50歳以降の「面倒くさい」は認知症につながる兆候

健康寿命に大切なのは「充実した人間関係」, 50歳以降の「面倒くさい」に要注意, 24時間いつでも散歩できる道をつくった, 「かっこいい超高齢者」像も確立していきたい

リハビリの専門家・酒向氏が手がける「タウンリハ」とは?(写真はいずれも本人提供)

「近視になってもメガネをかければいい」と思っている人は少なくないが、実は近視は将来的に失明につながる眼疾患の発症リスクを高める、危険な疾患なのである。しかし、身近に眼疾患の経験者がいなければ、その実感が湧かない人がほとんどではないだろうか。
『近視は病気です』の著者であり、近視の予防を呼びかける眼科医である窪田良氏の対談企画。脳外科医からリハビリテーション医に転身した酒向正春さんを招いてお話を聞く。同氏が取り組む「攻めのリハビリ」は、なるべく早い段階で高負荷の訓練をスタートし、運動機能や認知機能を高めるものだ。最終回となる今回は、社会参加を促す環境と健康寿命の関わりのほか、自身の今後のプランなどについても語ってもらった。

健康寿命に大切なのは「充実した人間関係」

窪田:酒向先生は書籍の中でも「103歳までリハビリ医として社会貢献できることを、自ら証明したい」と書かれています。

すばらしい目標ですが、実現のためには何が重要だと思いますか。自分もそうしたいと考える人も少なくないと思いますが、これは努力によって誰もが叶えられるものでしょうか?

酒向:まずは命に関わる病気にならないというラッキーが必要ですが、あとは、楽しんで生きること、家族も含めた友人を大切に交流すること、そして、「筋肉革命95」の実践が重要だと思います。

こうした日常環境があれば、私は103歳を十分目指せるのではないかと思っています。自分のしたことで喜んでくれる人がいるとか、会いたい人とのコミュニケーションが取れているとか。ただ、こういう人間関係は意図的に作っていかなければ維持できないので、そこが大きなポイントになるのではないでしょうか。

窪田:健康でハッピーな人生を歩むためには、精神のほうも鍛えていかなければいけませんね。現役で医療の現場に立ち続けることは、やはり先生にとっては大切なことですか?

酒向:そうですね。私の場合はとくに、医師の仕事が本当に好きで、楽しいのです。脳卒中を専門とする脳外科医としてキャリアをスタートさせましたが、そこにプラスする形でリハビリ医になり、この11年は認知症の専門医としても患者さんと向き合っています。

脳卒中、とくに脳梗塞の治療は時間との戦いで、「Time is Brain」という言葉もあるほど。こうした感覚を持って、スピーディーにいい手術をするのも医師の道の一つですが、転身してからは看取りなども行うようになり、「どうやって人生を楽しみ、そして、立派に終えるか」を考えるのもとても大事なことだと思うようになりました。そのためには、肉体とメンタルの両方を鍛えることが欠かせません。

50歳以降の「面倒くさい」に要注意

窪田:私も、肉体とメンタルのバランスは非常に大事だと思います。デンマークのコペンハーゲンで行われた有名な調査で、どんなスポーツをしている人が長生きするかを調べたものがありましたが、いい結果が出たのはテニスだったんですよね。

ラケットなど道具を使うこと、頭を使いながら動くこと、そして人とコミュニケーションを取りながら進める競技であることなどが理由だとされました。私自身もテニスを続けているので、ちょっと手前味噌のような話になりますが(笑)。

酒向:仲間がいることは大きいですね。ジムで一人、黙々とトレーニングを続けることができるのは、せいぜい50歳ぐらいまで。それ以上の年齢になると、一人でやることが面倒になって続かなくなることが多いのです。

気をつけたいのは、「面倒くさい」と感じるのも認知症へのサインだということ。50歳ごろからいろいろなことを面倒がり出して、20年かけて徐々に脳が変性し、70歳でMCIから認知症へと進んでいくのです。だから「面倒くさい」は危ないサインだと思ってください。

私が推奨しているのは、マンツーマンのパーソナルジムではなく、1対3や1対5などの小さなグループでトレーニングする、交流のあるジムです。

一緒にやっている仲間とコミュニケーションをとって切磋琢磨しつつ、おだててもらいながらゆっくりと取り組む。「ガチ」でやる方とゆったりやる方が交じっていいのです。これは50歳以上の年齢の人が健康でいるために、効果的な鍛え方です。

窪田:2000年には、デンマークの国立オーフス大学の助教授も務められました。現地での印象深いエピソードや、現在の活動に生きていると感じることはありますか。

健康寿命に大切なのは「充実した人間関係」, 50歳以降の「面倒くさい」に要注意, 24時間いつでも散歩できる道をつくった, 「かっこいい超高齢者」像も確立していきたい

デンマーク滞在時の酒向さんと子どもたち(本人提供)

酒向:まずよかったのは、自分が無力だということを実感したことです。それまでは日本の総合病院の脳外科部長であり、いわば「俺様」だと勘違いしそうなところもありました。でもデンマークには誰一人知り合いもおらず、英語もあまり通じなくて、自分は何もできない小さな存在だと思い知らされました。

もう一つよかったことは、ナチュラルとアートを兼ね備えた街の、心地よい環境に触れられたことです。デンマークは優れた建築デザインや都市計画でも知られる国で、快適な環境を何百年もかけて作ってきた場所なのです。この経験で、人を取り巻く生活の環境の大切さに目覚めました。

日本に帰国してから03年に「健康医療福祉都市構想」を提唱し、08年には国土交通省で「健康・医療・福祉のまちづくり委員会」を立ち上げ、14年に「健康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」を発信しました。

24時間いつでも散歩できる道をつくった

窪田:具体的にはどんな取り組みをしているのでしょう?

酒向:大きいものとしては、東京都と連携して行った「初台ヘルシーロード」事業があります。照明をかなり工夫して8.8キロの光の帯を作ったり、歩道を拡張・緑化して快適な歩行環境を作ったりベンチを設置したりと、山手通りを整備して、24時間365日いつでも散歩できるようにしました。

その次には東急と連携して、二子玉川駅前の大規模再開発でも、同様のまちづくりプロジェクトを実現しました。また、富山市との協働では、新幹線を富山まで延伸し、富山駅の市街地を歩いて楽しめる「コンパクトでウォーカブルなまちづくり」にも取り組みました。

健康寿命に大切なのは「充実した人間関係」, 50歳以降の「面倒くさい」に要注意, 24時間いつでも散歩できる道をつくった, 「かっこいい超高齢者」像も確立していきたい

東京都世田谷区の二子玉川でも、駅前地域の大規模再開発に協力。外に出たくなるまちづくりを目指している(本人提供)

私たちの構想は、障害者や高齢者が家に閉じこもって外に出ないという問題を解決し、さまざまな人が社会参加や社会貢献できる街を作ろうというもの。それらを促進する社会活動をタウンリハと呼びます。

私は03年に、タウンリハが促される社会参加環境では健康寿命が延びるはずだという仮説を立てていたのですが、科学雑誌『ネイチャー』がやってくれました。23年にまさにその仮説内容の論文が掲載され、私たちが考えていたことに対して、科学としても結果が出てきたと嬉しくなりました。

窪田:大規模なプロジェクトも手がけていらっしゃるのですね。予算も大きなものになりそうです。

酒向:予算は莫大でしたね(笑)。そして、「お金がないから、まねできない」といった声も出てきたので、今は予算をかけない取り組みを実践しています。練馬区の大泉学園通りをヘルシーロードとして活用しながら、私たちが新設した病院を中心に、まちの変化を促しています。真っ暗だったエリアにカフェやコンビニができて、少しずつ明るくなってきました。

また、40年には地下鉄大江戸線が延伸され、病院の近くに大泉学園町駅という駅ができる予定です。今までは陸の孤島のような立地でしたが、そうなれば中心市街地に変わり、さらなる活性化も期待できます。そのとき私は80歳ですから、そこからさらに23年間は大江戸線を使って、103歳までおじいちゃん先生として回診するというプランです。

「かっこいい超高齢者」像も確立していきたい

窪田:駅のエスカレーターも使わずに、ですね(笑)。

酒向:そうですね(笑)。今はまだ世界でも日本でも、「かっこいい高齢者」というモデルが表象されていないと思います。だから憧れる80歳や100歳の像があまり浮かばないですよね。私はその点も変えていきたい。

まちづくりもそうですが、自分がやりたいことを考えて勝手にでも発信していると、だんだん現実になってくると感じています。「筋肉革命」の延長として、次はかっこいい超高齢者をみんなで認め合うようなイベントも作っていけたらいいですね。

(構成:鈴木絢子)