電気もガスも不要。新聞紙1部でごはんが炊ける「魔法のかまどごはん」|停電・災害時の“もしも”を支える理由【防災・アウトドアで注目】
電気が止まっても、ガスが使えなくても、あたたかいごはんが炊ける。
そんな一台が、いま防災とアウトドアの両面で注目を集めています。

電気もガスも不要。新聞紙1部でごはんが炊ける「魔法のかまどごはん」|停電・災害時の“もしも”を支える理由【防災・アウトドアで注目】
「魔法のかまどごはん」
開発したのは、老舗メーカー・タイガー魔法瓶。なんと! 新聞紙1部で炊きたてごはんを実現する画期的な製品です。
その誕生の裏には、在籍30年の社員による“もったいない”という想いと、災害現場で感じた切実な経験がありました。
今回は、「魔法のかまどごはん」のプロジェクトリーダーである村田勝則さんにお話を伺いました。
新聞紙1部で炊ける。その仕組みとは?
電気もガスも使わない、シンプルな構造

「魔法のかまどごはん」の最大の特長は、電気もガスも使わないこと。必要なものは、お米と水、新聞紙、着火ライター、軍手のみ。特別な燃料や電源は不要なんだとか。一体どんな製品なんでしょうか?
「新聞紙1部(3合なら36ページ)あれば、おいしい“炊きたて”ごはんが炊けます。新聞紙の見開きを半分に裂き、ねじったものを18本用意します。本体には左右2つの投入口があります。新聞紙をねじって棒状にし、1分〜1分半ごとに左右交互に投入。これを繰り返すことで、“はじめチョロチョロ、なかパッパ”という理想の火加減を再現します。この投入のタイミングそのものが、炊飯プログラムなんです」

火力の調節は“勘”ではなく、設計された手順によって再現性高く行えるようになっています。
「もったいない」から始まった挑戦
廃棄される内なべを見て
実は、この製品は、防災ブームの中で企画されたものではありません。きっかけは、補修部品の保有期間を過ぎた炊飯器の内なべが廃棄される現場(※1)でした。
「タイガー魔法瓶は補修用部品を業界水準より長く10年間保有しているのですが、どうしても10年経った後に廃棄する部品が出ておりました。もったいない。この内なべで、新しい価値をつくれないかと思ったんです」
(※1)廃棄予定の内なべは自治体・自主防災組織向けBtoBモデルに活用。一般向け製品は新品の内なべを使用しています

そのとき、学生時代の野外活動施設で新聞紙を燃やしてごはんを炊いた経験がよみがえったのだとか。
「新聞紙で炊飯したのはあのとき1回きりでした。二度目がなかったのは、おいしくは炊けなかったから。でも、タイガー魔法瓶で30年務めた今の自分なら、おいしく炊けるのではないかと思ったんです。そこで、シャイニング制度という社内公募制度に応募したんです。ちょうど創業100周年、そして関東大震災から100年という節目でもありました」
創業間もない頃、同震災で卸店に納入されていた100本の魔法瓶が1本も割れずに残ったという逸話は、同社の象徴的なエピソードです。
製品名にも隠されたタイガー魔法瓶の「魔法」

「製品名に“魔法”が入っています。タイガー魔法瓶らしく“魔法”をかけたんです」と村田さんは語ります。
「実は、この製品がかけてくれる魔法は大きく3つあります。
1つ目は『新聞紙が1部あればごはんが炊ける』という魔法。新聞を購読していないご家庭では、牛乳パックでも代用できますよ。いずれもサイズや素材が規格で統一されていて燃料として考えると一定の火力を得ることができるので、この2つを推奨しています。
2つ目は『驚くほどおいしく炊ける』という魔法。本物のかまどの構造を再現して、お米本来の甘みやハリのある食感を実現しています。
3つ目は『お手入れが簡単にできる』という魔法。なべについたすすや汚れは、濡らしたスポンジで拭くだけで落とせます。火力が上がりすぎないよう、お米の分量に合わせて新聞紙などの枚数を設定しているので、すすや汚れがなべにこびりつきにくいんです」
この魔法について詳しく聞きました。
なぜ燃料は「新聞紙」なのか

燃料が薪ではなく新聞紙であることも、この製品の重要なポイントです。
「新聞紙はサイズや素材が規格で統一されています。燃料として考えると、一定の火力を得られるんです」

家庭でも避難所でも手に入りやすいという利点もあります。再利用であれば、コストもかかりません。
「サイズや素材が統一されていて投入するタイミングを変えれば弱火、強火の火加減調節ができる理由から新聞紙を燃料としました。
私の子どもが小さかった頃はよくキャンプに行っていたのですが、キャンプ場で購入する薪は結構高価です。しかも、残った薪を自宅に持ち帰るのは邪魔になるので、必要以上に燃やしきらないといけないので、もったいない気持ちになります。でも、読み終わった後の新聞紙なら費用もかからず、余ったら持ち帰り、廃品回収でリサイクルできます」
燃料にも「もったいない」の精神が宿っています。
「実は、牛乳パックを切り開いて乾燥させたもの(1Lの紙パックを縦に切り開いて4枚にしたうちの1枚)も、新聞紙1回分と同じ火力で使えます。これは偶然なんですが、枚数もタイミングも新聞紙と同じでいけるんです!」
薪のように余らせて困ることもなく、余ったらリサイクルに回せる。日常と地続きの燃料という魔法(=発想)が、防災道具としてのハードルをぐっと下げてくれます。
試作70台以上。安全を最優先にたどり着いた構造
100円ショップとホームセンターを巡る日々
開発はゼロからの手探りでした。
「最初は自宅の庭で、BBQコンロの上に内なべを載せて炊いてみました」
かまど構造を再現するために、パーツを探してホームセンターや100円ショップを何店舗も回り、使えそうなものを片っ端から買い集めたといいます。
「新聞紙では火力に不安があったので、ふたは金属製の内ぶたを二重にして断熱性を高めることを工夫しました。それでも5合まで水目盛りがある内なべで3合炊くのがやっとでした。その後、新聞紙の燃焼エネルギーをもっと効率よく内なべに伝えるために“かまど”をイメージし、市販品から加工して使えそうなものを探しました。
“かまど”で用いられる“羽釜”は上の部分が“かまど”から飛び出していますが、廃棄される内なべはそのような形ではないので、上を飛び出させるためには、なべを支える金具が必要でした、内なべの筒の部分の直径より少し大きな金属のリングを求めてホームセンターや100円ショップをひたすら探し回りました。金属製の洗濯カゴや植木鉢のスタンドでちょうど良いサイズのものを買い漁ったりもしました。内なべの上を飛び出させる高さを調整するために100円ショップを何店舗も買いまわっていたので、お店の人は驚いていたと思います」

なんと、かまど部分は、植木鉢を使っていたそう。
「最初は植木鉢を使って試行錯誤していました。ただ、なかなかうまくいかなくて……」
失敗の日々が続いたそうです。
「植木鉢は、新聞紙の燃え残りが空気の流れを妨げ、燃焼室の容量(=大きさ)が不足するという欠点があり、それを改良するのに時間がかかりました。最終的に行き着いたのが、バケツを利用すればよかったということですね。バケツの内側にウレタンで作った型をはめ込んで隙間にセメントを流し込むことで理想的な燃焼室のサイズを導き出しました。
試作して実験、その実験の結果を見て改良を続けて70台以上試作をしました。入社してから一度も開発部門の経験がないため、図面が描けない私は、試作モデルを外注する術がなかったのです」
結局なんと、すべて手作りで挑んだそうです。

燃え残りをなくすための2つの投入口
最大の課題は、安全性でした。
「燃え残りがあると、新聞紙が空気に触れて発火する恐れがありました」
これには本当に困ったそうです。
「最初は大きめの投入口が1箇所だけでしたが、新聞紙を入れる位置によって火力が安定せず、時には空気の流れが妨げられて燃え残ることもありました。投入の仕方の癖一つで、うまく炊けたり炊けなかったりする……。そんな試行錯誤の連続でしたが、左右2箇所に投入口を設け、新聞紙を交互に入れるという方法を思いついてからは、状況が一変しました。新聞紙が重ならなくなったことで燃え残りが解消され、ようやく理想的な炊き上がりを実現できたのです。
何より避けなければならなかったのは、燃え残った新聞紙が、お手入れの際に空気に触れて発火することでした。安全性にはとことんこだわり、試行錯誤を重ねた結果、新聞紙が一切燃え残らない構造を確立。すると、図らずもおいしく炊くために理想的な火力を得ることができたのです。安全を最優先に突き詰めた結果、神様がおいしさをプレゼントしてくれた——。今ではそんな風に感じています」
他人に頼らず、すべて自力で考え、安全を追求したことが、味の向上にもつながりました。試行錯誤と諦めなかった努力のお陰で『驚くほどおいしく炊ける』という魔法も唱えることができるようになったそうです。
使い方のポイントと後片付け

炊き方の手順
お米と水と、新聞紙(3合炊きの場合は18本)、着火ライターを用意するだけで準備は完了。
【おいしく炊き上げるための鉄則】
投入のコツ:1分~1分半ごとに、左右交互に投入。
炎の位置:必ず「手前」で燃やし、なべ底に直接当ててください。
注意点:奥で燃やすと炎が煙突へ逃げ、火力が不足します。
「新聞紙は1分〜1分半ごとに、左右交互に投入してください。 最大のコツは、『炎を手前で燃やし、なべ底に直接当てること』です。アウトドアに慣れた方ほど、火ばさみで奥へ押し込んだり、奥の火種だけで燃やそうとしたりしがちですが、それでは炎が煙突側へ逃げてしまいます。 取扱説明書のとおりに手前で燃やしていただくことで、熱が効率よく伝わり、一番おいしく炊き上がります。
また、新聞紙の投入本数とタイミングは、お米の量に合わせて設計されています。火加減に迷うことなく、再現性高く炊き上げることができます」
左右交互に投入することで“はじめチョロチョロ、なかパッパ”という理想的な炊飯プログラム(吸水・加熱・沸騰・蒸らしの温度と時間を最適化)が実現するのだとか。
すすは? 洗剤は必要?
メンテナンスは簡単なのでしょうか?
「濡らした研磨スポンジで拭くだけで落とせます(※2)。洗剤はいりません。洗剤いらずで環境にもやさしくお手入れが可能です。新聞紙の燃えかすは少量になるため、処理も簡単にできます。
使う鍋は、熱伝導が抜群にいいIH炊飯器用。炎の熱がパッと広がるので、一箇所だけが熱くなりすぎて焦げる心配がありません。お米の量に合わせて新聞紙の枚数を決めているのも、焦げ付かせないための工夫です。鍋の温度が上がりすぎないので、実は“すす”が付いているように見えても、こびりついてはいないんですよ。お手入れが想像以上に楽なのも、この道具の自慢です」
燃えかすも少量で、後処理も簡単。後片付けもまるで魔法のように簡単なんだとか。防災時でも負担が少ない仕様になっています。
(※2)なべ内側はスポンジのやわらかい面で、ふた・なべの外側はスポンジの研磨粒子部分でこすってください
災害現場で感じたこと

“使ったことがない”という壁
村田さんはタイガー魔法瓶創設時のように、災害の支援にも積極的に関わっています。
「能登半島地震の翌日、支援物資として“魔法のかまどごはん”を提案しました。しかし、『使い慣れない道具は現場で活用しきれない』という理由から、採用には至らなかったことがあったんです」
どれほど優れた製品でも、使用経験がなければ真価を発揮できない……。その現実を突きつけられた瞬間でした。
「転機は、奥能登豪雨の翌日に単身で珠洲市へ入り、お寺での炊き出しに協力したときです。そこで初めて、被災者の方々の役に立てたと実感しました。
現地との繋がりがない中での支援には限界があります。だからこそ、私の使命は“災害が起こった後”ではなく“災害が起こる前”にあるのだと確信しました。地域のイベントを巡り、子どもたちに炊飯の楽しさを伝える。その種まきこそが、いざというときの備えになるのだと考えるようになりました」
子どもたちの成功体験が、防災力になる
そこで新たに始めたのが、子どもたちへの炊飯体験です。現在は能登を中心に、子どもたちの「防災・火育(ひいく)」を目的としたワークショップを開催しているそうです。
「能登では、子どもたちだけでごはんを炊く体験を提供しています。炊き上がった頃に合流した親御さんは、そのおいしさに一様に驚かれます。私はあえて、その場では短めの挨拶しかいたしません。火の扱いについては厳しく伝えますが、炊き方の詳細は教えないようにしているのです。
『お父さん、お母さん! こうやって炊くんだよ!』
イベントを終えた子どもたちが自宅へ帰り、お父さんやお母さんに『どうやって炊いたか』を誇らしげに語る……。そんな光景を想像するのが、私にとって何よりの楽しみです」

子どもたちの“火育”や“体験”について、なるべく多くの機会を与えていきたいと語ってくれました。
「かつての子どもたちは、家事の手伝いを通じて親に褒められ、小さな成功体験を積み重ねていました。そうした生活に密着した体験こそが、子どもたちの『生きる力』を育むと信じています。
学生時代の野外活動施設での経験を原点に、現在は独立行政法人国立青少年教育振興機構と防災教育に関する包括協定を締結。多くのイベントを通じて、次世代を担う子どもたちに体験の場を広げています。
当社のミッションは、『温もりあるアイデアで、食卓に新たな常識をつくり続ける。』こと。新聞紙でごはんが炊けるという驚きが、いつか子どもたちにとって“魔法”ではなく、当たり前の“常識”になる日を願って、活動を続けています」
生活に密着した成功体験が、子どもたちの「生きる力」を育てる。一膳の“魔法”のごはんがつなぐ温もりから、未来を生き抜く強さへと変わっていく。その真っ直ぐな想いに、深く胸が熱くなりました。
“いつも”使えるから、“もしも”にも強い
日常と非常時を分けない設計思想

「魔法のかまどごはん」は、防災専用品ではありません。キャンプや庭先でのひとときを彩る、日常の道具として設計されています。
「自然災害の多い日本において、過酷な避難生活の中でも『いつでも温かいごはん』で心と体の安らぎを取り戻してほしい。その一心で、被災地での聞き取り調査を重ね、真に必要とされる姿を追求してきました」
大切なのは、“平常時のごはん”と“非常時のごはん”を分けないこと。その考えとデザイン性が評価され、『2024年度グッドデザイン賞』ベスト100およびグッドフォーカス賞[防災・復興デザイン]を受賞。現在は自治体や防災組織への導入も広がっています。
まずは日常のキャンプやレジャーシーンで、家族や友人と楽しみながら使っていただくこと。その豊かな体験が、万が一のときでも温かい食卓を囲めるという“真の安心”に繋がると信じています」
防災現場の「声」から生まれた最新の進化

「ロースタンド」:テーブルの上に「魔法のかまどごはん」が置ける専用スタンド(置台)。

「ポーチ」:軽くて丈夫なので、アウトドア用品や防災グッズとして持ち運びが簡単に。
こうしたオプションに加え、今年は、より使いやすいオプションパーツがラインナップに加わったそうです。
「『魔法のかまどごはん』をご愛用いただいているみなさまや、自治体・団体のみなさまから、貴重な現場の声を多数いただきました。『冬場の屋外や避難所でも温かいままごはんを保温したい』『足場の悪い屋外でも安定して設置したい』といった具体的なお声です。こうした切実なニーズにお応えするため、2026年2月、新たなオプション品を発売いたしました。現場の声を形にすることで、より過酷な環境下でも“温かな安心”をお届けできるよう進化を続けています」

「専用ハイスタンド」:椅子に座って作業ができ、テーブルがない避難所や屋外でも炊飯が可能。

「専用マルチカバー」:熱を閉じ込めて保温ができ、炊飯後の“むらし”工程での新聞紙追加が不要になった。

日常の延長線上にある防災。日常の楽しさの先に、最強の備えがある。
停電しても、ガスが止まっても、温かいごはんがある。新聞紙があればごはんが炊ける。
温かいごはんがあれば、人はまた前を向ける。
その安心感こそが、「魔法のかまどごはん」がかけてくれる本当の“魔法”なのだと思いました。
『魔法のかまどごはん』(オンラインストア限定商品)
魔法のかまどごはん公式サイト
希望小売価格:19,800円
正規販売サイト:タイガーオンラインストア
※「魔法のかまどごはん」の非正規販売(転売品)にご注意ください。正規販売サイトで販売されている正規価格19,800円(税込)の製品以外は、正規の販売ルートではない「転売品」です。これらの転売品は不当に高額な価格で販売されている場合がございます。正規販売サイトからご購入ください。
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