読書が「2時間以上」で成績下がる“逆U字現象”

読書で頭はよくなるのか? 子どもの「学力」と読書の関係についてご紹介します(写真:しゅんか/PIXTA)
やっぱり気になる子どもの「学力」と読書の関係
読書で頭はよくなるのか、という疑問に関するトピックの1つは「学力」です。
【グラフを見る】「読書10〜30分」をピークに、どんどん学力が落ちていく
本記事の読者の方……特に子どもを持つ保護者の方は、どうしても気になってしまいますよね。
「学力」を測定するテストとしてもっとも代表的なのは、毎年4月に文部科学省が実施する「全国学力テスト」です(正式名称は「全国学力・学習状況調査」といいます)。
なんと全国の小学6年生と中学3年生「全員」を対象としたもので、2025年度実施調査では、小学6年生は約95万人、中学3年生は約90万人がテストを受けています。
読書と全国学力テストの関係について、読書活動の指標として「読書は好きですか」という質問に注目した下図からは、次のことが言えます。

(画像:『科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」』より)

(画像:『科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」』より)
しかし、自分で書いておいて何ではあるのですが、これはシンプルに説明するためのある意味での“ウソ”なのです。
全国学力テストには「読書は好きですか」という質問以外に、
という「平日の読書時間」の質問があります。
次の図は、読書活動の指標として「平日の読書時間」を採用して、全国学力テストの国語と算数の成績との関係を示したものです。知見の一般性を示すために、2023年度(上図)と2025年度(下図)の年分を示しています(2024年度実施調査には読書時間についての質問項目が含まれていませんでした)。
のちほど小学6年生のグラフも示しますが、まずは中学3年生のものだけをみてください。ご覧のとおり、「読書時間が長いほど、学力が高い」とはなっていません。関係が直線的でなく、曲線的です。

(画像:『科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」』より)
「10〜30分の読書」をピークに学力が落ちる
2023年度がわかりやすいのですが、国語も数学も、「まったくしない」から「10分以上、30分より少ない」まではぐんぐん学力が伸びているのですが、「10分以上、30分より少ない」をピークに、そこから先は読書時間が長くなればなるほど、学力が落ちています。
「2025年度の国語も「10分以上、30分より少ない」を超えると成績はほぼ伸びず、「2時間以上」では成績が下がっています。数学でも、2023年度のデータと同じく、「10分以上、30分より少ない」をピークにそこから成績が下がっています。
年度によって曲線の形はやや異なっているものの、読書時間が長くなるにつれて、学力などの成績がいったんは上がり、ピークを迎え、その後は下がっていく傾向が存在します。
このような現象を「逆U字現象」とか、「逆U字効果」と呼びます。
グラフを全体的に見ると、U字を逆にした形になっているからですね。日本人には「山型」といったほうがわかりやすいのですが、学術用語として世界で使われている「逆U字」という言葉を本書でも用いることにしておきましょう。
こうした逆U字現象は、読書との関係を分析した際には広く見られます。学力に関して、成人版の国際学力調査PIAAC(「ピアック」と読みます)というものがあるのですが、そこでも逆U字現象が見られます。
「余暇に『小説やノンフィクションの本を読むこと』の頻度」と「読解力」の関係を見てみると、「毎日」と回答した成人の読解力スコアは、「少なくとも週に1回以上」と回答した成人の読解力スコアよりも低くなっていることがわかります。
もう少し詳しくいえば、「まったくない」から「少なくとも週に1回以上」までは読解力スコアが高まっていくのですが、「少なくとも週に1回以上」でスコアは頭打ちとなり、「毎日」はそれよりも読解力スコアが落ちてしまうのです。
つまり、子どもだけでなく、成人の学力でも起こることなのです。
逆U字現象は学力以外でも起こります。
東大とベネッセの「子どもの生活と学びに関する親子調査」データを私が分析したレポートでは、調査開始年や調査時の学年などによってデータを分類した結果、「現在あるいは過去の読書時間と、現在の語彙力・読解力スコアの関係を分析すると、その約4割に逆U字効果がみられたこと」を報告しています。
ここでの4割とは、直線的に効果があったものも、そもそも効果が観察できなかったものも、すべて含めた約100個のデータの中での4割、なので、かなり大きな割合です。
さらに、ABCD調査でも「9歳以前に週に何時間読書をしていたか」という質問をしており、知能との関係を見ると、週に12時間で知能スコアがピークとなり、それより長い時間読書をしていた児童では、むしろ知能スコアは下がっているのです。
さらに、同じABCD調査では、子どもの抱える精神的問題を測定するアンケートとの関係で、
子どもの精神的問題の総スコアは、読書時間が12時間までは下がる(精神的問題が少なくなる)が、12時間を超えると上がっていく(精神的問題が多くなる)ことがわかっています。
読書の「スモールインプット」現象とは
もうひとつ、別の現象も説明させてください。
次の図は、小学6年生版です。全国学力テストにおける平日の読書時間と学力の関係を示しています。

(画像:『科学的根拠(エビデンス)が教える子どもの「すごい読書」』より)
小学6年生では、明確な逆U字現象こそ起きていないものの、2023年度でも2025年度でも、「まったくしない」から「30分以上、1時間より少ない」までは学力が急激に伸びて、「1時間以上、2時間より少ない」以降は、伸びが鈍化していることがわかります。
ごくごく単純に考えると、「0分(まったくしない)」が「20分(10分以上、30分より少ない)」になると、成績は7ポイントくらい上がります(2023年度:国語で6.9ポイント、算数で7.2ポイント、2025年度:国語で6.9ポイント、算数で7.9ポイント)。
読書は30分程度までの短時間が一番“お得”
一方、「20分(10分以上、30分より少ない)」を「90分(1時間以上、2時間より少ない)」にしても、2〜3ポイントくらいしか上がりません(2023年度:国語で2.3ポイント、算数で1.6ポイント、2025年度:国語で3.0ポイント、算数で2.8ポイント)。
平日20分程度の読書で7ポイントの上昇、そこから70分増やしても、2〜3ポイント程度しか上がらないのです。
要するに、読書は30分程度までの短時間に抑えておくのが、一番お得ということになります(あくまでも読書効果の面では、ですが)。
このような「まったくしない(0分)」と比較したときに、「ちょっとやる(5〜30分)」で大きな成果が得られる現象は、逆U字現象と同じく、広く見られます。ところが私の知る限り、この現象には定着した名前はないようです。
同じ本や簡単すぎる本ばかり読む、あるいは、集中せずにダラダラと読む……というよりも、本を開いているだけ、という状態になってしまう……。
こうした質の低い読書を長時間続けるくらいなら、読書は短時間で切り上げて、他の活動(勉強や遊び)をしたほうが、その子どもにとっては有益な時間になるでしょう。
あるいは、長時間の読書が、イコール、質の低い読書、となってしまわないように気をつけることがとても大切だということになるのです。