ハリウッド界が「日本のレンタル家族」狙った理由

日本の名優・柄本明氏も出演していることが話題になった、ハリウッド映画『レンタル・ファミリー』(写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
異色のハリウッド映画『レンタル・ファミリー』が日本で公開されて1週間が経った。
【写真】ハリウッド界にウケている「日本のフシギな光景」
同作は、イギリスのアカデミー賞で監督賞と非英語映画部門のノミネート候補にもなっている。監督は日本人のHIKARI氏、主演はアカデミー賞受賞俳優のブレンダン・フレイザー。舞台は日本。ロケもすべて日本で行われた、珍しいハリウッド作品である。
「東京で暮らす落ちぶれた俳優フィリップは、日本での生活に居心地の良さを感じながらも、本来の自分自身を見失いかけていた。そんな中、“レンタル家族”として他人の人生の中で“仮の”役割を演じる仕事に出会い、想像もしなかった人生の一部を体験する」(公式サイトより)というあらすじだ。
公開後、SNS上では「ハリウッド作品なのにきちんと日本を描いている」といった感想も多く見られた。
なぜ、日本が舞台で、「代理家族派遣業」が題材になったのだろうか。
「日本」が注目される下地はあった
この数年、日本映画というより“日本”を題材にした作品へ、海外のプロデューサー、スタジオ、クリエイターの視線が熱くなっている。2024年のエミー賞で『SHOGUN 将軍』が18部門で受賞したことなどが記憶に新しい。
背景に何があるのか。世界中の映画事情に詳しいイギリス在住の雑誌エディター、ショービズアナリストであるウィル・ジェンキンス氏はこう解説する。
「是枝裕和監督の『怪物』(23年)がカンヌ国際映画祭で注目され、興行的にも欧州でまずまずの興収をあげています。それから『ゴジラ-1.0』(23年)がアメリカ国内で約81億円を稼ぎ出した。
それ以前には、韓国の『パラサイト 半地下の家族』(19年)や、アメリカに住む中国系移民一家にフォーカスした『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22年)がアカデミー賞を獲得するなど、アジアンのキャストや監督、スタッフが認められています。
『パラサイト』は全世界興行収入3億ドル、『エブリシング〜』は同1億5千万ドルという実績を出している。そのような前段があるので、アジアンの一角である日本への関心が高まる土壌はできていたのです。
イギリスでは山田太一さんの原作を翻案した『異人たち』(23年)が公開されている。これもまた世界的な評価を得て、なおかつインディーズ映画としては200万ドルの大台に乗せた興行収入で信頼を得たのでしょう。
こうした流れがあり、題材的に日本、それもドメスティックな日本の文化は面白い、と海外の映画人に認識されるようになったんです。そもそも村上春樹、村田沙耶香、柳美里などの小説が高い評価、市場価値を得ていますから、カルチャーとしての日本の下地は盤石だった」
ジェンキンス氏は諸作の質的な高さ以前に、日本の現在に即した映画や文学の市場価値が“熱さ”のコアにあると強調する。

『レンタル・ファミリー』の作中には、日本の日常風景が描かれている。写真は都電荒川線車内の光景(写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
自販機が町のあちこちに設置されている光景は面白い
映画潮流の真っ只中にいる人は、どう考えているのか。『レンタル・ファミリー』のプロデューサーの1人、山口晋氏に聞いてみた。山口氏は映像制作会社ノックオンウッドを05年に設立。 今年で21年目を迎えるバイリンガル・プロデュースチーム(多国籍に製作を展開)を率いる代表である。
「確かに海外の映画製作者にとって、日本は非常にユニークな題材として映っているようです。日本の見慣れた風景、たとえば自販機が町のあちこちに設置されているような光景は、欧米では不思議がられる(筆者注:欧米では防犯上、屋外で店員なしに物を販売するケースは少ない)。
最近では、日本で起きた歴史的な事件や社会問題の背景にどんなことがあるのか、映画人に尋ねられることが増えました。今回の『レンタル・ファミリー』のアイデアになっている代理家族派遣業も、欧米人には特異に感じられたようです」

主人公が勤めているレンタルファミリー会社の社長を平岳大氏が演じる(写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
かつて黒澤明監督で失敗もあったが…
日本で始まった代理家族派遣業とは、その名の通り、家族の代理人を依頼者のニーズに合わせて派遣する事業だ。映画『37セカンズ』(19年)で注目を浴びたHIKARI氏がアメリカ出身の脚本家スティーブン・ブレイハットと脚本を書いた。HIKARI氏は大阪府出身の写真家・映画監督だ。山口氏が続ける。
「ハリウッドが、この題材とHIKARIのアイデアを面白がった。アメリカ映画業界ではコロナ禍で、全米脚本家組合が大規模なストライキを行っています。ビジネスを立て直す大事なシーズンに、『レンタル・ファミリー』を公開したことの意味は大きい。シビアなアメリカ映画業界に商業価値を認められたということです」
古くは、黒澤明監督作としてスタートし、結果失敗に終わった『トラ・トラ・トラ!』(1970年)以来、日本とハリウッドは縁遠くなった。
これはハリウッド側のプロデューサーが失敗を分析したレポートを出し、映画作りの体制が大きく違う日本との製作はリスクが大きいと報じたからなのだが、『レンタル・ファミリー』は再び日本とハリウッドの距離を縮めた。
「コロナ禍以降、勃興した配信ビジネスやトランプ政権による関税政策(※1)により、映画製作者たちの視線は国外へ向いています。ファイナンス・リスクを減らし、国外の興行収益を増やそうという命題があり(※2)、この命題をクリアする意味でも、映画界は日本、アジア、ヨーロッパ、さらには世界全体に題材と興行先を求めているのです」(山口氏)

オール日本ロケの本作は、さまざまな場所で撮影が行われた。写真は、外国人にも人気のある東京都新宿区の神楽坂(写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
世界でウケるのは「日本のドメスティックな事情」
山口氏は「90年代以降の国際共同制作の本格的な制度化、00年代以降の完全グローバリズム市場によって映画の地産地消が叶わなくなった。コロナ禍以降は完全に不可能になったのではないか」と語る。しかしユニークなのは――と言葉を区切って、こう続けた。
「グローバリズムで製作、公開する国々が広がった一方で、観客がウケるのは題材になった国々のドメスティックな事象でした。その国固有の事情(日本であれば“お受験”が家庭の問題になっていることなど)を観たい希望が強い。韓国内の貧富格差を描いた『パラサイト』もそう。日本で始まった代理家族派遣業を描く『レンタル・ファミリー』は、リアルな日本をハリウッド映画のテイストで表現し、全世界にエンターテインメントとして提供する、新しい試みです」

名門私立小学校のお受験のために「外国人の父親」役を引き受け、面接に挑む主人公(写真:©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
さらに、ハリウッドや映画人たちが「日本」に熱視線を送る理由は「題材だけではない」と、山口氏は続けた。
「国際的に映画の興行収益が右肩上がりを記録しているのは日本くらい。アニメなど、観客を呼ぶコンテンツは多い。例えば『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などの作品に出資したい海外の投資家、プロデューサーはあまたいる」
題材やスタッフ、キャスト、作品のみならずエンターテインメントやビジネスの点でも「日本」は注目されている。「いま日本が熱い」に嘘はなさそうだ。