現代社会ではほぼ見かけない「稲藁納豆」は、段違いでおいしい。味も香りも賞味期限も変わる、稲藁の菌でつくる納豆の「素の味」を巡る旅

 土と水、自然な農法で育まれたお米、微生物の力を活かした調味料、その土地の自然環境に適応する在来種の野菜。今、そういったもともと日本人がつくり続けてきた食品は0.1%以下の流通量になってしまっています。

 自然と文化が織りなし生まれた食品を「素の味」と呼び、もう一度、素の味が食卓にあるのがふつうの風景にしていけたらと始まった、会員制スーパーマーケット「Table to Farm」のディレクター・相馬夕輝さんに、日本の素の味を教えていただきました。

日本の朝食に欠かせない納豆と、世界の納豆食文化, 納豆の味の違いは何で決まる?食べ比べてわかったこと, 納豆菌にとって居心地の良い稲藁発酵環境, 安価で安定供給できる納豆と賞味期限の考え方, 『素の味』は人間の豊かさを育んでくれる

2024.9.22 熊本県山鹿市。朝食には外せない納豆文化。

 今回の話は、納豆の『素の味』。日本の食卓に欠かせない納豆は、豆の違いだけでなく、その作り方にも美味しさの違いが現れるのだとか。納豆食文化から納豆菌についてまで、納豆の『素の味』を紐解きます。

日本の朝食に欠かせない納豆と、世界の納豆食文化

 日本の朝食といえば、ご飯に味噌汁、卵焼きに海苔、塩鮭、漬物、そしてやっぱり納豆が外せません。毎日の生活の中で毎日同じものを食べても、ずっと食べ飽きない朝食は、本当にそれだけで素晴らしい。台湾に行けば小籠包や鹹豆漿を食べ、アメリカに行けばベーコンにスクランブルエッグにポテト......朝食はいつでも、その土地を知る特別な存在だと思います。その地域にある食文化の普遍的な魅力を、より濃密に、そして日常の中で感じさせてくれるものと言えるでしょう。 

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2024.9.22 熊本県山鹿市。稲藁納豆は、塩だけでうまい。

 そんな日本の朝ごはんに欠かせない納豆の食文化は、実は日本に限りません。納豆の原理はシンプルで、蒸した大豆に枯草菌(コソウキン)と呼ばれる納豆菌が付着し、適度な温度と湿度環境の中で発酵してできあがったもの。そのため、その原理がぴったりと当てはまりそうな温暖湿潤なアジア圏では、さまざまな、日本とはまた少し違った形で納豆の食文化圏が分布しています。

  例えば、タイやラオスの内陸部では、納豆を平たく伸ばして保存性を高めるために乾燥させ、必要な分だけ小分けに活用して調味料にします。ニンニクや唐辛子、レモングラスなどを入れてつくることもあるようで、そう聞くだけでもおいしそうですよね。それらは、スープには欠かせない隠し味とされています。日本でも旨みを生かした料理はあり、納豆汁などを思い出せばそのおいしさが垣間見えてきます。

納豆の味の違いは何で決まる?食べ比べてわかったこと

 納豆菌は、先ほども挙げた、枯草菌という名の細菌の一種。当然、それぞれの環境でその種類も異なるため、日本のようにネバネバとした納豆が全ての地域や国に当てはまるわけではありません。日本の納豆菌は、あらゆる植物の葉にも茎にも、空気中にすら浮遊していて、実はどこにでも存在しています。その中でも昔ながらの稲藁が使われる理由は、より多くの納豆菌が稲藁の中にこそ存在しているからなのです。

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2025.10.3 長野県千曲市の風景。米作りと納豆。切っても切れない密な関係。

 納豆の『素の味』を探して日本中の多くの納豆を食べ比べてみました。当初、大豆の違いに大きな味わいの差があるのじゃないかと、慣行栽培や有機栽培といった栽培方法の違いの大豆はもちろん、大豆の品種にも焦点を当ててみたところ、黒豆の黒千石、ユキシズカ、トヨマドカ、小粒のスズマルといった品種などもありました。何度も食べ比べてみると、少しずつ見えてきたことがありました。大豆それぞれには、確かに食感や風味に違いや魅力はあるのですが、風味や熟成度合いがより生かされていると感じた納豆に共通していたポイントは、稲藁の納豆菌が存在していることでした。

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2025.6.3 東京都。発酵環境を変えながら、何度も何度も繰り返した、稲藁納豆の食べ比べ(撮影:相馬夕輝)。

 同時に、保管しておいた納豆の保存期間別での変化なども試していきました。そこでも、明らかに冷蔵庫の中で時間の経過とともにおいしくなっていく納豆があるのです。それは稲藁の納豆菌たちで発酵させている納豆でした。最終的に、納豆の『素の味』として選ばせていただいた生産者は、どちらも稲藁を使った納豆づくりに取り組む、大阪の「らくだ坂納豆工房」と、北海道の「道南平塚食品」となりました。

納豆菌にとって居心地の良い稲藁発酵環境

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2023.6.1 大阪府「らくだ坂納豆工房」。大阪の谷町で納豆を醸すらくだ坂納豆工房(撮影:高重乃輔)。

 大阪の「らくだ坂納豆工房」の伊戸川さんの元に訪問したのは、およそ4年前。Table to Farmがまだホームページもなく、自分たちの活動の紹介もままならない状況下の中でした。伊戸川さんもまた、創業何十年の歴史ある納豆メーカー、というわけではなく、ご自身で営まれていた居酒屋で自家製の名物納豆を提供していたことが始まり。常連のお客様から購入の要望をいただいていた中、コロナ禍で店を休まざるを得ない時期ができたことをきっかけに、一年発起、納豆の製造免許を取得し、事業転換をされたいったのです。 

 お会いしたのが、ちょうどどちらも創業してまもないタイミングだった境遇もあり、僕たちの無知を受け入れてくださりながら、何度もお話を聞かせていただいた時間がありました。おかげで、僕たちは『素の味』という考え方の軸を、納豆を通して学びながら、つくりあげていける時間となったのです。

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2024.9.13 北海道登別市「道南平塚食品」。稲藁は微生物にとって最高の発酵環境。

 北海道の「道南平塚食品」の納豆は、人工的に優良な菌株を選定する純粋培養納豆菌も併用し、稲藁に生息する納豆菌との両方が影響を与えながら発酵されています。稲藁は納豆菌にとっての快適な発酵環境になっている、と捉えられるとも思いました。

 そして、香川県の小豆島で、木桶仕込みで醤油を仕込む「ヤマロク醤油」の蔵元・山本康夫さんを訪れた時のことです。木桶で仕込む醤油がおいしいのはどういった理由があるのかと聞いた時、「木桶の環境は、醤油に欠かせない微生物たちにとって快適な環境を用意すること」とおっしゃっていたのです。微生物にとっての居心地は、そのまま発酵のパフォーマンスに影響している。それは、納豆も同じなのでした。

安価で安定供給できる納豆と賞味期限の考え方

 稲藁の菌だけで仕込む納豆。天然菌は、環境の変化を受けることもあれば、発酵が不安定になることもある。発酵時間においても、純粋培養した菌のおよそ1.5倍の30時間を要するなど、当たり前のようで、当たり前ではない製法だと言えます。

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2023.6.1 大阪府「らくだ坂納豆工房」。10本ほどの稲わらだけで500gの納豆ができあがる(撮影:高重乃輔)。

 実際、昔は稲藁で作るのが普通だった時代はあったかもしれませんが、現在、日常的に稲藁の中に実際に入っている納豆を見かけることはほとんどありません。日本中のスーパーマーケットに、安価で、安定的に、そして雑菌汚染などのリスクを最小限に避けながら卸すためには、やはり純粋培養した納豆菌を活用する必要があるのです。

 得られた生産効安定供給と引き換えに、じわりじわりと、日本人の記憶の中から、稲藁の納豆菌でしか表現できない本来の味の感覚は薄れていき、現在では、ほとんどの人が知らないものとなっていると言っても過言ではありません。それを最も表している身近なことといえば、賞味期限と納豆の関係かもしれません。

 納豆の賞味期限はおよそ2週間程度が基本とされています。消費期限は実際に食べられる期間、賞味期限は味の観点で生産者がおすすめできる期間を示します。賞味期限について語ることは、ある意味で感覚の話とも言えるので、これは僕自身の感覚として理解してもらえるといいと思いますが、市販の一般的な納豆は、やはり2週間以内に食べ切った方がいいと感じます。少しずつ冷蔵庫の中で乾燥が進み、風味も食感も悪くなっていくと思います。

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2023.6.1 大阪府「らくだ坂納豆工房」。1滴も残さず煮汁を生かす、らくだ坂の納豆づくり(撮影:高重乃輔)。

 一方で、稲藁納豆菌で仕込んだ「らくだ坂納豆工房」の納豆は、時間が経つほどに少しずつ風味が良くなっていく変化が味わえます。実際に、一般的な賞味期限の付近となる2週間を超えた頃合いから、納豆本来が持つ旨味や風味に加えて、熟成香のような風味も広がりを増していきます。3週間くらいでおおよそピークを迎え、それを過ぎたらやや熟成感が強くなる傾向が生まれ、その先は好き嫌いは多少分かれていくかもしれませんが、4週間くらいまで変化を楽しみながらおいしく食べ続けることができました。そう、納豆は本来、時間の経過とともに、その風味の変化も一緒に味わえる食べ物だったのです。

『素の味』は人間の豊かさを育んでくれる

 安定して、変わらない味を求めることも一つの選択肢。スーパーマーケットなどの顔の見えない関係の中では、必要なことだと思います。しかしながら、変わり続ける味わいの違いを楽しむことはとてもとても豊かな納豆との付き合い方になると感じています。

 納豆に限らない話ですが、賞味期限は自分で決めていいのではないかと。自分の感覚と対話をする時間を、食を通して行なっていけばいい。それは豊かな体験となり、天然の微生物たちは人間の豊かな感覚を支えてくれる存在だと言えるでしょう。豊かさとは何かを忘れているのは、人間の方、ということを『素の味』に出会うたびに学ばされます。

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2024.9.22 熊本県山鹿市。納豆に塩をふり、刻んだ葱とかき混ぜる。これだけでご馳走になる。

 納豆の『素の味』に選んだのは、本来の稲藁の納豆菌がつくる納豆、稲藁の中でいきいきと発酵できる環境が整えられた納豆でした。納豆菌の仕事があって、食べ物としての納豆ができあがる。いつだって、その順番を大切にするものづくりの中でこそ『素の味』が生まれる。

 最後に、大阪の「らくだ坂納豆」の伊戸川さんに、稲藁以外でも納豆を作ることができるか聞いてみたところ、「いろんな植物の葉や枝などでも試してみたけど、本当になんでもできますよ。空気中の納豆菌だけでもつくったこともありますから」と。あなたの隣にすぐに、納豆菌はあります。さあ、今日もおいしく、朝ごはんに納豆をいただきます。

食べる人がつくることに関わる時代へ。

0.1%しか流通しない『素の味』が一堂にあつまる会員制の宅配スーパーマーケット

Table to Farm

Table to Farmは、現在わずか0.1%しか流通しない『素の味』が一堂にあつまる会員制の宅配スーパーマーケットです。自然な農法で育まれた在来種の米や野菜、伝統的な天然醸造でつくられた発酵調味料。森の中で自由に走り回る放牧の鶏や豚、春は山菜、秋は木の子など、11ヶ月かけてラインナップを検討し、各カテゴリー最大3つまでにセレクトされた、“自然がつくる好みを超えたおいしさ”をお届けします。

https://tabletofarm.jp/

【INFOMATION】

『素の味』の選定基準

Table to Farm では、取り扱い商品の拡充に伴い、新しいカテゴリを追加し、『素の味』の選定基準を更新しました。

『素の味』選定ガイドライン ver.2.0 2026.01.4

https://support.tabletofarm.jp/product-standards

『素の味』の選定基準をつくる

https://tabletofarm.jp/blogs/motonoaji/product-standards