「9時間も寝てしまうなんて私は病気でしょうか?」→睡眠専門医の回答が目からウロコだった

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6時間睡眠と7時間睡眠、たった1時間の差だが体への影響は驚くほど大きい。6時間睡眠が続く人は、高血圧の発症率が17%上昇することが研究でわかったのだ。忙しいビジネスパーソンが陥りがちな睡眠不足に、現役の医師が警鐘を鳴らす。※本稿は、睡眠専門医の渥美正彦『ぐっすり!1万人を治療した専門医が教える最強の睡眠メソッド』(徳間書店)の一部を抜粋・編集したものです。
1日6時間睡眠が続くと
脳の働きに悪影響が…
「1日6時間眠れれば十分だよね?」と思っていませんか?実は、それこそが日本人に多い誤解です。
「6時間以上寝るなんて無理です」
「6時間も寝たら、時間がもったいない」
なかには、そんなふうに言う人もいますが、医学的には6時間睡眠は決して正常とは言えません。
さらに、
「昨日は、8時間も寝てしまって罪悪感でいっぱいです」
「9時間も寝てしまうなんて、私は病気でしょうか?」
なんて嘆く人までいます。
9時間睡眠は、病気ではなく、まったく正常範囲なのに……。実は、世界の睡眠の基準では、成人には7~9時間の睡眠が最適とされているのです。
米国睡眠財団が提唱する年代別の適正な睡眠時間は、18~64歳で7~9時間です(図3)。

同書より転載
この年齢よりも若ければ推奨睡眠時間は長くなり、年老いていれば推奨睡眠時間は短くなります。
たとえば、14歳から17歳の推奨睡眠時間は、8~10時間です。上限は11時間、7時間だと少なすぎると提唱されています。
6時間睡眠が絶対に異常というわけではありませんが、決して「正常」とは言えません。
6時間睡眠が続くと脳の働きに大きな支障が出るという実験結果もあります。アメリカのペンシルベニア大学の研究では、6時間睡眠が2週間続くと、脳の反応速度や注意力が2晩徹夜したときと同じくらいまで衰えることが確認されています。
それでも本人は「まだ平気」と感じてしまうのが恐ろしいところです。
成長期の子どもは
8時間睡眠でも足りないくらい
さらに、成長期のお子さんにとっては、8時間睡眠でも足りないことが少なくありません。
「うちの子(小学校低学年)は10時間も寝てまだ眠そうにしているのですが、病気でしょうか?」
と私のクリニックに相談に来られた親御さんがいました。
親として心配になるのは無理もないことですが、これも睡眠についての知識が少ないことが原因になっている場合が多いです。
「ご心配ですよね。ただ、小学生では10時間睡眠は実は正常で、決して病気というわけではありませんよ。むしろ寝不足のこともあるので、もっと寝かせてみませんか?」
と、私はお答えしました。
前述の米国睡眠財団が発表したデータでは、小学生は9~11時間、中高生は8~10時間が適正睡眠時間としています。つまり、長く寝ることは成長期にはごく自然なことであり、むしろ心身の育成に欠かせない重要事項なのです。
日本の子どもたちは、小学校高学年ごろから、すでに睡眠不足が始まっていると言われています。
大切な成長期に十分な睡眠がとれないことは、成長ホルモンの分泌や脳の発達にも影響を与える可能性があり、決して見過ごせません。
私たち大人が睡眠をおろそかにしていると、その姿を見て育つ子どもたちも同じように眠りを軽視してしまいます。
子どもたちが本来持っている力を存分に発揮できるようにするためにも、まずは大人が睡眠の大切さを理解し、日々の生活の中で「眠ること」をもっと大事にしていきたいものです。
4時間睡眠の場合
肥満になる可能性が1.73倍
睡眠不足を続けていると、気づかないうちに体重が増えていきます。
睡眠不足が肥満を引き寄せるという事実は意外かもしれませんが、そのメカニズムを知れば納得するはずです。
特に関係しているのは、食欲をコントロールする「グレリン」と「レプチン」という2つのホルモンです。
睡眠不足になると、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌量が増加し、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量が低下します。
つまり、睡眠不足の状態では、食欲を抑制する力が低下し、食欲を増進する力が強まります。その結果、食事量が増えて太るのです。
さらに、「グレリン」が増えると、こってりしたラーメンや揚げ物、ポテトチップスなど高脂肪の食べ物を欲するようになります。
2004年、米シカゴ大学のシュピーゲル博士らの研究では、10時間睡眠の人と4時間睡眠の人を比べると、4時間睡眠の人は、食欲を増進させるホルモン「グレリン」の分泌量が、10時間睡眠の人より約28%多く、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の分泌量は、18%低下していました。
また、2005年、米コロンビア大学のギャングウィッチ博士らが32歳~59歳の男女約8000人を対象に行った調査では、平均睡眠時間が7~9時間の人と比べて、4時間以下しか眠らない人は肥満になる可能性が約1.73倍と高いことがわかりました。5時間睡眠の人も1.5倍と高く、睡眠時間が短いほど肥満リスクが上がる傾向が見られました。
なぜ睡眠不足だと食欲が増すのでしょうか。
その背景には、起きている時間が長くなると活動エネルギーを確保する必要があるので、脳が「もっと食べなさい」という指令を強めるという、人類が生き延びるための進化的な仕組みがあると考えられています。
つまり、睡眠不足はただの休養不足ではなく、あなたの食欲と体重をじわじわと変えていく“見えない太るスイッチ”でもあるのです。
もし体型を維持したい、あるいは減量したいと思うなら、食事制限や運動の前に、まずは7時間以上の十分な睡眠時間を確保することを心がけましょう。
免疫細胞の働きも
睡眠時間に比例する
睡眠不足は、体の免疫システムにも大きなダメージを与えます。
しっかり眠れない日が続くと、ウイルスや細菌と戦う免疫細胞が本来の力を発揮できなくなることが、多くの研究で示されています。
たとえば、アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のアーウィン博士らは、健康な成人に一晩だけ睡眠を4時間に制限する実験を行いました。
その結果、体内の「ナチュラルキラー細胞(NK細胞)」の働きが、普段より約70%も低下。NK細胞は、感染した細胞やがん細胞をいち早く攻撃する、免疫の最前線を担う存在です。この活性が大きく落ちると、感染症や病気にかかりやすくなります。
さらに、アメリカ・カーネギーメロン大学の研究グループは、睡眠時間と風邪の発症リスクを調べる実験を行いました。
153人の健康な成人を対象に、普段の睡眠時間を2週間記録した後、鼻に風邪ウイルス(ライノウイルス)を投与。その後の経過を観察したところ、平均睡眠時間が7時間未満の人は、8時間以上眠る人に比べて、風邪をひく確率が約3倍も高くなっていました。睡眠時間が短いほど、発症のリスクは高まる傾向も確認されています。
病院の当直がなくなった途端
風邪とは無縁の生活に
私自身も、睡眠不足と免疫力低下の関係は身に覚えがあります。病院勤務医だった頃は週2回の当直があり、夜中でも急患対応でほとんど眠れませんでした。その頃はよく風邪をひいたものです。
しかし、開業して救急対応が必要な当直がなくなり、睡眠を最優先にするようになってからは、ほとんど風邪をひかなくなりました。
近年、新型コロナウイルスをはじめとする新種の感染症の流行が、私たちの生活を脅かしています。
また、がんやアレルギー・自己免疫疾患など、免疫に関連する病気も増加傾向にあり、こうした疾患と睡眠不足の関連を示す研究も多数あります。
免疫力を整えておくことは、感染症や自己免疫疾患を防ぐためにもとても重要です。
睡眠不足が続く状態では、栄養やサプリ、運動を取り入れても、思ったような効果は得られません。
まずは睡眠の重要性を理解し、日々の生活の中でしっかりと確保することが大切です。
交感神経だけでなく
血管にも大きなダメージが…
慢性的な睡眠不足を抱える人が増えている中で、睡眠不足の影響で、動脈硬化や高血圧など心臓や血管の病気(心血管疾患)の危険が高まることが、多くの研究でわかっています。

『ぐっすり!1万人を治療した専門医が教える最強の睡眠メソッド』 (渥美正彦、徳間書店)
まず高血圧について。
2017年に発表された大分大学と日本大学の大規模な共同研究では、短い睡眠(5~6時間未満)の人は、7時間程度眠る人に比べて高血圧になる危険が約17%高いという結果が出ました。生活習慣などを考慮しても、この傾向は変わりませんでした。
血管の老化を意味する動脈硬化についても証拠があります。
2018年のジョンズ・ホプキンス大学の研究では、会社員の健康診断データを詳しく調べ、短すぎる睡眠や長すぎる睡眠の人ほど、血管にコレステロールのかたまり(プラーク)が多いことがわかりました。
なぜ眠らないと血圧や血管に悪いのでしょうか。大きな理由の1つは「自律神経のバランスの乱れ」です。
睡眠が足りないと、体を緊張させる「交感神経」が働きすぎて、心臓の動きが速くなり、血管が縮みやすくなります。
次に影響するのは、「ストレス反応」です。
睡眠不足になると体がストレスに対抗しようとしてコルチゾールを大量に分泌します。これは短期間であれば体を守る反応ですが、長期に続くと高血圧や動脈硬化を悪化させ、心臓や血管の病気のリスクが高まるのです。
もう1つの理由は「炎症」です。
睡眠不足や質の悪い睡眠が、体の中の炎症物質(CRPやIL-6など)を増やすことが複数の研究で判明しています。炎症が続くと、血管の内側の細胞(内皮)が傷み、プラークができやすくなります。
自分に合った十分な睡眠が
心臓や血管の健康を守る
さらに、「代謝の乱れの影響」も無視できません。
1999年のシカゴ大学の実験研究では、短い睡眠を続けると血糖値の調整が悪くなり(インスリン抵抗性)、代謝が乱れることが示されました。血糖や脂質の異常も、血管を老けさせる大きな要因です。
2022年にアメリカ心臓協会(AHA)が発表した「Life’s Essential 8」では、心臓や血管の健康を守るための重要な要素のひとつとして「睡眠の質と量」が明確に位置づけられています。
心血管疾患は命にかかわることも多いため、慢性的な睡眠不足や睡眠障害が疑われる場合には、十分な睡眠時間を確保するとともに、専門医による診断や評価、適切な治療を受けることが推奨されます。
健康な血圧と血管を守るためには、自分に合った十分な睡眠を、毎日しっかり確保することが基本です。