部下の愚痴に「わかる」と言わない面談が組織を守る 会社がおかしいと嘆く部下に対する適切な返し方

部下の愚痴に「わかる」と言わない面談が組織を守る “会社がおかしい”と嘆く部下に対する適切な返し方
【3行要約】
・メンタルヘルス対策の必要性が高まる一方、多くの企業で相談窓口設置などの形式的対応に留まっているのが実情です。
・PDCAの学校・代表の浅井隆志氏は、ハラスメントへの過敏な反応により管理職が必要な指導を避ける傾向が強まり、かえって組織運営に支障をきたすケースが増加していると指摘。
・重要なのは不満解消ではなく、定期面談で部下に「理解してもらえている」安心感を与え、仕事のやりがいを創出することだと強調しています。
増え続ける業務上の精神疾患による労災認定
浅井隆志氏:みなさん、こんにちは。株式会社PDCAの学校代表取締役の浅井隆志です。今日は「メンタルケア面談のススメ」というテーマで、いつもお伝えしている内容とは、少し角度の違う面談のお話をさせていただきたいと思っています。
ふだんの面談では、どちらかというと「業務内容をきちんと把握して教えてあげましょう」「具体的な指示を出してあげましょう」といったことをお勧めしていますが、今日はメンタルケアという観点から、少し違った切り口でお伝えしていきます。
本日の内容としては、まず「メンタルケアが必要な背景」を押さえたうえで、「メンタルケアの注意点」、そして「メンタルケアの面談方法」についてお話しします。カウンセリングの手法なども含めながら、注意点を中心にお伝えしていきたいと思います。
背景として、簡単に言うと精神疾患がすごく増えています。

業務上の精神疾患による労災認定は、ずっと増え続けていますし、時代背景としても「言っていいんだ」という空気が広がってきました。
昔は、うつや自律神経失調症だと言うこと自体を、どこかはばかるような時代がありましたよね。30年、40年前だと「だらしないからそうなるんだ」といった見方も少なからずあったと思います。でも最近は、「それは病気ですね」ときちんと認知されるようになって、言いやすくなってきた。これも、増えてきた要因の1つだと思っています。
企業に問われる責任も変わってきました。一昔前は、体の健康管理が中心でしたが、今は心の健康管理も、企業、そして管理職に求められています。ここをやっていないと、会社として問題になる時代です。
ですから、御社の管理職が部下に対して、きちんとメンタルケアを行っているかどうか。もしできていなければ、会社として貴重な人材を傷つけてしまうことにもなりかねません。メンタルケアの施策は、会社全体で取り組むべきものですし、管理職にも、きちんと担ってもらう必要があるのではないかと感じています。
メンタル不調で1ヶ月以上休んだ社員がいる事業所は約9パーセント
ちなみに、メンタル不調による休業者数を見ると、1ヶ月以上休業した労働者がいる事業所の割合は8.8パーセントです。かなり多いですよね。ほぼ10分の1です。

直近で話題になったものとしては、学校の先生の休業割合が非常に高いという話があります。生徒からのプレッシャー、親からのプレッシャー、部活動に伴うサービス残業のような話も、耳にすることがあります。実態について、僕自身が詳しく把握しているわけではありませんが、今はどの業界でも、メンタル不調による休業者数が多い状況だということです。
ちなみに、みなさんの会社では、メンタルヘルス対策として、すでに何か取り組みをされているでしょうか。実態調査の結果を少しお伝えすると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は59.2パーセント、約6割です。

内容として多いのは、「ストレスチェックの実施」と「職場環境などの評価および改善」で、いずれも半数強です。「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」や、「メンタルヘルス不調の労働者に対する必要な配慮の実施」も、いずれも50パーセント程度となっています。
おそらく、これは2年ほど前にパワハラ防止法ができた時に、「相談窓口を設置しなさい」という流れがあって、その結果として、相談窓口を置いていますとか、定期的にチェックしています、という対応が増えたのだと思います。
ただ、率直に言うと、それが本当にメンタルヘルス対策になっているのか、という疑問はあります。正直なところ、かなり形骸化していると感じています。
「やっていますか」と聞くと、「相談窓口は設置していますが、それ以上は特にありません」とか、「チェックはしていますが、チェックしたあとに特別なフォローはしていません」という企業が多いんですね。そう考えると、この6割という数字も、「本当に対策していると言えるのかな」という印象を、正直持ってしまいます。
厳しい指導やダメ出し自体がハラスメントとは限らない
メンタルが病むとどうなるのか、そこもお伝えしていきたいと思います。まず代表的なのが、萎縮です。メンタルを病む状態というのは、消極的になってネガティブ思考になり、萎縮していく。そして自己嫌悪や罪悪感を抱いて、「がんばれない自分」を責め続けた結果、発症するというパターンがあります。
もう1つは、反動として怒りになるケースです。メンタルにくると、反発というかたちで表れることが多い。ただ、目に見えて反発することって、なかなかできないですよね。モンスタークレーマーのようなお客さまに強く言われても言い返せないですし、上司から強く言われても言い返せない。職場に不満があっても、なかなか口に出せない。
そうすると、その反発はどうなるかというと、離職になります。「課長、すみません、相談があります」と言って、いきなり辞めてしまう。もしくは、メンタルを病んで休業する。いずれにしても、会社にとっては大きなマイナスでしかありません。だからこそ、どうやってこれをケアしていくのかが、非常に大事なんです。
ただ、うちでもハラスメント研修を行っていますが、毎回お伝えしているのは、パワハラやハラスメントに過敏になりすぎるのも、あまり良くないということです。

どういうことかというと、厳しい指導をすることや、ダメ出しをすること、指摘をすること自体は、ハラスメントではありません。ここを勘違いしている方が、けっこういらっしゃいます。
みなさん、「相手が嫌がったらハラスメント」という言葉を聞いたことはありませんか。特に大企業では過敏になりすぎて、部下から「ハラスメントです」と言われると、すぐにそれを取り上げたり、認めてしまったりする傾向があります。
本来は、実態調査を行ったり、第三者を交えて検証したりしないと、本当にハラスメントかどうかはわからないはずです。それにもかかわらず、声が上がった段階で、上司の責任が問われるような風潮が、今は少しあります。僕自身もいろいろなケースを聞いていますが、「上司は悪くないのに」と感じるパターンも、正直あります。
その弊害は何かというと、上司がハラスメントを恐れすぎてしまい、本来言わなければいけないことを言わなくなってしまうことです。ここは、とても怖いところだと思っています。
なので、線引きや基準が必要になるわけですが、正直に言うと、ハラスメント問題に明確な線引きを引くことはできません。ただ、それでも言わなければいけないことは、言わなければいけない。その体制をどう作っていくのかが、ポイントになります。
言わなければいけないことを言わないほうが会社にとってマイナス
ご質問いただいていますね。ありがとうございます。「パワハラに過敏になるのはNGとありますが、過敏になっている人が多く、パワハラと認定されなくても部下が辞めるのを恐れているように感じます。いい按配が難しいのですが、どうすればいいでしょうか」というご質問です。
これはもう、パワハラのウェビナーの話になってしまいますが(笑)。ダメなことをダメだときちんと指摘して、それで辞めるのであれば、それは残念ですが、ある意味しょうがない部分もあると思っています。辞められたら困るからといって、言わなければいけないことを言わなくなるほうが、会社にとってはマイナスだと、僕は考えています。
なので、この事案は言うべきなのか、これは指摘するべきなのかと迷った時には、1人で抱え込まずに、上司や、さらにその上の上司に相談するのがいいと思います。「今は言わないで、とりあえず騙し騙しでもいてもらったほうがいいですかね」といった判断を仰ぐ、そういうやり方もありだと思います。
かなり抽象的で主観的な意見になりますが、上司が多少厳しくても、仕事にやりがいを見出していたら、人は簡単には辞めません。仕事に何か特別な魅力を感じていたら、ほかに弊害があったとしても、辞めないものです。
極端な話をしますね。もし月収が1億円だったら、上司が超絶パワハラでも、仕事は辞めないですよね(笑)。かじりついてでもやると思います。
今は極端な例を出しましたが、要は、何かしらの達成感があるとか、やりがいがあるとか、誰かに期待されているとか、感謝されるとか、成長の実感があるとか。そういった魅力があれば、多少の問題があっても、人は簡単には辞めません。だからこそ、みなさんには、もっとそちらに目を向けていただきたいなと思っています。
ちょうどそこにつながる話ですが、不満調査とか、ご意見番の設置について、僕はいつも反対の立場を取っています。なぜかというと、これまでいろいろな企業さまを支援・サポート・介在させていただく中で、そういった「1個1個、不満をしらみつぶしになくしていこう」という取り組みをしている会社さんで、うまくいっているケースを、正直あまり見たことがないからです。
休業した人が出たから、その休業者の話を丁寧に聞いて、「現場で何が起きているのか」を洗い出して、「それを全部なくしていこう」と取り組む。そういうことを一生懸命やった会社さんでも、結果的にうまくいっていないケースが多いんですね。
“給料が3万円上がったからがんばろう”の気持ちは数週間で消える
これは、ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」で説明できます。

世の中にはいろいろな理論がありますが、正直、理論ってきれいごとというか、「そうは言っても……」と感じるものも多いじゃないですか。ただ、この理論は、僕はかなり実態に合っていると感じています。
簡単に説明しますね。人がモチベーションを持ってやる気になる要因と、不満を感じる要因は、そもそも別物だという考え方です。
例えば、給与や労働条件は衛生要因です。これは、不満を生む要因ではありますが、やる気を生む要因にはならない。これが、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論の考え方です。わかりやすい例を出します。みなさん、給料が3万円上がったらどうでしょう。うれしいですよね。「3万円上がった!」と喜んで、焼肉に何回行けるかな、なんて考えると思います。
でも、「3万円上がったから、よし、これからもがんばろう」という気持ちは、せいぜい1週間か2週間じゃないでしょうか。3ヶ月も経てば、「やっぱり、もうちょっと欲しいな」と思いますよね。
つまり、「給料が少し低い」「足りない」というのは不満にはなりますが、それを改善したからといって、「仕事をがんばろう」というモチベーションにつながるかというと、つながらない。これは別物なんです。
それよりも、人は、認められるとか、褒められるとか、期待されているとか、慕われているとか、成長の実感があるとか、チャレンジできるとか、自分に裁量があって決められるとか、そういった要素に、仕事のやりがいを感じやすいんですね。
なので、ハラスメントやメンタルケア、いわゆるメンタルヘルスの観点で、不満をなくしていこうという動き自体は、確かに必要な考え方です。ただ、それに過敏になりすぎて、拾い上げて、対処して、ということを繰り返しても、実情としては、あまり大きく変わらないケースも多い。その点は、ぜひ理解しておいていただきたいなと思っています。
メンタルヘルスケア面談のコツは「受け止めるけど、賛同しない」
一番良いのは、やはり面談です。これは間違いないですね。僕はいろいろな企業さまにメンタルケアの面談を導入していただいていますが、離職や休業者の問題を抱えている企業さまで実施すると、効果が一番高いと感じています。
制度を変えるとか、残業をなくすとか、そういう話ではありません。ものすごくシンプルに言うと、人間は「わかってほしい」存在なんです。自分がつらいと思っていることをわかってほしいし、自分の気持ちを理解してほしい。それが人間なんですね。
会社の中で理解者がいない、仲間がいない、孤立していると感じると、メンタルにきます。一方で、仲間がいる、賛同者がいる、見守ってくれる人がいると、人はがんばれる。僕は、これが究極の答えだと思っています。
だから、定期的に面談をする。面談という「話を聞いてもらえる場」があることで、「自分は理解してもらえている」という安心感が、定期的にもたらされる。そういう意味で、メンタルケアの面談をやっていただくのが、一番良いと思います。
ただし、メンタルケアの面談にはコツがあります。

通常の面談とは違って、注意点が多い。その中で特に大事なのが、「受け止めるけど、賛同しない」という姿勢です。ネガティブなことを言われた時に、賛同はしない。
この相談はとても多いんです。「会社に対する不満や愚痴を言ってきたら、どうすればいいですか?」と、よく聞かれます。その時は、「○○と受け取っているんだね」「○○と感じているんだね」でいいんです。
例えば、「うちの会社はここがひどいです」と言われた時に、「ひどいよね」と返してしまうと、それは迎合です。賛同してしまっている。「わかります」と肯定している状態ですね。これはよくありません。
「寄り添う」と「認める」は別です。寄り添うというのは、「あなたがそう言っている、そう感じていることは理解した」ということ。内容そのものを認めるわけではないけれど、意見としては受け止める、という姿勢です。
“会社がおかしい”と嘆く部下に同調も否定もしない適切な返し方
なので、便利な言葉としては、「○○と感じているんだね」「○○と受け取っているんだね」。こうした返し方を使う。ネガティブな内容そのものは肯定しない、ということが大事になります。
一番良くないのは、「うちの会社、おかしいと思うんです」「おかしいよね」とか、「わかる」と返してしまうことです。これは絶対にやってはいけません(笑)。そのあと、視点を変えることができなくなってしまうからです。
それから、「否定をしない」ということも大事です。「ちょっとうちの会社、おかしいと思うんです」と言われた時に、「そう? 良いところもあるよ」みたいに返してしまう(笑)。これも否定になってしまいます。なので、共感や受け止めの表現が大切になります。「そういう状況だと、けっこうつらいよね」とか、相手の心の内を察する言葉をかける。
もう1つが、バックトラッキングです。知らない方もいらっしゃると思うので簡単に説明すると、相手の言っていることを繰り返すことです。オウム返しをしたり、相手の話を要約して、「あなたの考えって、こういうことだよね」と復唱確認や要約確認をする。これがバックトラッキングというスキルです。このあたりは、非常に大事になります。
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