吉沢亮が13キロの激ヤセ! 壮絶すぎる役作りに制作陣「このまま消えてしまうのではと思った」〈ばけばけ第111回〉

『ばけばけ』第111回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、毎日レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」「誰かと話したくなる」連載です。本日は、第111回(2026年3月9日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

子煩悩なヘブン

 ヘブン(トミー・バストウ)が習字をしている。

 子どもの名前を決めているのだ。

 レフカダのカダをとって勘太。

 字は勘右衛門(小日向文世)の勘だ。

 丈(杉田雷麟)、正木(日高由起刀)、クマ(夏目透羽)もいい名前と褒める。

 彼らは毎日、赤ん坊の良いところを発表させられていた。

「かわいい」「賢い」「ぷくぷく」「先生、そっくり」「ママさん、そっくり」はすでに発表済みなので、違うことを言えと強いるヘブン。これも現代だったら何ハラだろうか。子ハラ?

「いいところと言っても、ただの赤ん坊だからそんなにないんだよな」とわりと辛辣(しんらつ)な正木。

 昨日は「白目が白い」「細胞が若い」とすでに彼らは生物的に突き詰めるところまでいっている。

 ヘブンがこんなに子ども好きだとはと、驚くやらあきれるやらの司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)。子ども好きというか子煩悩というやつである。

「勘太は小さな私です」というセリフは子どもに自分を同化して見る、子どもにとっては悪い傾向ではないか。などと斜めに見ることもないだろう。はじめての赤ん坊が生まれた家のほのぼのとした日常の1コマだ。

 とはいえ、何もかも順調というわけでもない。

 正式に結婚するため、同じ戸籍に入る件はまだ保留になっている。

「少したって、私が体を動かせるようになったら、市役所にいって話聞こうって」とトキ。

 そもそも、同じ戸籍に入れられるかどうかわからない。でもいまは、育児疲れで、また眠いトキ。きっと夜泣きするのをあやして眠れないのだろう。

 勘太のいいところをひとつ言ってから寝てこようかな? と言い、さあ、どんな新しいことを言うかと思えば、

「かわいい」

 やっぱり「かわいい」は最強だ。

遺産は要らない司之介

 勘太の加入で、すっかりファミリー路線に突入かと思いきや、第23週のサブタイトルは『ゴブサタ、ニシコオリ、サン』(演出:村橋直樹)で、錦織(吉沢亮)が中心になるようだ。気になるー。

 主題歌明け、トキとヘブンは役所を訪ねる。

 息子が生まれたから3人で同じ戸籍に入りたい。ただし、ヘブンは現在英国籍。この事情を聞いた役所の人は、担当することを渋り、たらい回しにしようとする。これまでにない事例なので、担当したくないのだ。

 結局、その日は何も分からず――で、役所の対応に視聴者が疑問を感じていると、「〜きちんと調べ、改めて説明に来てくれました」と「丁寧ね」と蛇と蛙(渡辺江里子と木村美穂)。

 役所の人が丁寧で誠実な人たちに描かれて、よかった。たいていこういう場合、無責任に書かれがちなうえ、突然、お助け人のようにいい人が出てきがちだから。

 役所の人は、ふたつの方法を提示する。

 1つはトキと勘太がヘブンの戸籍に入り、イギリス人として日本で暮らす方法。

「どこからどげ見ても日本人じゃがの」と司之介がお約束のツッコミ。

 そこはスルーして、そうするとヘブンが亡くなった場合、遺産はすべて英国に行き、トキにも勘太にも「ビタ一文入らないなどの不利益がございます」と役所の人。

 もう1つは、ヘブンと勘太が、トキの戸籍に入り、家族3人とも日本人になる方法。これなら日本で何不自由なく暮らせ、遺産もトキたち家族が得られる。その代わり、ヘブンの外国人としての特権を失う。日本を出て自由に外国に行くことが難しくなると知って、ヘブンは眉間にシワを寄せる。

 それぞれが何を大切にするか。究極の選択。

 ヘブンは、家族全員の幸せを大切にしたい。

 そこで司之介が遺産はもういらないと言う。

 すごく珍しいことを言うと、フミとトキが目を丸くする。ヘブンまで。「珍しい」

 ヘブンとトキが一緒にならなかったら、今でもうちは借金地獄だった。それを思うと、もう十分だと言うのだ。

「もらいすぎるくらいもらったけん」

 フミも同意する。

 なんてまともな考え方であろうか。

 さんざんおかしなふるまいをしてきた司之介も、金銭的なゆとりや孫というゆとりを手に入れて、すっかり満たされたのであろう。まあ、投資依存みたいなことはドラマを面白くするためのものであって、このドラマにおける司之介は、根っからおかしな人ではなかった気がする。あくまでドラマをおもしろくするためにおかしくふるまっている人物という位置づけだったと思う。

 イギリス人になっても、日本人のままでも、大切なのはヘブンらしさ。とトキは言う。

 子どもができたら、すっかり落ち着いた感じのトキ。ヘブンがフィリピンに行ってしまうと聞いたときはあんなに混乱していたのに。

 しっかり家族になると言ってもらえたことが自信につながっているのだろう。やはり籍というルール(保障)があるのとないのとでは大きな違いがあるようだ。

錦織のあごのラインに目が釘付け

 そして、ロバート(ジョー・トレメイン)宅。

 たぶん、ラン(蓮佛美沙子)に勘太を見せにきたのだと思うが、ロバートは子どもが得意じゃなくて、うまく抱けていない。ヘッピリ腰になっている。

 ご主人がずっと日本にいてくれるなんて、とランは決めつけている。が、ヘブンはまだ迷い中。

「なぜ迷う? 熊本に来て、日本に絶望している男が海外に行けなくなるって言われたんだろ? つまり日本でしか書けなくなるんだぞ。君にとって何もない、この日本でしか」

「自分の幸せについて、真剣に考えるんだ」と屈託なく言うロバートにランは目を丸くする。

「じゃああなたの幸せは、あなたの幸せは日本で暮らすこと? それとも」

「君も分かってるだろ」

 わかっているけれど……と駆け出すラン。

 ロバートとランの間にある埋められない溝。

 立ち尽くすトキをそっと見るヘブン。ふたりは何を考えているのだろう。

 帰宅したヘブンはイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)からの手紙を読み返す。

 フィリピンに行けば、執筆に専念できるし、温かいしと手紙に書いてある。

 ヘブンは返事を書きはじめる。

「子どもが生まれ、新しい人生を歩きだした。私の役目は、息子や妻や家族の幸せを守ることになった。

イライザ、長いこと待たせたが、フィリピン行きは諦めたよ。

つまり、物書きとしての私は死んだ」

 そして、子どもをあやしているトキの元へ向かい、

「私、日本人 なります」と宣言する。

 いや〜重い!

「私の役目は、息子や妻や家族の幸せを守ることになった」

「つまり、物書きとしての私は死んだ」

 これはなかなか重たい言葉ではないか。じつに重たい選択である。

 これまでのドラマは朝ドラに限らず、女性が結婚し出産すると仕事との両立に悩み、仕事をやめる選択をする物語が多かった。それが『ばけばけ』では男性が夢を諦め、家族のために働くことを決意する。

 この男女逆転現象は『おむすび』(2024年度後期)でも描かれた。主人公の夫が野球選手の夢を諦めて育児する選択が描かれていたのだ。最近とみに時代に沿った題材選びがされているのを感じる。

 まあ、ヘブンの場合は、モデルの小泉八雲の人生に沿うと、結局作家として家族を養うことになるわけだが。

ドラマでは、ヘブンが家族のために日本人になるというところが強調されている。実際の八雲はこの配分はどうだったのだろう。

 と、そんな感想が吹っ飛ぶような場面が最後に出てくる。

 ゴブサタの錦織が登場するのだが、誰かわからないほど痩せている。顎(あご)の線がシャープになり過ぎるほどなりすぎて、不謹慎ながら、美しさが過剰に増して見えた。

「イケメン」というカジュアルな言葉をもはや使用できない高貴な美しさである。と同時に、「ヤバい」というボキャブラリーしか出てこない圧倒的なすごみもある。『国宝』で日本一の邦画実写興収を叩きだした主演俳優の風格あるたたずまいであった。

 橋爪國臣チーフプロデューサーは吉沢亮が約13キロ体重を落としてきたと教えてくれた。

「吉沢亮さんにはあらかじめ、最終的には病に冒されるという話はしてありました。そのとき吉沢さんから錦織が病になるシーンを撮るまでには最低1カ月は時間を空けてほしいとリクエストされていました。実際、その前のシーンを撮り終わって1カ月近く空けて撮影をしました。

 吉沢さんはその前から徐々に少しずつ痩せていって、1カ月で一気に痩せたようです。専門のトレーナーについて健康に支障のない範囲でやっていたとはいえ、久しぶりに現場に現れた吉沢さんは、このまま消えてしまうのではと思うほど痩せて、声もかすれていました。

 最終的に13キロくらい体重を落としたようです。体は衰えても、精神はより研ぎ澄まされているようで、痩せた目の奥の輝きが印象的でした。最後に何かを成し遂げたいという錦織の思いを目だけで語っているように見えました」

 トミー・バストウの芝居もすごくいいのに、そこに儚(はかな)い錦織をかぶせてきて、贅沢すぎる。寿司とステーキが同時に出てきちゃった感じだぞ。最終回も近いからか大盤振る舞いか。

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主なシーンより

第23週(3月9日~3月13日)

「ゴブサタ、ニシコオリサン。」あらすじ

トキ(高石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)に息子・勘太が産まれる。初めての孫に喜ぶ司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)よりも、勘太にデレデレなヘブン。丈(杉田雷麟)や正木(日高由起刀)、クマ(夏目透羽)もその溺愛ぶりに目を丸くする。ある日、勘太の出生届をだすためにトキとヘブンの国籍を決めることに。手続きのため家族で久しぶりに松江へ帰ることになり、錦織(吉沢亮)やサワ(円井わん)と再会する。

連続テレビ小説『ばけばけ』

作品情報

連続テレビ小説「ばけばけ」。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描きます。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語です。

【作】 ふじきみつ彦

【音楽】 牛尾憲輔

【主題歌】 ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」

【出演】高石あかり(「高」の表記は、正確には「はしごだか」) トミー・バストウ / 吉沢亮 / 北川景子 / 蓮佛美沙子 / シャーロット・ケイト・フォックス 板垣李光人 円井わん 濱正悟 岩崎う大 ジョー・トレメイン 杉田雷麟 日高由起刀 / 岡部たかし 池谷のぶえ 池脇千鶴 朝加真由美 佐野史郎 生瀬勝久 小日向文世 ほか

【放送】 2025年9月29日(月)から放送開始