形の扱いについても同じで、かつての理系進学の高校生は空間における一般の平面や直線を表す方程式をしっかり学んでいたが、これらは「ゆとり教育」の影響が残っていて、現在も特殊なものを除いて学んでいない。

そのような傾向は当然結果として現れるだろう。2010年の全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)で、中学3年の「数学」には、見取り図も示した立方体の問題があった。それは、立方体の2つの面の上に引いた2本の対角線の長さを比べるもので、「一方が他方より長い」、「他方が一方より長い」、「同じ」、「どちらとも言えない」の4つから選択させる問題である。

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「全国学力・学習状況調査の調査問題」左は2010年中学・数学A・問5(3)(国立政策研究所より)

筆者は問題を見たとき、「これはサイコロで遊んだことがある子ども達ならば、ほぼ全員が「同じ」を選択して正解になるだろう。日本の子ども達を少しバカにした問題ではないか」と思ったが、「同じ」を選択した生徒はたったの55.7%だったのである。

今から20年ほど近く前に、大学生の基礎学力の問題で接点をもった、技術立国日本を興したともいえる「豊田自動織機」で、講演を含めて何回か見学させていただいた。見学するたびに驚かされることは、1年間かけての新入社員教育の充実ぶりで、昔使っていた機械をすべて動くようにして、空間図形のセンスを育む教育を行っていたのである。

積分計算がいらない「1/6公式」は便利なのか?

数学があまり得意ではない人にとっては、「微分積分」という単語を聞くとうんざりすることが多いだろう。昔は文系の高校生でも、一般のn次多項式の微分積分を全員で学んでいたが、現在の文系の高校生は、積分に関しては2次以下の多項式、微分に関しては3次以下の多項式に限定して、選択科目として学ぶ。

さて、2次関数で表される曲線は放物線であることを思い出そう。そこで積分の応用としてもっとも重要な面積に関しては、放物線と直線で囲まれた部分の面積、あるいは放物線と放物線で囲まれた部分の面積が試験問題として要点になる。

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ところが、世の中には“便利”なものがあって、微分積分を一切学んでなくても、そのような面積を求められる魔法のような公式がある。その名は「1/6公式」という奇妙な名前の付いた公式で、これを使いこなすためには、中学生でも解ける簡単な2次方程式を解くだけでよいのである。

この公式は、与えられた放物線と直線が2つの点で交わるとき、その交点のx座標を求めるだけで、放物線と直線で囲まれた部分の面積を、積分計算を一切行うことなく求められるというものである。

かつて有名国立大学の入学試験要項で、「1/6公式を用いるならば、それを証明してからにしなさい」という但し書きがあったことを思い出す。

筆者も同感で、じつは某大学のマークシート式の数学入試問題で、1/6公式を用いるとただちに正解を得る問題での正解率は極端に高かった。しかし、同大学で翌年に行われた記述式の数学入試問題で、この公式を証明させる問題が出題されたところ、正解率が極端に低かったのである。このような状況を見てきた筆者としては、「1/6 公式により……」という答案には釈然としないのである。

それでは、この状況の打開策はないのだろうか。前述したように、かつての高校数学IIでの微分積分のように、一般のn次多項式で表されるn次関数に関するものに戻せばよいのである。そのnを、微分のときは3以下、積分のときは2以下という変な制限を学習指導要領で設けた頃から、1/6 公式が流行り始めたことに注意したい。

わからないところがあったら先生に質問しなさい、という先生の誤解

数学の先生が授業終了時に、「今日は放課後、教員室にずっといるから、わからないところがあったら質問しにきなさい」と積極的に発言することはよくあることだろう。そこで、親御さんが我が子に「数学でわからないところがあったら先生に質問しなさい」と言うことは、ごく自然なことかも知れない。

しかし、この発言は多くの場合、不適当な発言になる。それを理解してもらうために、患者さんに対するお医者さんの2つの発言を考えてみよう。

「どうされましたか。どこが悪いか言ってください。そこを治しますから。」

「どうされましたか。気になる点は何でも遠慮なく言ってください。それによっていろいろな検査をして、何が悪いかを調べて、なんとか見つけて治療しましょう。」

上の2つの発言を比較して理解できるかと思うが、患者さんにとって多くの場合は、微熱があるとか、頭が痛いとか、お腹が痛いとか、全身がだるいとか、そのように漠然とした違和感を訴えるしかないのである。そのような発言から、お医者さんは悪い箇所を探るためにいろいろな検査を行うのである。

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およそ数学という教科(学問)は、算数から一歩ずつ積み上げていくものである。「わからないところ」が分からない生徒が、「わからないところがあったら先生に質問しなさい」と言われても、質問しようがないのである。

わからないところがわからない状態を治すには

以上から、「わからないところがわからない状態」に陥った生徒に対しては、お医者さんを参考にして、どこからつまずいているかを見つけることが極めて重要なのである。

スポーツの指導では、〇という練習法は良いが、×という練習法は悪い、というように「失敗」の道に入り込まない注意がいろいろある。数学の世界では、誤った学びをしてもスポーツのような怪我はない。しかし、「数学嫌い」という困った意識を植え付けてしまうのである。今回の書が、そのような事態を回避することに少しでも役立てられるならば幸いである。