イラン戦争の早期終結、米や同盟国に大きなリスク

テヘランのメヘラーバード国際空港付近への攻撃後に上がる煙
ドナルド・トランプ米大統領は、原油価格の上昇と自身の支持基盤であるMAGA(米国を再び偉大に)派からの反発に直面し、2週間近く前に開始した対イラン攻撃を終結させたい考えを示している。だが、たとえイランが受け入れたとしても、戦闘停止には大きなリスクが伴う。
仮にトランプ氏が勝利を宣言し、爆撃を停止して、中東に集結させた膨大な航空・海軍戦力の撤退を開始すれば、少なくとも短期的には世界市場を落ち着かせ、新たな終わりなき戦争になるのかとの不安を抱く米国の有権者を安心させる可能性がある。
だが、怒りと反抗心を抱き、核備蓄や残存するミサイル・ドローンを保持したままのイランの神権政治体制を存続させることは、実質的にイラン政府に世界のエネルギー市場の支配権を与えることになる。また、米国の友好国や同盟国の安全保障を犠牲にし、さらに壊滅的な地域戦争を引き起こす可能性もある。
米政府の焦りを察知したイラン当局者は、米国がイラン政府に賠償金を支払うことを含むイランの条件で合意に達するまで戦い続けると述べている。モハンマド・バーゲル・ガリバフ国会議長は10日、ソーシャルメディアへの投稿で「われわれは侵略者の口をたたき、教訓を与え、二度とわれわれの愛するイランへの侵略を企てないようにしなければならない」と述べた。
人質に取られた石油
イランは依然として大量の短距離ミサイルとドローン、さらには機雷を保有していると考えられており、これらを使用してホルムズ海峡のタンカー航行を極めて危険な状態にすることで、石油や天然ガスの輸出を阻止できる。紛争開始前には、世界の石油供給量の約20%が毎日この海峡を通過していた。11日だけでも、この海域で3隻の船舶が攻撃を受けた。
第1次トランプ政権のホワイトハウス職員で現在はワシントン近東政策研究所(WINEP)シニアフェローのアンドリュー・タブラー氏は「たとえ残存政権であっても、もし体制が持ちこたえた場合、そのミサイルやドローンが、彼らの好きなタイミングでホルムズ海峡を通過するタンカーや米国の湾岸同盟国のエネルギーインフラを脅かすのを、止める手段などあるだろうか」とし、「エネルギー価格への影響は甚大なものになる」と述べた。
さらに複雑なのは、イランが中国などの友好国にはペルシャ湾からの石油搬出を許す一方で、それ以外の国々による搬出を阻止していることだ。
イラン政府がホルムズ海峡を封鎖する能力と世界的な影響を実証した今、イランは重大な地政学的影響力を生み出した。これは湾岸諸国が将来イランに対して宥和(ゆうわ)政策をとる動機になる。軍事アナリストによると、海峡を再開させるにはイランの海岸地域を占領するための地上作戦が必要になる可能性がある。これは終わりの見えない事態のエスカレーションを意味し、米国の死傷者がはるかに増える恐れがある。

オマーンのマスカット近郊に停泊するタンカー
米国の抑止力の弱体化
米軍のパフォーマンスは、もちろん中国やアジアの米同盟国が注視している。米国はイスラエルと共に高精度の武器を発射し、イラン上空の制空権を確立し、イランの海軍と空軍の大部分を排除した。
だが紛争開始から12日が経過してもイランは、ペースは落ちたものの、中東全域に向けてミサイルやドローンを発射し続けている。防空施設のレーダーなど機密性が高く希少な米軍の標的の一部をイランが精密攻撃で破壊する能力を持っていることは見過ごされなかった。米国が湾岸地域の友好国を存亡の危機にさらした末に見捨てれば、韓国、日本、台湾での影響は避けられない。
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所のスティーブ・ツァン所長は「この紛争は世界における米国の地位を大きく損なうものであり、中東とグローバルサウス全般において中国が自国の地位を確立する余地がはるかに広がることを意味する」と述べた。
「その一方で、イランはせいぜい中程度の軍事能力しか持っていないのに、米国がそれを排除できないということを、誰もが目にしている」とした。
核兵器競争
元駐オマーン米国大使で現在アブダビを拠点とする政治評論家のマーク・シーバース氏は「一度始めてしまうと簡単な出口はない」と述べた。
同氏は「イラン政権は軍事能力の多くを失ったが、明らかに全てではない」とし、「もし彼らが存続すれば、再建のために、また今回の事態を引き起こす要因となったあらゆる行動を繰り返すために、できる限りのことをするだろう」と述べた。
イランが保有する濃縮度60%のウラン備蓄は、兵器級に近い純度であり、昨年6月の米国の空爆後に地下に埋められた。これは、急速な核ブレークアウト(国際社会が制止する前に急速に核兵器能力を保有する状態)への潜在的な道筋として残っている。
ホワイトハウスと米情報機関で核関連の上級職を務めた核脅威イニシアチブ(NTI)の専門家エリック・ブリュワー氏は「悪いニュースは、イランが核兵器を製造できる立場に置かれたままになる可能性があることと、イランの核兵器を製造する動機がより強まった状態に置かれる可能性があることだ」とし、「これは大きなリスクだ」と述べた。
イラン政権が反抗的なままであれば、この濃縮ウランを除去するには危険な地上作戦が必要になる。中東研究所シニアフェローのブライアン・カトゥリス氏は「米国とイスラエルは、航空・海軍戦力だけでできることには限界があるという現実を目の当たりにしている」と述べた。
同氏は「ホルムズ海峡の再開やイランの核備蓄の残存物確保といった戦略的優先事項は、外交的選択肢が追求されない限り、何らかの地上部隊が必要になるとみられる」とし、「われわれが目にしているのは、非常に混乱しかねない状況だ」と述べた。

2025年6月の米軍空爆後に撮影されたイランのフォルドゥ核施設の衛星画像
脅威にさらされる湾岸君主国
現在特にイランの攻撃の矢面に立たされている米国の湾岸友好国にとって一つの悪夢のシナリオは、米国とイスラエルが攻撃を停止しても、イランがこれら石油資源の豊富な君主国を屈服させるために嫌がらせの攻撃を続けることだ。イラン政府がこれら国々に圧力をかけ、米軍基地を追放させ、自分たちを守れなかった米国への依存を断ち切らせようとするのではないかという懸念がある。
ガルフ・インターナショナル・フォーラム(GIF)のダニア・サファー氏は「多くの危険がある。傷つき憤慨したイランが存在することは湾岸諸国にとって最良のシナリオではない。米国は、イランがイスラエルを攻撃する能力をかなり骨抜きにしたが、これはイランに別の選択肢を一つ与えたに過ぎない。湾岸諸国を攻撃しホルムズ海峡を武器化することだ」と述べた。「軍事的に言えば、米国は勝利の側(がわ)にいる。だが政治的に言えば、米国とイスラエルはイランに関して実のところ何の成果も得られていない」とした。
湾岸諸国の指導者たちは、自分たちをこの戦争に引きずり込んだトランプ政権への怒りを公の場では表明していない。これらの国々が、今後予想される次のイランの攻撃から身を守るために米国の防空装備品に大きく依存していることが理由の一つだ。これは中国もロシアも提供できない。だが水面下では多くの人々が、米国との同盟が資産というよりも負債なのではないかと疑念を抱き始めている。特にイラン政権が生き残り紛争後に再軍備した場合はなおさらだ。
シンクタンク大手オブザーバー・リサーチ財団(ORF)中東部門のフェローであるマフディ・グルーム氏は「われわれは二つの結末の間で立ち往生しており、それぞれが他方よりも悪い」と述べた。「一つはイランの体制がそのまま残ることであり、もう一つはイランに権力の空白が生じることだ。トランプ政権の中東政策は完全には考え抜かれておらず、今回の攻撃を実施する決定は性急に下され、それによる影響は計算を誤った」とした。
また「湾岸諸国と米国の関係は回復力を維持するだろうが、外交面では多くの不満があらわになるだろう」と述べた。