20坪の敷地に5人が暮らす都心の二世帯住宅。建築家・内部美玲が自邸で挑んだ、愛着をもって長く住み継がれる家の形

個人住宅であることを超え、長く住み継いでいける建物を目指して, あらゆる条件をクリアしながら住空間を最大限に確保, 立体的につながる、隔てる。高さ違いの空間の連続, 時と場合に応じて使い分けられる家具が、空間の広さと自由を生む, 愛着がわくよう、設えの隅々に込めたこだわり, ほんのわずかな違いの積み重ねが、空間を大きく飛躍させる

20坪の敷地に5人が暮らす都心の二世帯住宅。建築家・内部美玲が自邸で挑んだ、愛着をもって長く住み継がれる家の形

都内の住宅街に、建築家の内部美玲さん(色景一級建築士事務所)の両親が暮らす一軒家がありました。建物の老朽化を受け、二世帯住宅としても使用できる住居へと建て替えることに。

都市部の厳しい規制のなか、親世帯・子世帯が共に暮らしやすく、将来の変化に対応でき、長く住み継いでいける建物をと、心を尽くし考え抜いてつくられた住まいを紹介します。

個人住宅であることを超え、長く住み継いでいける建物を目指して, あらゆる条件をクリアしながら住空間を最大限に確保, 立体的につながる、隔てる。高さ違いの空間の連続, 時と場合に応じて使い分けられる家具が、空間の広さと自由を生む, 愛着がわくよう、設えの隅々に込めたこだわり, ほんのわずかな違いの積み重ねが、空間を大きく飛躍させる

Mirei Uchibe

個人住宅であることを超え、長く住み継いでいける建物を目指して

古くなった実家について家族で話し合いを重ね、二世帯でも住める家に建て替えようという方針が決まりました。とはいえ「新しい家は両親より長生きする可能性が高い一方で、自分たち子世帯もずっと同じ土地で暮らし続けるかわからず、先が見えない」という不確定要素がありました。「そこで、個人住宅であることを超えて、長く住み継いでいける建物を目指したんです。具体的には、まず私たち二世帯が行き来しながら住みやすい2住戸をつくる。と当時に、2住戸を片方でも両方でも将来的に賃貸できるよう、個別に分けてもおく。さらに住みながら考え、使い勝手をよりよく変化させられる余地も残しておく。自分たちが長く住み続ける可能性もあるので、愛着をもてる仕組みも与えておきたいと思いました。空間軸・時間軸で何段階もの想定を重ねた結果、『選択肢を残すことが自由を生む』という考えに至りました」今現在の自分たち家族にも、まだ見ぬ未来の住み手にも、柔軟に寄り添う家づくりが始まりました。〈写真〉2階、子世帯住戸のLDK。

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Kenta Hasegawa

あらゆる条件をクリアしながら住空間を最大限に確保

敷地は都市部の住宅街にあり、家々が近接し建て込んでいる環境。特に規制が厳しい地域です。北側斜線制限・高度斜線制限・天空率といった規制をクリアしながら住空間を最大限確保できる建物のボリュームと姿を探ります。 〈写真〉東側外観。1階右手のドアが親世帯の住戸の玄関。2~3階が子世帯の住戸で、外階段を上った2階に玄関がある。

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Irokage Architects

容積いっぱいに計画すると約100㎡。そこに親世帯と子世帯、計5人が住むことは切実な課題でした。家族とはいえ、ライフスタイルも住環境の好みも異なるのは、身内だからこそ重々承知のこと。「将来的な変化にも対応できる柔軟性のある家にしたいからといって、オープンなワンルームのような空間にみんなで住むのは私たちには難しい。個々人の居場所を確保したいとなると、人数分のスペースが必要だと考えました」その結果、プランとしてはまず、間口の狭い敷地において、1フロアを手前と奥の2つに分ける。それを3フロア重ね、家族5人分+αとなる6つのスペースを確保することに。小さめの空間を数珠つなぎに連ねる空間構成によって、課題の解決を図ったのです。続いて6つのスペースを、高度斜線制限・天空率といった条件や、各用途に適した面積と天井高を考慮し、バランスをとりながら大小に調整していきます。また敷地近くには川があり、氾濫による浸水の恐れも。対策としてコンクリートで高基礎を設け、その内側に床下収納スペースも確保することとしました。〈図〉コンセプト図。

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Irokage Architects

〈図〉断面コンセプト図。

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Kenta Hasegawa

立体的につながる、隔てる。高さ違いの空間の連続

内部さんは建物全体でできる限りの面積・気積を確保しながら、内部空間をより広く豊かに活用するための構成も練りました。2~3階の子世帯住戸では、敷地の手前と奥に分けた中間地点に階段を設け、上部を吹き抜けに。2層の空間全体が立体的につながる開放感と同時に、家族が各々に分かれて過ごすことができ、なおかつ互いの気配は感じられる親密感ももたらしています。また人が集まる2階のLDKの天井を高くしたかったため、LDKの真上に位置する部屋の床を上げることに。そうして3階の床に段差ができたことが、空間を広く感じさせ、隣り合うスペースでも程よく隔たって感じられる効果も生みました。〈写真〉右/2階の子世帯住戸のLDK。左/3階。吹き抜けの階段を介して、段差のある手前と奥、また下のLDKという3つのスペースが緩やかにつながる。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉1階住戸。玄関から半階分上ったレベルにダイニングキッチンがあり、そこから数段下がった手前に個室がある。このちょっとした段差が空間と気分の切り替えにとても効果的。

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Kenta Hasegawa

時と場合に応じて使い分けられる家具が、空間の広さと自由を生む

空間を広く豊かに活用するための工夫は、建築だけでなく家具にも凝らされています。例えば子世帯住戸のLDKは、食事をするにもくつろぐにも仕事をするにも使う場所。ダイニングテーブルは楽に動かすことができ、時と場合に応じて使い分けられるようにしました。肝心なのは、キッチンの床をリビングダイニングより21㎝低く下げ、アイランド作業台がダイニングテーブルの天板の下に潜り込むようにしたこと。アイランド作業台とダイニングテーブルが重なり合うおかげで、テーブルの可動域も空間の使い勝手も俄然広がります。〈写真〉子世帯住戸のLDK。

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Irokage Architects

「キッチンにアイランド作業台があると、存在感が大きく、特に狭い空間では壁のような圧迫感が出がちですが、1段下げるだけで印象がまったく変わります」と内部さん。空間を遮らなくなるばかりか、キッチンで作業しながら目線を上げずともリビングダイニングにいる家族の様子がわかり、コミュニケーションをとりやすいのも利点なのだそう。〈図〉上が一般的なLDKの高さと人の関係。下が、キッチン部分の床を1段下げた内部さん宅のLDKの高さと人の関係。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉ダイニングテーブルとアイランド作業台を重ねて使っている様子。キッチンで用意した料理などを卓上へサーブするにも片付けるにもスムーズで効率的。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉ダイニングテーブルをソファ側へ移動して使っている様子。オーバル型のダイニングテーブルは座る位置を問わず、大勢で囲みやすい。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉ソファは壁面に固定したL字型の背もたれと可動式の座面3つの組み合わせによって形を自在に変え、多彩な使い方ができるようにした。

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Kenta Hasegawa

愛着がわくよう、設えの隅々に込めたこだわり

加えて内部さんは「手で触る部分を無垢の木材でつくること、そこに心地よい丸みをつけることに、意識的に取り組んだ」と語ります。この家は、準防火地域の規定に従い「イ準耐」と呼ばれる準耐火建築物である必要がありました。木造でつくっても、構造体の木部を室内に露出させることはできず、石膏ボードや壁紙で覆って仕上げねばなりません。すると木は見えなくなってしまいます。「そうではなく、経年変化が感じられ愛着の湧く物質に包まれたい。触れたくなるものと暮らしたいと思いました」そこで、建築の内装ではなく、部位や設えとしてのものづくりに思いを託します。〈写真〉子世帯住戸の2階と3階をつなぐ階段。

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Kenta Hasegawa

最初に取り組んだのは、階段の手すりです。無垢の桜の角材の片側を薄くスライスし、曲げ加工を施しながら20層ほども丹念に貼り重ね、角を丸く削り、磨き上げてつくられました。なめらかな手触りがなんとも心地よく、ゆったりとした幅と厚みによる安心感もあります。「かつての家の大黒柱の役割を担うものとしての、手すりです。昔はよく子供の身長を大黒柱に刻んでいたように、家族の思い出に残るものをと考えました」無垢材ならではの貫禄ある手すりは、家族の暮らしを支える中心的存在として、上下の空間を温かくつないでいます。〈写真〉階段の手すりのアール部分。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉ダイニングテーブルは、いろんな方向から足を入れられる使い勝手のよさもさることながら、「足で触れたときに心地よい」という理由により円柱状の脚で支えている。

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Kenta Hasegawa

他にも例えば吊戸棚は、本体をラワン合板でつくり、端だけ桜の無垢材にアールをつけたものを組み合わせてあります。〈写真〉リビングの吊戸棚とソファ。壁際に腰掛けると、頭上に吊戸棚があり、程よいこもり感でくつろげる。

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Kenta Hasegawa

「端部は家具の厚みが最も表れる部分である」と着目。造作した家具の端々に無垢材の存在感と心地よい丸みを与え、合板では得られないふくよかな豊かさと愛着を創出したのです。〈写真〉吊戸棚の側板。端部にアールをつけた無垢材を接合している。

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Kenta Hasegawa

ほんのわずかな違いの積み重ねが、空間を大きく飛躍させる

今回の家づくりを振り返って思うのは「ほんのちょっとしたことで、愛着のわく空間はつくれるということ」と語る内部さん。「例として、全体が無垢材でできている家具は高級だけれど、手に届く家具のつくり方として、おおむね合板でつくって端に無垢材を使う方法を採用しました。手の届く豊かさにアプローチできたと思いますし、実際に暮らしてみて、手に触れる部分の心地よさも実感できています」ちょっとしたつくりの工夫やちょっとした段差といった違いの積み重ねが、空間を大きく魅力的に飛躍させる――。規制や環境から突き付けられた切実な要件、家族との距離感などあらゆることに思慮を尽くし考えぬいた住まいは、条件をクリアすることを凌駕した自由と愛着に満ちています。〈写真〉3階、子世帯住戸。さまざまな制約から導き出された斜めの屋根や床の段差、高さ違いの窓などが交錯する空間は、単調に完結することのない広がりと変化に富んだ空間体験を生んだ。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉2階、子世帯住戸の玄関。正面奥の部屋は親世帯も子世帯住戸の居室を介さず自由に出入りして使える、いわば“離れ”。趣味のための道具などが置いてある。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉玄関のベンチやシューズボックスの端部にもアールを用いた。この丁寧なひと手間が空間の質を決定づけていることが感じられる。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉玄関からLDKを見る。手前のベンチ、LDKへ上る段、3階へ上る階段と手すり、奥にある戸棚と、手仕事が光る木の部位が連鎖し、住み手や来客を温かく迎え入れる。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉LDKから玄関側の見返し。リビングのフローリングや吊戸棚の端部には桜材を使用。キッチンはバーズアイメープルという「鳥の目」のような渦巻き状の特徴的な模様をもつ突板と、メープルの無垢材で製作。1つの空間を木の色で2トーンに分け、軽やかな広がりを生んだ。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉キッチンのアイランド作業台には、洗剤を隠すためと水栓が目立つのを避けるため、ステンレス板でつくったカバーを設置。作業台の立ち上がり部分にはアールをつけたメープルの無垢材を使用している。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉子世帯住戸3階。現在、手前は収納スペース兼子供の作業場。階段と壁を挟んで東側のスペースと緩やかにつながっている。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉3階の最上部のスペースから西側を見通す。現在オープンな収納スペース兼子供の作業場として使っている右奥の空間は、将来子供部屋につくり変えることも想定。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉3階の収納スペースは現在、高度斜線制限に沿って斜めにした屋根の下に仕切りを入れ、家族3人それぞれの“個人ロッカー”として活用中。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉1階住戸。奥のスペースは道路レベルから半階分高い位置にあるため、窓があっても歩行者と視線が交錯しない。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉1階住戸では、ダイニングキッチンを挟んだ両側に個室を振り分けた。右側は数段分床が下がり、天井の高い空間になっている。

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Kenta Hasegawa

〈写真〉外観。「長く住み継いでいける、ニュートラルな印象になるように」と考え、綿密に整えられた建物は、都市の住宅街に佇んでいる。【建築家プロフィール】内部美玲/色景DATA重ねつぐ長屋□ 設計/色景一級建築士事務所 内部美玲□ 敷地面積/63.1㎡□ 延床面積/98.8㎡□ 家族構成/二世帯 □ 所在地/東京都□ 用途地域/第一種中高層住居専用地域 □ 構造/木造 □ 設計監理/色景一級建築士事務所 内部美玲 □ 構造設計/NCN 田崎裕和□ 工事期間/2023年11月~2024年10月□ 施工/印南建設 □ 家具製作(2・3F)/ニュウファニチャーワークス□ ソファ製作/五反田製作所 MATERIALS●外部仕上げ屋根/ガルバリウム鋼板 平葺き 外壁/ジョリパット モエンパネル●内部仕上げ□ スペース4(2階LDK)床/チェリーフローリング(IOC)、フロアタイル(東リ) 壁・天井/エッグペイント 手すり/チェリー無垢材 曲げ加工、 SUS FB吊戸棚/ラワン合板、端部:チェリー無垢材アイランドキッチン/天板:人造大理石、側板:バーズアイメープル突板、端部:メープル無垢材□ スペース5・6(3階 室)床/チェリーフローリング(IOC) 壁・天井/EP塗装三角間仕切り/シナ合板、端部:メープル無垢材INSTRUMENTS●厨房機器ガスコンロ/ノーリツ水栓金具/ハンスグローエレンジフード/渡辺製作所●衛生機器 水栓/TOTO洗面ボウル/セラトレーディング

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