元国税専門官が驚いた、2億円のマンションを買えるのに、なぜ家賃1万円の社宅に住んでいるのか?
実は日本に150万世帯もいる「純金融資産1億円以上5億円未満」の大半は、普通に働く、ごく「普通の人」――1月に刊行した『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)の売れ行きが発売1ヵ月で3刷と好調だ。「普通の人」が富裕層のように億単位の資産を築くための考え方とやり方を解説する一冊。著者の小林義崇さんは国税局で10年あまり相続税の調査に従事し、多額の相続税を払うほどの富裕層がどのようにお金を増やしたのか丹念に見てきた。具体的に本書からいくつかのトピックをご紹介しよう。
『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』連載第6回
「元国税専門官が指南『借金は赤字の穴埋めではなく、資産を築く道具と考えるべし』」より続く。
その高級タワーマンション、本当に住みたい?
富裕層は、何を基準にお金の使い方を決めているのでしょうか。まず言えるのは、富裕層は、買おうとするものの「価値」をしっかり見定めているということです。
以前、不動産投資を扱う企業から声をかけられ、アジア某国で行われていた超高級物件の視察ツアーに参加したときのことです。日本円に換算して2億円は下らないという、天空に浮かぶような高層階の一室を見せてもらいました。寝室の窓から見渡せる景色が良く、室内には高級素材を使った家具や、モダンアートが飾られています。大理石を使ったキッチン、広いバルコニーのほか、景色を一望できる広いプールなどの充実した共用施設も魅力的で、誰もが羨む「成功の象徴」といった印象でした。
「これはすごい……!」初めて目にした高級レジデンスに感動しながらマンションのエントランスに戻ると、ツアー参加者の一人である男性が静かにベンチに腰掛けていました。年齢は私と同じくらいでしょうか。ごく普通のたたずまいの男性です。
「さっきの部屋、すごかったですね」と私から声をかけると、彼は、「そうですね。でも僕はここには住めません」と意外な答えを返してきたのです。
理由をたずねてみると、その男性は月の家賃が1万円にも満たない勤務先の狭い社宅に住んでおり、自分の住まいにお金をかける気はまったくないとのこと。普段も外食はほとんどせず自炊が基本で、お金を使うのはせいぜいオーガニック食材など、健康のための支出だけ。そのようなライフスタイルが快適なので、高級なタワーマンションに住みたいとはまったく思えないと言います。

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ではなぜ視察ツアーに参加したのかと聞くと、相続した資産やご自身の収入の余剰があり、「ただお金を寝かせておくのはもったいないので、投資先として海外不動産を検討している」と話してくれました。
そう言われて、私はハッとしました。その高級物件が素敵だったことは間違いありませんが、「本当にここに住みたいか?」と自問すると、あまりピンと来ません。別にプールに毎日入りたいとは思いませんし、キッチンが大理石でなくともまったく構わない。
あらためて考えると、私がなぜ興奮していたのかといえば、「世間が考える豊かさ」という幻に心を奪われていたに過ぎません。その男性との会話を通じて私は我に返ることができました。
「数字の魔力」に抗え
自分はどんな生活を送ると幸せなのか。そのためにどれくらいのお金があれば足りるのか。富裕層はそのような自分だけの「幸福のモノサシ」を持っています。だからこそ、彼らは世間の評価や常識というノイズに惑わされることなく、自分にとって本当に価値があることだけにお金を使えるのです。
「今なら50%オフ!」
「通常価格14万円を、今回限り9万8000円で!」
こうした謳い文句を目にして、心が躍った経験は誰にでもあるでしょう。しかし、一歩立ち止まって考えてみてください。その「お得感」は、本当に意味があるものなのでしょうか?
お金の重要な機能のひとつに、「価値の尺度」というものがあります。これは、お金がモノやサービスの価値を測る共通の基準(モノサシ)として働く機能のことを指します。日本では「円」という単位を使って、あらゆる商品やサービスの価値が同じ尺度で表現されます。この機能があるおかげで、「このジャケットが3万2000円ならお買い得かも」「さすがにこのワインに4万円は出せない」といった判断をしやすくなるのです。
ただし、お金を価値の絶対的な尺度として盲信してしまうのは危険です。なぜなら、お金は数字で表されており、人間は数字の魔力に、いとも簡単に影響されてしまうからです。

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私は以前、あるスマホゲームに夢中になっていました。そのゲームを攻略するには、キャラクターを育て、より良い装備を手に入れる必要がありました。さまざまなミッションをクリアして、苦労した末に「攻撃力70」の武器を獲得したのですが、直後のアップデートで「攻撃力100」の武器が登場。その瞬間、さっきまで誇らしかった自分の武器の価値が急に色あせてしまったのです。
より数字が大きなものがあると知ると、手の中にある満足していたはずの価値が噓のように消えてしまう。これが数字がもたらす錯覚です。
1万円と2万円のジーンズがあれば、私たちはつい無意識に「2万円のほうが価値がある」「2万円のジーンズのほうが手に入ると嬉しい」と判断しがちです。でも、値札を隠してしまえば、あなたの心に響くのは1万円のジーンズかもしれません。それでも私たちは、値札を見た瞬間から、1万円のジーンズを「安物」とみなしてしまうのです。
本来は「モノの価値を表現するためのもの」として生まれたお金が、逆に「モノの価値を錯覚させるもの」として機能しているのは、何とも皮肉に感じます。
「自分に合う」から買うのが富裕層、「お得」だから買うのが一般人
では、富裕層はこの数字の魔力とどう向き合っているのでしょうか。そのヒントになる調査データをご紹介します。デロイト トーマツが発表した「2024年度 国内富裕層意識・購買行動調査」によると、富裕層は「値段」よりも「自分に合うかどうか」を重視していることが見えてきます。
たとえば、「お金を使うときに重視していること」について富裕層が答えた項目のうち、次の項目が上位に来ています。
▼自分にあう商品・サービスを提案してほしい
▼これだと思う商品に出合ったら迷わず購入することがよくある
▼自分向けにカスタマイズできる商品・サービスに魅力を感じる
いっぽう、一般消費者では同じ質問について、「値段やお得さを最優先したい」が上位に入っており、富裕層との違いがくっきりと表れています。なお、この項目は富裕層ではトップ10にすら入っていません。

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この調査から見えてくるのは、富裕層は自分にとってふさわしいものを求めているということです。値段や割引は二の次で、まず自分の目で価値があるか考え、見合った価格なら買うという姿勢が見て取れます。
また、ボストン コンサルティング グループ(BCG)による日本の高額消費者(年間消費額1000万円以上)約300人を対象とした調査によれば、ブランド品購入時に6割超が「同じブランドを検討・購入する」と回答し、「新しい店舗を頻繁に試す」と答えたのはわずか5%でした。これは、新しい選択に伴う失敗のリスクを避け、信頼できる関係性を重視する姿勢の表れといえます。富裕層の家庭では百貨店の外商を利用することもありますが、これも「人」との関係性が購買決定において重要な役割を果たしていることの証左といえます。
多くの人が「あっちが得か、こっちが得か」と数字を比較しては迷い、結局は不要なものを買い込んでいる間に、富裕層は、「自分にとって最良のものはこれだ」という確固たる基準で選び抜き、迷わず手に入れる。この選択の違いは、やがて資産の差となり、人生の豊かさそのものの差となって表れてくるのです。