10万円MacBook Neoでアップルが狙う入り口戦略

MacBook Neo。カラーは「ブラッシュ」(写真:筆者作成)
アップルが低価格な「MacBook Neo」という製品ラインを追加した。シンプルに説明するなら、「10万円で買えてそこそこな性能だが、プロ向けではないカラバリ重視のMac」である。
【写真で見る】MacBook Airのキーボードは黒で統一されていたが、MacBook Neoは本体色ごとに違うカラーのキーを採用
MacBook Airも新機種が登場したが、こちらは18万4800円から。性能はかなり違うが、価格は半分くらいになっている。

開いてみるとこんな感じ(写真:筆者作成)
アップルはどうやってここまで低価格化したのだろうか? その中では、単純なコスト削減とは異なる判断もみえる。
アップルがなにを重視してMacBook Neoを作ったのかを分析してみたい。
キーボードからゴム足までカラバリを徹底
MacBook Neoは、13インチのディスプレイを備えたノート型の製品だ。MacBook Airもサイズは近い。あちらはディスプレイが13.6インチからと少し大きい分、本体サイズもちょっとだけNeoのほうが小さい。しかし、重量は1.23kgでまったく同じになっている。

MacBook Airの上にMacBook Neoを置いてみた。わずかにMacBook Neoの方が小さい(写真:筆者作成)
他社だと1kgを切る製品もあるし、もっと小さい製品もある。アップルはノート型のMacとしては、極端に軽い製品や小さい製品を目指してはいないのだろう。
一方で重視したのが「カラーバリエーション」だ。今回テストしたのは、ピンクに近い色合いの「ブラッシュ」。その他にシルバー・シトラス・インディゴを加えた4色展開である。
MacBook Airも同じ4色展開なのだがカラーへのこだわりはNeoの方が強い。
MacBook Airは本体色が違ってもキーボードはすべて同じ「黒」。だが、MacBook Neoはボディーカラーに合わせた、淡い色のキーボードになっている。また、本体裏のゴム足も、MacBook Airは黒に統一されている一方で、MacBook Neoは本体色に合わせてある。

MacBook Air(写真右)のキーボードは黒で統一。しかしMacBook Neo(左)は本体色ごとにキーの色が変わる(写真:筆者作成)

MacBook Airのゴム足は、どの本体色でも黒(写真:筆者作成)

MacBook Neoではゴム足の色を本体色に合わせている(写真:筆者作成)
低価格なのに「色にこだわる」特殊さ
これは、低価格機種としては異例のことであるだけでなく、多くのノートPCとも異なる。なぜなら、製造管理が複雑になり、その分コストが上昇するためだ。
「ゴム足なんて、単価にすれば小さなものでは?」
そう思う人は多いかもしれない。実際、ゴム足1つ1つの価格はごくわずかなものだ。だが、4種類の色ごとに調達・管理するとコストが上がる。製造工程は少しでもシンプルにしたいもの。低価格機種なら1円単位でコスト削減を積み上げるもので、キーボードやゴム足の部品バリエーションを増やすのは避けるものだ。一般的なノートPCでは、ボディにカラーバリエーションは作っても、キーは統一する場合がほとんど。ゴム足はいうまでもない。
アップルはコスト削減に積極的な企業だ。他社はキーボードのサイズやデザインを製品ごとに変えるが、アップルは統一する。16インチのMacBook Proでも14インチのMacBook Proでもキーのパーツは同じ。色も同じだ。iMacはカラバリを重視するが、色を変えるのはキーの下のアルミ部分であり、キー自体は同じ「白」になっている。
ボディ素材にしても、一部をプラスチックにすればパーツ単価は下がるし、重量も減るかもしれない。低価格製品ではよくある構成だ。しかし、他のアップル製品と同じ再生アルミを全体に使い、質感を維持している。
要は製造工程と素材を統一することで、製品単位ではなく自社製品全体でのコスト・リサイクル率コントロールを重視するのがアップルの基本的な戦略である。
そんなアップルが、MacBook Neoでは専用部品を増やしてまで、徹底してカラーの統一を図ったのは、それだけ、この製品では「徹底が重要」と考えた、ということだ。
学生向けの格安モデルを「アップルファンの入り口に」
MacBook Neoは、日本円だと10万円弱。「まあまあ安いノートPC」という印象かもしれない。
だがアメリカだと599ドル。学生と教育機関向けには499ドルになる。円安の影響で高く見えるが、アメリカ市場の相場観で言えば、「学生なら5万円で買えるMac」というイメージに近い。
低価格な製品は学生向けに重要だが、その市場は近年、GoogleのOSを採用した「Chromebook」が広がっている。それらとの競合を考えた時、MacBook Airよりもさらに安い製品は必要だった。
キーのタイプ感やディスプレイの品質、音質などはこのクラスとしては上質なものだ。性能も「速くはないし、プロ向けの作業には向かないが十分」というレベル。低価格機種としては良好、と言っていい。
その上でさらに「デザインやカラーは妥協しない」とアップルは決めたのだろう。「初めて持つ自分のPC」は特別なもの。だからこそ、若者層に好感を持たれるデザインの徹底は、彼らの思い入れを加速する。ここでMacBook Neoを選んでもらえばスマホとしてiPhoneを選ぶ可能性は高まるし、スマートウォッチはApple Watch……ということになる。
iPhoneの方でも、低価格でカラバリ重視の「iPhone 17e」が出たところだ。そちらを入り口にMacBook Neoを選ぶパターンもあるだろう。
この2つの連携は、まさにアップルにとって最重要な「入り口戦略」なのである。
iPhoneのプロセッサーでMacを作って安価に
ただ、安くするには相応の工夫が必要になる。
中でも大きいのが「iPhone用のプロセッサーでMacを作った」ことだ。
MacBook Neoに使われているのは、2024年発売の「iPhone 16 Pro」に使われた「A18 Pro」というプロセッサー。メインメモリーも、他のMacでは16GBあるのに対し、半分の8GBしかない。プロセッサーの規模が小さく、メモリーも半分しか搭載していないので、プロセッサーに関わるコストを大幅に削減できるのだ。
このため、性能は最新のMacBook Airに比べるとかなり低い。以下はベンチマークソフトでのテスト結果だが、M5版MacBook AirとMacBook Neoでは、2倍を大きく超える差が生まれる。倍の価格だが性能が倍以上違う、と考えると、実はMacBook Airのコストパフォーマンスが非常に良い……という見方もできるのだ。

Geekbench 6でのCPUテストの結果。赤枠内がMacBook Neo(図:筆者作成)

Geekbench 6でのGPUテストの結果。赤枠内がMacBook Neo(図:筆者作成)
だが、A18 Proは2020年に登場した初代Appleシリコンである「M1」よりは性能が高い。6年前の製品とはいえ、M1版MacBook AirやMacBook Proは「十分な性能があってなかなか買い替えられない」と言われるほど評判のいい製品だった。
MacBook Neoはそれらと同等以上の性能だと考えると、実用性は十分にあるのがわかるだろう。アップルも、iPhone向けプロセッサーだが「Mac用アプリの互換性は100%」としている。
問題はメモリーが8GBであることだ。
10も20もウェブをタブで開き、多数のアプリを併用していると動作の重さを感じる。また、複雑な動画編集や本格的なCAD、ソフト開発には向かない。ちょっとした動画のカット編集や写真の加工なら問題ない。それでも、日常的に仕事で使うなら、倍の値段でも待ち時間が数分の1になるMacBook Airを選ぶべきだ。
8GBのメインメモリーだと、数年後にはOSが求める機能には不足する可能性もある。できるだけ長く使いたいなら、同様にMacBook Airを選ぶべきである。
ただ、若い層にとっては「高くて買えない」よりも、「多少遅くてもなんでもできる」Macの方に価値がある。そのことは、家庭でPCを使う大人にとっても同様かもしれない。
その中で「遅すぎて不快」ということはなく、最新のゲームも相応に動き、デザインが良い……というバランスは、いいところを突いているのではないかと感じる。